インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~   作:さすらいの旅人

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第87話

「やれやれ、お前って奴はホントに――ん?」

 

 黒閃の余りの用意周到ぶりに思わず呆れながら言う俺だったが、此処を覗き見している気配を感じた。そして俺に抱き付いている黒閃も気づいており、さっきまで懇願するような目から急に鋭くなった。

 

「黒閃、念の為に訊くが人数は?」

 

「四人です。因みにその四人はセシリア・オルコット、凰鈴音、シャルロット・デュノア、ラウラ・ボーデヴィッヒです」

 

「……別に名前まで言う必要は無いんだが」

 

 まぁ大体分かってたとは言え、アイツ等は一体何をやってるんだか。黒閃の事を知ってるのに、覗き見してないで堂々と来れば良いのに。

 

 一先ず黒閃に離れるように言って、背後に向かって少し大きめの声を出す。

 

「其処に隠れてる四人! 昨日みたいに覗いてないで出てきたらどうだ!」

 

「「「「!!!」」」」

 

 ガサガサッと音がした数秒後、そこから恐る恐ると箒を除く一夏ラヴァーズが姿を現した。何故か若干顔を赤らめながら。

 

「え、えっとですね……こ、これは別に覗いていたわけではなく……」

 

「そ、そうよ! 声かけるにしても……何かその、タイミングが合わなくて……」

 

「ご、ゴメンね和哉。じゃ、邪魔したら悪いというか何というか……」

 

「むぅ。一応気配は消してたつもりだったんだが、やはり師匠には気づかれてたか」

 

 何やら言い訳染みた事を言ってる四人(一人は言い訳じゃないが)。昨日と同じ事をしている事に少し呆れてる俺だったが、黒閃は不愉快そうな感じで少し睨んでいた。

 

「代表候補生が揃いも揃って覗き見とは、余り良い趣味とは言えませんね」

 

「「「「うっ……」」」」

 

 黒閃の指摘にセシリア達は言い返すことが出来なかった。同じ人間の俺ならまだしも、ISである黒閃に言われたら流石に言い返せないだろう。人間の悪いところをISに教えちゃってるもんだからな。

 

 そんなセシリア達に黒閃が更に何か言おうとしていたので、俺がすぐに間に入ろうとする。

 

「まぁそこまでにしておけ、黒閃。別にコイツ等だって好きで覗いてた訳じゃ無いんだから」

 

「……マスターがそう仰るのでしたら」

 

 俺が宥めると黒閃は多少の不満を表しつつも引き下がる。俺が止めなかったら更に言ってただろうな。やっぱり止めといて正解だった。

 

「そんで、お前等は俺に何か用でもあるのか?」

 

 話題を変える俺に、ラウラが代表して俺に問おうとする。

 

「師匠は一夏を見なかったか?」

 

「一夏? 見てないが、アイツ旅館にいないのか?」

 

 質問を質問で不躾に返す俺に、ラウラはそれでも答える。

 

「うむ。それで外を探していたんだが、偶然師匠を見つけて訊こうと思っていたんだが……」

 

 ああ、そう言う事。俺が黒閃と会話中だったから、訊くに訊けなかったって訳か。何も別にそこまで気を遣わなくても良いと思うんだがな。

 

「成程ね。悪いが俺は夕食の後から一夏を見てないから、どこにいるのかは知らん。だが旅館にいないんだったら、俺と同じくどこかで景色を眺めてるか、夜の海を泳いでるかもしれないな。もしくは………箒がお前等に知られないよう一夏を外に連れ出して何処かでイチャ付いてたりして」

 

「「「「!!!」」」」

 

 この場にいない一夏ラヴァーズの一人である箒の事を適当に言った直後、セシリア達が何か気づいたかのように危機迫る顔つきになった。

 

「そ、そう言えば箒さんもいませんでしたわ……!」

 

「まさか箒のやつ……あたしたちを出し抜いて抜け駆けしたんじゃ……!」

 

「だ、だとしたら不味いよ! 早く一夏を見つけないと!」

 

「おのれ箒め……! 私の嫁を勝手に連れ出すとは……!」

 

 俺が冗談で言った事を真剣に考え始めるセシリア達に、俺は少し呆れてしまった。

 

「お、お~いアンタ等~。何をそんな真剣になってるんだ? 俺が最後に言ったのはただの冗談で――ってアイツ等行っちまったし!」

 

「人の話を最後まで聞いていませんでしたね」

 

 とても代表候補生の行動とは思えません、と付け加えながらセシリア達の行動に完全に呆れている黒閃。

 

「あ~俺とした事が迂闊だった。アイツ等にああ言った冗談は通じないんだった」

 

「それ以前に、私は彼女達の行動に全く理解出来ません。何故あんな先走るような事をするんでしょうか?」

 

「……まぁ一言で言うなら“恋する乙女の暴走”ってところだ」

 

「? 意味が分かりませんが?」

 

 そりゃ人の感情と言う物をまだ理解出来てない黒閃には分からんだろうな。取り敢えずコイツには後日説明しておくとしよう。

 

「それは後で教えるから、一先ずは俺達も一夏と箒を探さないとな。アイツ等の事だから、もし二人がイチャ付いてる光景でも見た瞬間、確実にISを使って一夏を殺しそうな気がするし」

 

「………全くもって理解出来ませんね。何故彼女達はそんな下らない理由でISを使おうとするんですか? ISである私から言わせれば、そんな私情丸出しな理由でISを使われては甚だ迷惑なんですが」

 

「だよなぁ」

 

 やっぱIS側からしても迷惑極まりないみたいだ。それも痴話喧嘩で使われちゃ堪ったもんじゃないだろう。

 

 黒閃には悪いが、一先ず一夏達を見つける為に協力してもらわなければ。

 

「黒閃、こっちも思いっきり私情ですまないが、一夏の居場所を探ってもらえないか? 恐らくそこには箒もいると思うから」

 

「分かりました。マスターの命令であれば従います」

 

 別に命令じゃないんだが……ま、いっか。

 

 そう思っていると、黒閃は瞑想するかのように立ったまま目を閉じていたが、ほんの数秒で開いた。

 

「レーダーに二名感知、見つけました。織斑一夏と篠ノ之箒はあそこにいます」

 

「どれどれ………おお、いたいた」

 

 仕事が早いなと内心思いながら黒閃が指す方を目を凝らして見ると、この崖の200m先の大きな岩石がある岩場に水着姿の一夏と箒がいた。向こうは俺と黒閃に発見された事に気づいてないみたいで、ちょっと良いムードになっている。

 

 俺としては邪魔したくは無いんだが、セシリア達が探しているのでそうも言ってられない。

 

 しかし、俺は今凄く気になる事があった。

 

「にしても箒の奴、随分と大胆な水着を着てるなぁ……」

 

 師匠との修行によって視力もそれなりにあるので、若干遠くからでも箒の水着姿がよく見える。

 

 箒の水着はかなり露出面積が広い白のビキニタイプだ。箒と出会ってまだそんなに長くないが、あんな大胆な水着を着るとは思わなかった。アイツは和を重んじるから、あんまり人前に肌を晒すような感じではないと思っていたが……。もしくは好きな男に見て欲しいが為に着てるのかもしれない。

 

「まぁそれだけ一夏に見てもらいたいって意思表示かもしれないな。羨ましいねぇ一夏は」

 

「そんな事よりも、早く織斑一夏の所に向かった方が良いのでは?」

 

「おっとそうだったな。じゃあセシリア達より先回りする為に近道を――」

 

 この崖は何度も飛び降り慣れている為、出っ張ってる岩の部分に着地しようとジャンプする俺だったが、

 

「マスター、どうやらもう無理みたいです。織斑一夏が篠ノ之箒にキスしようとする場面をセシリア・オルコット達に目撃されました」

 

「――はい?」

 

 黒閃の台詞に思わず足を止めてしまった。

 

 え? 一夏が箒にキスを? もしかして一夏がやっと箒を異性として好きになったと認識して、これで俺も漸く開放――

 

「その直後にセシリア・オルコットがブルー・ティアーズを纏って、ビットの一つをISを纏ってない織斑一夏の額に当ててレーザーを放とうとしています」

 

「――な、何ぃっ!?」

 

 安堵したのも束の間、セシリアが生身の一夏にとんでもない事を仕出かすのを見て仰天する。

 

 そしてビットがレーザーを放つと、一夏が間一髪のところで回避した。

 

「な、なな、何考えてんだあのバカは!! 一夏を殺す気か!?」

 

「更には凰鈴音、シャルロット・デュノア、ラウラ・ボーデヴィッヒもISを展開しています」

 

「ってアイツ等もかよ!!」

 

 どうして俺が当たって欲しくも無い予測がこうも見事に的中すんだよ! アイツ等本当に痴話喧嘩の理由でIS使おうとしてやがるし!

 

「何の躊躇いも無く規則を平然と破るとは呆れてしまいますね。マスター、彼女達は本当に国が認めた代表候補生なんでしょうか?」

 

「………今は何も言わないでくれ。とにかく一夏達をすぐに救出したその後は……あのバカ共の説教だ!! 行くぞ黒閃!!」

 

「了解しました」

 

 そう言って黒閃が眩い光を発した後、俺の体にはIS状態である漆黒の鎧――黒閃が纏っていた。

 

『準備完了です、マスター。いつでも行けます』

 

「よしっ、それじゃあ……今助けに行くぞ一夏ぁ! あとそこで一夏を殺そうとしてるバカ共は覚悟しろ~~~!!!!」

 

 俺が大声を出しながら全速力で向かっていると、一夏と(一夏にお姫様抱っこをされてる)箒、そして(一夏を殺そうとしている)セシリア達が漸く気づいた。

 

 代表候補生のバカ共は今更謝ったところで容赦しねぇからなぁぁぁぁ~~~~!!! 

 

 

 

 

 

 

「白式に操縦者の生体再生まで可能だった事には驚かされたけど、問題は…………むき~~~~~!! 何なのアレは~~~!?」

 

 所変わって、岬の柵に腰掛けた状態でぶらぶらと足を揺らしている篠ノ之束だったが、急にジタバタと憤慨していた。

 

「何なのさアレは!? いっくんと箒ちゃんの見せ場を横から掻っ攫っただけじゃなく、訓練機の打鉄がセカンドシフト!? ISが喋る!? 更にはあんな可愛い女の子にまで変身できるってわけ分かんないよ~~!!」

 

「――流石の天災博士である束でも、神代の行動にはかなり驚かされたみたいだな」

 

 音も気配も無く織斑千冬が姿を現すと、束はさっきまでの憤慨が急に冷めたかのように大人しくなった。

 

「ねえ、ちーちゃん」

 

「何だ」

 

 束は千冬が現れても振り向かず、千冬も束を見ていない。二人は互いに背を向けたままだ。足を揺らさずに大人しく座っている束に、身を木に預けて寄りかかっている千冬。

 

 この二人には相手がどんな顔をしているのかが、見なくても分かっているのだ。それだけの信頼が二人の間にあるから。

 

「アレは一体何なの?」

 

「いい加減に主語を言え。アレじゃ分からん」

 

「分かってるのにそう言う、ちーちゃん? アレだよアレ。神代和哉こと“かーくん”だよ」

 

「だったら初めから……ちょっと待て。私の聞き違いか? お前、神代の事を――」

 

「いや~、まさかこの私が他の子に興味を抱くなんてね~」

 

 束の予想外な発言をした事に千冬は振り返らなかったが目を大きく見開いていた。千冬、一夏、そして妹の箒以外の事を親しみを込めた呼び方をするのは余りにも予想外だったから。

 

「取り敢えずあの子は私の興味対象にインプットしたよ。と言っても、私が一番興味あるのはかーくんのISだけどね。確か黒閃だったかな?」

 

「………そのISを神代から奪い返す気か?」

 

「まっさか~。そんな事したらつまんないじゃん。それにあの黒閃って子、ちょっとアプローチしただけで嫌われちゃったんだよね~。“マスター以外はお断りです。それがたとえ開発者である篠ノ之束、貴女でも”ってね。これって反抗期なのかな~?」

 

「…………………」

 

 束が黒閃に何かしらの事をすると予想していた千冬だったが、まさか黒閃が開発者である束相手に背を向けたのは予想外だった。そんな事をすれば黒閃はあっと言う間に存在自体を消されるからだ。親である篠ノ之束にはたった一機のISを消すなんて造作も無く、それだけの力を持っている。にも拘らず黒閃が拒否をしたと言う事は、それを覚悟の上で言ったのかと千冬は考える。

 

「安心して、ちーちゃん。あの黒閃って子を消す気は微塵も無いから。折角この私ですら分からない事が起きたのに、ここであの子を消しちゃったら何の面白みもないし。まぁもし、かーくんが黒閃って子を誕生させなかったら消すつもりだったけど」

 

「………つまりお前にとって神代の存在理由は黒閃がいるから、と言うことか」

 

「まぁぶっちゃけそうだね。かーくんにはこの先あの子のために頑張ってもらわないと。そうじゃなかったら生かしておく意味が無いし」

 

 何の躊躇いも無く和哉を消すと堂々と千冬の前で言う束。本当なら怒鳴りたい千冬だったが、束の言ってる事は本心だと分かっている為、敢えてやらなかった。

 

 だが流石に自分の教え子に対してここまで言われては、教師として黙っている千冬ではない。

 

「束、何度も言うが、神代を消すような事をしたら私は黙っているつもりはないからな」

 

「あ~確かそう言ってたね。気になってたんだけどさ、ちーちゃん。やっぱりかーくんに惚れて――」

 

「今から選択肢を与えてやろう、束。前言を撤回するか、今ここで全力の私に殺されるかをな」

 

「はい、ごめんなさい。私が悪かったです、ちーちゃん」

 

 低い声を出して殺気を放つ千冬に、束は本気で殺されそうになると思ってすぐに撤回する。

 

 それから先、千冬が束にある二つのたとえ話をした後、束は忽然と姿を消したのであった。




次回で漸く3巻のエピローグになりますので、お楽しみに♪
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