「風祭市にそっくりね」
「そうだな」
井上が物珍しそうに裏の風祭市を見回す。
「人が居る様子もないし……妙ね」
ジャーナリストとやらの勘ってやつか? まあ、こんな状況なら誰でも怪しむか。
「集団で外出って訳じゃないでしょうしね。これはきな臭いわ」
「けど、何の為にこんなもんを作ったんだ?」
「そうですわね。風祭市に似せて作るなんて――」
ぎるとぱにが互いに思った疑問を口に出す。
「風祭市に似せて作る必要があったからじゃないかしら?」
顎に手を当てて、井上は自分の中で組み立てたロジックを形成する。どうやら“この偽の風祭市がある目的”に気付いたようだ。
「どういう事ですの?」
「あくまで仮説だけど……風祭市の人間がここに移動してきても不自由がないように――とか?」
井上の仮説は見事なまでに正解だ。けれど、情報が少ないから確信に至れないだけ。
「有り得るな。オカルトなら『恐怖の大王』なんかを恐れてシェルター作るとか仕出かしそうだ」
「全く……オカルトとかを信じすぎだっての」
井上は呆れた様子で灰色の天を見上げる。
「でも、ここまで清々しいまでに非現実的な事が起こると認めざるを得ないのよね」
今まで認めたくなかったものを認めざる事ができない状況に苦笑する。
悪いな井上。あとで埋め合わせしてやるから。
偽風祭市の探索は約2時間程で終了した。広さは風祭市と変わらない。ただ、風祭市と同じ広さがあるだけで、それ以上は壁に阻まれている。
本格的にガイアの根城に飛び込んでいるのを実感させられる。
本当は嫌だが……朱音に連絡を取ってみるか?
携帯を取り出しかけたが、それは思い止まる。
「瑚太朗さん。誰か来ますわ」
「多分、魔物使いだぜ」
ぱにとぎるが俺達にそう呼び掛ける。
「隠れるしかねぇか」
幸いにも勝手知ったる町並みだ。門のある塀の高い適当な家の敷地に入る(無論、門を乗り越えた)と身を潜める。
「来たぜ」
ぎるが言うと、指を唇に手を当てる。静かに――と想いを込めて言う。
門の隙間からギリギリに外の様子を伺う。幸いにも俺達から死角になる位置から黒いローブの人達が列を作って過ぎ去って行く。
これは――朱音信者の列か? 何にせよ、クリボイログを含めてミドウ達が手を出して来ないだろう。
これはラッキーだ……と言いたいところだが、残念な事にそうとも言い切れない。
だって、ここから出られなければ意味がない。
「井上……」
「なんとなく言いたい事は想像が付くわ。あの人達を追い掛けるんでしょ?」
さすがに分かっていらっしゃる。これもジャーナリストの勘ってやつか?
俺達は小声でこの後の展開を話し合い、列が見えなくなった頃に速歩きで追い掛ける。
気付かれない為に慎重に、忍び足で近付く。
俺は随分と手慣れたもので、井上に小声で指示を出しながら進む。
「一向に着く気配がないわね」
「そうだな」
ひょっとしてバレたか? いや、気付かれてはいないはずだ。
「天王寺君、あれ」
俺達はいつもなら人でごった返すビル付近に居た。
井上が指差す先には本来ならばないはずの電光掲示板があった。
そこに映し出されたのはローブ姿の人物。あの人は誰だ?
「ヤバい予感がする。行くぞ井上」
「えっ!? 天王寺君?」
井上が何やら言おうとした矢先だった。俺の悪い予感は的中する。
『この街にネズミが紛れ込んでいるわ。それを見付け次第――消しなさい』
その言葉が耳に届いた瞬間、俺は井上の手を引っ張って走り出した。
命懸けの鬼ごっこが始まる。