インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~ 作:さすらいの旅人
「俺が箒と模擬戦、だと?」
「束、お前は一体何を考えている」
千冬さんの言うとおり、俺もこの女の考えている事がさっぱり分からなかった。何のつもりで俺が打鉄に乗って箒の紅椿と模擬戦させるのかを。
「言葉通りの意味だよちーちゃん。その子が紅椿に乗ってる箒ちゃんと模擬戦をする。ただそれだけだよ」
「私はさっき言った筈だぞ? 私の生徒に手を出したら黙っていないとな」
「そんな固いこと言わないでよぉ~。単に模擬戦をするだけなんだからぁ~。それにさぁ、私としてもその子がどう戦うのかをこの目で直で見てみたいんだよね~。箒ちゃんの紅椿相手にどこまでやれるのかを。後はちーちゃんがOKを出してくれたら――」
「おい待て。何勝手に俺が既に戦う事を前提に話しを進めてやがるんだ。俺は箒と模擬戦をするだなんて言って無いぞ」
勝手に話しを進めようとする篠ノ之束に俺が抗議するが、向こうは大して気にしないかのように俺を見る。
「でも君だって戦ってみたいんじゃないの~? 紅椿に乗った箒ちゃんとどこまでやれるのかをさ」
「………悪いが俺にはそんな気は無い。模擬戦をさせたかったら他をあたれ」
興味ないように答えた俺は持ち場に戻る為に背を向ける。
だが、
「じゃあこれはどうかな? もし君が箒ちゃんに勝ったら、私がさっきの金髪に謝罪と土下座するついでに、金髪のISを見るっていうのは」
「!」
「何?」
篠ノ之束の予想外な提案をした事に千冬さんは驚愕し、俺は思わず足を止めて振り向く。そして近くで聞いていたセシリアと一夏も千冬さんと同じく驚愕していた。
「俺が勝てばアンタがセシリアに土下座してISを見る、だと?」
「束、お前それは本気で言ってるのか?」
「勿論だよ、ちーちゃん」
篠ノ之束はあっさりと頷くが千冬さんはまだ信じられない顔をしていた。自分や一夏、そして妹である箒以外に対してそんな事をするとは微塵も思ってなかったんだろう。まぁ俺も千冬さんと同じく信じられないが。
千冬さんに答えた篠ノ之束は再確認をするように再び俺を見る。
「さぁどうする? これでも箒ちゃんと模擬戦をやらない?」
「……………………」
この女は一体何を考えている? さっきセシリアに対してあれだけ拒絶しておきながら、俺が模擬戦をさせる為に今度は謝るって……。一夏や箒、千冬さんにしか興味無いこの女が本当にそうするのかが俄かに信じられなかった。あくまで俺が箒と模擬戦をさせる為の手段として使っているんじゃないか、と疑念を抱いてるからだ。もうついでにこの女が本当にセシリアに土下座するのかが疑わしいから、安易に返答する事が出来ない。
「………もし俺が勝てば、本当にアンタはセシリアに謝罪するんだろうな?」
「君って疑り深いんだね~。血判状に署名しないと信じられないのかな~?」
………コイツがここまで言うって事は嘘じゃないのは分かったが、果たして本当に模擬戦をしても良いんだろうか……? 俺にはどうもコイツの考えには何か裏があるような気がして今一つ信用出来ないが、かと言ってコイツが絶対にやらない事をやるので、それはそれでセシリアが報われる。危険かもしれないが、取り敢えずここはコイツの策に敢えて引っ掛かる事にしよう。俺が勝てばセシリアの為になる、と言う風に考えて。
「………良いだろう。だったらやってやろうじゃないか」
「待て神代! お前も何を勝手に――」
俺の返答を聞いた千冬さんは止めようとするが、俺はすぐに千冬さんにしか聞こえないように小声で話す。
「(織斑先生、申し訳ありませんがこのままやらせて下さい。それに妥協案を出してまで頑なに断りでもしたら、あの女が此処で何を仕出かすか分かりません。友人である織斑先生なら、大体の想像は付くと思いますが?)」
「(…………確かに)」
「ちょっと君~、何ちーちゃんとヒソヒソ話してるのかな~?」
篠ノ之束を無視し、何とか千冬さんを説得する事に専念する。
「(後で反省文を書いた後に懲罰を受けますので、どうか……)」
「…………はぁっ。束、模擬戦をやるにしても制限時間を付けさせてもらうぞ。良いな?」
「オーケーだよ~ちーちゃん。その子がやってくれるなら文句は言わないよ~。箒ちゃ~ん、今から模擬戦を――」
千冬さんから模擬戦許可を貰った俺が準備をすると、篠ノ之束は箒に通信をしていたのであった。
◇
「和哉、最初に言っておくが私は一切手を抜くつもりはない」
「……そうか」
海の上空で打鉄を纏った俺と、紅椿を纏っている箒が対峙していつでも動ける状態になっていた。
そして俺が少し間があった返答をしても、箒は大して気にする事無く言い続ける。
「いくら私が専用機とは言え、お前相手に勝てるとは微塵も思ってないが、それでも全力でやらせて貰う」
「……構わん」
思ったとおりだ。箒は口でああ言ってるが、専用機を手に入れて内心かなり浮かれている。強大な力を手に入った途端、人間は慢心すると言うが箒もその一人だ。とは言え、人間誰しも強い力を持てば誰でもああなるのは無理もない、か。
となれば、俺が箒にやる事はその慢心を無くす為に、この模擬戦で絶対に勝つしかない。上から目線な考えと思われるかもしれないが、これでも俺は一夏と同じく箒をコーチしている身だから、そう考えなければならない。それにもし仮に箒が俺に勝ってしまえば、アイツは更に慢心して、後々になってから取り返しがつかないことをしそうな気がする。あくまで俺の予想だから絶対とは言えないが。
故に俺は箒のコーチ役として、そしてクラスメイトの友人として、箒が間違った道を進ませるのを止めさせなければならない。
「では今度は俺に見せてもらおうか。篠ノ之束お手製“紅椿の性能”って奴を」
「望むところだ、行くぞ和哉!!」
俺の台詞に箒は両手に持ってる刀を構え、そのまま突進してきて模擬戦を開始した。
「………やはり気付いてないな(ボソッ)」
箒が凄まじいスピードで向かって来る中、俺は右手で刀を展開しながらも、自身が言った台詞に何の疑問を抱かない箒を見て何が何でも勝たなければいけない事を決意する。
そして、
「はああああっ!!」
ガギィィィンッ!!
「ぐっ!」
突進しながらの上段の斬撃を仕掛ける箒に俺は刀で防御して凌ぐが、勢いまでは止める事が出来ずに押されてしまった。
やはりスピードだけじゃなく、パワーもそれなりにあるようだ。一夏の白式や鈴の甲龍よりも。まぁあの天才博士が作った最新のISだから、それは当然かもしれないが。
そう考えてる俺に箒は更に攻撃を仕掛けようとする。
「はあっ!」
「おっとっ!」
二刀を使って斬撃をする箒の攻撃を回避して距離を取ろうとする。
「逃さんっ!」
箒はそう言って右手に持ってる刀である《天月》を俺に向かって突くと、さっきの実演で見せた赤色のレーザーが球体となって現れ、そしてすぐに弾丸となって俺目掛けて飛んできた。
「ちぃっ!」
弾丸を見た俺はすぐに避けようとするが、余りの速さに1~2発かすってしまって少し怯んでしまった。それを見た箒はチャンスと言わんばかりに、左手に持ってる刀の《空裂》を振ると、今度は帯状のレーザーが俺に襲い掛かって来た。
あんなのを喰らってしまったら、あっと言う間に打鉄のシールドエネルギーが尽きてしまうと危惧してすぐに回避行動をして辛うじて難を逃れる。
「流石だな、今の攻撃を全て避けきれるとは。やはりお前は凄い」
「……そりゃどうも」
賞賛する箒に俺はぶっきら棒に返答する。
箒は箒でさっきの攻撃で俺を倒せるとは思っていなかったんだろうが、それでも妙に声が弾んでいた。恐らく、攻撃がかすったとは言え俺に多少の攻撃を当てる事が出来たと思って舞い上がっているんだろう。
「だが今のは、ほんの小手調べだ。今度は本気で行くぞ」
「……そうかい」
本気で行くと言っても、それは箒の実力でなく紅椿の性能に過ぎないんだがな。と言うツッコミをしたところで、今のアイツには聞く耳持たないだろう。
(取り敢えず今は箒の慢心を何とか無くす事が先決だな)
そう考えた俺は右手に持ってる刀を仕舞うと、箒が不可解な顔になり始めた。
「和哉、刀を仕舞うとはどういうつもりだ?」
「さてね。まぁそんな事より、もう一回あのレーザーを出してくれないか? 今度はちゃんと避けるから。無論、連続で出しても構わん」
「………本気で言ってるのか、和哉? いくらお前でも天月と空裂の攻撃からは逃れられる事は不可能だと思うが……?」
「あっそ。ならば――」
フッ!
「なっ!?」
「ふんっ!」
ドガァッ!
「ああっ!」
そのまま回し蹴りを喰らわせた。
次の更新で模擬戦の決着が付きます。