インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~ 作:さすらいの旅人
「い、一夏……。何故お前が……?」
旅館の一室で昏睡状態となっていた一夏が目の前にいる事により、俺がキツネにつままれたような顔になっていると、一夏は答える。
「よう和哉、待たせたな。ってか、和哉がそんな顔するなんて珍しいな」
「………俺だって驚きぐらいはする。何せ昏睡状態だったお前が今こうして俺の目の前にいるんだからな」
「あ、それもそうだな。でも何か不思議な気分だ。いつも和哉に驚かされてた俺が、逆に驚かせたってのは」
「……お前は俺を驚かせる為にあんな命懸けな事をしたのか?」
いつものやりとりをする俺と一夏。
まだ福音との戦闘中で不謹慎な行動だと思うだろうが、この会話によって俺は落ち着きを取り戻し、冷静な判断が出来るようになった。
あの大量のエネルギー弾を刀で全て弾き飛ばした後の俺は心が高ぶっていて、向かって来る福音と刺し違える覚悟で挑もうとしていた。だが一夏が助太刀してくれたお蔭で、それは失策だった事を後になって気付いたから、内心一夏に感謝してる。
「まぁそれはそうと、心配かけてすまなかったな。もう大丈夫だ」
「そうかい。だがその台詞は俺じゃなくて箒に――」
「一夏っ!」
俺が言ってる最中、突然箒がコッチに来て慌てながら一夏へと駆け寄った。
「一夏っ、一夏なのだな!? 体は、傷はっ……!」
「おう。待たせたな」
「よかっ……よかった……本当に……」
「おい箒、気持ちは分からんでもないが、泣くのは後にしてくれ」
「べ、別に泣いてなどいないっ!」
一夏へ駆け寄る箒に俺がツッコミを入れると、箒は否定しながらもぐしぐしと目元を拭っていた。そんな箒に一夏は優しく箒の頭を撫でている。
「箒、心配掛けたな。もう大丈夫だ」
「し、心配してなどっ……」
よく言うよ。俺を見ず真っ先に一夏へ駆け寄ってきて心配してたくせに。箒は変なところで強がるなぁ。少しは素直になればいいのに。
箒の強がりに内心少し呆れていると、一夏が箒に何か手渡そうとしていた。
「ちょうどよかったかもな。これ、やるよ」
「え……?」
一夏は持って来た物を箒に渡すと、それはリボンだった。
「り、リボン……?」
「誕生日、おめでとうな」
「あっ……」
ほう。七月七日の今日は箒の誕生日だったのか。初めて知った。
「それ、せっかくだし使えよ」
「あ、ああ……」
「おいお二人さん、そろそろアレに集中してくれ。コッチに向かってきてるぞ」
俺の突っ込みに一夏が反応すると、俺達に向かってきている福音を見ながらこう言った。
「分かってるって。――まだ、終わってないからな。和哉、お前は休んでてくれ。後は俺に任せろ」
「何をバカな。俺だけ休む訳には――」
「無理すんな。さっきあんな凄ぇ事したんだから、体力がかなり消耗してんだろ? 俺の目は誤魔化せないぜ」
「……………」
ちっ、見抜かれていたか。さっきのエネルギー弾丸弾きで全身の神経をフル活用した事で、体力が消耗してるばかりか集中力も少し欠けた状態だ。こんな状態で一夏達と一緒に戦えば却って足手纏いになってしまうから、ここは少しの間だけ一夏に任せるとするか。
「ならお言葉に甘えてさせて少しだけ――って、もう行ったし」
俺がYesと言ってる最中に、一夏は即座に向かってきていた福音へと急加速し、正面からぶつかった。
「再戦と行くか! 和哉をやりたけりゃ先ずは俺を倒すんだな!」
そう言って雪片弐型を右手だけで構えて斬りかかる一夏だが、福音がそれをひらりとのけぞってかわす。
だが一夏はかわされるのを分かっているみたいに次の行動に移り、左手から見慣れない兵器で福音に迫った。
「な、なんだあの兵器は? 白式にあんな物はなかった筈だぞ」
「すぅ~~……はぁ~~~……どうやら一夏の白式は姿が変わっただけじゃなく、新しい兵器も追加されたみたいだな」
一夏の左手の指先からエネルギー刃のクローが出現したのを見た俺はそう分析しながら、消耗した体力を回復させる為に深呼吸をしている。
そして1メートル以上に伸びたクローが福音の装甲を斬るが、シールドエネルギーに阻まれるも、その一撃は確実に捉えていた。
攻撃を受けた福音は一夏に対する警戒を強めたのか、エネルギー翼を大きく広げ、更には胴体から生えた翼を伸ばす。次の回避の後には、福音の掃射反撃が始まった。
当然、奴は抜かりなくコッチにもエネルギー弾を掃射して来た。
「っ! 和哉!」
「やっぱそう来るか!」
深呼吸を止めた俺は箒と一緒にすぐその場から離れて避ける。福音は光の膜らしき物で弾雨を消されている一夏を後回しにするかのように、俺の方へと超高速で向かってきた。
そんな福音に俺は迎撃する為に構えていると、何かが福音に目掛けて飛んできた。それらは砲撃・レーザー・アサルトライフル・衝撃砲であり、言うまでもなくすぐにかわす福音だったが、一斉射撃を全て避けきるのは困難なようで、一旦離脱した。
「ふうっ。一先ず礼を言っておくぞ」
「何が礼よ。アンタはあたし達の指揮官なんだから、助けるのは当たり前よ」
「そうですわよ、和哉さん。それに訓練機で奮闘してる和哉さんにばかり任せていては、わたくしたち専用機持ちの立つ瀬がありませんわ」
「指揮官を守るのは僕達の役目だよ。あと和哉、僕を助けるためとは言え、いきなり海に落とすなんて酷いよ」
「礼は不要だ、師匠。弟子である私が師匠を守るのは当然だからな」
「………そうかい」
当然だと言わんばかりに答える鈴達に思わず苦笑する俺。
ついでにシャルロットには後で必ず謝っておこうと決めてると、一夏がコッチに向かってきた。
「和哉っ! 大丈夫か!?」
「大丈夫だ。だからそんなに心配すんなっての」
過剰に心配してくる一夏に俺は呆れながらも、一夏らしいなと内心思った。
だが今はそんな事を気にしている暇は無いので、一先ず戦闘に集中させようと指示を下そうとする。
「一夏、今は俺を心配してないで目の前の敵に集中しろ」
「お、おう。分かった」
「あと鈴達は真っ向で福音と戦う一夏を全力でサポートだ。具体的な内容は言うまでもないだろ?」
『『『『当然!』』』』
「よし! ならすぐに散開だ!」
『『『『了解!』』』』
俺の指示に鈴達がすぐに散らばると、一夏が呆然と俺を見ていた。
「何をしてる一夏?」
「え? ……あ、いや……。和哉が指示をするのは初めてセシリアと戦って以来だなと思って……」
「それもそうだな。ってか、んな事言ってる暇があったらお前もさっさと行け!」
「お、おう!」
活を入れる俺に再び福音に向かっていく一夏を見送った俺は、近くにいる箒へと視線を向ける。
「んで、お前さんはどうするんだ、箒? と言うか、何故行かなかったんだ?」
そう箒に尋ねる俺に、箒は後ろめたそうな感じで言って来る。
「………もし私が一夏と一緒に戦えば、またあの時の事が起きてしまうのかと不安になってしまって……」
「原因が自分だって理解してるなら、今度はそうならないよう一切慢心せずに戦う事だ」
「……………」
アドバイスを送ってもまだ少々落ち込み気味である箒。
「出来ないのか? ならばいっそこのまま撤退しろ。別に俺は責めはしない。尤も、ここで退いてしまば、お前と一夏の絆はその程度の物かと思ってしまうがな」
「っ! そんな事は無い! 私は、また一夏とともに戦いたい! あの背中を守りたい!」
「だったら、その思いを一夏にぶつけ……ん?」
一夏を援護しろと言う俺だったが、突然紅椿の装甲から黄金の粒子が溢れ出てきた。
「おい箒、紅椿に一体何が……?」
「これは……!? エネルギーが回復してる!」
「何っ……!」
「『
エネルギーが回復するワンオフ・アビリティーって……どこまで規格外なISだよ。いや、ある意味必要不可欠な物かもしれない。無駄にエネルギーを消費する展開装甲の対策として。そもそも、あの篠ノ之束がエネルギー切れになった時の対策を施さない訳が無い。益してや、エネルギー対策も施してない欠陥機なんかを、大事な妹である箒に託さない筈。
「どうやら私はまだ戦えるようだ」
「そのようだな」
あの女に後押しされたような感じで気に食わないが、箒がやっと戦う気になったので敢えて気にしないようにした。
そう思っていると、箒は一夏から渡されたリボンで髪を縛り、気を引き締めて福音を見ている。
「和哉、行って来る」
「そうか、じゃあすぐに行ってこい」
そう言いながら箒の肩にポンッと手を置くと、
「ん? 打鉄のエネルギーが回復し……って、な、何だ!?」
「んなっ!? お、おい和哉! 打鉄が……!」
俺が纏っている打鉄がエネルギーが回復しているだけでなく、装甲にも変化が生じ始めた。
和哉の打鉄がどうなったかは次回で分かります。
と言っても、読者の皆様は大体想像付いてると思いますが……。