「居た。こっちだ!!」
「井上!! ぱに!!」
ぎるを肩に乗せ、俺が全力で森の中を駆ける。その甲斐あって、井上に追い付く事ができた。
「瑚太朗さん。早かったですね」
「お前らを2人だけにするには森は危ないからな」
尤も、見付けた代償に俺はかなりの体力を消耗する羽目になったが。
「こっちは黒い狼なんかに追われて大変だったのよ」
井上がいつものように、軽い口調で言う。しかしながら普段のキレはなく、不安げな様子が垣間見えた。
森の中でこれだけの非日常を目の当たりにし、普段通りでいるなんて難しい。
「とにかく、まずは休もう」
「休めそうな大木を見付けました。そこに行きましょう」
ぱにが俺達を先導してゆっくり飛行する。
ぱにが案内した先には大木の根本が浮き上がっており、自然の中でテントができあがっていた。
ぱにが先に入り、俺と井上とぎるが続いて入る。
「ふぅ〜、疲れた」
人が2人入っても大丈夫な程に広い。まるで俺達の為に作られたものみたいだ。
「時間は――夜中7時ね」
連絡はできないと知りつつも、時間を知りたいが為に井上は携帯を取り出す。
「じゃあ、今日はここで休もうぜ。俺も疲れちまった」
「そうね。まずは何かを食べましょう」
俺も井上もリュックを降ろし、中身を確認する。
「適当に食べる訳にもいかないから――これだけかな」
取り出したのはカロリーメイト。
「井上のは念のために取っておこう」
「懸命な判断ね。今日は食べて、ゆっくり寝ましょう」
井上も随分と慣れたものだ。ジャーナリストをやってると慣れるものなのか?
まあ、良いか。俺達はカロリーメイトを食べて寝る事にした。
翌朝――携帯で時刻を確認する。俺にしては早いな。6時だ。
「おはようございます。瑚太朗さん」
ボソボソと、小さな音量でぱにが朝の挨拶を交わしてくれる。
井上とぎるは眠っている。2人を起こさない配慮だろう。
「おはよう。悪いな、ひょっとして見張ってくれてたのか?」
「いえいえ、寝ていながらも見張りを続けてくれた瑚太朗さんに比べたら――」
「気付いてた?」
「はい。何となくですけれど」
ぱには随分と目敏いな。
「気をつけて下さいね。私達の中で戦う術を持っているのは瑚太朗さんだけですから」
「ああ、気をつけるさ」
身体の成長が止まる前の記憶も引き継いでるからな。傭兵時代の経験を引っ張り出すだけで助かるよ。
「うぅ……天王寺君?」
目を擦りながら井上が目を覚ます。
「まだ6時だ。疲れてるなら寝ていた方が良い」
「うん……なら、そうさせてもらおうかしら」
井上は再び眠りの世界へ落ちていく。
「しかし、不思議ですわね。私達に気付くと思っていたのですが……」
「そうだな――」
クリボイログがその気になれば俺達を見付けるのも容易い気がしたのだが……俺には何となくだけど理由が分かる。
ここは彼女の――篝の縄張りだ。ひょっとしたら篝が助けてくれたのかもしれない。
「それよりも朝飯の用意だ」
正確には朝に口にする物を考える事だ。
まあ、朝飯って考えるのが自然だし、何より気持ちの問題だ。
簡単に食べれるものを口にほお張って、森からの脱出に取り掛かる。
しかし、見渡す限り大地――じゃなくて、木が広がっている。
道がある訳でもなく、キツい山道が続くばかりだ。道なき道を歩く――という詩に出て来る一節が思い浮かぶ。
「険しいわね」
「まあ、分かっちゃいた事だけど……」
クリボイログもあれから襲い掛かる様子はない。むしろ気配を感じやしない。
井上も居る以上は襲い掛かられても困る訳だが。
「こっちですわ」
「こっちだぜ!!」
ぎるとぱにが同時に指差す先は同じだった。
「ん? あれって……」
井上が目を凝らしながら遠くを見ている。
「街……だぜ」
「嘘でしょ?」
ぎるが言った事は井上には到底信じられなかったようだ。
かく言う俺も遠くに映るものが町並みである事は判断が着くのだが……
「行くだけ行ってみるか?」
「そうね。何か情報があるなら欲しいものね。それにそこの妖精さん達の見解だとあそこは通らなくちゃいけないみたいだもの」
恐らくあそこは十中八九ガイアの持ち物だろう。
いつの間にか圧縮空間に足を踏み入れてたようだが……裏を返せば帰れるチャンスがある。
理想としてはちはやだが、朱音にでも会えれば誤魔化しようはある。
他の奴だったらとんでもない事になるが……えぇい!! ままよ!!
俺達は遠くに見える街に針路を決定した。