想像以上に忙しかった事もあり、執筆活動が遅れてしまいました。
続きになります。
「こっちだ!!」
ぎるの案内で迷わずに館内を走り回れる。
警戒すべきは他の魔物使いの登場である。
先導するぎるには魔物使いを察知するだけの能力はない。
だから、瑚太朗の肩に乗せて指差しで案内をして貰っている。
敵の気配に注意するのが瑚太朗の役目である。
「他の魔物使いは居ないな……」
「良いことじゃん!! 無駄に騒いだら大変なんだろ?」
瑚太朗の素朴な疑問をぎるは楽観視して返してくる。
確かに敵と遭遇しないのは嬉しい誤算に他ならない。
しかし、だ。何とも誘われてる気分になるのはどういう事なのか。
「弱気になってる場合じゃない……よな」
罠の可能性に足踏みをして良い場面ではない。
こうしてる間にもちはやへの危機が迫る。
「どうした?」
「気にすんな。先を急ごう。頼りにしてるぞ、ぎる」
「合点だ!!」
瑚太朗が期待を向けると、それが嬉しかったのか手を高く挙げて応えた。
そして、勇み足で先頭を飛んで行く。
瑚太朗はそんなぎるを本当に頼もしく思いながら警戒を緩めない。
魔物を使役し、周辺に潜伏してないとも限らないからだ。
そういう意味で、瑚太朗とぎるの布陣は完璧であると言えよう。
「もうすぐだ」
十字に別たれた道を目前にした瞬間にぎるから朗報が知らされる。
ちはやとぱにの無事を祈り、早鐘を鳴らす心臓。
緊張感はピークに達しようとして――――
「待て、ぎる!!」
「ぐえっ!?」
先を行くぎるを文字通り掴む。
批難の声を上げたいが瑚太朗に掴まれた事で封じられる。
なのでジタバタして動くだけなのだが――――
「誰か居る」
「っ!!」
瑚太朗の一言にぎるは身動ぎをやめる。
「おいおい、ヤバいんじゃないか?」
「分かってる……けど、迂回してる暇はない」
ぎるが発する焦燥は痛い程に伝わる。
だが、ここで後退してはせっかくの苦労が水の泡だ。
「あいつの助けを待とうぜーーーっ!!」
さすがに状況を把握したぎるは小声で、だけどもオーバーアクションで瑚太朗に告げる。
「確かに咲夜を待つのは手だ……だけど、どうして奴は来ない?」
契約者のちはやの窮地をあの執事が理解できぬ訳がない。
もしも咲夜が着いているなら必死に瑚太朗が向かう理由も消え失せる。
むしろ、彼女等が安全に脱出出来るように一暴れ位する。
なのにぱにが窮地である事をぎるは今もなお告げていた。
出せる答えは然程多くない。
「誰か知らないが、咲夜の足止めをしてるんだと思う」
咲夜は何者かの妨害を受けている。
ガイアからすれば最強の魔物が敷地内をうろついている。
そんなもの“魔物使い総出で出迎えたって不思議に思う奴が居るか?”
そのおかげで相対的に咲夜が囮役を担い、瑚太朗達が安全にマーテル内を走り回れた。
見た訳ではないが、咲夜とも連絡が取れない以上は有り得ない状況だと断言が出来なかった。
「強行突破だ」
迂回していても魔物使いに遭遇しないとは限らない。
ならば、咲夜が引き連れている事に賭けて強行突破の選択を取る。
どのみち、咲夜とちはやの存在がバレている筈だ。
他の侵入者の存在を加島桜が気付かないとは考えづらかった。
「ぎる、下がってろ」
掴んでいたぎるを離し、自身の後ろへ下げさせる。
「気を付けろよな~」
「分かってる」
瑚太朗は深呼吸を1つする。
そして3本の鉤爪のブレードを展開。
ぎるに説明してる間に既に向こうはこちらへ迫っている。
どのタイミングで出るのかを悟られぬよう、最大限に気配を殺しておく。
出るタイミングは十字路を通過してくるよりも早めに設定する。
あちらが瑚太朗に気付いている可能性を考慮し、早い段階で飛び出す。
よしんば、これでこちらに気付いてようと予想外の行動に面を喰らってくれれば御の字だからだ。
(思ったよりも速い)
集中して耳を済ませると、駆けているのか足音も聞こえてくる。
背を壁に預け、深呼吸をする。
タイミングは想定よりも早くなりそうだ。
(構うか。こちとら準備は済ませてある)
伊達にこれまでの天王寺瑚太朗の記憶を、経験を引き継いでる訳じゃない。
臆する事はない。
今、この場に立つ天王寺瑚太朗がそう簡単に後れを取る筈がない。
目を瞑り、こちらへ近付く足音で距離を測る。
他にも足音が幾重も耳に届くので分かりやすさが上がるのは助かる。
心の中で数を数える。
1、2、3――――
(今っ!!)
目を開き、ブレードを携えて駆けてくる人物の前に躍り出る。
「な………………っ!?」
しかし、眼前へ飛び込んできた情報に瑚太朗は困惑を露にした。
それもそうだ。
「瑚太朗ーーーー!! 助けて下さいーーーーっ!!」
「瑚太朗さーーーーんっ!! ヘルプですーーーーっ!!」
半泣きになりながら黒犬の群れに追われるちはやと髪に必死にしがみつくぱにが瑚太朗に救助を要請しながら駆けてきたからだ。
「なぁぁぁあああーーーーっ!?」
「何かあったのか……って、何じゃありゃぁぁぁあああああーーーーっ!?」
瑚太朗の雄叫びに釣られたぎるが出てくると、同様の景色を見て叫び出す。
「迷ってる暇はないか!!」
黒犬の群れは確かに脅威だが、所詮は有象無象の集まりだ。
瑚太朗は四肢に力を込めて疾駆する。
「俺の後ろで待機しててくれ!!」
「はい!! 」
瑚太朗の指示に迷いなく頷いて、ちはやは駆ける足を止める。
逃がすのが正解かもしれないが、彼女の力無くして切り抜けるのは難しい。
「はぁぁぁあああああーーーーっ!!」
オーロラブレードを真横に振るう。
黒犬は胴体を引き裂かれ、呆気なく塵と化す。
だが、それも先頭を走る数匹しか葬れない。
狭い通路であるが故に真正面からの攻撃に備えるのみで良いのは楽だがキリがない。
「はあっ!!」
オーロラブレードを素早く“鞭の形へ変化させる。”
先頭を走る1匹の黒犬の足に絡ませ、一本釣りの要領よろしく左腕で右腕を支えながら引き寄せる。
「ちはや!! こいつをあいつらめがけてぶん投げろ!!」
「了解です!!」
黒犬一本釣りの真の狙いこそ、ちはやの怪力を活かす為のもの。
彼女の怪力も当たらなければ無意味であるし、そもそもこの数相手には部が悪い。
だが、何も殴り付けるだけが力自慢ではない。
瑚太朗のオーロラで釣り上げられた黒犬がちはやの下へ届けられる。
その足を掴み――――
「せー、のっ!!」
黒犬を後ろへ振り、左足を前に踏み込む。
「ええいっ!!」
思いっきり腕を振るって、黒犬をオーバースローで投げ付けた。
瑚太朗の脇を通過し、押し寄せる黒犬の大群めがけて飛んでいく。
ズゴォォォッ!!
轟音が辺りを支配する。
コンクリートで出来た床は重機が破壊したかのように地面を深く抉る。
黒犬の群れはボーリングのピンのように弾かれて壁や床に叩き付けられ霧散する。
「すげぇ……」
目の前で発生した爪痕に瑚太朗は目を丸くする。
自分でやらせたとは言え、大砲顔負けの威力を容易く発揮するとは思わなんだ。
これを行った
今ので黒犬が全て消え去ったのを考えると、興奮するのも無理はない。
「良かった。2人とも無事だったんだな」
「瑚太朗、助かりました」
「助けに来てくれてありがとうございます。瑚太朗さん」
瑚太朗が真っ先にちはやとぱにの安否を気遣う。
彼女等は無事であったらしく、瑚太朗もホッと胸を撫で下ろす。
「ちょっと待てーーっ!! 俺も居るぞーーっ!!」
ぎるは両手を挙げ、大声で自分の存在を主張する。
「もちろんぎるちゃんも助けに来てくれて嬉しかったですわよ」
「私も同感です」
「えへへ~。そうだろうな~」
褒められて鼻を指で擦り、ぎるは得意気になる。
「けどお前今は何もしてなかったよな?」
「そんな事を言うなよ!! ここまで来るのに俺頑張ったじゃんかー!!」
瑚太朗がぎるが調子に乗った所に水を指す。
ぎるはそんな彼を何度もポカポカと叩く。
「分かってる分かってる。お前が居なかったらちはややぱにとも合流出来なかったしな。お手柄だよ」
「へへ~、最初から素直に言えよな~」
腰に手を当て、調子に乗り始める。
事実、ぎるの案内無しに辿り着く事は非常に困難――否、不可能だったと断言しても良い。
「それより瑚太朗の方こそ大丈夫なんですか?」
「そうです!! 瑚太朗さんが相手してた人は?」
瑚太朗のただならぬ雰囲気にちはやも心配をしていた。
「何とかな~。強かったけど、俺達を通してくれたんだよ」
「え? じゃあ、良い人なんですか?」
彼が通してくれなければ、未だに戦っていた――――いや、もしかするとこの場へ赴けたかも怪しい。
最終手段として
アクセルを踏み込んでも勝てたかどうか――――瑚太朗には分からなかった。
「そういえば長居は?」
「駄目です。見付かりませんでした」
「そうか……」
手掛かりが無いのは痛すぎる。
骨折り損のくたびれ儲けではないか。
「ここには居ないのでしょうか?」
ぱにの意見は濃厚であった。
何せ、与えられた情報との齟齬があったのだ。
釣り餌をぶら下げられただけで、加島桜の手のひらの上で転がされていたのやもしれなくなる。
「とにかく、見付かったなら此処に居るのは危険だ」
一ヵ所に留まり続けていたら発見してくださいと言ってるようなものだ。
「咲夜と連絡は?」
「駄目みたいです」
スマホが繋がらないものかとちはやは試みるが、結果は芳しくないときた。
「咲夜の事だ。捕まるなんてヘマはしないだろうし、心配するだけ無駄だよ」
嘲笑と共に「私を心配している余裕があるとは驚きですね」と言っている咲夜の姿が脳裏に描かれる。
イラッとしたが、彼ならば大丈夫だという確信もあった。
「長居を見付けたいところなんだがな」
「もし、探すのでしたら気を付けないといけないかもしれません」
ぱにが瑚太朗に近寄って、言った。
「何かあったのか?」
「はい。長居さんが居たと思われる場所に黒犬が待ち伏せしていました」
「それは…………っ!?」
ぱにの発言に瑚太朗も驚きを隠せずにいる。
やはり、フードの男が現れたように動きを察知されている。
だが、奇妙な話だ。
餌を用意し、釣られた瑚太朗達をマーテル内で一網打尽にすれば良い。
なのにフードの男はマーテルの外で、しかも真正面から堂々と立ちはだかった。
おまけに通させる始末だ。
(袋の鼠にして、叩き潰す為か?)
違う――瑚太朗の本能が告げる。
所詮は勘でしかないが、フードの男は確かに「倒すのが目的ではない」と口にしていた。
瑚太朗のみを標的に絞っている点も気になる。
分からないことだらけだが、フードの男がこれ以上に関わる事も無いと推測している。
「閉じ込めていそうなところだよな……」
閉じ込め、餌を蒔き、一網打尽――もしも、これ等を実行するとしたら加島桜の筈だ。
(もしかして……)
瑚太朗は1つ、気になった点を思い出す。
「なあ、入った部屋には黒犬の群れが待ち伏せしてたんだよな?」
「はい、そうですけれど……」
瑚太朗の質問を受けたぱには肯定する。
「その部屋は他に何かあったか? 扉があったとか、暗かったとか」
「暗かったです。黒犬の眼が光っていた位ですから」
続けての疑問にちはやは額に指を当てながらも思い出して答えてくれる。
(考え方を変えてみよう)
もし、黒犬が待ち伏せしていたのではなく、“ただの見張りであるとしたら?”
もし、厳重に警戒し、黒犬を配置させているだけなのだとしたら?
もし――
「黒犬の群れを配置して、罠と見せ掛けた“だけだとしたら?”」
「つまり、待ち伏せしたと見せ掛けた……という事で?」
瑚太朗が頷いた事で、全員にも意図するところが伝わったみたいだ。
「仮に待ち伏せするなら黒犬じゃなくて、もっと確実な恐竜型の魔物を使う筈だ」
「なるほど」
ちはやも納得から手を叩く。
「そこへ案内してくれ」
「分かりました。こちらです」
ぱにに案内を願いする。
瑚太朗の命を受け、ぱには先頭を行く。
瑚太朗達もそれに続き――――
「あの~、何でぱにを見て言うんですか? 私には聞いてくれないんですか?」
ちはやが後ろで言うのだが、瑚太朗はノーコメントを貫いた。
如何でしたでしょうか?
なるべく早く続きをお届けできるように頑張ります。