なかなかに時間が取れなかったものですから。
続きです。
目の前の人物から放たれる殺気。
生唾を呑み込む。
これから向こうはこちらと戦う腹積もりだ。
肌を打つ殺気から伝わってくる。
「誰だ? お前?」
瑚太朗は真正面に立つ男への警戒レベルを引き上げていた。
答えてはくれないだろうが質問を投げてみる。
「質問をしてる間に態勢を整えるつもりだな?」
瑚太朗のしようとしている事を見事に看破してみせた。
その通りだ。
会話から敵の特徴を掴めればベスト。
それでなくとも、打開策を閃く時間稼ぎが欲しかった。
「答えてやりたいところなんだがな……」
そういう訳にもいかない――殺気を振り撒きながら相手は答えを出した。
当然、瑚太朗も相手に同調して身構える。
「相手をしてもらおうかな」
瑚太朗との距離を一息で詰めてきた。
咄嗟に
こちらへ殺気を放っていた事から攻めの姿勢を崩さないでいることは容易に想像ができた。
それが遠距離によるものか、はたまた近接攻撃によるものかの判別までには至れる筈はない。
だが、心構えをしていた事は少なからず瑚太朗の視野を広く持たせてくれた。
なので、咄嗟の出来事にも対処ができた。
瑚太朗が選び取ったのは回避だった。
と言うより、向こうの攻撃がただの打撃だと断言ができない事には回避一択なだけである。
接近に際し、鋭い突きが襲い掛かる。
(何と、か……っ!!)
瑚太朗の動体視力には男の拳が見えていた。
真っ直ぐ単調な攻撃なのは一瞬で判別が付いた。
そして、その速さと重さも一瞥しただけで判断できた。
瑚太朗は頭を、腰を落として紙一重で回避してみせた。
正確に言うと、ギリギリで避けられた感がある。
「おっ……らぁっ!!」
瑚太朗のカウンターの拳。
いくら素早くとも攻撃モーション直後の硬直に合わせた。
これを回避するのは難しく――
「受け止めてやるよ」
瑚太朗の拳を“宣言通りに”その身で受け止めた。
ただ、ローブを羽織っているからか瑚太朗の繰り出した拳の感触に違和感はあった。
布の向こうにある岩を殴り付けているような感覚――。
(堅いっ!?)
それだけ身体が頑強な証拠だ。
並大抵の攻撃は弾かれるのがオチなのだと分からされる。
「それなら!!」
遠慮などしない。
左拳にオーロラを乗せて、強く振り抜く。
「それは、さすがに怖いな」
だが――それは男の右の手のひらで止められた。
スパーリングで突きを受け止めるかのような、最早そのような感覚だった。
いや――これが彼なりの防御なのだ。
そうなのだと、瑚太朗は即座に理解させられる。
それにしたって、オーロラを乗せた攻撃をいとも容易く受け止められるなど意味が分からない。
どれだけの膂力を有していると言うのだ?
「けど!!」
それで黙っていられる筈もない。
瑚太朗の本命はこちらだ。
左で殴りかかっている隙に引いた右。
そちらでお馴染みとなったオーロラブレードを作る。
何度も造っていた経験から、形成はすぐに出来た。
「はあっ!!」
オーロラブレードで男を両断しに掛かる。
相手が生身というブレーキもあり、刃は潰してある。
どちらかというと打撃を意識したものだ。
彼には聞きたい事もある。
それを吐き出させぬままというのは瑚太朗だって困るのだ。
「速い!?」
相手も予想外の動きをこちらが見せた結果になった。
瑚太朗の一刀は見事に男の肩を叩く結果になる。
「ぐっ!?」
下手に刃で斬りかかられるよりも痛みは大きい。
打撃は致命的なダメージを時に与える事ができる。
「うおおおっ!!」
恐らく一瞬の出来事だ。
せっかく生まれたチャンスを棒になど振れない。
瑚太朗はそのままの勢いで前に出る。
そして、頭突きをかます。
「ぐあっ!?」
「いっづぅ!?」
この石頭が――奇しくも、両者は同様の意見に至る。
お互いに身体が磁石が反発せるかのように後退する。
「はああああああっ!!」
いつの間にか――横へ移動していたちはや。
その細腕で彼女は身の丈を有に一回りも二回りも越える大木を振り回す。
まるでバットを振り回している感覚にしか見えない。
だが、その大木は発泡スチロールで出来ている訳ではない。
そんな軽い訳がないのだ。
「うおっ!?」
横に薙いできた大木をローブの男は跳んで回避した。
「せっ!!」
肩も何もあったものじゃない。
けれど、その怪力があれば関係などない。
真上へ、下から振り上げる。
「やべっ!? 失念してた!!」
失敗したと言わんばかりの発言であるが、動じた様子は一切見受けられない。
両足を振るわれる大木へ乗せる。
「ふっ」
刹那の出来事だった。
足をバネに見立てて、すぐに横へと跳ぶ。
そのインパクトに押されたのか、大木が バキィッ!! と音をたててへし折れる。
「ありゃりゃ、勢い余っちまったか」
そんな感想を述べながら男は体操選手よろしく、綺麗に両足で着地してみせた。
瑚太朗達との距離ができる。
だが、そんな事に構っていられる心の余裕が生まれずにいた。
(嘘だろ……)
瑚太朗は嘯く。
身体能力の高さは考慮していた。
どれ程のものかまでは想像に難しかった。
しかし今、瑚太朗は確信を得た――“得てしまった。”
恐ろしく強い。
大木を踏み込みのみで破壊してみせた事にも驚きだが――あの怪力自慢のちはやの一撃をあっさりと回避してみせた。
咲夜との契約による恩恵故に並大抵のものではない。
凄まじく力が強い――それだけで片付けるのは簡単だ。
しかしながら、それは裏を返せば攻撃の出も速いと言い替えられる。
それを容易く回避したのだ。
身体能力は言うに及ばず、反射神経も言葉に形容しがたい。
「天王寺瑚太朗」
次に繰り出す一手が何なのかという考察を巡らせている間に、向こうの方から呼ぶ声があった。
何事なのかと思い、返事はせずに待つ。
いや、待つよりも先に答えが相手からやって来た。
「聞いていた以上に強いな」
ふと、そんな事をポツリと漏らし始めた。
何なのだ? 瑚太朗は疑問を持ったが、それ以前にその言い方では――
「瑚太朗さんの事を誰かから聞いたような口振りですわ」
「どうせ加島桜じゃねーの?」
傍らに来ていたぱにがまさしく瑚太朗の抱いた疑念を問い掛ける。
口を挟むようにぎるが言うが……確かにガイアの本拠地で待ち構えていたのだ。
そう思いたくなるのも無理はない。
「ああ、違う違う。加島桜じゃない」
即座に男はぎるの言葉を切り捨てた。
では一体誰が?――一堂が固唾を飲む中、まるで世間話でもするかのように告げられる。
「お前らが黒篝とか呼んでる奴だよ」
途端、瑚太朗達の纏っていた空気が……雰囲気が一変した。
彼が何を告げたのか、一瞬理解できずにいた。
けれども、すぐに脳が再起動する。
「黒篝って……お前は、何でその呼び名を?」
瑚太朗の口から真っ先に出てきた質問は「それ」だ。
黒篝という呼称は瑚太朗が名付けたもの。
通じるのは瑚太朗側の者のみ。
一瞬、口から出任せとも思えたが――タイミング的にないと直感できた。
仲間が情報を売ったなどとは微塵も考えてはいなかった。
となると、次点で考えられるのは――口から出任せという可能性。
しかし、考えづらい。
でなければ、そもそも「篝」の名前が出てくるのが変だ。
何故ならガーディアンもガイアも彼女を「鍵」と呼ぶ。
正式な名は加島桜でさえ知らない筈なのだ。
「まさか、お前が……」
言葉は続けなかった。
声に出すには躊躇われたからだ。
彼が咲夜の言っていた黒篝の協力者なのだとしたら――迂闊な会話はこちらの情報を与えかねない。
それにしたって、彼は危険すぎる。
強いからとかではない――知りすぎているからだ。
あまりにも、こちらの事情に詳しすぎる。
「知りたいなら、このローブを取ってみせる事だ。フードだけを取ろうとしても無駄だって事は教えておいてやる」
言外に顔を見れば分かると教えているようなものだ。
「瑚太朗さん、咲夜さんから連絡が入りました」
この状況下でぱにが伝える。
本来の目的は長居の救助――それを違えてならない。
「ちはや……お前はぱにを連れて先に行け」
瑚太朗は背後に立つ彼女へ告げる。
咲夜から突入の合図は来た。
この好機を逃してはならない。
咲夜の頑張りが無駄になる。
「分かりました……瑚太朗は?」
「さすがにこいつを無視して行けそうにはないからな」
瑚太朗は真正面に立つ敵を見据える。
それに――聞き出したい事もある。
もしも黒篝と繋がりがあるなら情報を引き出したいからだ。
「悪いぱに、ちはやを任せる」
「はい!! 任せてください!!」
元気よく返事するぱには頼もしい。
「ちはやも気を付けてくれ」
「はい!! 行ってきます」
この先、何が待ち受けているかなど不明だ。
用心に越したことはない。
ちはやはぱにを引き連れ、ガイア内部へ侵入する。
それを黙って男は見逃してくれた。
「良かったのか? 行かせて」
「ああ、天王寺瑚太朗以外には用がないからな」
男はそう言う。
ちはや達に手を出さなかったのだ。
虚言ではあるまい。
「悪いなぎる。俺に付き合わせて」
男からの回答を得られると、今度は傍らで控えるぎるに告げる。
「気にするなよ。ダチなんだからな」
何でもない風に言う。
出てきたのは「ダチだから」という歯の浮くような台詞だ。
「じゃあ、勝つぞ」
相手が誰だろうと戦う以上は弱気な面を見せたくない。
瑚太朗は四肢に力を込め――前進する。
如何でしたでしょうか?
遂に謎の人物との対決にまで行きました。
ここで別行動となった2人……果たして、無事に目的をはたせるのか?
次回は来月の予定です。