インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~   作:さすらいの旅人

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第64話

(よし、ここまで来ればいくらセシリアでも流石に追いはしないだろう)

 

 海に潜ってある程度泳いだ俺はセシリアが追いかけて来ない事が分かったので、ゆっくりと浮上する事にした。

 

「ぷはっ……」

 

 顔だけ出してすぐに息を整え、念の為に砂浜を見てみると、ISを部分展開してるセシリアが未だに動けずにいた。まだ『睨み殺し』が解けていないとはな。セシリアにも一応全身に気合を入れれば解けるって教えといた筈なんだが、まだまだだな。俺程度の『睨み殺し』で梃子摺るようじゃ、師匠の『睨み殺し』はそう簡単に解けないぞ。

 

 セシリアを見てそう思った俺は、もう少し軽く泳いだ後に砂浜に戻ろうと決めた。

 

「こうして海で泳ぐのは久しぶりだなぁ」

 

 軽くザバザバと泳いでる俺はある事を思い出す。

 

 去年の夏に師匠と綾ちゃんと一緒に此処に来た時、修行の前にちょっとした準備運動の為に綾ちゃんの遊び相手をしていた。遊ぶ時は海で泳ぐか、ビーチバレーをする程度だが。けどまぁ、遊び相手と言うより綾ちゃんの護衛と言った方が正しいだろう。何故なら俺が綾ちゃんからちょっと目を離せば、綾ちゃんをナンパしようとする男性客を常に追っ払ってたから。

 

 んで、その後には師匠の過酷な修行が待っており、海での修行は師匠と一緒に遠泳をする事だった。ただ単に海で泳ぐだけだから簡単な修行だと思われるだろうが、実はそうでもない。海はプールと違って足場が無い上に波があるので、もし素人が遠泳をしたら下手すると溺れてしまう。加えて海で泳ぐのにはプールと違ってかなり体力を消耗する。故に遠泳はある程度の訓練をしないと出来ない。

 

 とまぁ少し話が脱線したが、師匠の修行である遠泳はかなり過酷だ。殆ど休み無しで10km泳ぐからな。六時間程泳ぎ続けてたから、あれは本当に大変だった。師匠は師匠で多少疲れてそうな顔をしてても全然息が上がってなかったけど。

 

「ん? あれは……」

 

 ふと横に視線を向けたその先に、競争をしてると思われる鈴と一夏が泳いでいた。

 

 一人で泳ぐのは少し退屈だったので、俺も一緒に競争に混ざろうと思って、二人に近付こうと少し速めに泳ぐ。

 

「少し鈴を驚かせるか。アイツがセシリアに余計な事をしたせいで、俺にもとばっちりが来たし」

 

 ちょっとした仕返しを込めた悪戯心を考えた俺は、先ずは鈴を驚かそうと背後から近寄ろうとする。

 

 しかし、鈴が突然泳ぐのを止めて軽いパニック状態になった。

 

「不味いっ!」

 

 本格的に溺れ始めてる鈴に、俺はすぐに鈴を助けようとする。だが、俺よりも先に一夏が鈴の元に辿り着いて救助して浮上していた。

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、前世は人魚だと自負しておいて溺れるとは世話ないな」

 

「う、うるさいわよ!」

 

「まあまあ。そう言うなって、和哉」

 

 二人に合流した俺は鈴の安全確保の為に、一夏と一緒に砂浜へと戻っていた。因みに鈴は砂浜に着く前まではさっきまで海で一夏に背負わされてて、恥ずかしそうにしながらも離すまいギュッとしがみ付いていた。海から上がった後は一夏におんぶされ、更に恥ずかしくなっていたが。ま、好きな男にあんな事されたらああなるのは無理ないけど。

 

 んで、今は砂の上に座っており、俺の台詞に顔が赤くなったまま反論してる。こんなに元気なら一先ず大丈夫だ。

 

「取り敢えず今は休んでおけ。泳ぐならその後からだ。それと言うまでもないと思うが、今度は泳ぐ前にちゃんと準備運動しとけよ」

 

「わ、分かってるわよ。ちょ、ちょっと向こうで休んでくる……」

 

 そう言って鈴は別館の方に向かって歩き出す。一夏におんぶされただけでなく、周囲にいる女子達の視線にも耐えられなかったんだろうな。何しろ一夏におんぶされてるところを女子達がバッチリ見てたし。

 

「流石に今は素直にならざるを得ないようだな」

 

「そりゃまあ、和哉の言うとおりあれだけ言ってて溺れたからなぁ」

 

「あ、一夏に和哉。ここにいたんだ」

 

「「ん?」」

 

 俺が一夏と話していると、急に誰かに呼ばれて振り向くと、そこにはシャルロットと……

 

「ん? なんだそのバスタオルおばけは」

 

 一夏が言った奇天烈な存在がいた。頭の上から膝下までの全身をバスタオル数枚で覆っている。髪までは全て隠す事が出来なかったのか、ツインテールと思われる銀髪があった。ひょっとしてコイツはラウラか?

 

「ほら、出てきなってば。大丈夫だから」 

 

「だ、だ、大丈夫かどうかは私が決める……」

 

 あ、やっぱりラウラだった。

 

 いつもは自信に満ちているラウラにしては、とても弱々しい声だった。そんなラウラにシャルロットが説得している。

 

「えっと、和哉。これってどういう状況だ?」

 

「知らん。俺に訊くな。寧ろコッチが知りたい」

 

 尋ねてくる一夏に俺は首を横に振りながら答える。

 

「ほーら、せっかく水着に着替えたんだから、一夏や師匠である和哉に見てもらわないと」

 

「ま、待て。私にも心の準備というものがあってだな……だが師匠に見られても問題はないんだが……」

 

「「?」」

 

 ラウラが言うとは思えない台詞に俺と一夏が揃って首を傾げると、シャルロットが只管説得する。

 

「もー。そんなこと言ってさっきから全然出てこないじゃない。一応僕も手伝ったんだし、見る権利はあると思うけどなぁ」

 

 あ、そう言えばこの二人って確か同室になったんだったな。先月のあの件まではお互いにライバルとして戦っていたが、今は普通にルームメイトとして仲が良いみたいだ。ラウラは依然として人付き合いが悪いところがあるが、シャルロットのような愛想の良い女子と一緒だと色々と心境の変化があるかもしれない。

 

「うーん、ラウラが和哉に見られても問題ないなら、僕は一夏と遊びに行こうかなぁ」

 

「な、なに?」

 

「うん、そうしよ。一夏、行こっ。和哉、ラウラを頼むね」

 

「「は?」」

 

 そう言ってシャルロットは一夏の手を取り、そのままシュルっと腕を絡ませ、波打ち際へと一夏を誘おうとする。

 

「ま、待てっ。私と師匠も一緒に行こう」

 

「その格好のまんまで?」

 

「ええい、脱げばいいのだろう、脱げば!」

 

 観念したかのようにバスタオル数枚かなぐり捨て、水着姿のラウラが現れる。

 

「し、師匠に嫁……。わ、笑いたければ笑うがいい……!」

 

 黒のビキニ、と言うより大人の下着(セクシー・ランジェリー)かもしれない水着だ。更に普段飾り気のないストレートヘアーは、綾ちゃんと同じツインテールとなっている。鈴や綾ちゃんと被っているかもしれないが、滅多に見ることの無いラウラの髪型を見て俺は思わず……可愛いなと見惚れた。

 

「おかしなところなんてないよね、一夏、和哉?」

 

「お、おう。ちょっと驚いたけど、似合ってると思うぞ」

 

「一夏に同じく、俺も似合ってると思う」

 

「なっ……!」

 

 一夏の俺の言葉が予想外だったのか、ラウラは驚いて少したじろいだ後、すぐに顔が赤くなった。

 

「しゃ、社交辞令ならいらん……」

 

「いや、世辞じゃねえって。なあ、和哉?」

 

「全くだ。俺たちは思った事をそのまま言っただけだ。シャルロットもそう思うだろ?」

 

「うん。僕も可愛いって褒めてるのに全然信じてくれないんだよ。あ、ちなみにラウラの髪は僕がセットしたの。せっかくだからおしゃれしなきゃってね」

 

 成程。道理でラウラが普段しない髪形になっていたのか。

 

「ま、ラウラも似合ってるけど、シャルロットも似合ってるぞ」

 

「ありがと、和哉」

 

 俺が褒めると、シャルロットは笑みを浮かべながら礼を言うと、

 

「へえ、そうなのか。ん、シャルも水着似合ってるぞ」

 

「う、うん、ありがと」

 

 次に一夏が褒めたら照れくさそうに髪を弄っていた。俺と一夏では差があるみたいだな。ま、友人の俺と好きな男である一夏では差があって当然だろう。

 

 ん? 手で髪を弄ってるシャルロットの手首にブレスレットがあるな。

 

「なあシャルロット、その銀のブレスレットってもしや……」

 

「ん? あ、うん。昨日の買い物のときに一夏が買ってくれたものだよ」

 

 やっぱりか。

 

 確かアレは、一夏がシャルロットに買い物に付き合ってくれたお礼としてプレゼントしたものだったな。鈴とセシリアとラウラには内緒で。もうついでにアレはシャルロットが『一夏が僕に似合うと思うのを選んで』と言って一夏が選んだ物だ。

 

「道理で今朝からご機嫌だったのか」

 

「な、何のことかな~?」

 

 えへへ、と笑顔で惚けるシャルロットだったが、

 

「だが俺から言わせれば、まだまだ詰めが甘いな」

 

「む……それどういう意味?」

 

 俺の一言で少し不機嫌な顔となり、

 

「いっそのこと左手薬指用の指輪でも頼めば、自分は一夏の物だって証明出来たのに」

 

「!!! なっ、なっ、なあっ!!」

 

 俺の台詞によって一瞬で顔が真っ赤になってしまった。コロコロと顔が変わってホントに面白いな。

 

「ん? 指輪って何の話だ?」

 

「な、何でもないよ! 一夏は気にしなくていいから!!」

 

「それはだな一夏……」

 

「和哉!!」

 

「へ~い、降参で~す」

 

 一夏に教えようとすると、シャルロットが警告するかのように怒鳴ってきたので、俺は両手を上げて降参のポーズをとった。

 

「まったく和哉は、そうやって僕をおちょくるんだから……!」

 

「ははは~、何の事やら~?」

 

「え、えっと……お前ら、一体何の話しをしてるんだ?」

 

 俺とシャルロットのやり取りを見ている一夏が理解不能と言わんばかりに首を傾げていた。唐変木の一夏には分かるまい。

 

「一夏」

 

「ん?」

 

「ずるいぞ、それは。私にも何かプレゼントを……その、して欲しいのだが……」

 

 おや? 今度はラウラが一夏にプレゼントを強請ってるし。

 

「ま、まあ、何かの記念とかあればな。誕生日とかさ」

 

「む、そうか。では、機会があれば必ずくれ。絶対にだぞ」

 

「おう。でもあんまり高い物とかはダメだからな。俺も一応、学生だし」

 

「うむ。しかし、いずれは給料三ヵ月分というものを頼むぞ。部隊の仲間に聞いたが――」

 

 ラウラの台詞を聞いて俺は少しばかり顔を顰める。前から思ってるんだが、部隊のお仲間さんは何か日本のイメージを勘違いしているんじゃないだろうか。どこかしらずれてるぞ。もし会う機会があったら、必ず一発デコピンを喰らわせてやる。

 

 けどまぁ、ラウラは『給料三ヵ月分』がなんなのかを理解してないみたいだ。ラウラの仲間も単語を知ってても中身までは知らないだろう。

 

「だそうだぞ、シャルロット?」

 

「べ、別に気にしないもん。僕には今はこれがあるから。ところで給料三ヵ月分ってなに?」

 

「何だ。シャルロットは知らないのか。まぁアレは日本の習慣だから、知らないのも無理ないか。平たく言えば婚約指輪だ」

 

「こ、婚約……!」

 

 意味を知ったシャルロットが驚愕する。どうやら本当に知らなかったみたいだな。

 

「ま、まさかラウラは知っててあんな事を言って……!」

 

「いや、あの様子を見るとラウラも知らないみたいだ。だから俺が一応教えておいて……」

 

「必要ないよ、和哉。ラウラに余計なことは教えないように」

 

「………お前ってホントにコロコロと表情変わるな」

 

 驚愕の次に殺気が篭った黒い笑みをしながら脅してくるシャルロットに、俺は色々な意味で感心した。

 

 やっぱりシャルロットって他の女子とは違う一面を持ってるな。箒たちとは全く違うタイプだ。本当に一夏って一癖も二癖もある女子ばっかり好かれるな。

 

「あ、今の髪型だと耳が出ているからイヤリングとかも似合いそうだな。可愛いと思うぞ」

 

「かっ、かわいっ……!?」

 

 俺とシャルロットのやりとりを余所に、一夏がそう言った瞬間にラウラは狼狽しながら赤面して、両手の指を弄んでいた。

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