インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~ 作:さすらいの旅人
「おっりむらくーん!」
「さっきの約束! ビーチバレーしようよ!」
「かずー! やっと見つけたよ~!」
一夏とビーチバレーをする約束をした女子二名と、若干不機嫌そうな顔をした本音が来た。ってか本音、人を見つけて早々に抱き付かないで欲しいんだが。
「何だよ本音。まだ怒ってるのか? ってか、セシリアはどうした?」
「セッシーはかずーを追いかけるのをやめて日光浴してるよー」
「そうか。それは何より――」
「私はまだ許したおぼえはないんだけど~?」
「いててててっ!」
また俺の両耳を思いっきり引っ張ってくる本音。というか、何で君がそこまで怒るんだよ。
『何だ? 和哉とのほほんさんは喧嘩でもしてるのか?』
『一夏、あの二人の事は放っておこうよ。僕たちが口を挟むことじゃないから』
『まあ、それもそうだな』
『じゃあ本音は暫く神代君に任せて、私たちはビーチバレーやろう!』
おいおい一夏とシャルロットとその他女子。俺を助ける気無いのかよ。出来れば本音をどうにかして欲しいんだが。
「こら、止めないか本音」
「スケベなかずーには当然のお仕置きだよー」
「スケベって……あれは事故だと思うんだが……」
セシリアが起き上がって胸を露わにしただけなのに、何で俺がここまで非難されなきゃいけないんだ? 理不尽だぞ、おい。
「セッシーのおっぱい見て鼻の下のばしてたくせに~」
「伸ばしとらんわ。それと誤解を招くような事を言うな」
「ぶ~~」
コイツ……しつこいな。
何だって本音はこんなに剥れるんだろうか。訳分からん。
「本音、あんまりしつこいと………その五月蝿い口を塞ぐぞ?」
「……………」
片手でクイッと本音の顎を掴んで言うと、何故か本音が急に静かになった上に顔を赤らめた。同時に周囲にいた一夏や女子達が驚くように見ているが無視だ。
「ど、どうやって塞ぐつもりなの~?」
「ほう? 知りたいか。それは――」
「だぁ~~~!! お前らもういい加減にしろ!! そう言うことは余所でやってくれ!!」
「そ、そうだよ! と言うか和哉はこんな公衆の面前で何やろうとしてるのさ!?」
言ってる途中に一夏とシャルロットが突然割って入るかのように怒鳴ってきた。何か凄く焦ってるように見えるんだが。
「? お前等は何訳の分からん事を言ってるんだ?」
怒鳴ってくる二人に俺は振り向きながら不可解な顔をする。単に本音の口をガムテープ使って塞ぐだけなんだが。
「別に俺は本音の口を――」
「「そこから先は言わなくていい(よ)!!」」
言わなくていいって……デカイ声出してまで遮る事なのか?
確かにこんなに人がいるところで、ガムテープ使って口を塞いだら本音が色々な意味で目立ってしまうとは思うが……まぁ取り敢えず止しておこうか。
「分かった分かった。お前等の言う通り、もうこれ以上何もしないし、何も言わないよ。ってな訳で本音、もういい加減に離れて欲しいんだが」
「……う、う~~~!」
掴んでる本音の顎を離すと、本音が何やら恥ずかしそうな感じで額を俺の胸にグリグリと押し付けてくる。コイツもコイツで一体何がしたいのやら。まぁ取り敢えず今は放っておく事にしよう。
「ところで話しを変えるんだが、ラウラは何故急に逃げ出したんだ?」
本音と話してる最中に、ラウラがいきなり脱兎の如く逃げ出して別館の中へと消えていくのをチラッと見かけた。
「あ、いや、俺も何が何だかさっぱり分からなくて……」
「………一言でいうなら、ラウラはまだ照れてたんだよ」
「……あ、そう」
分からないと答える一夏にシャルロットが代わりに答えると、俺はすぐに分かってしまった。
どうやらラウラは、一夏に可愛いと言われた事が相当衝撃的だったんだな。本当にアイツ変わったな。初めて会った時とは偉い違いだ。
「まぁ取り敢えずラウラが逃げた理由は分かった。もうついでに、まだビーチバレーを続けるんなら俺も混ぜてもらっていいか?」
「あ、ああ良いぜ。だけど手加減してくれよ? 和哉が本気出したらあっと言う間に終わっちまうんだから」
念を押してくる一夏に俺は心外だと思ったが、あんまり強く否定する事が出来なかった。
「分かってるって。ちゃんと加減はする。本音、君もやるだろ?」
「………やる」
「そうか。じゃあもういつまでもくっ付いてないで離れてくれ」
と言う訳で、急遽俺と本音がビーチバレーに参加して三対三となったが、何やら本音が俺の顔を見る度に顔が赤くなって動かなくなるので三対二に近かった。因みに俺は防御側に回って、相手のスパイクを簡単に止めてフォローしている。
「そーれっ」
そう言って身軽な動きでシャルロットがスパイクを決める。そんなシャルロットに一夏がつられるように、シャルロットのとある部分を凝視していた。
「(一夏、シャルロットはどう思う?)」
シャルロットを見てる一夏に尋ねると、
「(え? そりゃあ、結構スタイルが良い……って、違う!)」
「(ほほ~う。何だかんだ言って、一夏も男だねぇ~♪)」
思わず本音が出てしまった事が後になって気付いて否定する一夏だったが、俺はニヤニヤと一夏を見る。
「(くっ……! そ、そう言う和哉だって見てただろうが! のほほんさんに言うぞ?)」
「(何でそこで本音が出るのかは知らんが、生憎俺はスケベなお前と違って鼻の下を伸ばしてはいないんで)」
まぁ確かにシャルロットだけでなく、他の女子達もジャンプする度に胸が柔らかそうに揺れているが、俺は別に大して動揺はしない。こう言うビーチバレーならではの展開は過去に何度も見たからもう見慣れているし。特に綾ちゃんなんか小学生とは思えない抜群なスタイルで、ビーチバレーをする時は必ず胸がブルブル揺れてたからな。
「(シャルロットにチクッちゃおうかな~?)」
「(止めてくれ! そんな事したらシャルに完全に嫌われる!)」
いや、それはないと思うぞ。確かに最初シャルロットは顔を赤らめて『一夏のえっち』と言うと思うが、内心では嬉しがるだろう。好きな男に意識されたら尚更な。
「どうしたの、二人とも?」
「え!? い、いやっ!? な、なんでもないぞ。うん、なんでもない。なあ、和哉?」
「……ま、男同士の内緒話だ」
尋ねてくるシャルロットに一夏が動揺しながら大袈裟に手を振り、一夏の行動に呆れながら答える俺。そんなに動揺してたら余計に怪しまれると思うぞ、一夏。
「内緒話って……僕には言えないことなの?」
「まぁ別に内緒話って程じゃないんだが、一夏が俺にまたいつもの冗談を言ってな」
「そりゃ仕方ないだろ、和哉。夏だからな。熱も入ろうってものだ」
「はいはい、サマーとサーマルをかけてるのはわかったよ」
あ、やっぱりシャルロットは一夏の冗談を見抜いたか。何か『一夏の言いたいことはわかってます』みたいな態度だし。まぁ一夏の考えは分かりやすいし、読みやすいからな。
「あ、そろそろお昼の時間かな? 二人とも、午後はどうするの?」
シャルロットの問いに、
「うーん、もう少し泳ぎたいんだが食べた直後はつらいし、ちょっと休んでからまた海に出るつもりだ」
一夏はこう答え、
「俺は昼飯を食べた後に修行をやるつもりだ」
「「……………」」
俺が答えると呆れたような顔をする一夏とシャルロットだった。
「和哉、お前海に来てまで修行するのかよ……」
「今日一日は羽を伸ばそうって気はないの?」
「海ならではの修行が出来るからな。言っとくが一夏、当然お前も参加するんだからな」
「……やっぱり俺も参加するのかよ」
当たり前だ。
「ま、まあ、修行とかは後にしてさ、お昼に行こ。それと一夏と和哉って結局どこの部屋だったの?」
「あー、それ私も聞きたい!」
「私も私も!」
「かずー教えて~。冷たい床情報は共有しよ~」
本音の言葉に俺達は全員意味不明な顔をしていたが、一先ずそれは置いといておこう。
「お前等、折角の期待に水を差すようで悪いが……」
「俺と和哉は織斑先生の部屋だ」
一夏がそう言った直後、さっきまでワクワク顔だった女子一同が一瞬で凍り付いた。予想外極まりない事だと思ってるんだろう。
「だからまあ、遊びに来るのは危険だな」
「それでも来るんだったら、それ相応の覚悟で来る事だ。分かったか、本音?」
「………折角またかずーと一緒に寝られるかと思ったのに~」
君はまた俺と寝る気だったんかい。やっぱり千冬さんと一緒の部屋で正解だったな。
「残念だったわね、本音。で、でも織斑君たちとは食事時間に会えるしね!」
「だね! わざわざ鬼の寝床に入らなくても――」
「誰が鬼だ、誰が」
あっ、突然の千冬さんの登場で一同がギギギギ……と軋んだ人形のような動作で首を動かした。ついでに本音、隠れるかのように俺の背中に引っ付くな。
「織斑先生、打ち合わせは終わったんですか?」
「終わってなければここに来る訳がないだろう」
「ですね。それはそうと、水着とても似合っていますね」
「ふんっ。煽てても何も出ないぞ」
つっけんどんに返す千冬さんだが、実際は本当に凄く似合っていた。ラウラとは印象の違う黒の水着を身に纏い、スタイルが良く鍛えられた体が惜しげもなく陽光に晒している。
思わず俺はトップモデルなんじゃないかって印象を抱いて見惚れてしまった。
にしても一夏が何やら、俺とは違う意味で千冬さんに見惚れていた。姉としてでなく、まるで愛しい女性のように。
「……一夏、鼻の下伸びてる」
「お前さぁ、自分の姉が綺麗だからって、それは不味いだろ」
「なっ……!? しゃ、シャル? 和哉? 何を言ってるんだよ。ははは……」
「「見とれてたくせに」」
「…………」
揃って同じ台詞を言う俺とシャルロットに一夏は言い返せなかった。ま、当然だけど。
「そら、お前たちは食堂に行って昼食でもとってこい」
「織斑先生はこのまま海にいるんですか?」
「まあな。私はわずかばかりの自由時間を満喫させてもらう」
千冬さんは俺の問いにそう答える。
思ったとおり、やはり教師陣には殆ど自由時間はないみたいだな。残念だ。もし時間があったら千冬さんと組み手をしたかったんだが、流石に少ない時間を減らす訳にはいかない。これは学園に戻るまでお預けだな。
「じゃあ、俺たちは昼飯に行ってきます」
「集合時間には遅れるなよ」
「はい」
一夏はそれだけ行ってその場を離れると同時に俺達一同も一緒に行く。そして俺達以外にも他の生徒たちがぞろぞろと移動していた。
「ところで本音、君はいつまで俺に引っ付いてるんだ? 歩き辛いんだが」
「………やっぱり離れないとダメ~?」
「当たり前だ」
「ぶ~。かずーのいじわる~」
頬を膨らませて不機嫌そうな顔をする本音は渋々と離れた。あんな着ぐるみのような格好でいつまでも引っ付かれたら暑苦しくて敵わん。
そんな中、一夏がシャルロットと会話をしていた。
「一夏って、織斑先生が好みのタイプなの?」
「え!? な、なんだよ、シャル。いきなり……」
「別に。ただ、ずいぶん僕たちの水着を見たときと反応が違うなぁって思っただけだよ」
確かにシャルロットの言うとおりだ。俺から見ても一夏の反応はシャルロット達とは明らかに違っていた。
「はぁっ、ライバル多いなぁ……。しかも強敵揃いだよ。そこに織斑先生まで入ってくるんなら極めつけだね。和哉もそう思わない?」
「ここで俺に振るのかよ」
まぁ否定は出来ないけどな。と言うか一夏ラヴァーズの連中にとって、千冬さんが一番のラスボスだろう。あの人も何だかんだ言って一夏の事をずっと気に掛けてるし。
「確かにすげえよなぁ、織斑先生は。俺たちより強い和哉でさえも歯が立たないんだから」
「……一夏、たぶん勘違いしてる」
「え? そうなのか?」
「……おいシャルロット。織斑先生の前に一番の強敵は一夏だと思うんだが?」
「……だね。はぁ……」
溜息を吐くシャルル。気の毒に。
「かずー、おりむーって相変わらずだね~」
「まあな」
「でもかずーも人のことは言えないけど~」
「? それはどう言う意味だ?」
「さあね~」
そう言って本音は答えようとせず、そのまま先に行ってしまった。アイツもアイツで一体何がしたいのか良く分からん奴だ。
そして俺と一夏はシャルロット達と別れて男子更衣室へ入ろうとするが、
「そういえば和哉、箒を見なかったか? 俺、海であいつの姿を見てないんだが」
「何?」
急に一夏が問い掛けた事に足を止めてしまった。