インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~   作:さすらいの旅人

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第6話

 二時間目が終わった時点になると……。

 

「(和哉、俺もう全然分からん)」

 

「(事前学習しなかったから、そんな目に遭うんだよ)」

 

 早くもグロッキーな状態になってる一夏に俺は呆れた。

 

 けど一夏の言う事は尤もだ。事前学習した俺でも難しい箇所がたくさんある。例えるなら、式を知らないと解けないタイプの数学の問題みたいに。

 

 しかし分からないな。内容が難しい教科書を読んでいると、本当に俺はISを動かしたのかと疑問に思ってしまう。まぁそれは一夏も同様に考えていると思うが。

 

 俺がそう考えている途中でも、当然授業は進んでいく。山田先生は時々詰まりながらも、俺たち生徒に基本知識を教えていた。

 

「というわけで、ISは宇宙での作業を想定して作られているので、操縦者の全身を特殊なエネルギーバリアーで包んでいます。また、生体機能も補助する役割があり、ISは常に操縦者の肉体を安定した状態へと保ちます。これには心拍数、脈拍、呼吸量、発汗量、脳内エンドルフィンなどがあげられ――」

 

「先生、それって大丈夫なんですか? なんか、体の中をいじられているみたいでちょっと怖いんですけども……」

 

 クラスメイトの女子の一人がやや不安げな気持ちで訊く。まぁ確かに、ISを動かした時の独特とも呼べる一体感は、人によって不安を感じてしまうだろう。

 

「そんなに難しく考えることはありませんよ。そうですね、例えばみなさんはブラジャーをしていますね。あれはサポートこそすれ、それで人体に悪影響が出ると言うことはないわけです。もちろん、自分のあったサイズのものを選ばないと、形崩れして――」

 

「山田先生、此処には男である俺と一夏がいるんですが?」

 

「――あ」

 

 俺が途中から突っ込みを入れると、山田先生は気付いたかのようにきょとんと俺と一夏を見てくる。そして数秒置いてからはボッと赤くなった。

 

「え、えっと、いや、その、お、織斑くんと神代くんはしていませんよね。わ、わからないですね、この例え。あは、あははは……」

 

 山田先生は誤魔化し笑いをしているが、そんな事をしたところで教室には既に微妙な雰囲気を漂わせている。俺や一夏より女子達が意識しているみたいで、腕組みをするフリで胸を隠そうとしていた。

 

 それ以外にも……。

 

『これって神代君にセクハラされた?』

 

『だとしたら訴えようかしら?』

 

『本当に織斑くんとは大違いね。あ~やだやだ』

 

『普通あそこは黙っているべきなのに。ホント嫌になるわね』

 

 指摘してやったというのに何て奴等だ。また俺の『睨み殺し』を受けたいならやってやるぞ?

 

「んんっ! 山田先生、授業の続きを」

 

「は、はいっ!」

 

 浮ついた空気を千冬さんの咳払いでシャットアウトし……。

 

「それとそこの四人。言いたい事があるなら神代に直接言ったらどうだ? 昨日のような目に遭うのを覚悟してな」

 

「「「「…………………」」」」

 

 何と俺に陰口をたたいていた女子四人にも指摘した。あの千冬さんが俺を擁護してくれるなんて珍しいな。ってか一夏も不思議そうに見ているし。

 

 そんな中、千冬さんに促された山田先生は教科書を落としそうになりながら話の続きに戻り、更には千冬さんに言われた女子四人は押し黙った。

 

「そ、それともう一つの大事なことは、ISにも意識に似たようなものがあり、お互いの対話――つ、つまり一緒に過ごした時間で分かり合うというか、ええと、操縦時間に比例して、IS側も操縦者の特性を理解しようとします」

 

 ふむふむ。要はISに乗れば乗るほど、互いの事が分かり合えるって事か。

 

「それによって相互的に理解し、より性能を引き出させることになるわけです。ISは道具ではなく、あくまでパートナーとして認識してください」

 

 そのパートナーを利用して、男を奴隷のように扱き使うバカ女共がたくさんいるけどな。

 

 俺が内心そう思っていると、女子の一人が挙手をする。

 

「先生ー、それって彼氏彼女のような感じですかー?」

 

「そっ、それは、その……どうでしょう。私には経験がないのでわかりませんが……」

 

 経験と言うのは言うまでもなく男女交際のことだろう。赤面して俯く山田先生を尻目に、クラスの女子はきゃいきゃいと男女についての雑談を始めている。

 

 男子生徒の俺や一夏がいるとは言え、やはり『女子校』的な感じだな。もう空気だけでかなりの糖度がある。

 

 いや、この教室だけでなく、学園全体の空気が甘すぎる。それ以上に生徒達の考え方もかなり甘い。

 

 ISと言う兵器を扱う為の知識を学んでいると言うのに、何故こんなに能天気なんだ? 人を簡単に殺せる兵器だと言う実感が無いんだろうか。

 

 そう言えば師匠が以前、『ISに乗っておる者は覚悟が欠けておる』なんて言ってたな。何の覚悟が欠けているのかは俺も大体想像付いているけどな。

 

「……………………」

 

「な、なんですか? 山田先生」

 

「さっきから俺と一夏を見ていますが、何か?」

 

「あっ、い、いえっ。何でもないですよ」

 

 訊いても両手を振ってお茶を濁す山田先生。何か妙な事を考えていたんだろうな。この人って妄想癖があるし。

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

「あっ。えっと、次の時間では空中におけるIS基本制動をやりますからね」

 

 逃げる口実が出来たと言わんばかりに教室から出ようと準備する山田先生。考えてる事お見通しですよ。

 

 ついでに言っておくと、此処IS学園では実技と特別科目以外は基本担任が全部の授業を持つらしい。随分とお忙しいことで。

 

「おい和哉、食堂で千冬姉と一体何の話しを……」

 

 山田先生と千冬さんが出て行くと一夏がまた俺に訊こうとするが……。

 

「ねえねえ、織斑くんさあ!」

 

「はいはーい、質問しつもーん!」

 

「今日のお昼ヒマ? 放課後ヒマ? 夜ヒマ?」

 

 女子の半数がスタートダッシュして一夏の席に詰め掛けたので無理だった。さっき『もう出遅れるわけにはいかないわ!』とか言ってたし。

 

 ちなみに俺に話しかける女子はいない。昨日の事が原因で俺を無視しているんだろう。

 

 だが……。

 

「ねえかずー、お願いだからお菓子の制限は無しにしてー」

 

「断る」

 

 例外がおり、布仏が俺に詰め寄ってきて撤回を求めてきた。その事に一夏に話しかけていない女子達が驚いた顔をしている。

 

「ちょ…ちょっと待ってくれ。俺はいま和哉に訊かなきゃいけない事があって――」

 

 一夏は詰め掛けられている女子から離れようとするが、相手がそうさせてくれなかった。

 

「……………………」

 

 一夏を囲む女子達から少し離れた位置で不機嫌そうに見ている篠ノ之。アイツから見ると『女子にチヤホヤされている一夏』と言う風に捉えているんだろう。誰かに取られたくないならハッキリ言えば良い物を。

 

 それは別として、いまの俺は誰かにISを教えてもらわないとダメな状態だ。とは言え、俺は昨日あんな事をしちゃったから誰も教えてくれないだろう。そうなると相手は必然的に山田先生となるな。千冬さんは……一応教えてくれるかどうか訊いてみるか。

 

「ねえ織斑くん、千冬お姉様って自宅ではどんな感じなの!?」

 

「え。案外だら――」

 

「ストップだ一夏。後ろを見てみろ」

 

「え? ………って千冬姉! いつの間に!」

 

 

パアンッ!

 

 

「何度も言わせるな、織斑先生と呼べ。それと休み時間は終わりだ。散れ」

 

 あ~らら。折角殴られるのを回避させようと教えたんだが、一夏がまた名前で呼んじゃったから叩かれたよ。もうこの人は叩きキャラとして印象付いたな。

 

 因みに千冬さんは女子の憧れの的となっているが、俺が以前コッソリと千冬さんの部屋を覗いた時はそれはもう酷かった。一夏が掃除しない限り綺麗には……はっ!

 

 

パシッ!

 

 

「……ちっ」

 

「止められたからと言って舌打ちしないで下さいよ!」

 

 また昨日と同じく織斑先生の出席簿攻撃を、俺が白刃取りで受け止めた事に悔しそうな顔をしながら引き下がる織斑先生。

 

「ところで織斑、お前のISだが準備まで時間がかかる」

 

「へ?」

 

「何故時間がかかるんですか?」

 

「予備機がない。だから、少し待て。学園で専用機を用意するそうだ」

 

 一夏に専用機だと? そりゃ随分とまぁ……って一夏がちんぷんかんぷんな顔してるし。

 

「せ、専用機!? 一年の、しかもこの時期に!?」

 

「つまりそれって政府からの支援が出てるってことで……」

 

「ああ~。いいなぁ……。私も早く専用機欲しいなぁ」

 

 女子達は一夏を羨ましそうに見ているが、未だに状況が掴めていない一夏。

 

「なぁ和哉、一体どういう事なんだ?」

 

「お前なぁ……教科書の6ページを音読してみろ。良いですよね、織斑先生?」

 

「ああ、構わん」

 

 俺がそう言うと一夏は教科書を開き、千冬さんもやれやれと言った感じで呆れ顔になってる。

 

「え、えーと『現在、幅広く国家・企業に技術提供が行われているISですが、その中心たるコアを作る技術は一切開示されていません。現在世界中にあるIS467機、そのすべてのコアは篠ノ之博士が作成したもので、これらは完全なブラックボックスと化しており、未だ博士以外はコアを作れない状況にあります。しかし博士はコアを一定数以上作ることを拒絶しており、各国家・企業・組織・機関では、それぞれ割り振られたコアを使用して研究・開発・訓練を行っています。またコアを取引することはアラスカ条約第七項に抵触し、すべての状況下で禁止されています』」

 

「つまりだ一夏。本来だったら、IS専用機は国家あるいは企業に所属する人間しか与えられないんだ。だからソレ等に所属してないお前が専用機を与えられるのは異例中の異例なんだ」

 

「へぇ~そうなのか」

 

 一夏が俺の説明にふむふむと頷いていると……。

 

「しかしお前の場合は状況が状況なので、データ収集を目的として専用機が用意されることになった。理解出来たか?」

 

「な、なんとなく……」

 

 千冬さんが言った途端に急に歯切れの悪い返事をした。

 

「あれ? だったら何で和哉に専用機が与えられないんだ? 和哉も俺と同じ境遇なのに」

 

「本来なら神代も織斑と同様に用意する予定だったが、なにぶん状況が状況でな……」

 

 ん? 何か途中から気に入らなさそうな顔をしているな。俺ではなく他の誰かに向かって言ってる感じだ。もしかして日本政府が気に入らない事でも言ってたのかな? まさか『専用機のデータ収集は織斑一夏だけで充分だから、俺は生態調査の為のモルモットで良い』なんて言ってたりして。

 

「その代わりと言ってはなんだが、神代が正式に専用機が用意されるまで、訓練機の無期限貸し出しをすると学園が決めた。ISは打鉄だが、構わないか?」

 

 無期限貸し出しねぇ……まるでこれしか方法は無いと言う苦肉の策みたいだな。

 

「俺は特に反対する理由はありません」

 

「そうか」

 

 俺の返答を聞いた織斑先生は僅かながら安堵した顔になっていると……。

 

「あの、先生。思ったんですけど、篠ノ之さんって、もしかして篠ノ之博士の関係者なんでしょうか?」

 

 女子の一人がおずおずと千冬さんに質問した。

 

 そう言えば篠ノ之博士って此処にいる篠ノ之と同じ苗字だったな。気になってはいたが、だからと言って詮索する気は無かった。肉親だとしても、そんな事は俺たちがどうこう言える立場じゃないからな。

 

 増してや、相手の個人情報をいくらなんでも織斑先生が教えるわけが……。

 

「そうだ。篠ノ之はあいつの妹だ」

 

 って教えるんかい! 個人情報保護法はどうした!? そんな簡単にバラしても良いのか!?

 

 俺が内心突っ込みをしても、織斑先生はどうでもいいような感じだった。

 

「ええええーっ! す、すごい! このクラス有名人の身内がふたりもいる!」

 

「ねえねえっ、篠ノ之博士ってどんな人!? やっぱり天才なの!?」

 

「篠ノ之さんも天才だったりする!? 今度ISの操縦教えてよ!」

 

 篠ノ之博士の身内だと知ると、授業中にも拘らず女子達が一斉に篠ノ之の元にわらわらと集まる。さっきまでは篠ノ之の事を大して見てもいなかったくせに、いざ有名人の妹となるとコレか。現金な奴等だ。

 

「あの人は関係ない!」

 

 俺が女子達の行動に呆れていると、篠ノ之が突然大声を上げた。その事に、篠ノ之に群がっていた女子達はポカンとする。

 

「……大声を出してすまない。だが、私はあの人じゃない。教えられるようなことは何もない」 

 

 そう言って、篠ノ之は窓の外に顔を向ける。女子達は盛り上がったところに冷水を浴びせられた気分のようで、それぞれ困惑や不快を顔にして席に戻った。本当にアイツ等の行動にはつくづく呆れるな。

 

「さて、授業をはじめるぞ。山田先生、号令」

 

「は、はいっ!」

 

 山田先生も篠ノ之が気になる様子だったが、そこはやはり教師だ。授業を優先している。そして俺も教科書を開き授業に集中した。

 

 

 

 

 

 

「安心しましたわ。まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」

 

 休み時間になるとオルコットは早速一夏の席にやってきて、腰に手を当ててそう言った。どうでもいいんだが、お前昨日もそんなポーズをしてたな。それ好きなのか?

 

「まあ? 一応勝負は見えていますけど? さすがにフェアではありませんものね」

 

「? 何で?」

 

 おいおい一夏。お前はコイツの言ってる事が分からないのかよ。

 

「あら、ご存じないのね。いいですわ、庶民のあなたたちに教えて差し上げましょう」

 

 俺も含まれてんのかよ。

 

「このわたくし、セシリア・オルコットはイギリスの代表候補生……つまり、現時点で専用機を持っていますの」

 

「へー」

 

「それは良かったな。凄いすごーい」

 

「……馬鹿にしていますの?」

 

 一夏の頷きと、俺の棒読みの台詞にオルコットは引き攣った顔をしている。

 

「いや、すげーなと思っただけだけど。どうすげーのかはわからないが」

 

「俺も思った事を口にしただけだ。と言っても上辺だけど」

 

「それを一般的に馬鹿にしていると言うでしょう!?」

 

 

ババンッ!

 

 

 オルコットが突っ込みながら両手で一夏の机を叩く。あ、一夏の机の上に置いてあったノートが落ちた。ってか人の机を叩くなよ。

 

「……こほん。さっき授業でも言っていたでしょう。世界でISは467機。つまり、その中でも専用機を持つものは全人類六十億超の中でもエリート中のエリートなのですわ」

 

 じゃあそのエリートであるアンタは昨日、何で俺の殺気に怯えていたんだ? あの程度の殺気はエリートさんには大した事は無いんじゃないのか?

 

 って突っ込んだら絶対俺に詰め寄って否定するだろうから、敢えて言わないが。

 

「そ、そうなのか」

 

「そうですわ」

 

「人類って六十億超えてたのか」

 

「そこは重要ではないでしょう!?」

 

 

ババンッ!

 

 

 再び両手で一夏の机を叩くオルコット。今度は教科書が落ちたな。一夏も気の毒に。

 

 何かコントやってるみたいで、意外と面白いな。見事なボケ(一夏)突っ込み(オルコット)

 

「あなた! 本当に馬鹿にしていますの!?」

 

「いやそんなことはない」

 

「だったらなぜ棒読みなのかしら?」

 

 良いぞ良いぞ。もっとコントを続けてくれ。

 

「なんでだろうな、和哉」

 

「って俺に振るのかよ!」

 

 突然の一夏の指名に俺は少々戸惑う。その事にオルコットは俺の方へ顔を向ける。

 

「そう言えばあなたに言い忘れていたことがありましたわ。あなたの場合は訓練機でも一切容赦しませんので」

 

「つまり昨日の仕返しをする為に俺をぶちのめすと? 俺が素人である事を知った上で甚振ろうとするとはな。流石エリートさんのやる事は庶民である俺たちと一味違う」

 

 勿論コレは皮肉だ。言うまでも無くオルコットはそれに気付いて、憤怒の表情になっている。

 

「っ……………言ってくれますわね……!」

 

 ギリッと歯軋りをしながら物凄い顔をして俺を睨むオルコット。

 

「その減らず口、決闘当日になったらすぐに叩きのめしますわ!」

 

「どうぞご自由に。やられるものならね。尤も、あの程度の睨みで怯えていたアンタに出来ればの話だが……あ、しまった」

 

「~~~~!! わたくしは怯えてなんていませんわ!」

 

 俺の台詞に激昂するオルコットはツカツカとコッチへ近寄り……。

 

 

ババンッ!

 

 

 今度は俺の机を叩いた。あ、教科書とノートが纏めて落ちた。

 

「もう頭にきましたわ! 勝負する前に最後通告をしようと思いましたが、あなたにそんなことをする必要はありません! 全力でいかせていただきますわ!」

 

「是非そうしてくれ。手加減したアンタに勝っても全然嬉しく無いからな」

 

「~~~~!! わたくしに勝てると思っているんですか!? 身の程知らずも大概になさい!!!」

 

「事実を言ったまでだ。それにいつまでも猿みたいに喚くな。キーキー五月蝿くて敵わん」

 

「キ~~~~~~~!!!!」

 

 わお。本当に猿みたいに喚いたし。オルコットは顔が真っ赤になって怒り狂ってるな。怒髪天を衝くとはこの事だ。

 

「もう泣いても謝っても許しませんわ!! 覚悟しておくように!!」

 

 もはや淑女なんて知った事かと言わんばかりに、ヅカヅカと教室から立ち去っていくオルコットであった。

 

「やれやれ、エリートさんは随分と沸点が低い事で」

 

「お…おい和哉。あれは流石に言い過ぎだろう」

 

「ふんっ。人を見下すように挑発しようとするからあんな目に遭うんだ」

 

「そうは言うけどな、セシリアはもう本気でお前を潰す気だぞ?」

 

「別に構わん。寧ろそうしてくれないと困るからな」

 

「…………和哉。お前本気でセシリアに勝つつもりなのか?」

 

「当たり前だ」

 

 俺の返答に一夏は目を見開く。他にも聞いていた女子達も驚いていた。

 

『ちょっとなに? あれ本気で言ってるわよ』

 

『身の程知らずにも程があるわね』

 

『大してISにも乗っていないのに、どこにあんな自信があるのかしら』

 

『男って本当に馬鹿ね。ISに乗れるだけで勝てるつもりでいるなんて』

 

 すぐにヒソヒソと遠くで言ってる女子達だが、俺は無視している。

 

「じゃあ聞くが一夏。お前はオルコットと勝負する時、『相手が自分より強いから諦めよう』って既に負けた気分で挑むつもりのか?」

 

「そ…そんな気は無い! やってみなきゃ分からないだろう!」

 

「そうだな。だったら自分は勝てると心に自信を持って挑むんだ。先ず相手に勝つ前に己に勝たなければ、勝てる試合に勝てないからな」

 

 とは言え、生死に関わる戦いなら話は別だが。

 

「でもそれで負けたとなったら凄く恥ずかしいな」

 

「その時はその時で、負けた経験をバネにして次に活かせば良い。俺はいつもそうして来た」

 

 いつも師匠に負けてるから、それはもうよく分かっているし。

 

「ま、たとえ勝負に勝っても負けても、俺たちはどの道かなりの戦闘経験を積む事に変わりはない。寧ろ得をする」

 

「……そうは言うけど和哉。もし俺がセシリアに負けたら奴隷か小間使いにされるんだが」

 

「あ、そう言えばアイツそんな事を言ってたな」

 

「その時はどうすれば良いんだ?」

 

「う~ん、そうだな………」

 

 俺が一夏が負けた時の事を考えて……。

 

「いっそのこと、一夏ご自慢の口説き文句でオルコットを落としたらどうだ? 今まで何人もの女子を落としたお前ならそれくらい簡単だろう」

 

「何だよそれ!」

 

 策を授けると即座に突っ込まれた。

 

「俺は女子を口説いた事なんて一度も無いぞ!!」

 

「嘘付け。俺が知ってる中でお前が落とした女子の数は……」

 

「ほう。一夏、お前は私がいない間に随分と軟弱な男に成り下がっていたみたいだな」

 

 俺と一夏の会話に突然、仁王立ちしている篠ノ之が混ざってきた。それも凄い殺気を放ちながら。

 

 あ、そう言えば篠ノ之って一夏の事が好きだったんだ。自分以外の女を口説いたなんて知ったらそりゃ怒るな。

 

「恐っ! 篠ノ之さん、アンタ凄ぇ恐いよ!」

 

「ってか箒! 俺は本当に女子を口説いてなんかいないから! と言うか何でそんなに怒ってるんだ!?」

 

 篠ノ之は俺たちの言葉は聞いておらず、ただ只管近づいてくる。俺と一夏は席を立って徐々に退いているが。あれ? なんで俺も一緒に逃げる必要があるんだ?

 

 他の女子達も篠ノ之の殺気に怯えて距離を置いている。俺とは違う殺気でも、ちゃんと動けるんだな。

 

「一夏、お前には全て洗いざらい吐いてもらうぞ」

 

「だから! 俺は無実だって! 和哉もなんか言ってくれよ! 元はと言えばお前が原因なんだから!」

 

「あ、いや、それは、その、ねぇ……」

 

「……まあ良い。一夏が吐かないのなら、神代に聞けばいいからな」

 

「って俺もかよ!」

 

「貴様には昨日の事もあるからな」

 

 あれはアンタの自業自得だってのに、オルコットと同様仕返しをするつもりかよ! 本当に都合良く忘れてるんだな!

 

「さて貴様ら、詳しく聞かせてもらうからな」

 

「じょ…冗談じゃない。アンタと一夏の夫婦喧嘩に付き合ってられるか!」

 

「ふ…夫婦!? わ…私が一夏と……」

 

 チャンス! 篠ノ之が顔を赤らめて隙を見せてくれた!

 

「じゃあ一夏! 俺は先に飯食いにいくから!」

 

「っていつの間に廊下に! おい和哉! お前は俺を置いて逃げるのかよ!?」

 

 悪いな一夏! 俺はお前が困っている時は助けても、色恋沙汰に関して助ける気は無いんだ!

 

「ではアディオス一夏! 奥さんをちゃんと説得しろよ!」

 

「待て和哉! どうせなら俺も一緒に!」

 

 一夏も廊下へ避難しようとしたが……。

 

「何処へ行く気だ一夏? 逃さんぞ」

 

「げぇっ!」

 

 いつの間にか篠ノ之が正気に戻って一夏の腕を掴んでいた。

 

 哀れ一夏。もはや逃げられない。さて逃げよっと。

 

 

『さあ一夏! 聞かせてもらうぞ!』

 

『和哉~~~~!!! お前後で覚えてろよ~~~!!!』

 

 

 あ~~~俺は何にも聞こえませ~~~ん。教室から一夏の恨みの声は全く聞こえませ~~ん。では食堂へレッツゴ~~。

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