俺はガーディアンの検査を受けて、今は念のためにとベッドに寝かされていた。
まあ、身体はルチアの毒に耐えられるように書き換えたから大丈夫なんだがな。
とりあえずは上半身を起こして「暇だ〜」と何度も繰り返しボヤいていた。
「天王寺……」
病室にルチアが恐る恐るといった感じに入室して、ベッドの横に椅子を置いて座る。
「身体は大丈夫なのか?」
「言っただろ委員長。俺は大丈夫だって」
「だ、だがな天王寺ーーもしもの事があったら……」
「心配するなって」
隣に座るルチアの頭に手を置いてーー撫でてやる。
「俺がルチアを置いて居なくなりはしないって」
「天、王……寺」
「瑚太朗で良いよ」
「瑚太朗……私、私はーー」
「あの〜、そろそろ良いかしら?」
ルチアが何か言おうとしたが、その前に誰かが部屋に入ってきた。
このタイミングで入ってくるとしたら、俺の記憶にはただ1人だけ。
「西九条先生……」
「こんにちは天王寺君」
西九条ーー俺の元同僚の能力者だ。
向こうは俺が覚えているという事実を知らないでいるが。
「西九条先生……天王寺は」
「分かってるわ。生徒だし、面識はあるから強く言うつもりもないわ」
「あの、これってどういう状況なのか……説明して貰えますよね?」
「おっと、忘れてたわね。答えはイエスよ」
しっかりしてくれよ。仮にも非日常を知らない人間だったら惚けて口にすらできないだろうぜ。
「こちらが一方的に言っていても仕方ないでしょうからーー天王寺君から質問はある?」
西九条なりの気の遣い方だろう。
状況把握ができない人間から話せば分からないところを払拭しつつ、会話もスムーズに進められるようにしてくれた。
まあ、お言葉に甘えるとしましょうか。
「やっぱり最初に聞きたいのは委員長や西九条先生の正体かな……」
「やっぱりそうなるわよね」
西九条は笑いながら、俺の問い掛けに頷いていた。
「私達はね、『ガーディアン』って組織に所属しているの」
「ガーディアン……守護者ですか。響きからして何かを悪の手先から守るってニュアンスみたいですけど」
「正解よ。とは言え、行ってる事はテロリストに近いと言っても差し支えないかもしれないわね」
「テロリスト……ですか」
そして西九条はガーディアンがどういう組織であるかを語る。
主に能力者と呼ばれる特殊な人間を集めて作られた組織であるという事を。
それは秘匿されるべき事柄である事を。
「さて、天王寺君にはここまで話したけれど最後に質問よ」
「質問ですか……何です?」
「天王寺君ーーガーディアンに入る気はないかしら?」
「ガーディアンに?」
まさかスカウトされるとは思わなかったぞ。
「どうして俺を誘うんですか?」
「う〜ん、君には秘めた力があると確信したからーーじゃ、駄目かしら?」
うん、本来なら納得できないだろう。
しかしながら、俺は全てを知ってしまっている。
それにいつかはガーディアンに取り入るつもりではいたのだ。
「まあ、対等であるなら……」
「対等? どんな風にかしら?」
「単純に委員長が得る情報を俺が知る事ができる事。まあ、一番は西九条先生が得る情報ですけど……」
「分かったわ。それなりに便宜は図るわ」
「西九条さん!!」
俺の話を呑もうとしている西九条にルチアは納得ができないでいるだろう。
まあ、実際に俺もルチアの立場なら同じ気持ちだったろうよ。
「良いのよ。あの教会は私達が本来なら立ち入らせないようにしなくちゃいけないのに立ち入りを許してしまった過失があるから」
俺が言うよりも先に西九条は種明かしをしてしまった。
話が進むなら構わないけど。
「あとは何を聞きたいかしら?」
「ガーディアンは何と戦っているんですか?」
「ガイアという組織よ」
西九条は重々しそうな口調で言った。
「ガイア……?」
「えぇ。まあ、今はそんな組織と戦ってるって認識だけで良いわ」
話はこれで終わりとばかりに切り上げて、どこかへ行こうとする。
「ちょっ、どこに行くんですか?」
ルチアが慌てたように問い掛けると西九条は普段よりも一層に笑みを強くした。
あっ、なんとなく想像ができた。
「恋人達の語らいに口を挟んでも仕方ないでしょ〜」
ああ、以前のクールな西九条が懐かしく思える。
ルチアは顔を真っ赤にして、餌を食べる鯉のように口をパクパクさせた。
「それじゃね〜」
バイバイと手を振って西九条は退室した。
やれやれ、相変わらずというかーーどちらかと言えば昔の西九条が懐かしい。
「こ、瑚太朗……その、なんだ」
ルチアはどうやら西九条の恥ずかしいから赤い顔をしてうつむいている。
可愛いと思ってしまうのは不謹慎だろうか。
「そうだ委員長。ルチアって名前を呼んで良いか?」
「え? あっ、ああ」
「よっしゃ!!」
以前は名前を呼んで良いって言われた時には格ゲー並みのコンボをもらったのを思い出す。
ああ、あの時はボロ雑巾のように転がったんだっけな。
やべ……涙が出てきた。
コホン、まあそれは置いておくとしよう。
「じゃあルチア。頼みがあるんだ」
俺が真剣な表情で言うものだからルチアもそれに倣って見てきた。
「これは軽蔑されるかもしれないーーけど、どうしても言いたいんだ。いや、言わなきゃいけない。俺だけじゃなくてルチアの為にも」
「そんな事はない!! 私は決して瑚太朗を軽蔑なんてしない」
「ありがとうルチア」
本当に心から感謝した。
そして、俺はとある事を告げる。
ルチアが軽蔑しないと言うから勇気を持って告白できる。
「頼む!! 明日提出する宿題を写させて!!」
「…………えっ!?」
ルチアは呆けた声を上げる。
「いや、実はアサヒハルカの無実を晴らすのに必死で宿題あるの忘れててやってないのを思い出しーー」
そこまで言って、ルチアが拳を握ってプルプルと震えている。
あ、あれ……何だか阿修羅が見えます。
「天王寺瑚太朗ぉぉぉおおおおおっ!! 期待させておいてそれかぁぁぁあああああっ!!」
「ゴボハァッ!!」
以前に喰らったコンボよりも凄まじいものだった。
ルチアの鉄拳が俺の顔面や腹部に突き刺さる。
ベッドから跳ね上がり、俺は落下中に幻覚を見た。
金髪に染めた少年が爽やかな笑顔で親指を立てていた。
後にこれを見ていた西九条が名付けた。
天王寺コンボーーと。