「天王寺瑚太朗君だよね?」
「え?」
朝早く、学校の廊下を歩いていると声を掛けられた。
なんとなく聞き覚えのある声で、彼女の正体は俺には容易に想像できた。
案の定、そこにはTHE凄腕カメラマン・井上様がいた。
「新聞部の井上って言うんだけど、少し時間良いかな?」
「…………まあ、良いけど」
逡巡したが、仕方ない。
朱音と会う口実になるしな。
その為のアイテム『何か書かれた紙』を取り出した。
「それじゃ質問。天王寺君が裏口入学したって話だけど本当なの?」
「1週間前に裏口から学校に入った記憶はあるぞ」
「そういう裏口じゃないって!!」
「ああ、賄賂を使って入学したかどうかの事か。最初からそう説明してくれよ」
「最初からそう言ってるからね?」
うむ。たまにはこういう冗談混じりのやり取りを井上とするのも面白い。
思い返せば井上とは冗談を言い合う暇はなかったからな。
「真実を言うと、裏口入学をした記憶は一切ない」
「ふ〜ん。シラを切るつもり?」
「そんなつもりは一ミクロンもない。俺は本当に真実しか言っていない。記事にはどうとでも書けばいい。どうせ嘘にならない範囲で書くつもりなんだろ?」
「……」
返す言葉もないようだ。
「けど覚えておけよ? 人の信用を得るという事は誰かしらを敵に回すのと同じだ。全員が全員賛同してくれる訳じゃない。他人の内容の場合は特にな」
「それくらいの覚悟はジャーナリストとして当然あるわよ」
即座に返された。
でも井上はこの方が一番良い。
「そうか。まあ、ほどほどにな」
「そうするわ」
井上は後ろを振り向きながらスカートのポケットに紙を入れる。
それを確認し、常人には捉えられぬ速度でポケットから紙を抜き取った。
バレずにスリができそうだ。
「まあ、こんなもんか」
教室に向かう。
気付けばHRを告げるチャイムが鳴っていた。
時は経って放課後。
「瑚太朗。その紙はなんなんです?」
後ろの席に座るちはやが尋ねてくる。
未だに前の学校の制服だ。
ちゃんと用意してやれよ咲夜。
「ああ、ちょっと気になる事があってさ」
「おや? 瑚太朗君の名前が書いてあるね」
小鳥がこちらに近寄って、紙の内容を見る。
「俺って良い子で有名だからな」
「ここに裏口入学って書いてあるよ?」
おぉぅふっ!? 何たるトラップ。
「ち、違うんだ〜」
「ほれほれ、白状しちまいな。ばっちゃんを悲しませたくなけりゃあね〜」
白雪姫を永遠の眠りに着かせようとする魔女みたいな言い草だ。
「まあ、それは置いておくとして――」
「スルーなんだ?」
「この『学園の魔女』って人に会いに行くの?」「え? そうだけど――何で分かったんだ?」
「赤線が引かれてるからじゃないですか?」
ちはやのご指摘通りに『学園の魔女』の下には赤の下線がある。
俺は書いてない。
って事は井上さんか。
「最近心霊現象っぽいのに襲われてるからな。藁にもすがる思いなんだ」
「面白そうだから私も行って良い?」
「なら私も行きます」
小鳥(職業・魔物使い)、ちはや(職業・魔物使い)の2人が瑚太朗(職業・勇者っぽい何か)のパーティーに加わった。
「場所は調べてあるし、行くか」
さて、『学園の魔女ボス』に会いに行きますか。
オカルト研究会の部室前に立つ。
ドアには鍵が掛かっていた。
「…………」
瑚太朗は呪文『秘密の裏技(こじ開ける)』を使った。
するとどうでしょう?
鍵のある部屋も関係ない。
簡単に扉が開いたのです。
「良いんですか?」
ドアの惨状に釘付けになるちはや。
「彼は犠牲になったんだ」
「何の犠牲ですか……」
「瑚太朗君のよまい言に付き合っちゃダメだよ。すぐ調子に乗るから」
「まあ実際何とかするだろ」
朱音なら直せそうだし。
「部屋は広いですね〜」
ちはやの第一声はそれだった。
お前はここに何度か来てなかったか?
「とりあえず、誰も居なさそうだし手紙だけ置いて帰るか」
内容は至ってシンプル『直接話がしたい』と書いておく。
悪用はしないだろうから連絡先も教えておく。
これでOK。
今日の用事は終わった。
また明日だな。