インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~ 作:さすらいの旅人
「どう言う事ですか、織斑先生? 模擬戦を中止だなんて――」
「いいから黙って聞け」
「は、はぁ……」
模擬戦を中止して一足先に戻った俺は理由を尋ねようとするが、一切答えようとはせずに命令を下す千冬さんに取り敢えず従う事にした。
「現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと写る。今日のテスト稼動は中止。各班、ISを片付けて旅館に戻れ。連絡があるまで各自室内待機する事。以上だ!」
特殊任務行動? 一体どう言う事だ?
訳が分からない俺は近くにいた女子達に何故そんな事になったのかをそっと訊こうとするが、
『え……?』
『ちゅ、中止? なんで、特殊任務行動って……』
『状況が全然分かんないんだけど……』
どうやら他の女子達も俺と同じく全く理解しておらずにざわざわしていたので止める事にした。
そんな女子達の行動に、千冬さんは一喝した。
「とっとと戻れ! 以後、許可無く室外に出たものは我々で身柄を拘束する! いいな!!」
『『『はっ、はいっ!』』』
千冬さんの一喝に女子達全員は慌てて動き始める。さっきまで接続していたテスト装備を解除し、ISを起動終了させてカートに乗っけた後に移動を開始する。同時に今までに見たことの無い千冬さんの怒号に女子一同は怯えていた。
あの千冬さんがあそこまで言うって事は相当な一大事が起きているみたいだな。本当なら何故脅してまで待機させなければならないのかを訊きたいところだが、一切答えないと言う雰囲気を出している今の千冬さんには無理だから、ここは大人しく従う事にするか。
そして俺は纏っている打鉄を外すために解除作業をしようとするが、
「待て神代。打鉄は解除せずに待機状態のままにしろ。お前には私と一緒に来てもらう」
「え?」
千冬さんの突然の命令により俺は疑問を抱き、一夏達も何故というような感じでコッチを見ていた。そんな俺達の反応を余所に、千冬さんは次に一夏達の方を見て言い放つ。
「専用機持ちは全員集合しろ! 織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰! ――それと、篠ノ之も来い」
「は、はい!」
少し戸惑いがありつつも返事をしたのは、ついさっき一夏の隣に降りてきた箒だった。専用機持ちである箒が呼ばれたのは分かるが、何故俺も参加するんだろうか。
(それにしても、俺が箒を倒そうとする直後にこんな事態になるって妙にタイミングが良すぎないか? まるで狙って起こしたかのような気が……いや、それは考え過ぎだ。だけど……これは本当に偶然なのか?)
箒を心配しながら紅椿のメンテをしている篠ノ之束を、俺は疑心を抱きながら見ていた。
◇
「では、現状を説明する」
旅館にある宴会用の大座敷・風花の間で、一夏達専用機持ち全員と教師陣、そして俺――神代和哉――が集められた。
証明を落とした薄暗い室内の中、大型の空中投影ディスプレイがぼうっと浮かんでいた。
「二時間前、ハワイ沖で試験稼動にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用ISである『
軍用ISが暴走して離脱、だと? どう言う事だ? 何故そんな重要な事を一生徒にすぎない俺達に話す必要がある?
(お、おい和哉、なんで千冬姉は俺たちにこんな連絡をするんだ?)
(今は静かに聴いてろ)
俺の隣で軽い混乱に見舞われている一夏が小声で話し掛けてくるが、取り敢えず静かにさせた。俺だって全然状況が飲み込めてないんだから今は訊かないでくれ。
『……………………』
疑問を抱いている一夏や俺とは違って、残りの専用機組みは厳しい顔つきになっていた。
ただ戦うだけしか能が無い俺や、正式な国家代表候補生ではない一夏や箒とは違って、セシリア達はこう言う事態に対しての訓練を受けていたんだろう。特に軍人であるラウラの眼差しは真剣その物だ。
「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから二キロ先の空域を通過する事が分かった。時間にして五十分後だ。学園上層部からの通達によって、我々がこの事態に対処する事になった」
我々が対処って……それはまさか、
「教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ち、そして神代に担当してもらう」
やっぱりかよ。学園上層部は正気で言ってるのか? そんな一大事を俺達でやれだと? ふざけているにも程があるぞ。
淡々と説明する千冬さんの話しを聴いて、俺は怒りを通り越して呆れてしまった。隣で聴いてる一夏も事の重大性を少しずつ分かりながらも、戸惑いの表情をしている。
「それでは作戦会議をはじめる。意見があるものは挙手するように」
「では先ず俺から」
セシリアが手を挙げようとしていたが、俺は素早く挙げたので、千冬さんはすぐにコッチを見た。
「何点か確認したい事があるんですが、よろしいですか?」
「構わん。言ってみろ」
「では一つ目……何故俺達が軍用ISの対処をするんですか? こう言うのは普通、事の発端であるアメリカとイスラエルが責任を持って対処するべきでしょう。軍用ISと呼ばれている物なんですから、当然それには他国に知られたら不味い重要機密情報が盛り沢山の筈です。他国者である俺達が対処なんかしたら、向こうにとって色々と不味いのでは?」
「尤もな質問だ。これは本来、アメリカとイスラエルが対処すべきなのだが、向こうも軍用ISの暴走によって緊急事態の為に今は手が回せない状態なので、我々学園側に白羽の矢が立って対処する事になった」
「……そうですか」
要するに俺達は向こうの尻拭いをしろって事かよ。傍迷惑な事をしてくれる。これでもし重要な情報を知って口外でもしたら、どうせ向こうは裁判でも起こして
まぁ取り敢えず一つ目の質問は確認したから、次の質問に移るとしよう。
「次に二つ目……今回の件は本当に間違いなく学園上層部からの通達なんですか? 今此処にいる我々で対処をしろ、と」
「………ああ、そうだ」
『?』
不可解な表情をしている一夏達を余所に、千冬さんは俺からの問いに若干間がありながらも答えた。返答から察するに、どうやら千冬さんも俺と同じ疑問を抱いているようだな。
「最後に三つ目……何故専用機持ちでない俺が今回の件に参加する事になってるんです? 俺が専用機を持つのは臨海学校が終わってからの筈では?」
「………それについては私の方で確認してみたが、量産機でありながらも専用機持ちである織斑たちを圧倒しているお前に、上層部が是非とも参加すべきだと言ってきてな。当然、学園長は猛反対したんだが、今は戦力が少ないため、お前も参加せざるを得なくなった」
「………さいですか……はぁっ」
申し訳無さそうに言って来る千冬さんに、俺は再度呆れながら頭に手を置くと同時に溜息も吐いてそう言った。
どうしてお偉いさんってのは都合の良い事ばっかり考えるんだ? 俺の今までの実績はまだ訓練での段階に過ぎないってのに、それを実戦でもすぐに対応出来るとでも考えているのか? 訓練と実戦は違うって事くらい誰でも知ってる筈なのに……あ~ホント嫌になる。猛反対してた学園長は別として、どうして上層部ってのは机上の空論しか出来ないんだろうか。実戦舐めんなって『咆哮』を使ってでも叫びたい気分だ。
「神代、質問は以上か?」
「ええ、まぁ……」
一応質問を言い終えた俺はそう答えると、次に質問するセシリアが恐る恐ると手を挙げた。
「え、えっと……目標ISの詳細なスペックデータを要求します」
「わかった。ただし、これらは二ヵ国の最重要軍事機密だ。けして口外はするな。情報が漏洩した場合――」
セシリアの要求に千冬さんが此処にいる俺達に強く釘を差した。もし言ったら、査問委員会での裁判と最低でも二年の監視、だとさ。正直言って関わりたくなかったが、今の状況でそんな事を言えるほど甘くは無いので俺は敢えて黙っていた。
そしてセシリアを始め代表候補生の面々と教師陣は開示されたデータを元に相談を始めた。
広域殲滅を目的とした特殊射撃型、攻撃と機動の両方を特化した機体、特殊武装が曲者、データだけでは格闘性能が未知数、等々の意見をセシリア、鈴、シャルロット、ラウラが真剣に交わしている。
(なぁ和哉。情けなくて悪いんだが……ちょっとついて行けない……)
(安心しろ。正直言って俺も付いて行けないから)
俺の隣で話しを聴いている一夏は混乱が収まってはいるが、話には付いていけないようだった。一夏の行動に俺は責める気は無い。寧ろ同感だから。
「無理だな。この機体は現在も超音速飛行を続けている。最高速度は時速四五〇キロを超える。アプローチは一回が限界だな」
「一回きりのチャンス……ということはやはり、一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかないようですね」
山田先生の言葉に、俺を除く全員が一夏を見る。
「え……? って事はまさか……」
「一夏、あんたの零落白夜で落とすのよ」
「それしかありませんわね。ですが問題は――」
「どうやって一夏をそこまで運ぶか、だね。エネルギーは全部攻撃に使わないといけないから、肝心の移動をどうするか」
「しかも目標に追いつける速度が出せるISでなければいけない。超高感度ハイパーセンサーも必要だな」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ!」
「おいお前等、一夏が行く事はもう決定なのか?」
「「「「当然」」」」
あのねぇ君達、戦いの素人である一夏に任せるのはそれはそれでどうかと思うよ?
「織斑、これは訓練ではない。実戦だ。もし覚悟がないなら、無理強いはしない。当然、神代もだ。さっきはお前も参加せざるを得ないと言ったが、最終的な決定権は私にあるから辞退しても構わん」
……………ちょっと千冬さん。ここまで来ておいてそれはないでしょう。もう既にとんでもない事に首を突っ込んでる俺達にそんな事を言われても今更後には引けませんよ。
当然、それは一夏も同じで、
「やります。俺が、やってみせます」
「俺も俺で一夏のサポートをしますので、最後まで付き合います」
そう言って覚悟を持って決意した。
本当なら『ここで見捨てて一夏が死んだら嫌だからな』とセシリア達に認識を改めさせたかったんだが、その発言は敢えて言わないでおいた。理由は千冬さんだ。あの人はこの作戦でもしかしたら大事な弟である一夏が死ぬかもしれないと危惧してる筈なのに、敢えて『死』と言う単語を口にしなかったと言う事は即ち、一夏を失う覚悟のうえで言わなかったんだろう。そんな覚悟を持った千冬さんに俺が下手に『一夏が死ぬ』なんて言えば、千冬さんの覚悟を踏み躙ってしまう。故に俺は一夏を死なせない為に全力でサポートする事に専念する。
「よし。それでは作戦の具体的な内容に入る。現在、この専用機持ちの中で最高速度が――」
千冬さんの質問にセシリアが立候補した。
セシリアが使うブルー・ティアーズが、イギリスから強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』と言う換装装備が送られており、それには超高感度ハイパーセンサーも付いているみたいだ。
換装装備と言うのは、追加アーマーや増設スラスターなど装備一式を指して、状況に応じた武器が搭載されている。
それを装備する事によって機体の性能と性質が大幅に変わり、様々な作戦が遂行可能にするって事だ。因みに量産機の打鉄を使っている俺は、換装装備が一切出来ない
「オルコット、超音速下での戦闘訓練時間は?」
「二十時間です」
「ふむ……。それならば適任――」
「待った待ーった。その作戦はちょっと待ったなんだよ~!」
だな、と言おうとした千冬さんに、いきなり底抜けに明るく、そして俺にとって不愉快な声が遮ってきた。
今回の和哉は随分と珍しく臆病だなぁと思われるかもしれませんが、『実戦=死』と理解しているから、ああ言わざるを得なかったのでご容赦下さい。