インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~ 作:さすらいの旅人
「よし、ランニングはここまでにしておくか。千冬さんからも朝練は軽めにしとくようにって言われたし」
「ハァッ……ハアッ……。こ、これのどこが軽めなんだよ……!」
合宿二日目の早朝。俺は一夏を砂浜に連れて行き、準備運動を済ませてランニング5キロを完走して終了した。俺はまだ平気だが、一夏は昨日と同じくまたへばってて息がかなり上がってて両膝と両手を地に着けている。
「どうだった一夏、砂浜ランニングの感想は?」
「ふ、普通のランニングより凄くキツかった……ハァッ……ハァッ……。なんか体全体が凄くしんどい……」
「当然だ。この砂浜ランニングは足全体の筋肉だけじゃなく、体のバランスを保つために普段使わない筋肉も使うからな。それによって様々な筋力を鍛える事が出来る。普通のランニングとは違って走りにくかったろ?」
「あ、ああ……。ついでにどうしてかと疑問を抱くほどの念入りな足首の準備運動と、裸足で走ったほうが良いのがよく分かったよ……ハァッ……ハァッ……」
砂浜は陸路と違って、砂に足を持って行かれるから、下手すれば足首を捻ってしまう恐れがある。だから裸足が良いって訳だ。裸足で走れば砂を足の指で掴みやすくなるので、しっかり踏み込めて怪我の対策にもなる。
「まあな。にしても一夏、息が上がってかなり疲れてるとは言え、まだ立てるとは凄いじゃないか。これを初めてやる奴は大抵バテバテになって倒れているんだが」
「ハァッ……ハァッ……そりゃ、お前の訓練に付き合ってたら……嫌でも体力が付くっての……!」
「ほう、それは何よりだ」
俺と訓練をやって、まだそこまで日が経っていないが、それなりの体力が付いたようだな。結構な事だ。そうなってくれなければ、夏休みに予定してる修行に最後まで出来ないからな。まだ一夏には内緒だが。
「よし、じゃあ学園に戻ったらお前の訓練の量を増やすとしよう。まぁそれよりも……ほれ、次は鉄棍の素振り50回だ」
「おい! 少しは休憩させてくれよ! いくら体力が付いたっていっても、まだそこまで体が追いつかないのに、この2kgの重りも完全に慣れてないんだぞ!?」
「はいはい、文句は後で聞くから早く手を動かせ」
「やっぱりお前は鬼だ~~~!!」
一夏、俺が鬼なら師匠はその更に上を行く存在なんだぞ?
◇
一夏が文句を言いながら朝練を終えた午前九時。今日の合宿は午前中から夜まで丸一日使ってISの各種装備試験運用とデータ取りが行われる。特に専用機持ちは送られてきた大量の装備全てチェックしなければいけないから凄く大変だ。
「ようやく全員集まったか。――おい、そこの遅刻者」
「は、はいっ」
千冬さんに呼ばれて身を竦ませたのは、凄く意外な人物であるラウラだ。
軍人であるラウラが珍しく寝坊したみたいで、集合時間に五分遅れてやってきたから遅刻となっていた。
「そうだな、ISのコア・ネットワークについて説明してみろ」
「は、はい。ISのコアはそれぞれが――」
ラウラは千冬さんに言われたとおり説明を始める。しかも一切噛むことなくスラスラと。あそこまで言えるって事は、ラウラ自身が優秀且つ千冬さんに相当叩き込まれたってところだな。俺の隣にいる一夏なんてラウラの説明を聞いて凄く感心してるし。
「さすがに優秀だな。では遅刻の件はこれで許してやろう」
そう言われると、ラウラはふうと息を吐いて安堵した。あの様子を見る限り、恐らく千冬さんのドイツ教官時代にかなりしごかれたんだろうな。
「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速に行え」
生徒一同が一斉にはーい、と返事をする。一学年全員が一斉に並んでいるから、かなりの大人数だ。
ついでに今日ここでデータ取りを行うIS試験用のビーチは、四方を切り立った崖に囲まれている。此処に来るのは初めてだ。いつも旅館に来た際に、此処はIS学園関係者以外立ち入り禁止となって凄く気になっていた。今までの俺はIS学園には全く縁の無い物だと思っていたが、それが今やISに乗れてIS学園の生徒だ。人生と言うのは本当に分からないな、ホント。
とまあ、話が少し脱線しかけたが、ここに搬入されたISと新型装備のテストが今回の合宿の目的だ。
言うまでも無くISの稼動を行うから、全員がISスーツ着用姿。ISスーツとは言え、此処が海だから水着に見えてしまうが。
「ああ、篠ノ之。お前はちょっとコッチに来い」
「はい」
打鉄用の装備を運んでいる最中に、俺は気になって二人を見る。
「お前には今日から専用機を――」
「ちーちゃ~~~~~~~~~~ん!!!」
ん? どっかで不快な聞いたような声が……。
声を聞いた俺が振り向いて見ると、砂煙をあげながら人影が凄いスピードで走ってきていた。しかも凄く見覚えがある人影だ。
「……束」
そう。昨日俺に会って早々不快にさせた箒の姉である篠ノ之束が、堂々と臨海学校に乱入して来た。
「やあやあ! 会いたかったよ、ちーちゃん! さあ、今すぐにハグハグしよう! そして愛を確かめ――ぶへっ」
おおっ、あの
「うるさいぞ、束」
「ぐぬぬぬ……相変わらず容赦ないアイアンクローだねっ」
千冬さんの強力なアイアンクローからあっと言う間に抜け出すとは……やはり見た目とは裏腹にかなりの身体能力を持っているようだな。
そして篠ノ之束は次に箒の方を向く。
「やあ!」
「……どうも」
昨日言ったとおり、箒は篠ノ之束にあんまり会いたくない様子を見せている。
「えへへ、久しぶりだね。こうして会うのは何年ぶりかなぁ。おっきくなったね、箒ちゃん。特におっぱいが」
ゴンッ!
「殴りますよ」
「殴ってから言ったぁ! しかも日本刀の鞘で叩いた! ひどいよ! 箒ちゃんひど~い!」
殴られた頭を押さえながら涙目になって訴える篠ノ之束。そんな二人のやりとりを、一夏を除く一同がぽかんとして眺めてる中、俺は奴に近付く。
「よう、昨日ぶりだな」
「んん? ああ、また君か。昨日も言ったとおり、今は箒ちゃん優先だから後にしてくれないかな? さあ早くあっちに行った行った」
「………」
箒や一夏が驚いている中、また会って早々不快な事を言う篠ノ之束に、俺は少しばかり頭に来たから『睨み殺し』を使って動きを止めようと――
「おい束。自己紹介くらいしろ。うちの生徒たちが困っている」
したが、千冬さんが止めるかのように割って入って来た。
「えー、めんどくさいなぁ。私が天才の束さんだよ、はろー。終わり」
くるりと回って簡単に自己紹介を済ませる篠ノ之束に、一同は目の前の人物が俄かに騒がしくなった。
「はぁ……。もう少しまともにできんのか、お前は。そら一年、手が止まっているぞ。こいつのことは無視してテストを続けろ」
「こいつはひどいなぁ、らぶりぃ束さんと呼んでいいよ?」
「うるさい、黙れ」
何かこの二人、お互いに知っている仲みたいだな。一体どう言う関係……あ、そういえば篠ノ之束がさっきから千冬さんの事を『ちーちゃん』って言ってたな。って事は、千冬さんと篠ノ之束は友人と言ったところか。
「神代、お前も早く持ち場に着け」
「ですが――」
「お前の言いたい事は分かる。さっきのこいつの失礼な態度については後で私から言っておく。だから早く戻れ」
「…………分かりました」
命令口調で言う千冬さんだったが、少し申し訳無さそうな感じがした。ここまで言われたら流石に引かざるを得ないから従わざるを得ない。
「むむ、ちーちゃんが妙にその子に優しい……。束さんは激しくじぇらしぃ。おいこら君ぃ、どんな手を使ってちーちゃんを惚れさせたぁ!」
「「…………は?」」
いきなりヤクザみたいに突っかかって見当違いな事を言う篠ノ之束に、俺だけじゃなく千冬さんも素っ頓狂な声を出す。ついでに箒と一夏が篠ノ之束の台詞を聞いて目をパチクリしていた。
「ちーちゃんが君の話題になると何故か認めていたり庇うような事を言ってたんだよね~。しかも箒ちゃんやいっくんとは違う感じで。それは即ち……ちーちゃんが君に惚れてるって証拠だぁ!」
「「………………」」
「よくも私のちーちゃんを汚したな! ちーちゃんの純潔は私が頂く予定だったのに! ムキー! ちーちゃんを汚した罪、絶対に許さないんだからぁ~~!」
わけの分からん事を言いながら地団太を踏む篠ノ之束に俺と千冬さんは、
「「………フ、フフフフフフ……」」
揃って顔を下に向けながら笑った。同時に拳をポキポキと鳴らしながら殺気も全開にして。それにより篠ノ之束を除く一同は完全にドン引き状態になっているが無視だ。
「織斑先生、俺今この女に本気で制裁したい気分なんですけど……」
「奇遇だな神代。私もそう思っていたところだ」
「あ、あれ~? 何で君だけじゃなくちーちゃんまで怒ってるの? 私何かおかしなこと言ったかな?」
どうやら篠ノ之束は俺が怒ることは予想してたみたいだが、千冬さんは予想外だったらしい。だが今そんなのどうでもいい。
そして俺は構えて、
「おらぁっ!」
「うおっと!」
篠ノ之束にアイアンクローで捕まえようしたが、寸でのところで避けられた。
「チッチッチ~、甘いよ~。君程度で束さんが捕まると思ったら――」
「私もいるのを忘れてもらっては困るぞ、束」
「うぎゃあああ~~~~!! 何かさっきのアイアンクローとは違って殺意全開だよち~ちゃぁぁぁぁぁん!!!」
千冬さんの全力殺人後頭部アイアンクローをされてる篠ノ之束は、さっきまでと違って本気で痛そうに悲鳴をあげていた。
そんなのを気にしない俺は、
「くたばれ勘違い女」
バチィィィィィィィィンッッッ!!!!(×2)
「ぎぃぃやあぁぁぁぁぁぁぁ~~~!!!」
両手を使った全力のデコピンで篠ノ之束の額にクリティカルヒットさせた。それによりデコピンを喰らった事のある一夏と箒とラウラは滅茶苦茶痛そうな顔をしており、山田先生とその他の生徒達は完全に唖然としてるのであった。
一触即発な雰囲気の予定が、ギャグチックになってしまった……ちょっと失敗しました。