インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~ 作:さすらいの旅人
それではどうぞ!
夏休み。それは学生生活の中での最大長期休暇であり、学生にとって一番大好きな自由時間。日本の学生の大半は、これほど素晴らしい長期休みを嫌う人はそんなにいないだろう。特に勉強嫌いな学生にとっては。
と、そんな分かりきった事を考えている理由としては、
「ほれ童《わっぱ》! また体勢が崩れかけとるぞ!」
「ま、待ってくれ竜三さん! これ以上は……!」
「口を動かしとる暇があるなら、さっさと身体を動かさんか!」
「ぐああああ~~~!!」
目の前で竜爺直々の基礎訓練を受けて悲痛な叫びをあげている一夏を見て、今思えばとても学生らしい生活じゃないなぁと改めて認識していたからだ。
因みに一夏が今やってる訓練は、道場の外で三kg(×2)のダンベルを両手に持たせて真っ直ぐ伸ばしながら腰を落としての歩行。握力と下半身の強化を兼ねた訓練の一つだ。んで、一夏が訓練の際に体勢をちょっとでも崩したら、竜爺からの愛の鞭が待っていると言う構図になっている。
「んっ……んっ……。それにしても竜爺ってばこの一週間、一夏の訓練と俺の修行を活き活きしながら大して休む事無くやるなんて……やっぱり相当フラストレーションが溜まってたんだな」
「それだけ竜お爺ちゃんが楽しみにしていたって証拠だよ、和哉お兄ちゃん」
一夏の訓練と竜爺の楽しそうな(?)顔を見ながら筋トレの腕立て伏せをやりながら言うと、俺の背中の上に乗っている竜爺の孫娘、
「そうなのか?」
「うん。お爺ちゃん、お兄ちゃん達が来る前まではすっごく暇を持て余してて、時々愚痴を零してた事があったから」
「成程。そりゃああなるのは無理もないか。それと綾ちゃん、もうちょっと重心かけてくれ」
「ん、分かった」
俺の要望に綾ちゃんが頷くと、俺の背中に来てる重圧が少し強くなった。
「っと……。悪いな綾ちゃん、俺達の修行に付き合ってくれて」
「気にしないで。アタシとしても和哉お兄ちゃん達のお手伝いをしたかったし」
「それでもありがと」
綾ちゃんに再度礼を言ってると、
「ちょっと綾ちゃ~~ん! それは私の役目だよ~~!」
「……はぁっ。また来たのか」
「あ、本音お姉ちゃん」
「うん? の、のほほんさんうぐっ!!」
「これ、気を抜くでないわ! やれやれ、またのほほんとした童《わっぱ》が来おったか」
俺と一夏のクラスメートである布仏本音が宮本道場へ遊びに来た事に、俺達全員一斉に本音を見ていた。
さて、何故いきなりこんな展開になっているかについては、夏休みが始まった一週間前までに遡る。
◆
「強化合宿?」
「そ。明日の夏休みを利用して、一夏には俺の師匠がいる道場で本格的な訓練を受けてもらう」
夏休み前日。千冬さんの監視期間が終わって開放された俺は、箒たちとのIS訓練を終えたルームメイトの一夏に部屋で明日の予定について話していた。
「本格的って……俺はお前の訓練だけでも本格的だと思うんだが」
「あんなのはあくまで身体を慣らす為の基礎中の基礎に過ぎん。それに俺本来の修行内容は師匠である竜爺との組み手がメインだからな」
時々千冬さんに相手してもらってるけどな、と内心付け加える俺。もしそんな事を口にしたら、シスコンである一夏が絶対面白くなさそうな顔をするのが目に見えてるので敢えて言わないでおく。
「まぁそれはそれとして、明日の朝早々に出かけるから寝る前に準備しておけよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ和哉……。何でもう行く事になってるんだ? 俺はまだ行くと決めてないんだが……」
「安心しろ。ちゃんと千冬さんに許可を貰ったから」
「いや、そういう問題じゃなくて俺に拒否権は?」
「拒否権、ねぇ。まぁ一応あるにはあるが………出来れば俺としては一緒に行って欲しいな。こう言っちゃ悪いが、夏休みの間で未だに弱いお前を少しでも強くさせたいし」
「…………確かに和哉から見れば俺はまだ弱いが、それでもある程度は強くなったぞ」
予想通りの反応と言うべきか、俺の台詞に一夏はムッとしながら言い返してきた。
まぁ確かに一夏はここ最近、俺の基礎訓練で入学前とは違ってかなり体力が上がり、実戦訓練もそれなりに出来てる。だが実戦訓練はあくまでISを使った上での話だから、生身だけの実戦訓練ではまだ俺との力の差があり過ぎから、今の一夏の実力は中途半端状態。
それ故に一夏には一度竜爺との修行で生身を徹底的に鍛えさせ、少しでも強くさせようと俺は考えた。いくらISの操縦が上手くなったところで、それに対応できる身体能力が無ければ意味が無い。
「ある程度はな。だが残念ながら、お前はまだ千冬さんを守るほど強くなっちゃいないし、況してや自分の身さえも守れない中途半端な強さだ。多分千冬さんはこう言うと思うぞ? 『その程度の実力で私を守るなどまだ十年早い』ってな」
「………………」
千冬さんを引き合いに出すと言い返せなくなった一夏。予想通りと言うより、本当に分かりやすい奴。
「ついでに言えば、お前このところセカンドシフトした白式の性能に振り回されてる状態だろ?」
「うっ……」
『それについては私も同感ですね。ISの私から見ても、今の織斑一夏は白式を完全に使いこなせていませんし、更には白式の性能によって守られている状態です。いくらISの性能が上がっても、それを使う操縦者自身が強くならなければ話になりません』
「うぐっ!」
待機状態になってる黒閃の厳しい指摘に一夏が痛い所を突かれたかのようにへこんでしまった。そんな一夏を見た俺は顔を顰めながら待機状態の黒閃を見る。
「あのなぁ黒閃、お前少し言い過ぎだぞ」
『事実を言ったまでです。あの程度で強くなったと認識されては、流石に白式が気の毒なので』
「………………」
あ、黒閃の止めの言葉で一夏が撃沈して“OTL”状態になってる。分かってはいたが、黒閃って俺以外の人間に対して本当に容赦無いな。
けどまぁ、コイツの言ってる事は間違ってないので一夏をフォローする事が出来ないのもまた事実。一夏には悪いが、ここは何が何でも竜爺との修行で少しでも強くなってもらわないとな。
それに俺も俺でセカンドシフトした黒閃を使いこなせていない状態だから、今回の夏休みで俺自身も更に力を付けなければいけない。俺も一夏と同様に新しく得た強い力に振り回されているから、徹底的に鍛え直さないとダメだ。そう考えながら俺は撃沈してる一夏の肩にポンッと手を置いて尋ねる。
「どうする一夏? お前が絶対に行かないなら無理に参加はさせないが、黒閃にあそこまで言われたら男として黙ってはいられないと俺は思うぞ?」
「ぐっ……! ……ああもう、分かったよ! 和哉の師匠の修行でも何でもやるから俺を強くさせてくれ!」
「そう言ってくれて助かるよ」
よし、一先ずこれで第一条件はクリアだ。黒閃の指摘(とは名ばかりの毒舌)のおかげだな。
『……やれやれ。あんな軽い言葉だけで凹むとは、織斑一夏はまだまだですね(ボソッ)』
………おい待て黒閃、あれで軽めなのかよ。小声だったから一夏が聞いてなかったから良かったものの、俺としてはいつかお前に強烈な毒舌を受けるとなるとゾッとするんだが……。女尊男卑主義のバカ女共の罵倒は簡単に聞き流せるが、相棒である黒閃の毒舌は正直言って聞きたくない。
そう思ってる
ガチャッ
「かず~、約束のアップルパイ~」
俺の元ルームメイトである布仏本音が部屋に入ってきた。
「あ、のほほんさん」
「本音、何で君はいつも勝手に入るのかな?」
本音が来た事に一夏は顔を上げ、俺は本音の行動に呆れながら指摘する。
「ちゃんとノックはしたよ~」
「ノックしても、ちゃんとコッチの返事を待ってから入れ」
「そんな事よりかず~、約束のアップルパイ頂だ~い」
「………はぁっ、しょうがない奴だ」
強請ってくる本音に俺は溜息を吐きながら、冷蔵庫に入ってるアップルパイが乗った皿を出して本音に渡す。アップルパイを見た本音は嬉しそうな顔をしながらすぐに受け取ると、俺の椅子に座って食べ始めた。
「ん~~~♪ やっぱりかず~の作るアップルパイちょおちょお美味しい~♪」
「そりゃどうも」
「アハハ……でもまぁこれであの件の事を許してくれるんだから良いじゃないか」
「その為に毎回作らされるコッチの身にもなってくれ」
一夏が言う“あの件”とは、先日にあった臨海学校最終日にバスで学園に戻る数分前、アメリカのテストパイロット“ナターシャ・ファイルス”さんが俺に不意打ちのキスをした時の事だ。それによって本音がいきなり怒って俺にお茶入りのペットボトルを顔面目掛けて投げた後、ずっと怒ってて暫く口を利いてくれなかった。
そこから先はいつも本音と仲が良い鏡や谷本達の協力によって、何とか許してもらえるようにあの手この手を使い、“一週間の間に本音がお菓子を食べたい時に俺が作る”と言う交渉の末にやっと本音が妥協してもらえた。それ故に俺は強請ってくる本音に強く言えずに諦めて用意してるって訳だ。
「(モグモグ)……あ~美味しかった~。かずーごちそうさま~」
「お粗末さまでした」
一人分のアップルパイを早く食べてしまった本音に俺は内心呆れつつも言い返す。
「ねぇかずー、明日からの夏休みはどうするのー?」
「ん? 予定としては師匠がいる道場で暫く一夏と修業する事になってるが」
「ふ~ん」
俺が思った事をそのまま言うと、本音が突然ある事を言い出す。
「じゃあさ、私もかずー達と一緒に行っても良い~?」
ちょっと無理やり感があるオリジナルかも……。
突然ですが、のほほんさんって党名って一体何でしょうか?