インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~   作:さすらいの旅人

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第5話

「ん…んん……ふわぁ……」

 

 入学式翌日の朝五時。

 

 俺は起床するとトイレで用を足して、すぐに洗面所に向かって顔を洗い、歯ブラシに歯磨き粉を付けて歯を磨く。

 

「う~ん……むにゃむにゃ……」

 

「…………………」

 

 ルームメイトである布仏が未だにグッスリ眠っているとは言え、流石に女子の目の前で着替える訳にはいかないな。

 

 そう思った俺は、師匠が用意してくれた大きい鞄の中に入ってたジャージを引っ張り出して洗面所で着替える事にした。

 

「さてと、早速朝の日課を済ませるか」

 

 ジャージに着替えた俺は寝間着を片付け、ベッドを元の状態に戻し、そして鞄から修行道具を取り出す。

 

「よし、行こう」

 

 俺は修行道具を持って部屋を出ようとすると……。

 

「もう食べられないよ~……むにゃむにゃ……」

 

「………随分と古典的な寝言だな」

 

 布仏の寝言に思わず突っ込みを入れてしまった。

 

 

 

 

 

「ま、流石にこんな朝早くからトレーニングルームが空いてないのは当然だな」

 

 俺は外で腹筋・背筋・腕立て伏せ100回×3セットの筋トレをやった後、一つ目の修行道具であるパワーリスト(3kg×2)とパワーアンクル(3kg×2)を身につけて寮の周りを十周走った。

 

 本当はグラウンドで走ろうと思っていたが、少しばかり距離があって時間の関係により断念して寮の周りを走ったのだ。それでも1週で約1キロあるから問題無い。その後は正拳突き100本をやって数分休憩をする。

 

「さて次は、と」

 

 次に二つ目の修行道具である約60cmの鉄棍を手に持って剣道のように素振りを100回する。俺は別に剣道の練習をしている訳じゃなく、自身の握力と筋力を上げるためにやっている。因みに俺が今素振りで使っている鉄棍の重さは5kg。普通はとても出来ないが、俺は五歳の頃から師匠に鍛えられた事により、今は問題無く振る事が出来る。初めてやった時には1kgだったが、あれは本当にキツかったな。

 

 過去を思い出しながら素振りを終えて鉄棍を地面に置き、今度はスクワットを200回やっていると……。

 

「朝から精が出ているな、神代」

 

 俺に声を掛けてきた人がいたので振り向くと、そこにはジャージ姿の千冬さんがいた。

 

「おはようございます、織斑先生。朝早いんですね」

 

「お前ほどでは無い。それより一体何時から始めていたんだ? 今は六時半だが」

 

「ああ、もうそんな時間なんですか。5時過ぎにやっていましたよ。これはいつもの日課でして」

 

「ほう」

 

 スクワットをしながら答えていると、千冬さんは感心していそうな顔をしている。

 

「いつもなら師匠と一緒にやっているんですがね。本来なら今やってるスクワットが終わった後に軽く組み手をやるんですけど、流石にそれは無理ですので諦めてます」

 

「そうか……。ならば私と組み手をやってみるか?」

 

「え?」

 

 千冬さんの予想外な台詞に俺は思わずスクワットを中断してしまった。

 

「お前の師匠の実力は知らんが、私もそれなりに武道を齧っている。で、どうする?」

 

「そりゃあ……俺としては願っても無いですけど」

 

 まさかこんな所で世界最強のブリュンヒルデと組み手が出来るとは思いもしなかった。

 

 千冬さんがISに乗っていた頃の試合を見た時に、『あれは機体性能だけでなく武道の心得もあったからこそ、あそこまで強いんだ』と思った。

 

 まぁそれ以外にも、大事な大事な愛しい弟である一夏もいたからこそ更に強く……ってやばっ!

 

 

ブオンッ!

 

 

「うおっと!」

 

 千冬さんがいきなり俺の顔面目掛けて正拳突きをして来たので、俺は咄嗟に回避して距離を取った。

 

「あ…危ねぇ~! ちょっと千冬さん! 今本気で殴ろうとしたでしょ!?」

 

「学習能力の無い貴様には丁度良い体罰だ。私は言った筈だぞ? 次は無いと。それと学校内では織斑先生と呼べ」

 

 分かってるけど本当にこの人は俺の考えを読むんだな。嫌になるよホント!

 

「いくら図星だからって体罰は無いでしょうが!」

 

「そうか。神代は私と本気で組み手をやりたいようだな。来い。お前の師匠に代わって私が指導してやる」

 

「上等ですよ! 俺だっていつまでもやられっぱなしじゃありませんからね!」

 

 喧嘩腰に言う俺だが、本当は全力の千冬さんと組み手をする事が出来るから、敢えて声高に叫んでいるだけだ。

 

 そしてこの場で俺VS千冬さんの組み手が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

「やはりそう簡単に勝たせてくれなかったな……流石は世界最強のブリュンヒルデ。そうでなくては面白くない。師匠ほど強くないが、それでも今の俺ではまだ勝てない。師匠を越える前に先ずは千冬さんを倒す事だな。その為には更に修練を励まなければ。正に早起きは三文の徳だったな」

 

「おい和哉、さっきから何ブツクサ言ってるんだ?」

 

「ん? ああ、すまんすまん。ちょっとな」

 

「……………………」

 

「おいおい、そんな朝から怒った顔にならないでくれよ篠ノ之さん。木刀と竹刀は約束通り返したんだから」

 

「ふんっ」

 

 朝八時、俺は一年生寮の食堂で一夏と篠ノ之と一緒に朝飯を食べていた。

 

 千冬さんとの組み手で敗北した後、俺はすぐに部屋に戻ってシャワーを浴び、そして制服に着替えて今は此処にいる。

 

 ちなみに今日の朝飯のメニューは和食が食いたかったので和食セット。ご飯に納豆、鮭の切り身と味噌汁と浅漬け。これが凄く美味い。一夏と篠ノ之も同じメニューである。

 

 一夏は普段通りだが、篠ノ之はご機嫌斜めだった。まぁ理由があるとは言え、先生でもない俺が勝手に木刀と竹刀を没収されたから、ああなるのは無理もないか。

 

「和哉の言うとおりだぞ箒。朝っぱらからそんなに怒ってると……」

 

「……別に怒ってなどいない」

 

「いや、顔が物凄く不機嫌そうじゃん」

 

「生まれつきだ」

 

 篠ノ之って一夏相手だと無視しないんだな。

 

 ふと思ったんだが、もしかして篠ノ之は一夏の事が好きなんじゃないだろうか。ちょっと試してみよう。

 

「何だよ篠ノ之さん。俺は無視して、恋人の一夏にはちゃんと返事するんだな」

 

「!!! ななななな!」

 

 俺の台詞に篠ノ之は顔を真っ赤にした。この反応からして大当たりだな。

 

「わ、私と一夏はそんな不埒な関係じゃない!」

 

「そうだぞ和哉。箒とはただの幼馴染なんだから」

 

「!(ギロッ!)」

 

「な…何だよ箒。いきなり俺を睨むなよ……」

 

 あ~あ。こりゃもう確定だ。篠ノ之はこの先大変だろうな。唐変木である上に超鈍感な一夏を振り向かせるのは至難のわざと言っても過言ではない。ま、影ながら応援してるから頑張ってくれ。俺は人の恋愛に口を出す気はないから。

 

 

『織斑くんってフリーなんだ』

 

『いい情報ゲットー』

 

『あそこにいる篠ノ之さんは織斑くんと幼馴染かぁ……良いなぁ』

 

『それよりさぁ、あの神代くんってよく此処でご飯を食べるわねぇ』

 

『私たち女に喧嘩を売っておいて良い度胸してるわね』

 

 

 コッチを見ている野次馬は無視無視。一夏と篠ノ之のやり取りを見つつ、俺は朝食を食べていると……。

 

「ねえかずー。隣いいかな~?」

 

「ん?」

 

 背後からのほほんとした声を出す布仏が俺に話し掛けてきた。その事に一夏と篠ノ之がこっちへと視線を向ける。

 

「ああ。別に構わないぞ。ってか布仏さん、君はパジャマのままで飯食うのか?」

 

「後で着替えるよー」

 

 そう言って布仏は俺の左隣の席に座り、手に持っていた朝食が置いてあるトレーをテーブルに置く。ついでに俺の右隣には一夏が座っており、一夏の右隣には篠ノ之が座っている。

 

「それにしてもかずー。あんな起こし方はないと思うんだけど~?」

 

「起床時間なのにいつまでも起きようとしないからだろう。アレですっかり目が覚めたんだから別に良いじゃないか」

 

 アレとは未だに起きようとはしない布仏に、俺が『起きろ~~~!!』とデカイ声を出して目を覚まさせてやったからである。

 

「そうだけどさー。もうちょっと優しく起こしてよー」

 

「それは君がちゃんと起きてくれたらの話になるな」

 

「ぶ~、かずーの意地悪~」

 

 膨れっ面になる布仏に俺は無視しながら朝飯を食べている。

 

「な、なあ和哉。お前その子とは随分仲が良いんだな」

 

 さっきまで唖然と見ていた一夏が俺に話し掛けてきた。

 

「布仏さんは俺のルームメイトだ。昨日色々と話している内に何故かこうなった」

 

「よろしくね~おりむー」

 

「あ、ああ。こちらこそよろしく」

 

 ほにゃらとした笑顔に一夏は取り敢えずと言った感じで挨拶をした。本当に調子狂う相手だよ、この布仏は。

 

「……………………」

 

 あ、篠ノ之はもう完全に無視して朝御飯を食べる事に集中しているな。

 

「ところで布仏さん。君は随分と少食なんだな」

 

 布仏の朝飯は飲み物一杯にパン一枚、少なめのおかず一皿だった。

 

「平気だよー。もしお腹空いたらお菓子よく食べるしー」

 

「そうか。では俺がルームメイトである内は間食を制限させておくとしよう」

 

「え~! それはないよかず~! お菓子大好きなのに~! 拷問だよ~!」

 

「別に食うなと言ってるわけじゃない。ただ食べ過ぎないようにするだけだ」

 

「う~~~~」

 

 また膨れっ面になり俺を睨んでくる布仏。君が余計な事を言わなければ良かったんだよ。

 

「何かさ、和哉ってお母さんみたいだな」

 

「俺がお母さんなら、一夏は面倒を起こす子供だな」

 

「酷っ! ってか俺お前にそんな事した覚えは……」

 

「ほう? 何かある度に俺に助けを求めていたのは何処の誰だったかな? ついでに昨日も、な」

 

「ぐっ!」

 

 俺の台詞に一夏は言い返すことが出来なかった。

 

「お…お前なぁ……!」

 

「ハハハハ。冗談だ」

 

 ポンポンと一夏の肩を手で軽く叩く俺に、一夏は恨めしそうな顔をする。

 

「ま、一夏と一緒にいると本当に退屈しないからな。これからもドンドン俺を頼ってくれ」

 

「くっ! その言葉、いつか必ずそっくりそのまま返してやるからな……!」

 

「ああ、楽しみにしてる」

 

 俺と一夏が話していると……。

 

「……織斑、私は先に行くぞ」

 

「ん? ああ。また後でな」

 

 さっさと食事を済ませた篠ノ之は席を立って行ってしまった。それに気のせいだろうか、篠ノ之は何か面白くないような顔をしていた気がする。

 

「ねえおりむー、おりむーはしののんと仲がいいの~?」

 

「ああ、まあ、幼なじみだし」

 

「へ~そうなんだ~」

 

 問いに答える一夏に今知ったと言う風に驚いている布仏。

 

 そんな時、突然手を叩く音が食堂に響いた。

 

「いつまで食べている! 食事は迅速に効率よく取れ! 遅刻したらグラウンド十周させるぞ!」

 

 千冬さんの声ってよく通るなぁ。そして食堂にいた全員が慌てて朝食を早く食べ始めた。

 

 確かIS学園のグラウンドは1週五キロあるんだったな。本当だったら朝のトレーニングでグラウンドを走ろうと思ったが、時間の関係上走らなかったからな。あ、一夏が急いで食べ始めてるし。俺はもう食べ終えたが。

 

 ちなみに千冬さんは一年生寮の寮長を務めている。朝の組み手が終わった後に聞いたからな。

 

「一夏と布仏さん、俺は先に行ってるよ」

 

「おう」

 

「分かった~」

 

 先に行く俺に、一夏と布仏は頷きながらも朝飯を食べていた。 

 

「織斑先生、朝のご指導はとても勉強になりました」

 

「そうか」

 

 俺が織斑先生に話すところを、朝飯を食べている女子達や一夏が一斉にコッチを見てくる。

 

「よろしければまたお願いしたいんですが」

 

「私はそこまで暇ではない。だがまぁ時間があれば付き合ってやる。私も久しぶりに楽しめたしな」

 

「そうですか。ではいつでもお待ちしておりますので」

 

「ああ」

 

『????』

 

 話しを済ませた俺が食堂を出て行く中、女子達や一夏はジッと俺を見ていると……。

 

「何をしている! グラウンド十週したいのか!?」

 

 千冬さんの鶴の一声によってハッと気付いて朝飯を食べるのであった。

 

 そして朝飯を食べ終えた一夏が真っ先に千冬さんと何があったと問い詰めてきたが、俺はのらりくらりとかわして教えなかった。

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