インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~ 作:さすらいの旅人
「織斑先生、デュノアです」
『待機と言ったはずだ! 入室は認めない!』
作戦室のドアにノックをしたシャルロットに、中にいる千冬さんがそう言った。
そんな千冬さんの返答に、シャルロットと一緒に入ろうとしていた鈴とセシリアが複雑そうに顔を見合わせる。
「教官の言うとおりにするべきだ」
「でも……先生だって一夏の事が心配な筈だよ。お姉さんなんだよ」
「ずっと目覚めていませんのに……」
「手当ての指示を出してから、一度も様子を見に行ってないなんて……」
ラウラに異議があるように言うシャルロットとセシリアと鈴。
確かに鈴の言うとおり、一夏が負傷して搬送された時、千冬さんはすぐ救護班に一夏の手当てを指示してすぐに作戦室に戻った。負傷した一夏を大して見ず、作戦の足を引っ張ってしまった箒も見ず、ただ指示を出してすぐに背を向けて戻ったのだ。
「織斑先生が心配して見に行けば一夏が目を覚ますのか?」
「そ、そうは言って無いよ……」
「あたしたちはただ……」
外を見ながら言う俺に、シャルロットと鈴は反論するも途中から何も言い返せなくなると、次にセシリアが言ってくる。
「ですが和哉さん、織斑先生は箒さんにも声をかけませんでしたわ。いくら作戦失敗とはいえ、冷たすぎるのではなくて?」
「そう言う問題じゃないセシリア。今は福音が最優先だ」
「教官はやるべき事をやっているだけにすぎぬ」
ラウラが続けて言うと、セシリアも何も言い返せなくなった。
「教官だって苦しいはずだ。苦しいからこそ作戦室に篭っている。心配するだけで、一夏を見舞うだけで、福音を撃破できるのか?」
「まぁ織斑先生より、一番の問題は……」
そう言いながら俺はとある一室へと顔を向ける。俺が見てる先にある部屋には負傷した一夏が昏睡状態になっており、その一夏を看ている箒がいる。俺が言った一番の問題とは箒の事だ。
アイツは失敗した事により、作戦前までは別人のように深く落ち込んで無言状態だった。紅椿と言う新型に乗って舞い上がっていた事に漸く気付き、自分が一夏を負傷させてしまったと言う自己嫌悪に陥っていた。
箒の事だ。どうせ更に自分を卑下しながらISに乗るのをもう止めようと考えているだろうな。
無論、そんな事をさせない俺は一夏と箒がいる一室へと向かおうとする。
「ちょ、ちょっと和哉。アンタどこに行くのよ?」
「ある準備をしてくる。その後には少しばかりおバカさんを説教するから、お前等もやるべき事をやったらどうだ? 因みに先生達は今、福音を補足するのに作戦室に付きっきりだから、今がチャンスじゃないか?」
『……………(コクッ)』
俺に言われて気付いたかのように、鈴達は一斉に首を縦に振りながら立ち上がって移動を始めた。
「さてと……」
鈴達が移動したのを見た俺もすぐに行動を開始した。
◇
時間は午後四時前。
粗方準備を済ませた俺は次に一夏と箒がいる一室へと向かっていた。
着いて早々俺がノックもせずにドアを開けると、そこには昏睡中の一夏と、案の定落ち込んで正座している箒がいた。因みに箒は福音との戦闘によってリボンが焼き切られて、いつものポニーテールではなくストレートヘアーになっている。
そして箒は俺がドアを開けても、コッチに視線を向けて来ない。
「やれやれ。お前は本当に分かりやすい奴だな、箒」
「………………」
声をかけながら隣に立つ俺に、箒は何も答えない。いや、俺に何も言い返せないと言うのが正しいか。
「後悔してるのか? 一夏をこんな目にあわせてしまった事に」
「………………」
「まぁ無理もないな。俺との模擬戦であれだけ追い込まれたにも拘らず、それを雪ぐ為に福音との戦闘で活躍してチャラにする為に意気揚々と向かった結果、無様に敗戦して戻ってきたんだからな」
「………………」
「んで、漸く自分が思い上がっていた事に気付いて、今は一夏に
「………………」
「だがな箒、今お前がやるべき事はそれじゃないだろう」
「………………」
ガシッ!
「いい加減にしろ箒!!」
只管無言でいる箒に我慢の限界が訪れた俺はキレて、うなだれたままだった箒の胸倉を右手で掴んで無理矢理立たせた。
「いつまで落ち込めば気が済むんだ! そんな事をして一夏が目覚めるとでも思ってるのか!?」
「わ、私……は……」
「お前には他にやるべき事がある筈だ! 今は一夏に謝る事じゃなく、奴と戦って倒す事が先決だろうが!」
「………もうISは……使わな――」
バシンッ!
箒が言ってる最中、俺はすぐに箒の頬を左手で叩いた。
「まさかここまでバカだったとはな。お前はどこまで俺を呆れさせれば気が済むんだ?」
「………………」
「もうISを使わないだと? …………甘ったれるな!! 今更そんな我侭が許されるとでも思ってんのか!? お前は以前俺に言った筈だ、『専用機を持つにはそれ相応の覚悟がいる』ってな! 俺にそう言っておきながら何だそのザマは!?」
俺の怒号に箒は怯えながらも抵抗しない。
それを見た俺はもうどうでもいいように胸倉を放すと、箒は支えを失ったかのように床に倒れる。
「これだけ俺に言われて何も言い返さんとは……どうやら俺の見込み違いだったようだな。まさかお前が何の覚悟も持ってない愚かで臆病な奴だったとは。正直言って失望したぞ、箒」
言うべき事を言った俺は部屋から出ようとすると、
「――ど……」
「ん?」
突然箒がか細く言った事に、思わず足を止めて振り返り、
「どうしろと言うんだ! もう敵の居場所も分からない! 戦えるなら、私だって戦う!」
漸く自分の意思で立ち上がった箒を見て言い返した事に、はあっと溜息を吐いた。
「やっとやる気になったか。……ったく。お前は本当に面倒な奴だ」
「な、なに? それはどういう事だ?」
「福音の場所だったら――」
俺が言ってる最中にドアが開いた。そこに立っていたのは、軍服に身を包んだラウラと制服姿の鈴だ。
「和哉、ラウラが見つけたみたいよ」
「ここから30キロ離れた沖合上空に目標を確認した。ステルスモードに入っていたが、どうも光学迷彩は持っていないようだ。衛星による目視で発見した」
鈴が言った直後、ブック端末を片手に部屋に入って来るラウラを見て、俺は思わず笑みを浮かべた。
「流石はドイツ軍特殊部隊の隊長さんだ。で、鈴の方も準備は済ませたのか?」
「当然。甲龍の攻撃特化パッケージはインストール済みよ」
「シャルロットとセシリアは?」
「ああ、それなら――」
ラウラがドアの方へと視線をやると、すぐに開かれた。
「たった今、高機動パッケージのインストールは完了しましたわ」
「準備オッケーだよ。いつでもいける」
「そうか。あとは――」
箒を除く俺達全員は、それぞれ箒へと視線を向ける。
「んで、どうする箒?」
「私……私は――」
さっきまで後悔していたのと違って、拳を握り締めながら決意を表す箒。
「戦う……戦って、勝つ! 今度こそ、負けはしない!」
「なら結構」
決意の台詞を聞いた俺は、ある事を確認する為に箒達を見ながら尋ねる。
「言うまでもないが、今回俺達がやろうとしてる事は完全な命令違反だ。処分は覚悟しとけよ?」
『…………(コクッ)』
「ま、それは全員生きて戻ればの話だが……俺から言う事は唯一つ。全員、必ず生きて戻るぞ。いいな?」
『応ッ!』