Rewrite if   作:ゼガちゃん

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お待たせしました
やはりなかなか時間が取りづらくなってきていまして

続きです。


西九条灯花

 時間は此花アカリが目を覚ました翌日まで遡る。

 

「話ってなにかしら? 天王寺君」

 

 風祭学園の生徒指導室に西九条と瑚太朗が机を挟み向かい合って座っていた。

 話の誘いは瑚太朗からのものであった。

 西九条は“教師として”話に乗る。

 

「はっ!? もしかして愛の告白かしら? ダメよ、私は教師であなたは生徒なんだから」

 

「はは、西九条先生とそういう関係になれるのは光栄な事なんですけど……今回は別件です」

 

 瑚太朗は頭を掻きながら、話題の中心へ。

 

「今サラッと、とんでもない事を言われたけど……良いわ、何の用かしら?」

 

「幾つかあるけど、まずはアカリの件について」

 

「アカリちゃんの?」

 

 西九条の糸目が更に鋭くなったような気がする。

 彼女からしたらアカリは娘のような立ち位置に居るのだろう。

 だからこそ、その名前が出てきた事に敏感に反応する。

 

「単刀直入に言いますね。アカリはただ単にルチアの姿に似せられてるとは到底思えないんです」

 

「その事に関しては私も同意見よ」

 

 ブレンダ・マクファーデンの手により、人造的にアカリは存在を“造られた。”

 それが知らない人物の姿となれば何も問題は無かったであろう。

 しかしながらルチアと似ている――否、瓜二つと呼んで良い容姿に何らかの意味が潜んでいると見る。

 

「でも、何があるのかしら?」

 

 手を頬に当て、西九条は提示された問題の答えを得ようと考える。

 そこで、既に“答えを知る”瑚太朗が発言する。

 

「もし、もしも…………ルチアの経験をアカリも得ているとしたら?」

 

「そんな事が…………」

 

 有り得ないと断言したくとも、西九条には出来なかった。

 アカリが目を覚まして1日――より正確には半日程しか経ってないのに、彼女の成長は著しかった。

 

 最初は片言でしか喋れなかった彼女が、今では流暢に日本語を話せるようになっている。

 天才――等という言葉で括れる訳がなく、あえて言うなれば異才と言えた。

 

「アカリちゃんの成長にはルチアちゃんが絡んでる?」

 

「アカリをブレンダ・マクファーデンが造り上げたって言うなら、考えられると思う」

 

 瑚太朗もブレンダ・マクファーデンの事は十分に承知している。

 思い出すだけで、吐き捨てたくなる彼女の迷惑すぎる御高説は耳障りでしかない。

 

「彼女の事を知ってるような口振りね」

 

「聞いてますから」

 

 むしろ別世界で会った――等と今供述しても痛い人扱いされて終了だ。

 ならば、言葉を適当に濁して話を切り上げる。

 幸いにして、それだけの言葉で西九条は催促するのを止めてくれた。

 

 

「有り得ないとは言い切れないものね……分かったわ、何か原因がないか探ってみる」

 

「ありがとうございます」

 

 正解は既に分かってはいるが、下手に口出ししても西九条は逆に疑いを持つやもしれない。

 江坂さん辺りに根回ししておこう――瑚太朗は密かに決めていたりする。

 

「それじゃあ、次の話に移りましょうかね」

 

「まだ話があるのかしら?」

 

「ええ、まあ。と言うか、実を言うとこっちが本題ってのはありますがね」

 

 アカリを話を切り出す山車にしたのは申し訳無いが、どうしても切っ掛けが欲しかった。

 

「話って?」

 

「昔の事を覚えてる――って言えば分かるか? 西九条」

 

 瑚太朗の口調が教師に接するものから、ガーディアンへ対するものとなる。

 しかも、それは“かつての旧友とのやり取りに近い。”

 

「天王寺君…………いえ天王寺……あなた、覚えて?」

 

「ああ、全部な。江坂さんに絞られたこととか、嫌に記憶に残ってる。西九条や今宮と組んだこともな」

 

 瑚太朗の方はあっさりとしたものだが、西九条は狼狽を露にしていた。

 それはそうだ。

 ガーディアンの手によって記憶を消され、しかも1人だけ時間が制止して成長もしなかった。

 

 西九条にとっても、今宮から見ても、江坂にしたって――――ガーディアンとしての天王寺瑚太朗は死んだ。

 彼はリタイアしてしまい、非日常から日常へ戻った。

 同期の長居も同様であった事から西九条達も何ら珍しい事ではなかった出来事の筈だ。

 

「手柄欲しさに『鍵』を捜しに行ったけど……見付からなかったようだな?」

 

「…………嫌なことを思い出させないで」

 

 西九条にしてみれば、当時の事は掘り起こされたくない記憶なのだろう。

 瑚太朗としては今宮に殴られた意趣返しだ。

 まあ、当の本人はこの場には居らず、西九条へ八つ当たりしている自覚は重々に承知している。

 

「悪かった悪かった。でも、俺が覚えてるって事は伝わったみたいだな」

 

「ええ、嫌と言う程にね」

 

 自然と西九条の口調が同期時代のものへと戻っている。

 風祭学園で過ごした世界での記憶が濃いからか、瑚太朗にも若干の違和感はある。

 ただ、彼女の場合はこちらが“素”なのであろう。

 瑚太朗としてもガーディアンの同期として過ごした西九条を思えば、こちらの方が話しやすいのは確かだ。

 

「なんと言うか、天王寺は変わったわね。特に性格とか、喋り方とか」

 

「それを言ったらそっちもだろ。一緒にチーム組んでた時と教師をしてる時とじゃ違うだろうに」

 

 西九条の質問には少しばかり困った点があるので、何とか濁そうとする。

 別世界の天王寺瑚太朗の経験値、記憶が蓄積されている――などと説明をして、誰が信じてくれようか。

 

 

「心境の変化があったからよ」

 

「違いないか。こうやって、今は教師をやってるみたいだしな」

 

 危うく教師の夢を抱き始めた頃の事を口にしてしまいそうになった。

 西九条が夢を語った時は天王寺瑚太朗は篝からの瀕死の重傷を負う事はなく、本来の時間の経過と同様にガーディアンとガイアの二重スパイの日々を送っていた頃だからだ。

 

「似合わないかしら?」

 

「そんな事ない」

 

 昔馴染みと言うのはある。

 以前の西九条を知る瑚太朗からすれば、今の彼女は不可思議に見えるのだと思われたようだ。

 だが瑚太朗はそうは思わない、思えない。

 

「実際、“西九条先生”は良い教師だよ。今でこそ記憶が戻ってるけど、戻る前の俺は心の底から西九条先生を尊敬してたしな」

 

 あえて「先生」と呼称を付けて呼ぶ。

 ガーディアンの西九条灯花ではなく、風祭学園の西九条灯花としての話だからだ。

 

「ありがとう」

 

 恐らく、瑚太朗だけなのだ。

 ガーディアンの目線、風祭学園の目線、同期としての目線――――それらを全て知る彼からの言葉は西九条へこれ以上ない励みになる。

 だから、多分初めて“その全てを入り混ぜた西九条が答えた。”

 

「でも、天王寺が自分の事を明かしたのは何故?」

 

 そこが西九条には見えてこない。

 瑚太朗の記憶が回復している事を告げたところで、西九条には昔話をする事しか出来ない。

 

「長居って、覚えてるか?」

 

「ええ」

 

 瑚太朗が告げた名前は知っている。

 かつて、ガーディアンに所属していた人物の名称であるからだ。

 

「何? 今宮も集めて同窓会でもするの?」

 

「それはまた機会を設けてになるかな」

 

 懐かしい名前を出してきたので、出来れば同窓会とかいった内容ならば安堵ができた。

 残念ながら、瑚太朗の話す内容とは筋違いも良いところらしい。

 

「あいつがな、今ガイアに居るんだ」

 

「と言うことは…………」

 

 それ以上、言うことは何もない。

 つまりは、ガイアに与しているのだと同期から伝えられた。

 

「ガイアに居る事には目を瞑ってくれ。まあ、話題の中心が長居な訳なんだが…………」

 

 瑚太朗の雰囲気から裏切り者を罰しようみたいなものじゃない事を汲み取る。

 ならば、何をしたいと言うのか?

 

「この前ガイアの本部に侵入してさ」

 

「はい?」

 

 冒頭から話の内容がぶっ飛び過ぎており、西九条はリピートを要求する。

 

「いや、ガイアに侵入したんだよ。千里朱音と一緒に」

 

 朱音の事は静流とルチアから聞き及んでいる筈だ。

 現に彼女の名前を聞いた途端、西九条の雰囲気が変わる。

 そこは気付かぬフリをしたまま、話を進める。

 

「話は割愛するけど……大怪我したから治す為にガイアに朱音と潜り込んで、治療する為の魔物を奪ってきた」

 

 頭痛がする内容がさっきから飛び込んできてばかりだ。

 話が確かなら、瑚太朗はあまつさえ侵入して脱出までした訳だ。

 

「脱出する時に長居が助けてくれたんだ」

 

「長居、が」

 

 以前の記憶を取り戻した事を説明した合点がいった。

 記憶が戻った事を説明した上であれば、長居の名前を出しての事柄も説得力があるのというものだ。

 

「この一件が上役の連中に気付かれてないとは思えない」

 

 壁に耳あり障子に目ありのような建物だ。

 魔物を使役すれば、その諺を地でいく。

 

「つまりは?」

 

「長居が連中に拘束されてる可能性があるって事だ」

 

 既に“この時には推測を立てていた。”

 今はバレずとも、いつか明るみになるのを恐れる。

 バレてからでは遅い。

 

「早い内に助けに行こうと思ってる」

 

 朱音と共にガイア――マーテル――から脱け出してきたばかりだ。

 侵入、脱出も考えれば、瑚太朗達のせいで警備は強固になったと言って良かろう。

 

「それに……加担しろとでも言いたいの?」

 

「あ~、そういう訳じゃないんだ」

 

 西九条に関わらせる気はない。

 彼女はガーディアンとしての任務がある。

 それを蔑ろにはさせられない。

 

「長居を助けに行くなら、こっちで何とかする」

 

 ガーディアンである西九条を巻き込ませる事を瑚太朗も望まない。

 救出に関しては、瑚太朗達に一任して欲しいと請い願う。

 

「それだったら、何を頼みたいの? 」

 

 ここまで話したのだ。

 何かしらの見返りを求めているのは丸分かりである。

 

「長居を、出迎えてやってくれ」

 

「それだけ?」

 

「そうさ」

 

 てっきり、西九条に丸投げするつもりでいるのかとばかり考えていた。

 なのに、全く違う依頼が来たものだから肩透かしを喰らう。

 

「意外だったか?」

 

「正直なところ……ね」

 

 この世界での西九条は、瑚太朗の『書換能力(リライト)』の事は知るまい。

 どの世界でも、江坂でさえ知らぬ事実なのだが…………それでも、引き上げた身体能力を披露した機会はない。

 

 だからの筈だ。

 西九条にとっての天王寺瑚太朗の戦闘の評価は最底辺から変わっておるまい。

 さっき朱音とガイアへ侵入し、帰って来た話にも驚いていた。

 長居の救出に協力を仰がれると考えたのも同様の要因があろう。

 

「けれど、出迎えって言われてもガーディアンには入れられないわ」

 

「ああ、別にガーディアンに入れてくれとは思ってない」

 

 出迎えと言うからには、再度ガーディアン側へ立たせるつもりかと思ったようだ。

 だが、瑚太朗の返答は違った。

 そもそも、そんなものは無理だという風に瑚太朗も捉えている。

 

「何? 同窓会以外に何かあるの? こっちで拘束でもしておけば良い?」

 

「そこまで物騒な事をする必要はないさ。長居はこっちで預かっとくから。悪いようにするつもりもないし、悪事に加担させない」

 

 長居――朱音にとっては津久野は関わりがある。

 彼女だって敵か味方かも区別のつかないガーディアンに身を置くよりも、朱音の側に居る方が精神的な安心感もあろう。

 

 では、一体何を彼は望むのか?

 彼の希望は、すぐに言葉として引き出された。

 

「単純に、長居がガイアに居ても特に目を掛けない方向でお願いしたい」

 

「それは…………まあ、良いわ」

 

 ガーディアンとしては見過ごしてはおけないだろうが、西九条個人としては長居を放っておいても構わないとの方針を示してくれたのだろう。

 此花アカリの件も“この時は”解決していない。

 ルチアも、静流も、精神的に救われている恩を、叶えるには難しくないもので返すのも悪くないと判断してくれてもいそうだ。

 

「あと、もう1つ」

 

「まだ何かあるの?」

 

 瑚太朗が貪欲にも更に条件を追加してくる。

 それに西九条の方も嫌そうな顔を作る。

 只でさえ、ガーディアンにとって不利益な願いを聞いているのに、これ以上に催促される事柄に警戒が出てくる。

 

「長居と会って、話をしてくれ」

 

「………………えっ?」

 

 この場での会話の応酬で、何度目になるのか分からない驚きに彩られた声が発せられる。

 今回のはシンプル且つ、何のメリットがあるのかと西九条の頭を複数の疑問がぐるぐる回る。

 

「単に話して、接して、仲良くして――――それだけで良いんだ」

 

 瑚太朗の言葉は優しく、力強く、懇願をしていた。

 

「何か…………いえ、何を隠しているの?」

 

 瑚太朗の言葉から何かがあるのだと西九条も察せられる。

 元々、何かあるからこその提案なのははっきり分かっていた。

 瑚太朗は未だに要求を伏せている。

 

「天王寺がどうやって記憶を取り戻したのかは分からないけれど、それと関係があるとでも言うつもり? まさかとは思うけど、長居までガーディアン時代の記憶があるの?」

 

 組織を抜ける際には、情報漏洩のリスクを無くす為に記憶の消去が行われる。

 瑚太朗も長居も同じ口だ。

 けれど、瑚太朗は例外的にガーディアン時代の記憶を保持している。

 有り得ないとは言い切れないが、まさかの可能性に長居も同様なのかと西九条は問い掛ける。

 現に瑚太朗を手助けしたのだから有り得ないと一概に否定しきれずにいる。

 

「多分……“甦ったんだと思う”」

 

 ガーディアンの記憶消去を瑚太朗は疑うべくもない。

 だが、それも完璧ではないと瑚太朗は睨む。

 天王寺瑚太朗の方は例外中の例外だろう。

 津久野がかつて長居と言う名前でガーディアンに所属していた情報を入手していたのならば、“有り得なくはない話なのだ。”

 

(例外だけで言ったら、この世界には溢れすぎてる)

 

 咲夜の存在を瑚太朗は思い浮かべる。

 黒篝に、この前のフードを目深に被った男も同様である。

 幾重もの世界を渡ってきた天王寺瑚太朗でさえ知らぬ存在が居るのだ。

 予想もできぬ事態が瑚太朗達の前に置かれていると考えるのも無理はなかろう。

 

「答えを知るのは長居本人だけだ。直接聞いてみよう」

 

「検討しておくわ」

 

 いずれにしても放っておけない案件ではある。

 仮に長居が記憶を取り戻していて尚もガイアに与しているなら問題はある。

 彼女に悪用するつもりがあろうと無かろうと、情報を握られて脅迫される等と言ったパターンも有り得る。

 

 事実確認は必要ではあるものの、西九条もガーディアンの一員だ。

 無断で動くことは難しくなる。

 

「長居の件で脱線したけれど、あなたの事は何一つとして明かされてないわ」

 

 いい加減にカードを伏せたままにするなという西九条からの無言の圧力が掛けられる。

 そこには瑚太朗も申し訳無さがあるが、話の流れで出来るだけ長居の一件は片付けたかった。

 恐らく、ここから先は十分に長くなるだろうから。

 

「これは俺が記憶を取り戻した事にも繋がるんだけど…………『鍵』だ」

 

「え? 『鍵』? 玄関の……とか言うオチじゃ無いわよね?」

 

「ガーディアンやガイアが追ってる方だ」

 

 あまりにも唐突に飛び出てきた単語に西九条も困惑する。

 それはそうだ。

 まさか、ここで『鍵』が話題として上がるなんて思ってもみなかったのだから。

 

 だからこそ、瑚太朗から出てきた突飛な内容を西九条の耳は疑った。

 

「つまり…………あなたは『鍵』の居場所を知っているのね?」

 

「ああ、そうだよ」

 

 瑚太朗の投げた話題に西九条は問い返す。

 この件に関し、虚偽の報告は一切許さないと言った様子だ。

 

 それはそうだ。

 ガーディアンは長きに渡り『鍵』を追っている。

 ガイアよりも先に世界を滅ぼす害となる『鍵』を殲滅したい。

 

「俺が記憶を取り戻したのは……まあ、『鍵』のおかげかな」

 

 瑚太朗は頬を掻いてあやふやな答えを出す。

 何も間違ってはいないし、真実に近いし、あやふやながらも真摯に言っている。

 

「何故、あなたが『鍵』と? まさか、あの時に?」

 

 西九条と今宮が『鍵』を追った際のことを指しているのだと瑚太朗は把握した。

 瑚太朗の方も同じ事を言おうとしていたので、丁度良いと頷いておいた。

 

「でもその時には『鍵』に殺されかけたんだけどな」

 

 多くの世界で瑚太朗は『鍵』からのアウロラを受けて生死の境をさ迷った。

 結果、高校生の時間のまま止まっていた。

 説得力のあるものだ。

 

 

「その後に紆余曲折があって『鍵』と行動を共にする事になったんだ」

 

「その紆余曲折の部分を事細かに聞きたいんだけどな」

 

 一番に気になる部分をぼかされ、一層に西九条は話に突っ込もうとする。

 

「だけど、『鍵』と一緒に居たら危険じゃない?」

 

「大丈夫大丈夫、55円の缶コーヒーでも渡しとけば機嫌は治るさ」

 

「か、缶コーヒー!? しかも55円って……」

 

 『鍵』との友好関係に安物の缶コーヒーで手を打たれるとは。

 長年『鍵』を追い掛けるガーディアン――西九条にしても知りたくもない情報を得てしまった。

 

「信じられないかもしれないけどな」

 

「信じられないわね」

 

 西九条は即答する。

 瑚太朗だって同じ立場なら思うので「それはそうだ」と返した。

 

「けど『鍵』の居場所が知ってるなら吐いて――――」

 

「おう。良いぞ」

 

 西九条が言い切るよりも先に瑚太朗があっさりと、彼女の要望に応えてみせた。

 

「え? い、良いの!?」

 

「聞いてきたのは自分の癖に……」

 

 瑚太朗はそう返すものの、西九条の狼狽具合は大きかろう。

 即答でOKを出したのだから当然か。

 

「まあ、勿論条件ありきだけどな。それに少し時間も必要だ」

 

「条件?」

 

「そそ。何かを得るには代償が必要って訳さ」

 

 それは当然の結路か。

 西九条は首を傾げ、瑚太朗はおどけて口を開く。

 

「その条件だけどな――――」

 

 瑚太朗の口から飛び出した条件に西九条はしばらく開いた口が塞がらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、時の針はそれからしばらく進む。

 アカリの件を解決し、ブレンダを取り込んだ後に瑚太朗から提示された条件を満たすべく、西九条は森の中を歩いていた。

 ただ闇雲に歩いている訳ではなく、彼女の先で神戸小鳥と此花ルチアが歩みを進めていた。

 その足取りに何ら迷いは見られない。

 

 この場にルチアが居なければ、西九条は素直に付いていかなかった。

 彼女がその場に居る事こそが瑚太朗の弁の裏付けとも捉えられる。

 

「着きました」

 

「何も見当たらないわね?」

 

 小鳥が目的地への到着を告げるも、西九条は訝しい視線と共に周囲を見渡す。

 木々が彼女等を取り囲む景色に何の変化もない。

 

「見付からないようにしてますから」

 

 小鳥は話を進めながら手を動かす。

 何をしているのかを問うよりも先に変化は一瞬にして起こる。

 “文字通りに”目の前の空間に穴が空いたのだ。

 その向こうはこちら同様に木々に覆われてはいるが、魔物と思わしき鳥が飛び、犬のような魔物が地を駆ける。

 

「全く、こんな所があったなんてね」

 

「びっくりしましたか?」

 

 西九条の率直な言葉にルチアは問い掛ける。

 事実、ルチアもこの場所を知った時は西九条の心情と同じだった。

 

 『鍵』を巡る闘争に関わるものが存在を発見するのに困難な理由が簡単に明かされてしまった。

 

「先生、この事なんですが…………」

 

「分かってるわ。“今はまだ”誰にも教えてないもの」

 

 篝の場所へ連れていくのに口外しない事は契約に含まれていた。

 本来なら蹴飛ばしても構わないだろう案件だ。

 なのにこうして黙っているのは、一重にアカリの件での恩義があるから――――

 

(いえ、違うかしら)

 

 信じたいのだ。

 共に肩を並べ、苦難を乗り越えた落ちこぼれチームの一員を。

 

 かつては出し抜いて手柄を立てようと躍起になった自分とは変わっている事にふと気が付く。

 ルチアや静流でさえ知らない一面を知る瑚太朗には果たして自分はどう映っているのかと幾ばくか気になりつつあった。

 

 

(あら? 今何だか変な事を思ったような)

 

 西九条が自分の思考に疑問を抱き、違和感の正体を突き止めようとして――

 

「トーカ」

 

 穴の向こうに静流の顔が覗かせた。

 

「静流ちゃん!!」

 

 彼女に呼ばれ、抱いた疑問を投げ捨てて抱き付こうと飛び掛かる。

 しかし、涼しい顔で静流は身体をズラすだけでかわす。

 

「トーカ、今はそういう場合じゃない」

 

「悪かったわよ~」

 

 予期せず、結界の中に入り込んだ訳だ。

 ルチアと小鳥が続けて入り、結界の主の小鳥は入り口となった穴を塞ぐ。

 

「西九条さん」

 

 ルチアのスイッチがガーディアンのものへと変貌する。

 それを受け、西九条の雰囲気も変わる。

 

「『鍵』……いえ、篝だったかしら? 彼女に会いに来たわ」

 

 約束の通りにね。

 西九条の件は瑚太朗から受けていたらしい。

 

「こっちです」

 

 小鳥が率先して西九条を篝に引き合わせようとし――――

 

「待って皆」

 

 小鳥が歩みを止める。

 彼女の手には携帯が握られている。

 

「何かあったのか?」

 

「瑚太朗君が大変みたいだよ」

 

 言いながら小鳥は携帯の画面を見せてくる。

 そこにはメールが一件届いていた。

 送り主は咲夜だ。

 何か起きた際の不測の事態に備えて咲夜は連絡先を教えていたのだ。

 メールには向こうに作戦を読まれていた旨が綴られていた。

 

「作戦って、長居とやらを助けに行くというものだったか?」

 

「長居をっ!?」

 

 瑚太朗が既に長居救出に動いている事実に西九条が反応せずにいる筈もない。

 先日に聞いていたことを実行していた。

 ただ、その事を向こう側に完全に読まれていた。

 

「西九条さんは長居と言う人物を知っているのですか?」

 

「ええ、同期だった人よ」

 

 その人物を助けに行く。

 瑚太朗にとってもそれだけの人物だと言う事を認識させられる。

 今はその話は後回しだ。

 

「メールが送られてくると言う事は、まだ無事な筈よ」

 

「なら、無事だと良いんだけど――――」

 

 西九条の推論は正しかろう。

 しかしながら、本当に無事かどうかまでの判断には至れない。

 

「私が行こう」

 

 そう言ったのは他でもないルチアだ。

 咲夜と瑚太朗の居ない今は静流は護衛、小鳥は篝の世話と結界の維持もある。

 となると、手が空くのはルチアと朱音。

 これから荒事に向かおうと言うのに朱音は連れていけない。

 消去法で行けるのはルチアだけとなる。

 

「…………はあ、仕方無いわね」

 

 西九条は大きく溜め息を吐く。

 そして踵を返す。

 

「先生?」

 

「トーカ?」

 

「西九条さん?」

 

 全員が背中を見せる西九条へ疑問の声を投げる。

 

「ちょっと、同窓会を開きたくなってね」

 

 それを受けた西九条は言う。

 

「その為に引きこもりの同期を連れてくるわ」

 

 振り返り、振り向き様に西九条は告げるのだった。

 

 




如何でしたでしょうか?

時間軸的には前半は此花アカリが目覚めた直後、後半はちはやがマーテルに忍び込んだ位です。

中々時間がとれずに進まなくて本当に申し訳ないです。

なるべく早くお届け出きるよう頑張ります
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