続きです。
“それ”は自分に巻き付いた鎖をようやくにほどいた。
実際には鎖なんてない。
鎖というのは単なる例えで、“それ”が縛られているのは世界という大規模な力が檻から放り出さなかった。
その檻を遂にぶち破り、外の世界へと飛び出す事ができるようになった。
「これで、ようやく会いに行ける」
まるで親を見付けた幼子が立ち上がるように見えた。
“それ”を戒めていた力は解かれた。
求めていたこの時を、待っていたこの時を、ようやくに動く事ができる。
「さあ、待っていて」
“それ”の居る空間は奇妙の一言に尽きる。
辺り一面は色鮮やかな花畑が広がり、頭上には数多の星を輝かせる夜空があった。
その中で一点、この空間全体を照らす満月。
“それ”は手を天高くに翳す。
手を向けていたのは夜空に浮かぶ満月だ。
まるでそれを操るかのように広げていた掌を閉じていく。
その直後に満月が紅く、紅く染まる。
突如として色鮮やかな花畑は呼応するように黒くなっていく
気付けば足下が消えて、“それ”は宙に浮かんでいた。
同時、夜空に輝いていた星も光を失う。
完全なる常闇が空を覆い尽くした。
暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い――――“それ”が動いただけで光の宿った世界は一瞬にして闇に覆われ尽くした。
ただ、紅く光る満月と“それ”のみを残して消え去った。
なんて哀しい世界か、なんと窮屈な世界か――だけども“それ”には全く無縁とも言えた。
何故なら“それ”には感情が欠落しているから。
でも、不思議と“それ”は笑っていた。
本来なら感情を持たぬ“それ”が「笑う」という表情を作り出す事が不可思議で仕方無い。
これだけではない。彼に会えるのだと思うだけで胸が踊る。
人間が言うところの「一喜一憂している」に当てはまる。
何故?――そのような感情を抱く自分が不思議で仕方無い。
それもこれも彼――天王寺瑚太朗を見ていたからだ。
彼を見ている内に“それ”は感化されたのだと納得した。
しかしながら、彼にはそれほどまでの魅力があるのかという疑問も降って湧いた。
「行こう。そうしたら分かるはず」
紅く光る満月へ飛び込んでいく。
“それ”が求める答えをきっと彼は知っている。
少年を取り巻く少女達が集まる理由と“それ”が一個人の人間に会いたがるのとイコールだとも思えてきた。
どうして彼に人が集まってくるのかを知りたい。
だから、その理由を知る為に会いに行こう。
「私にも〝良い記憶〟を――届けて」
この空間から消える瞬間、そう願いを込めて呟き――紅い満月の中へ飛び込む。
同時、空間も消滅をしたのだった。
年明け初投稿だというのに瑚太朗君の出番なしなのは勘弁。
そろそろここで出していた“それ”の存在も明らかに、そして瑚太朗の話を聞いたルチアと静流がどう動くのか……御期待下さい。
話の構成は既に出来てます。最終回までは決まってるんですが、如何せん過程が出来てなくて更新が亀並に鈍足気味です。
こんなんでも良ければお付き合い下さい。アドバイスもドンドン下さい!!