「居たぞ。こっちだ!!」
「くそ、見付かった」
井上の手を引っ張って、偽風祭市内を駆け回る。
この街を造ったのはあいつらだ。けど、風祭市と同じ街並みであるなら俺達にも分がある。
つまり、どちらの側にしてもアドバンテージがない。
いや、冷静に考えると向こう側に分がある。この街はガイアが所有しているのだ。魔物を放り込める向こうは俺達の動きを把握できるのだ。
「どうするんだよ?」
俺の頭にしがみつくぎるが訊いてくる。聞かれても俺にはどうしりゃ良いのか思い付かねえよ……。
「とにかく逃げるしかないですわよ」
騒ぐぎるに同じように頭に乗っかっているぱにが答えた。
「けど、このままじゃジリ貧になるだけね。捕まるのも時間の問題よ」
井上は冷静に現状を分析すると、近い未来に起こるだろう出来事を言う。
捕まる訳にはいかねえんだ。
どこかに出口があるはずなんだ。それさえ見付かれば……
「そこの2人と2匹」
偽風祭市内を駆け回る俺達に掛かる声。
ちょうどT字路に出たところで右側からフードを被ったローブの人物(声からして男だろう)だった。
けど今の声は……聞き覚えがあるぞ。
「こちらです。付いてきて下さい」
ローブの人物は踵きびすを返して走り出した。
「どうします?」
「行こう。このままじゃ、すぐに捕まる。どうせ捕まるなら付いて行ってみよう」
「そうね。虎穴に入らずんば虎児を得ずって言うし」
井上も俺の提案には賛成的だ。
俺達は謎の人物に付いていく。
ローブの男が言う通りに後を付いていくと、別に罠は何もなく敵と遭遇する事さえなかった。
「何で私達を助けてくれるの?」
井上が尤もな疑問を投げた。
しかし、ローブの男は会話のキャッチボールに応じずにいる。
「着いた」
公園ーー正確には公園に設置された男子トイレだった。
「まさか、ここにあるのか?」
俺が聞くと小さく首を縦にした。
井上もさすがに顔を真っ赤にさせている。
こんな非現実に放り込まれただけなのに、このような形で男子トイレに足を踏み入れる事になるとは思わなかっただろう。
「ああ、少し失礼」
ローブの男は悪びれた様子もなく、井上に近付くと指をオデコに当てた。
直後、井上は前へ倒れた。
「何をなさるのですか!!」
ぱにが喰って掛かろうとするのを手で制止する。
「瑚太朗さん!!」
ぱにが語気をあらげるのも無理はない。
俺はそれを無視してローブの男に問い掛ける。
「なあ、咲夜だろ?」
確信を持って問う。
俺の言葉に確信が籠ってるのに気付いたか、ローブの男は逡巡した後にフードを外した。
「気付きましたか? やりますね与太朗君」
「瑚太朗だ」
やはり、咲夜だ。このやり取りもいつも通りだ。
「ここを通れば外に出れます」
個室の奧の壁が人1人分の穴が空いている。
「やっぱりここは圧縮空間なのか?」
井上を背負いながら問う。
咲夜は答えるのではなく、頷くだけだった。
「そうか……ありがとう。また向こうで会おうぜ」
「えぇ、兄弟」
兄弟……それが聞けたのを嬉しく思いながら、圧縮空間をーー森の中を抜けるのだった。