大変お待たせしました。
前回までと比べると短いですが、続きです。
神戸小鳥①
彼女はずっと考えていた。
自分のしてしまった事の重大さを。
これは罰なのではないかと。
彼女の両親は他界してしまった。
それは彼女を含めた旅行の帰り道での事故だ。
彼女は偶然にも一命をとりとめ、森の中を駆け回った。
そして、ドルイドという魔物使いの秘技を継承する「宿り木」に触れた。
蘇生の術があると知り、彼女はドルイドとなった。
以降、『鍵』を守る役割を担う事となった。
両親の遺体にヤドリギに記された蘇生の術を施す。
結果、両親は魔物化したのみで終わる。
それは心がない人形にするようなものであり、望んだものではない。
両親が昔のようになることはないと悟ってからは呪いでしかない――――そう悟り、受け入れていた。
唯一に近い繋がりを持つ人物も居たが、『鍵』によって重傷を負った。
助けるべく、リボンの断片――――アウロラの一部を傷に埋め込んだ。
その後は魔物使いが魔物と契約するのと同じ要領で十分であった。
その結果、一命をとりとめる事は出来た。
しかし、問題はその後に起こった。
彼女とかつて言葉を交わした人物が、これまでとは180度真逆の性格となっていたのだ。
丸っきり性格が反転した事に彼女は驚く。
同時に気付いた。
魔物化させた事で己の願望が強く反映してしまったのではないか――――――と。
真相は不明だ。
だが、彼女が要因である可能性は十二分に高い。
けれど、彼女は知っていた。
己の両親の心が戻らない事実を。
つまり、彼女の助けたかった人物の心も魔物使いとしての力による副産物である可能性は非常に高い。
それでも、ドルイドとしての使命を全うする。
それはその人物の命を救う事にも繋がる。
重傷を魔物使いの力で塞いでいる事が第一。
第二に、その人物の現在の人格が魔物であるならば契約が解ければ消えてしまうかもしれないと恐れたため。
しかし、これは全て己の身から出たエゴなのではと自問自答する日々が続いた。
いつかは答えが出る――――そう心の中で呟くも、問題を後回しにしてきた。
導き出すべき答えは依然として見付からなかった。
けれど、解き明かす時が遂に訪れた。
きっかけは何であれ、向き合う時が来たのだ。
ドルイドの魔物使い――神戸小鳥――が助けたかった人物――天王寺瑚太朗――と腹を割って話す時が。
あの後、瑚太朗達は結界を張られた場所へと戻ってきた。
そして、全てを語る――――その必要があったから。
「――――――と、言う訳だ」
瑚太朗はそこで話を区切る。
次に訪れたのは沈黙だ。
荒唐無稽な話だと蹴り飛ばしてやりたい。
だが、全員が全員とも非日常の中で過ごしてきた。
故に否定をする考えまでには至らない。
「では立場上、神戸はこの事を知っていた訳だな?」
「………………うん」
ルチアに問われ、間を置いてから小鳥は肯定した。
「待ってくれ。小鳥は俺が口止めしてたんだ。何も悪くはない」
瑚太朗が口止めをしていたから小鳥は何も話さずにいた。
責められるのなら小鳥ではなくて自分だと、瑚太朗は告げる。
「心配せずとも、この件で誰かを責め立てるつもりは毛頭無い」
それに対し、ルチアの方から「誤解だ」との回答があった。
「話を聞くに仕方の無い話だ。こういったタイムトラベル絡みのトラブルは、過去の出来事を知っている事が大きく関わってくるのだから。青い猫型ロボットなんかも良く言っていたから覚えている」
「お、おう」
国民的アニメを例題に出すとは。
しかし、瑚太朗の懸念事項は分かってくれたらしい。
「私達が気になっているのは、瑚太朗があの時に話していた内容の1つだ」
「内容? どんな?」
「半魔物化」
気になる事項は「半魔物化」のワードだ。
瑚太朗は白夜との問答の際に口にした。
「半分魔物、それはどういう意味なんだ?」
「言葉の通りだ。今の俺は半分魔物みたいなものなんだ」
それ以上の説明は難しい。
なので、こう答える以外には出来なかった。
「それは、私と一緒にガーディアンの訓練生として過ごした時から?」
「いや、あの時は普通の…………って言って良いのか分からないけれど、超人である事を除けば人間だったよ」
西九条に問い直され、瑚太朗は素直に返した。
超人の時点で普通の人間とは言い難いが、少なくとも魔物なんて珍妙な生物の血は混じっていなかった。
「何か、そうなった切っ掛けがあるんですか?」
痛いところを突いてくるのはちはやだ。
それを言われてしまうと、答えざるを得ない状況が現状でもある。
これに瑚太朗は言い淀む。
話すと言う事は小鳥の行いにも触れる事となるから。
「あ、あのっ!!」
隣で意を決した小鳥が言葉を発する。
注目は自然と彼女へ集まる。
「全部、全部…………私のせいなんだ」
こればかりは瑚太朗が話して良い内容かと問われると否だ。
小鳥が自分自身で伝えるべき内容。
それを彼女自身も理解しているからこそ、意を決して飛び出した。
そして、たどたどしく彼女は全てを語る。
幼い頃に事故に遭い、両親を亡くし、ドルイドとなった顛末から全てを。
両親に似せた魔物、命を助ける為とは言えど瑚太朗を半分魔物化させてしまった事実。
ちびもすも以前に飼っていた犬のペロと父の持っていた象牙の判子から産み出した魔物だ。
ガーディアン側からせずとも、人体実験だと指摘されても何も言えない。
だが、小鳥だって苦しんできた。
瑚太朗との契約を解除してしまえば死んでしまうのではないか。
魔物化させてでも両親やペロと会いたかったが、これは生命を弄んでいるのではないか。
元々、学園での委員会の説明でさえ人前に出れば緊張してしまう小鳥。
今回はそれに加えて今の行いを話す必要性もあった。
見方を変えればブレンダ・マクファーデンも顔負けの人体実験のオンパレードだ。
けれど、小鳥とブレンダは異なる。
小鳥は人の痛みを知り、行いに後悔し、何とか償おうと足掻いている。
何とか瑚太朗の命を繋ぎ止めようとし、彼の為に一緒に行動してくれてもいる。
自己満足と言われればそれまで。
ただ、小鳥が羽ばたこうと勇気を振り絞った。
―――けど、彼女にだけは背負わせたくない。
小鳥の心の中はいつだって不安だったに違いない。
もし、全てをさらけ出して小鳥が責められるようなら瑚太朗は守ろう。
そして、皆にも分かって貰う。
こうして小鳥の話を静かにだが耳を傾けてくれている。
聞く耳を持つ何よりの証明だ。
小鳥の話を受けた面々は押し黙る。
全てを知る瑚太朗と篝は横に立ったままだ。
小鳥は胸の辺りで両手をぎゅっと握り締める。
「あの、小鳥」
そして、彼女への言葉が掛けられる。
まず口を開いたのはちはやだ。
「えっと、難しくて良く分からないですけれど…………瑚太朗は小鳥のおかげで生きてるって事ですか?」
等と、ちはやは言い出した。
彼女なりに頭を回転させながら言葉を発する。
小鳥はポカンとする。
問い詰められるかと思っていたが、まさかすぎるちはやからの問い掛け。
しかも、それは彼女だけに留まらない。
「ふむ。神戸が居たからこそ、瑚太朗はこうして生きていられる訳だ」
「そうだな。コトリは凄い」
「瑚太朗と私達を繋いでくれたのは他ならない神戸よ」
ルチア、静流、朱音――――この3人も小鳥の行いに糾弾をするつもりは皆無だ。
むしろ、瑚太朗の命を繋ぎ止めた事へ感謝しているようだ。
「えっ、と…………」
事態を上手く飲み込めないのは小鳥だけではない。
瑚太朗と篝とて同じ事だ。
他の面々は押し黙ってはいるが、何も言わないところを見ると意見は概ね同様らしい。
「ふふ、予想外って顔をしてるわね」
この場では年長者である西九条が普段のスマイル顔で告げる。
物腰も柔らかく、彼女もまた小鳥を糾弾するつもりは毛頭無い。
「どう、して?」
「何で疑問に思うのか、こっちが逆に聞きたい位だ」
まさかまさかのミドウにまで言われてしまう。
張本人である小鳥は元より、瑚太朗と篝まで首を傾げてばかり。
「分からないなら教えてやるよ。耳の穴をかっぽじって良く聞くんだな」
吉野が「やれやれ」と言った様相で切り出してくる。
息を吸い、彼は言葉を紡ぐ――――
「神戸、お前が『瑚太朗の命を繋いでくれたから、皆で居られる』――――って、俺の台詞に被せてくるな!! 」
吉野が紡ぐよりも先にルチア、ちはや、朱音が割り込んできた。
かっこつけようとしていたのに台詞を取られてしまった吉野は哀れなり。
「甚だ不本意ではありますが、天王寺瑚太朗が居なければ今も全員はバラバラでしたでしょう。ですから、それを繋ぎ止めてくれた神戸さんはこの状況の影の立役者とも言えます」
咲夜がもっと分かりやすく、全員の気持ちを代弁してくれた。
彼女の行いは確かに踏み外したものかもしれない。
けれど、全てを穿った目で見てはならない。
間接的でも、結果論でも、彼女の行動で救われた人達がこれだけ居るのだから。
「そう、だったか――――」
瑚太朗自身も全く以て気付かなかった。
いや、自分の事だから「気付けなかった」が正しいだろうか。
こうして他人からの意見を聞き、天王寺瑚太朗は結論に至れた。
天王寺瑚太朗が居たから全員は手を取り合えた――――この場の総意である。
それは先程から皆が遠回しに言っていたし、咲夜が分かりやすく説明してくれた。
「そんな、でも、けど…………」
「素直に受け取って良いのではないですか?」
狼狽する小鳥に篝はそう言葉を掛ける。
思わずポカンとなった。
意外と言えば意外な展開であった。
見方を変えれば燃えるシチュエーションだ。
更に瑚太朗からすると意外でも何でもない。
―――そうだな。篝も変わったんだよな。
〝良い記憶〟を求めてさ迷っていた篝。
しかし、彼女も様々な世界の旅路を経る事で考えを変えていった。
その結果こそが、今の言葉に込められている。
「でも、かがりん…………私の罪は、そう簡単には拭えない」
「先程から皆が言うように、あなたの行いは罪を生み出しただけではありません」
篝は言葉を紡ぐ。
しかし、小鳥はやはり浮かない顔だ。
「では、私からも一言」
ならばと、だめ押しとばかりに篝は切り出す。
「私を瑚太朗と、そして皆と引き合わせてくれた事に礼を言わせて下さい。
ありがとう――――――小鳥」
たった一言、シンプルだ。
言葉の内容は瑚太朗達…………否、小鳥を驚かせるものでもあった。
「今、私の名前……」
「私もホモサピエンスの礼儀に
『星の化身』である篝が星の住人の礼儀に倣う。
彼女にはそんな必要が無いのに同じ目線に立ってくれている。
「こう思考するのも、小鳥が私に懇願し、天王寺瑚太朗の命を繋いだ結果です」
天王寺瑚太朗との出会いが皆の運命を変えた。
それは人だけではない。
『星の化身』である篝も同様。
「誇りなさい神戸小鳥。あなたの行動は間違いなく、私に――――いえ、この場に居る人間に〝良い記憶〟を与えています」
ドルイドとして道具のように見ていない。
ホモサピエンスという括りの中でもない。
神戸小鳥という一個人として見てくれる。
この結果は天王寺瑚太朗がもたらしたものだ。
だが、最大の功労者は神戸小鳥にある。
「それにさ小鳥。お前は俺を半魔物化した事を悔いてるみたいだけど、大丈夫だ。死にはしない」
神戸小鳥と結ばれた世界で彼女は悔いていた。
もし、瑚太朗との契約が切れれば半分とは言えど魔物化した部分が消滅する事で命を落とすのでは無いかと危惧していた。
結果論、それは杞憂にしかならなかった。
そして、もう1つ――――
「俺がお前の事を想う気持ちも偽りの無いものだ。だから、小鳥の行いは罪なんかじゃ決してない」
「瑚太朗、君、私……私、は…………」
膝が地面に付き、肩を震わせると静かに小鳥の目から涙が溢れる。
「ありがとう、皆、ありがとう――――瑚太朗君」
皆の言葉に励まされ、神戸小鳥は涙を流す。
喜と哀が入り交じる涙。
思う存分に泣いて構わない。
彼女が更なる一歩を踏み出すのに必要な証だと思えるから。
如何でしたでしょうか?
ようやく出番を回す事が出来ました小鳥メインです。
小鳥にとって、ずっと胸につかえていたものを取り外す回となりました。
ゲーム本編ではこのイベントに関わるのは瑚太朗のみでした。
今回、皆との絆を紡ぐ事で罪を生んだだけではない事を伝えてみました。
天王寺瑚太朗との出会いがあったからこそ、全員で集まる事が出来た。
その繋がりを作ったMVPは間違いなく小鳥です。
今こそ、彼女に盛大な拍手を送りましょう。
そして、篝もまたホモサピエンスの考えに近付きつつあるのもポイント。
ファンディスクのHFやアニメで『星の化身』らしからぬ表情や感情も見せてくれましたから、彼女の変化も一緒に楽しんで下さい。
はてさて、これからどうなるのか。
では、また次回。