インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~   作:さすらいの旅人

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第66話

「さて、今日の修行はコレ位にしておくか。ほら、いつまでも横になってないで、早く戻るぞ一夏」

 

「はぁ…! はぁ…! お、お前なぁ……! こっちはトライアスロンみたいな事させられて全身クタクタなんだぞ……!」

 

「一応軽めにやったつもりなんだが?」

 

「どこがだ! 人の両手足に重りを付けさせておいて……!」

 

「よく言うよ。たかが2kg(両手足500g×4)程度なら大丈夫だと言ってたのは一夏だろうが」

 

「ぐっ!」

 

「2kgと言う重さを甘く見るからそんな目にあうんだ。その重さに慣れるまで修行時には付けておくように」

 

「げっ! マジか!?」

 

「当たり前だ。あと言っておくが、その重さにある程度慣れたら徐々に増やすからな」

 

「…………お前、鬼だ」

 

「お前は千冬さんを守る為に強くなりたいんだろ? ならばこの程度で音を上げるな」

 

「………分かったよ」

 

「素直でよろしい(……コイツって本当に千冬さんの事となると聞き訳が良いな)」

 

 夕食の一時間前の誰もいない浜辺で、俺と一夏は再び旅館へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 現在七時半。大広間三つを繋げた大宴会場にて、俺達は夕食を取っていた。

 

「うむ、美味い。いつ来てもここの刺身は絶品だ」

 

「そ、そうなんですの……うっ」

 

 俺が食べてる刺身を絶賛してると、俺の右隣に座っていて浴衣を着てるセシリアが少し辛そうな表情をしながら言う。

 

 因みに俺も浴衣を着ており、この場にいる全員も着ている。普通、学校行事での宿泊では浴衣は着ないものなのだが、この旅館では『お食事中は浴衣着用』と言う決まりがある。何度もこの旅館に来てる俺にとってはもう既に知ってる事だが、どうして浴衣でなければいけないのかまでは知らないけど。

 

 ずらりと並んだ一学年の生徒は座敷となっており、当然正座である。言うまでも無く一人一人に善が置かれてある。

 

 それには本日のメニューである刺身と小鍋、三歳の和え物の二種類で、赤出汁の味噌汁と漬物。

 

 一見普通の夕食だと思われるだろうが、実はそうでもない。ここ一番のメインである刺身は最近高級魚となっているカワハギだからだ。しかも肝付きで。

 

 この魚は噛むと独特の歯応えと、クセの無い味で美味いから思わずついつい箸を進めてしまう。肝も臭みや苦味が一切無い。特に師匠である竜爺はこのカワハギを好物の一つに入れており、この旅館に来る時は必ず食べている。俺や綾ちゃんも同様だけど。

 

「それはそうとセシリア、足大丈夫なのか?」

 

「くっ……な、何とか……」

 

「その顔で言われても説得力が無いぞ」

 

 因みにセシリアが何故こんなに辛そうな表情をしてるのかと言うと、今コイツは正座してる事によって足が痺れているからだ。正座を一度もした事が無いイギリスのお嬢様のセシリアにとっては初めての経験だろう。

 

「っ……ぅ……」

 

「大丈夫か? セシリア。顔色良くないぞ」

 

「だ……ぃ……ょう、ぶ……ですわ……」

 

 足が痺れて辛くなってるセシリアに、セシリアの右隣に座っている一夏が心配そうに尋ねてくる。さっきまでシャルロットと会話をしていた一夏だったが、流石に自分の隣でさっきからこんな状態のセシリアを気にならない訳が無い。

 

「い、ぃただき……ます……」

 

 そう言いながら味噌汁を飲もうとするセシリアだが、飲むだけでも難儀している。

 

「お、おいしぃ……ですわ、ね……」

 

 そんな必死に笑顔を作ったところで、かなり無理をしてるのが丸分かりだっての。

 

 流石に一夏も気付いている様子で、セシリアにある事を提案しようとする。

 

「セシリア、正座が無理ならテーブル席の方に移動したらどうだ? うちのクラスでも何人か行ってるし、別に恥ずかしくないだろ」

 

 本来であればセシリアのような外国人であれば、正座が出来ない生徒の為にテーブル席が用意されてある。にも拘らず、コイツが一夏の隣で正座しているのには当然訳がある。

 

「へ、平気ですわ……。せっかく和哉さんがわたくしにお詫びをするためにこの席を譲ってくれたのに、それを無下にするわけには……」

 

 そう、俺は本来一夏の隣に座っている筈なんだが、それをセシリアに譲った。理由としては昼食前の海の時、事故とは言えセシリアの胸を見てしまったから、そのお詫びをする為に一夏の隣に座っても良いと提案した。言うまでもなくセシリアは見事に食いついて了承し、すぐに許してくれた。ついでにアップルパイを作れとの条件も突きつけられたが、それ位はお安い御用なので学園に戻ったら作る事にした。

 

「? 和哉がどうしたんだ?」

 

「い、いえ! な、何でもありませんわ! お、おほほほ……」

 

「一夏、女の子には色々あるんだよ」

 

 誤魔化すセシリアにシャルロットが擁護する。

 

「そうなのか」

 

「そうなの……でも……」

 

 シャルロットが突然俺を見て、

 

(和哉って一体誰の味方なの?)

 

(ノーコメントだ)

 

 含んだ笑顔をして眼で訴えるが、俺は首を横に振りながら刺身を食べている。

 

 別に俺としては一夏が誰と付き合おうが構わないからな。一夏ラヴァーズの誰かに進展があるんだったら手を貸して後押しするとだけ言っておこう。

 

(あ、一夏ラヴァーズと言えば箒のやつ、海で見かけなかったな)

 

 ふと思い出した俺は丁度向かいに列の奥に座っている箒を見る。流石と言うべきか、しっかりと背筋が伸びた正座で食事をしている。同時に浴衣姿も様になっているから、現代の大和撫子みたいだ。そんな箒は今、両隣にいるクラスメイトと楽しそうに話しをしていた。

 

 すると、箒の隣にいた女子が一夏に声を掛けて手を振っていた。どうやら俺だけでなく一夏も箒を見ていたようだ。

 

 そんな一夏に箒がムッとして睨んでいる。

 

 恐らく一夏が他の女子を見ながら夕食を楽しんでいると思って不快な気分になっているんだろう。もし俺がここで一夏は箒を見ていたんだと言えば変わるかもしれないが、それはそれで怒りそうだから敢えて言わない。箒の行動パターンは大体分かるからな。

 

(ん? 箒と言えば確か………あの失礼な姉もアレ以来姿を見せていないな)

 

 箒の姉である篠ノ之束を思い出した俺は少し不愉快な気分になった。何しろいきなり人を『こんなの』呼ばわりする奴だからな。今度見つけてまた失礼な事を言うようなら、問答無用でデコピンを喰らわせてやる。

 

「う、ぐ……、くぅ……」

 

 ついでにセシリアさん。提案した俺が言うのも何だが、もういい加減に席変えるべきだと思うぞ。さっきから足の痺れによって二回も刺身を取り損なってるし

 

 そして一夏は、

 

「セシリア」

 

「移動は、しませんわ」

 

 提案する前にセシリアに却下されてしまった。意地の張り所を間違えてると思うんだが。

 

「しかし、食事が進まないだろ。俺が食べさせてやろうか? 前にシャルに――」

 

「い、一夏っ!」

 

 つい口を滑らせてしまった一夏にシャルロットが即座に塞ぐが、

 

「い、一夏さん、今のは本当ですの!?」

 

 案の定、セシリアが見事に食いついて来た。

 

 不味い。ここでコイツが何か暴走しないようにフォローしておこう。

 

「おいセシリア、言っておくが、あの時のシャルロットは――」

 

「和哉さん! 今はシャルロットさんのことはいいんです!」

 

「――は?」

 

 てっきり一夏に嫉妬すると思ったセシリアが予想外な台詞を言った事に呆然とする俺。

 

「い、一夏さん、そ、その、本当ですの!? 食事を、食べさせてくれるというのは……!」

 

 ああ、そう言う事か。焦って損したな。

 

「う、うん? 別に、いいぞ。足のしびれが取れるのを待っていたら料理が冷めるだろ。それに刺身、カワハギだぞ。鮮度が落ちたら勿体無いしな」

 

「そ、そうですわね! ええ、ええ! せっかくの料理が痛んでは、シェフに申し訳ありませんものね!」

 

 何を言ってんだか。今のお前はそんな気遣いよりも一夏に食べさせてもらう事が重要だろうが。

 

 セシリアの台詞に呆れている俺はカワハギを食べていると、セシリアは一夏に箸を預ける。それを受け取った一夏は早速刺身を一切れ摘まむ。

 

「セシリア、わさびは平気だったか?」

 

「わ、わさびは、少量で……」

 

 わさびと言えば、さっきシャルロットが本わさを丸々食ってたな。

 

 そう思ってる中、一夏がセシリアに刺身を食べさせていると、

 

「あああーっ! セシリアずるい! 何してるのよ!」

 

「織斑君に食べさせてもらってる! 卑怯者!」

 

「ズルイ! インチキ! イカサマ!」

 

 他の女子達が気付いて猛抗議した。まぁ気付くのは当然だ。ずらっと並んで座ってるからな。

 

「ず、ずるくありませんわ。席が隣の特権です」

 

「それがずるいって言ってんの!」

 

「神代君に席を譲ってもらっといて!」

 

「どうして私に席を譲らなかったの神代君!」

 

「織斑君、私も私も!」

 

 一部俺に文句を言ってたが、結局は自分も食べさせて欲しいと女子達が一夏に押し寄せる。

 

 本当にモテるな、一夏。俺には全く縁の無い物で――

 

「ねぇかずー、私にも食べさせて~」

 

 ――前言撤回。物好きな奴がいたって事を忘れてた。

 

 俺の左隣に座ってる本音が引っ付きながら強請ってくる。君はセシリアと違って普通に食えるだろうが。

 

「お前たちは静かに食事することができんのか」

 

 突然その声が聞こえると全員が凍りつくように静かになった。

 

「お、織斑先生……」

 

「どうにも、体力が有り余っているようだな。よかろう。それでは今から砂浜をランニングしてこい。距離は……そうだな。50キロもあれば十分だろう」

 

 うわぁ。俺はやっても構わないが、他の連中にはとても耐えられないな。と言うか俺でもそれはかなり時間が掛かってしまう。

 

「いえいえいえ! とんでもないです! 大人しく食事をします!」

 

 そう言って女子達は一斉に席に戻って行く。それを確認した千冬さんは一夏の方を見る。

 

「織斑、あまり騒動を起こすな。鎮めるのが面倒だ」

 

「わ、わかりました」

 

 まぁ確かにある意味、一夏が騒動の原因かもしれないな。

 

「ついでに神代、お前は食事中に布仏とイチャ付くな」

 

「いや、本音が勝手に引っ付いてるだけなんですが……」

 

 まさか俺にも注意されるとは。ってか、俺は本音とイチャ付いてなんかいないんだが。

 

「ほら本音、早く俺から離れろ」

 

「ぶ~~」

 

 ったく、また膨れっ面かよ。今日でもう何度目だろうか。

 

 もういい加減に本音のこんな顔を見るのはウンザリしてきたので、

 

「今度アップルパイ作ってやるから」

 

「やっぱりかずー大好き~♪」

 

「って、おい! 離れろって言ってるだろうが!」

 

 機嫌が戻った本音だったが、結局はまた俺に引っ付いてくるのでアップルパイの提案は却って逆効果だった。

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