深夜にごっつ美味いラーメン屋があるという噂が、ここ風祭市に広がっている。
さて、俺もそんな噂に釣られた――というよりも心当たりがあった。
どうせ会おうと思っていたのだから、せっかくの機会だし会いに行こうと思い至ったのだ。
「という訳なんだ」
「だからといって出歩いて良いものなんですか?」
ラーメン屋を探す旅の途中で俺はちはやと出会ったのだ。
「ちはやだってラーメン食べたいから来たんだろ? ってか、咲夜はどうした?」
「うぅ……その通りです。咲夜は家で留守番をしています」
咲夜の事だからちはやを1人にするとは思えないんだが……まあ、過保護じゃないだけ良いか。
「でもどこでお店をやってるんですかね?」
「聞いた話なんだが、公園でやってるっぽいな」
聞いた話というか、経験上なんだがね。
「それじゃ早く行きましょう」
随分と目がキラキラしていらっしゃる。
まあ、俺も早く江坂さん達に会いたいし、全は急げだ。
目的の公園に着けば、はたしてラーメン屋は営業していた。
ちなみに、今の文章で使われた「はたして」は「やはり」とかの言葉と同じ意味である。たまに使うから覚えておくように。学生の皆も覚えておいて損はないぞ。
「どうも。失礼しま〜す」
っと、柄にもなく文法講座をしてる間にちはやがラーメン屋の暖簾のれんを潜っていた。
「ヘイ、らっしゃい!!」
俺も続いてラーメン屋に突入する。
「おや? カップルかい? いやはや、最近の若い奴らは見せ付けに来るのが趣味ってか」
白い歯を見せながら笑うおやっさん。やべ、名前忘れた。
「い、いや……カカカカカカップルじゃなくて――友達です!! ベストフレンドです!!」
ちはやが早口におやっさんの言った事を否定する。怒ってるからか、顔も少し赤い。
「まあ、座りや。今回はたどり着いた褒美にタダで食わせてやるよ!!」
相変わらず豪快な人だなぁ〜。
「本当ですか!? ありがとうございます!!」
顔を輝かせて席に着くちはや。少しは遠慮してやれよと願いつつ俺も席に座る。
ラーメン屋の構造は変わっていない。屋台型の真ん中には店主が、その周囲を囲う形でカウンター席がある。
「誰か来たのか?」
俺達とは反対側からおやっさんに尋ねる声がした。やっぱしというか、聞き覚えのある声だった。
店主の身体が邪魔をして見えないが、少し顔を横に向けるとそこに居る人物を目で確認できた。
「ル――委員長に、静流」
「て、天王寺!? それに鳳も――」
前回は静流だけだったんだけど、今回はルチアにちはやまで居るし……ちなみに静流はルチアの隣で黙々とラーメンを啜すすっていた。
「瑚太朗。それにちーも。こんばんは」
口に含んでいたラーメンを飲み込むと、静流が片手を上げて夜中の挨拶をしてくる。
「こんばんは静流」
「こんばんはです」
「なんでぇ、知り合いだったのかい?」
おやっさんが言いながら俺とちはやの分のラーメンを用意してくれた。
「「ありがとうございます」」
2人揃って礼を告げる。
そして無言でラーメンを食べ始める。
「ふむ、今日は千客万来のようだな」
来た!! 聞き覚えのある渋い声のする方へ顔を向ける。
「江坂さん」
ルチアが江坂さんに向けて敬意を払ってか、立ち上がっていた。
「そう畏まらないでくれ」
「す、すいません――つい」
つい、で畏まるもんなのか? ルチアがそういう事に細かいってのもあるんだろうけど。
「そちらの恋人2人は?」
「ぶふっ!?」
ちはやが驚きのあまり、口に含んでいたものを吐き出しそうになったが気合いで戻したようだ。
「ちはやだけでなく、実は委員長と静流とも付き合っている天王寺瑚太朗です」
「私は江坂だ。そこの2人の親代わりみたいなものだ」
やっぱり江坂さんは良い人だね。横から俺の肉の皮を引きちぎらんとする冗談の通じないルチアやちはやとは偉い違いだ。
見てみろ、静流なんて抱き締めたい位に顔を真っ赤にしてこちらをチラチラと横目で見ながらラーメンを食べてるぞ。
可愛い。実に可愛らし――ゲフンゲフン。失礼、俺とした事が静流の可愛らしさに暴走してしまったようだな。
「学生をしとるのかね?」
「えぇ、今は学生をしています。ルチアとちはやとは同級生で、静流は一個下です」
江坂さんの確認の意味を込めた問いに負けずと返してやる。
「そうか。2人が世話になっているようだな」
「いえ。むしろ私達は天王寺に迷惑を掛けられ――」
「ならば君にこれを授けよう」
良いのか? 言葉を遮られたルチアが阿修羅も裸足で逃げ出す程の厳つい顔を作っておられる。あとできちんとフォローしとこ。
江坂さんから渡されたのは名刺だった。
「何かあれば連絡をくれたまえ。できる事なら力になろう」
「ありがとうございます」
江坂さんに礼を告げると嵐のように過ぎ去って行った。
あとでルチアとちはやから問答をされたのは――予想内の範囲だ。