今回は短いです。
「居ない――」
涼やかな声が空っぽの室内で響いた。
“それ”が訪れたのはとある少年が寝床にしていた部屋だ。
訪れたのは良いが、生憎と目当ての人物は不在だった。
最後に見た時には部屋に居たので、手掛かりが少ない以上は知っているものを元手にするしかなかった。
「何処に――居る?」
辺りを見回しても目当てとなる人物は居ない。
外に出て、宙に浮いた。
一般人に“それ”を視認する事は不可能だ。
そして、常人には不可能な事をいとも簡単に成した“それ”は周辺の世界を見渡した。
しかしながら、上空から見下ろした世界からも少年は見付からない。
「会いたい」
唯一、“それ”が興味を持ったホモサピエンスだ。
そして、“それ”が唯一持っている欲求でもある。
会いたい――それこそが“それ”を突き動かす原動力だ。
だと言うのに、“それ”は目的を果たせずに苛立っていた。
本来は持ち得ない感情がある事を“それ”は気付いていなかった。
「確かめたい」
様々な運命を乗り越えてきた彼の事を知りたかった。
それだけなのだ。
「けれど、それが難しい……」
“それ”は初めて人間らしい文章を口に出していた。
当たり前のように思える事柄を“それ”にとっては初体験だ。
「今――」
“それ”は突然に感じ取った。
これは間違いなくアウロラの気配だ。
“それ”が決して見間違う筈もなかった。
「見付けた」
呟いた瞬間に周囲の空気が一瞬にして一変した。
“それ”が欲していたものを、探していたものを、遂に発見できたのだ。
その喜びを体現するかのように“それ”の内から湧き出ている不可思議な力――“それ”は気付けないが感情がもたらした力である。
「我を、拙者を、僕を、俺を、私を――見てくれ」
ゆったりとした口調で要求を告げる。
だけども、応えてくれる人は居なかった。
構わなかった。
何せ、問答がに事こそが当たり前に近かったから。
いや、それは言い過ぎだろう。
“それ”にとっては問答のやり取りの記憶はほとんどない――それこそが正しい答えなのでは?
つまり、もっと言えば――皆無ではないのだ。
ただうっすらと、ボンヤリと誰かがひたすらに話し掛けてきてくれていたような経験があった。
しかし、靄に掛かったように閉ざされている。
「会いに行く」
きっと、この靄を取り除けるのは彼しか居ない。
“それ”は歓喜に震え、目的の場所へと飛び立つ。
「今行く。待っていて、天王寺瑚太朗」
そして、世界が……運命が、秒針を進める。
その鍵を握る少年の名前は――天王寺瑚太朗なのであった。
さて、今回は“それ”についての話だったので短めでした。
勘の良い人は分かったかな?
ついに長らく放置気味になっていた“それ”と天王寺瑚太朗が対面する時が訪れそうです。
次回更新はできれば火曜か水曜には上げたいな~。
遅くとも土曜日までには上げます。
さて、前回も書きましたが物語もいよいよ終盤。
もうしばしお付き合い下さい。