インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~   作:さすらいの旅人

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第72話

「ふむ……まだ完全とはいかんが、今の段階ではまずまずと言ったところか」

 

「ば、バカな……」

 

「ん?」

 

 空中で疾足を使っての自己分析をしてると、回し蹴りを喰らった箒は俺から距離を取りながら驚愕していた。

 

「お前は、あの移動は空中では出来ないと言った筈だ……。なのに何故……!?」

 

「何故って……そんなに驚く事か? 俺が空中で疾足を使った事が」

 

 箒の余りの狼狽振りを見て俺は思わず呆れてしまって一瞬目を逸らしそうになったが、今は模擬戦の最中だと内心渇を入れながらそのまま箒と紅椿を見続ける。

 

 そしてそのまま俺は再び構えて、

 

「あのなぁ箒。確かに俺は以前『出来ない』と言ったが、それを理由にいつまでもほったらかしてるとでも思ってたか? だとしたらそれは――」

 

 

 フッ!

 

 

 再び疾足を使って今度は懐に入り込み、

 

「大間違いだ!!」

 

 

 ドゴッ!

 

 

「がはっ!」

 

 箒はまた不意を突かれたかのように反撃が出来ないまま俺の攻撃を喰らってしまい、俺の拳が箒の腹に当たって減り込んだ。

 

 俺の攻撃を喰らった事に箒は一瞬、両手に持ってる刀を手放してしまいそうになったが、すぐに持ち直して再び俺から距離を取る。因みにさっきの攻撃はただのパンチで、『砕牙・零式』ではない。それを使って箒を倒す事は出来るが、それでは意味が無い。

 

「う、うう……」

 

「ったく。いくら俺のやってる事が信じられないからといって、模擬戦の最中に気を抜くな。もしこれが実戦だったら、お前とっくに死んでるぞ?」

 

 などと偉そうに言う俺だが、実戦に近い修行はしても本物の実戦はやった事無いけどな。

 

「まぁ一応出来た理由は教えておこう。この間一人でISの訓練した際、空中でも足場があるようにイメージしてやってみたら、物の見事に疾足が使えたって訳だ」

 

「い、イメージ……だと? お前は、たったそれだけで……」

 

 理由を聞いた箒は俺の攻撃を喰らったにも拘らず呆然としている。だから気を抜くなってのに。

 

「コツさえ掴めば結構簡単なんだなって気付かされたよ。慣れるのに結構時間が掛かったが、今はこの通りだ。さて、それはそうと箒。紅椿を披露する為の模擬戦に水を差すようで悪いが、ここからは……俺との修行時間だ」

 

「!!!」

 

 殺気を込めた目で睨むと、箒は驚愕して一瞬呑まれそうになったが何とか意識を保って武器を構えようとする。

 

「そうだ、それでいい。ここから先は一瞬たりとも気を抜くなよ。構えを崩すな。神経を(とが)らせろ」

 

「くっ……!」

 

「では……行くぞ!!」

 

 

 

 

 

 

「おいおい、嘘だろ……?」

 

「わ、わたくしの見間違いでしょうか……? い、いま和哉さんが空中で……」

 

「な、何なのよアイツ……。和哉のあの瞬間移動って、確か地上でしか出来ない筈じゃなかった……?」

 

「え、えっとぉ……この場合、僕は何て言えば良いのかな……?」

 

「流石は師匠だ、あんなことも出来るとは。私も見習わねば」

 

 和哉が空中で疾足を使って箒に背後から回し蹴りをした事に、地上で見物していた一夏、セシリア、鈴、シャルロットは開いた口が塞がらぬ状態となっており、ラウラは和哉に尊敬の眼差しを送っていた。

 

 ラウラはともかく、一夏達が驚くのは無理もない。何しろ和哉は今まで使っていた疾足が地上限定でしか使っていなく、和哉本人も『この移動は足場が無かったら使えない』と言ってたから、空中で疾足を使う事は無いと踏んでいた。だがそれはもう一瞬で覆され、ついさっき和哉が空中で疾足を使った事により、一夏達の頭の中は色々な意味でパンク状態となっていた。最早和哉には地上だろうが空中だろうが、そんなの一切関係無く遠距離攻撃関連が簡単に避けられると思うだけで、特に遠距離攻撃専門であるセシリアにとってはもう破裂寸前だ。

 

「ア、アハハハハハ……もうこれ以上は驚くことは無いと思っていたのに……まさかまたこんな形で驚かされるなんて……」

 

 そしてセシリアはもう何もかもが脱力したかのように片手を頭に乗せ、

 

「あのバカ……! 一体……一体どこまであたし達の常識を壊せば気が済むのよ……!」

 

 鈴は全身をプルプルと体を震わながら憤らせ、

 

「な、何か……和哉ってもう僕たちとは別の次元にいるよね……」

 

 シャルロットは苦笑いしか出来なく、

 

「俺、アイツを倒すのは暫く無理だな……いやいや織斑一夏、そんな弱気になっちゃだめだ……」

 

 和哉を倒す事を目標としている一夏は諦めそうになっているが何とか持ち越した。

 

 だが、 

 

『まぁ一応出来た理由は教えておこう。この間一人でISの訓練した際、空中でも足場があるようにイメージしてやってみたら、物の見事に疾足が使えたって訳だ』

 

「ほう。師匠はイメージで出来たのか」

 

「か、和哉ってもうホントに無茶苦茶だよ……」

 

「「「……………………フ、フフフフフフ……」」」

 

 オープン・チャネルで和哉の発言を聞いた瞬間、ラウラとシャルロットを除く一夏達三名は怖い笑みを浮かべながら、

 

「ふざけんじゃねぇ和哉ぁぁぁ~~~~~~!!!!!」

 

「コツを掴んだだけで出来ただなんてマンガじゃありませんのよ~~~~!!!!」

 

「あっさり白状するんじゃないわよこのバカァァァ~~~~~!!!!!」

 

 和哉に思いっきり怒鳴るのだった。

 

 そんな一夏達の叫びも空しく、上空では箒が段々と和哉に押され始めていた。

 

「ほう……あの移動をいつのまにか空中で使えるようになったとは」

 

「あらら~~、まさかあの子にあんな事が出来たなんてね~。一度ならず二度までもこの束さんを驚かせるなんて……」

 

 千冬が感心そうに和哉の動きを逃さず観察し、予想外と言うような感じで束は少しばかり驚きの声を出していた。

 

 束としては紅椿の性能披露の為に和哉と模擬戦をさせて、力の差を示して箒が勝つと言う流れを予測していたが、それを見事に打ち砕かれて箒が劣勢になってる事に少し困惑気味だった。

 

「その割には余り驚いているようには見えないが」

 

「いやいやちーちゃん、私はこれでもかなり驚いているほうだよ~。量産機程度で紅椿をあそこまで戦うあの子を見て、思わず解体したい位に」

 

「……そんな事をしたらどうなるか分かってるだろうな?」

 

「冗談だって~。そんなに本気で怒んないでよ~」

 

 束の発言に千冬が少しばかり殺気を込めて睨むと、降参と言わんばかりに束は両手を上げながら首を横に振る。

 

 だが、

 

(思ったとおり、やっぱりアレ(・・)は箒ちゃんといっくんの妨げになる可能性大だね)

 

 内心では和哉をアレ呼ばわりして凄く鬱陶しそうに思っている束だった。

 

 妹である箒、そして一夏と千冬にしか興味の無い束からすれば和哉は邪魔な存在でしかない。もし自分がやろうとする事に和哉が横槍でも入れられたら、束は間違いなく和哉を消そうとするだろう。無論、そんな事をすれば千冬が黙っていないので今は(・・)敢えてやらないが。

 

(取り敢えず今は生かしておいてあげるよ。でも、箒ちゃんたちの邪魔をしたその時は……)

 

 

 

 

 

 

「どうした箒、もう終わりか?」

 

「はあっ……! はあっ……! はあっ……!」

 

 模擬戦をしてある程度経ち、俺は構えながらも息切れしている箒を見下ろすかのように見ている。

 

 箒があそこまで息切れしているのは、主に俺が攻撃を当てているからで体力を消耗しているからだ。逆に俺はまだ余裕で、いつでも仕掛けれる状態だ。因みに箒の斬撃はもうある程度慣れて刀でいなす事ができ、あのレーザーも疾足で避けれる。

 

 まぁそれはそれとして、取り敢えず紅椿のパワーとスピード、そして火力はある程度理解できた。確かにアレは俺が乗ってる打鉄なんかと比べ物にならないほどのスペックで、流石は篠ノ之束お手製最新のISと言うだけの事はある。だが、あくまでそれだけ(・・・・)だ。

 

 肝心な操縦者である箒は使い始めたばかりだから、まだ上手く扱いきれてないせいか、斬撃は今一つだった。もし箒が一切浮かれず、余計な雑念も無く仕掛けたら、俺は最初の斬撃で間違いなく相応の手傷を負っていた。にも拘らず俺がこうして大したダメージが無いのは即ち、箒は完全に浮かれて……いや、この場合は慢心と言った方が正しい。その慢心で箒の剣の腕を鈍らせ、紅椿のスペックに振り回されてる状態だ。いくらスペックが高かろうが、それに見合う操縦者の実力が無ければ話にならん。言っちゃ悪いが、今の箒には分不相応な機体だ。

 

 とは言え、アレが既に箒の専用機となってしまった以上、箒には更なる訓練をさせる必要がある。紅椿に見合う力量を持たせなければ、箒は一生アレを使いこなす事が出来ない。才能もあり努力家である箒がずっと紅椿の性能に振り回されるなんて、コーチ役である俺としては断じて見過ごせない。

 

「ま、まだだ……まだ私は戦える……!」

 

「そうか。ならば――」

 

 そう言いながら俺は刀を展開して再び疾足を使うと、

 

「くっ! そこかぁっ!」

 

「お?」

 

 

 ガキィィィンッ!

 

 

 右側面から攻撃する俺に箒は《天月》を振るって防いだ。

 

「へぇ。今度はちゃんと防いだな」

 

「はあっ……! はあっ……! い、いつまでもやられっぱなしの私ではない!」

 

「ふむ」

 

 ギギギッと鍔迫り合いをする俺と箒だが、俺がグイグイと押し込んで箒を後ろへと下がらせる。

 

「ぐぐっ……!」

 

「必死に持ち直そうとするところを悪いが……足元がお留守だぞ」

 

「っ!」

 

 俺の台詞に箒は気付いたが既に遅く、俺は箒の横腹目掛けて回し蹴りをする。それをモロに喰らった箒はそのまま落下して海に落ちそうになるが、海上ギリギリで止まった。

 

「く、くそっ……! こんな筈では……!」

 

「情けないな、箒。量産機を使ってる俺にここまでやられるとは。まさかお前、紅椿を使えばもしかすれば俺に勝てるかもしれないとでも思ってたか?」

 

「………………」

 

 何も言い返さないって事は図星のようだな。呆れた奴だ。俺がISの性能で負けるなら、今頃は専用機組みの連中に負けてるっての。

 

 まぁそれはそうと、もうそろそろ模擬戦を終わらせるとしよう。千冬さんが言った制限時間は十五分で、まだ七~八分程度しか経ってないが、最後までやろうとする気にはなれない。紅椿と言う強力なISを使って浮かれてる今の(・・)箒には、な。

 

 そう思いながら俺は、『砕牙』を使おうとしていたが、

 

『神代、篠ノ之! 模擬戦は中止だ! 一旦戻れ!』

 

 突然の千冬さんからの中止発言に、俺と箒は思わず発生源である千冬さんの方を見ながら戻る事にして、中途半端な状態で模擬戦を終えてしまった。




和哉の勝ちだと思っている人がいたかもしれませんが、模擬戦中止という名の引き分けとなりました。
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