インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~   作:さすらいの旅人

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第88話 (第三巻終了)

 翌朝。朝食を終えると、すぐさまIS及び専用装備の撤収作業をする。

 

 そんなこんなで十時過ぎになって作業終了後、全員がクラス別のバスに乗り込む。昼食については、帰り道の途中にあるサービスエリアで取るみたいだ。

 

「あ~……ねむ」

 

「ふぁ~~……眠いな」

 

 座席にかけた一夏と俺の状態は、現在睡眠不足で未だに眠かった。

 

 昨日は俺が一夏と箒の安全を確保した後、おバカさん達(セシリア達)に速攻で『睨み殺し』を使って動けなくして、少しばかりお仕置きをする為に一人ずつフル回転のジャイアントスイングをやって海に叩き落してやった。その中でラウラだけが受けた『睨み殺し』を全身に気合を入れて逃れていたが、すぐさま俺が殺気+怒気全快で再度『睨み殺し』を使って全身金縛り状態にさせ、セシリア達と同じくジャイアントスイングで海に叩き落した。

 

 そして海に叩き落して目が回っているセシリア達を引っ張りあげて砂浜で説教した後、ペナルティと称して砂浜裸足ランニング10kmをやらせた。当然俺も走ったけど。走りきった後のセシリア達は全員汗だくで大きく息切れして完全KO状態。軍所属のラウラもかなりの疲労状態だったが、それでも辛うじて立っていた。因みに疲労困憊となっていたセシリアと鈴が俺に向かって鬼や悪魔とか言ってたが、俺は聞き流していた。

 

 ランニングを終えた俺達が旅館に戻ると、一夏と箒を説教した後の千冬さんが待ち構えていて、そこから先は言うまでも無く俺達も大目玉を食らった。特にランニング後のセシリア達にとっては更なる拷問でもあったが。

 

 そう言う事があって、睡眠時間はいつもより大して取れていない。そんな眠い状態で、あの労働をされたから、正直言ってまだ寝足りなかった。

 

「すまん……和哉、飲み物持ってないか……?」

 

「悪い。サービスエリアで買うつもりだったから今持ってない」

 

 ふと一夏がしんどそうな声で俺に飲み物を要求してくるが、手元に無いので首を横に振りながら答える俺。

 

「そっか……。出来れば今飲みたかったんだけどな……」

 

「しょうがない奴だ。じゃあ……本音、何か飲み物ないか?」

 

「あるよ~。ちょっと待ってて~」

 

 後ろの席にいる本音に声を掛けると、すぐに鞄を出して飲み物を出そうとする。

 

「だとさ一夏」

 

「助かったぁ……。あ、そう言えば和哉。お前昨日俺と箒を助けてくれた後、セシリア達に何したんだ? アイツ等、今日の朝から筋肉痛だし」

 

「な~に、説教した後に砂浜ランニングを10km走らせただけだ」

 

「………道理で」

 

 セシリア達のお仕置き内容を聞いた一夏が顔を青ざめていた。ま、経験した一夏だからこそ分かるからな。何せ一夏は5km走ってかなり疲れたのに、それをセシリア達が2倍走ったからかなり同情しているんだろう。

 

 因みにそのセシリア達は、席に着いて早々大人しくなっており、筋肉痛と戦っていた。

 

「こ、こんなに辛い筋肉痛は……は、初めてですわ……はうっ!」

 

「うう~~……し、暫くまともに動けないよぉ……あうっ!」

 

「くっ! こ、これしきの筋肉痛で……! し、師匠に顔向けが……ぐあっ!」

 

 席に座ってるセシリア達はめっちゃ辛そうな声を出しているが、自業自得なのでスルーさせてもらう。近くにいた箒は危機一髪みたいに安堵していたが。

 

「かずー」

 

「ん?」

 

 本音の声が聞こえては振り向くと、同じタイミングで車内に見知らぬ女性が入ってきた。

 

「ねえ、神代和哉くんっているかしら?」

 

「俺ですが、何か?」

 

 一番前に座っていた事が幸いし、俺は呼ばれたまま返事をする。

 

 その女性はブルーのおしゃれ全開のカジュアルスーツを着てて胸元が少し開いており、鮮やかな金髪をした二十歳くらい年上の美人な女性だった。

 

 俺達を確認した女性はかけていたサングラスを外して胸の谷間に預けると、腰を折って俺の顔を見つめてきた。

 

 ん? この人は……あの時の福音に乗っていた人じゃないか。

 

「君がそうなんだ。へぇ。じゃあ君が織斑一夏くんね」

 

「は、はい……」

 

 一夏を確認した女性は、俺を興味深そうに眺めてくる。品定めをしている訳ではなく、何か純粋に好奇心で俺を観察している感じだ。

 

 若干香る柑橘系の香水によって、女を意識させるが、流石にこうも間近で観察されたら少しばかり顔を顰めてしまう。

 

「で、俺に一体何の御用ですか? 福音の操縦者さん」

 

「!」

 

 俺の台詞に一夏が困惑していると、女性はニッコリと笑みを浮かべる。

 

「そう、私はナターシャ・ファイルス。『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』の操縦者よ。今日はちょっと君に言いたい事があってね」

 

「……もしや昨日の件についてですか?」

 

 暴走していたとは言え、最高性能を誇る福音を滅多打ちのボコボコにしただけでなく、この人にも傷害だけでなく操縦者としてのプライドまでも傷つけたから、俺を恨む理由はいくらでもあるからな。

 

 そう思って警戒する俺だったが、ファイルスさんは首を横に振りながら言う。

 

「違うわ。君にお礼と伝言をしに来たの」

 

「? ………えっと、貴女は俺に恨みがあるから此処に来たんじゃないんですか?」

 

「まさか。どうして私が君を恨まなきゃいけないの? あの子の暴走を止めてくれたことに感謝しても、恨むなんて筋違いもいいところよ」

 

「は、はぁ……」

 

 ………この人、見た目通りかなり大人の女性だ。

 

 言っちゃ悪いが、今まで学園で初めて会った(シャルロットを除く)IS操縦者の殆どはかなりプライドが高くて傲慢だったから、この人も何かしらの因縁を付けるかと思っていたが、どうやら俺は考えが偏っていたようだ。これを機に反省しよう。

 

「あ~気分を害してしまったらすいません。俺、学園では敵が一杯いるから、つい疑っちゃって……」

 

「気にしなくていいわ。それはそうと、あの子を止めてくれてありがとう」

 

「いえ、お気になさらず」

 

「それと、私の親友でアメリカ代表の“イーリス・コーリング”から伝言があるの」

 

「………え?」

 

 アメリカ代表? 何でそんな人が俺に伝言があるんだ?

 

 ってか、このバスにいる全員が驚きの声を出しているし。

 

「イーリがね、学年別トーナメントで試合してた君を見て凄く血が滾ったみたいで、『お前の挑戦状を受けてたつ。いつか必ずIS学園に行って絶対にお前と戦うから覚悟しておけ』、だって。とんでもない相手に好かれちゃったわよ、君」

 

「そ、それはまた……」

 

 いつかその日が来るとは分かってはいたが、まさかこんなにも早く国家代表の一人に目を付けられるとは予想だにしなかった。これはちょっと不味いな。俺の今の目標は『IS学園最強』になる事だから、目標達成前にアメリカ代表が来てしまうかもしれない。今後の事も考えて、修行のレベルを上げた方が良いな。

 

「ではその人にこう伝えといて下さい。『俺は逃げも隠れもしないで待ち構えています。ですからいつでも来て下さい』と」

 

 かなり上から目線な物言いだと思われるだろうが、学年別トーナメントであんな宣言をしてしまった手前、今更弱気な発言は出来ない。もうこれは自棄だ。

 

 そんな俺の伝言を聞いたファイルスさんは、目をパチクリしていたが、すぐにまた笑みを浮かべた。

 

「分かった。必ずイーリに伝えるわ………(でもこんな伝言を聞いたら、イーリは何が何でもIS学園に行きそうな気がするわね)」

 

「ん? 何か言いましたか?」

 

「何でもないわ。あと最後に、これは私からの個人的な事だけど」

 

「はぁ。それは何で――え? むぐっ!」

 

『!!!!』

 

 俺が言ってる最中、ファイルスさんは両手で俺の頬に触ると、俺の唇にいきなりキスをしてきた。

 

 当然この光景を見た一夏達は余りの出来事に固まっていた。

 

「んんっ……。ふふっ、これは私からの挑戦状よ、和哉くん」

 

「え、な、う、え……?」

 

「それと昨日の戦いで、私の体と心を傷物にした責任はいつか取ってもらうからね♪ じゃあ、またね。バーイ」

 

「あ、う、あ……ええ?」

 

 ひらひらと手を振ってバスから降りて顔を少し赤らめているファイルスさんを、俺はぼーっとしながら見送る。

 

 …………。えっと、一体、何が……起きたんだ?

 

「和哉……お前……あ、あの人を傷物にって一体何を……?」

 

「か、和哉貴様~~!! 戦闘中の時に何を破廉恥な事をしてるか~~!!」

 

「ちょ、ちょっと待て! お、俺は何も……あれ?」

 

 何か急に俺に恐ろしい殺気を感じるんだが気のせいか?

 

 発生源を見てみると、そこには途轍もないオーラを放って完全に怒った顔をしている本音がいた。

 

「…………………」

 

「あ、あの、本音さん? 何でそんなに怒ってるのかな?」

 

 恐る恐る本音に訊くと、

 

「かずーのバカ~~~~~!!!!!」

 

「ぶっ!!」

 

 いきなり内容量500mlのペットボトルを投げつけられて、俺の顔面にクリーンヒットしてしまった。

 

 な、何で俺がこんな目に……これは一夏の役割だろうが。

 

 

 

 

 

 

「…………はぁっ、やっちゃった。でも後悔はないわ」

 

 バスから降りたナターシャは、目的の人物を見つけて向かいながらも未だに顔を赤らめていた。

 

「驚いたな。まさか神代にキスをするとは……ひょっとして惚れたのか?」

 

 茶化すように言ってきたのは、若干顔を赤らめている千冬だった。

 

 そんな千冬の発言に、ナターシャはすぐに元の顔に戻る。

 

「さあ、どうでしょう? ただ私から言えることは、和哉くんは今まで見てきた男性の中で一番素敵でしたので、つい」

 

「……一応言っておくが、神代に好意を寄せている女子が私の生徒に一人いるから、精々頑張るんだな」

 

「あら、そうですの。それはそれで面白そうですね」

 

「やれやれ……。それより、神代に相当やられた筈なのに昨日の今日でもう動いて平気なのか?」

 

「ええ、それは問題なく。――私はあの子に――」

 

 そして千冬とナターシャは福音についての処理、ナターシャの今後の事について話し終え、二人は互いの帰路に就こうとする。

 

 が、

 

「ああ、一つ言い忘れていました、ブリュンヒルデ」

 

「何だ?」

 

「和哉くんの事が好きな子に伝えといて下さい。『私はそう簡単に譲る気は無い』って」

 

「……一応伝えておこう」

 

 最後にこんなやり取りをしていたのだった。




ナターシャが何故和哉の事を好きになったかについては、後日の更新で分かりますので、それまでお待ち下さい。
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