白昼夢――デイドリームとも呼ばれる言葉。
目覚めている状態で見る現実味を帯びた非現実的な体験の事を指す。
瑚太朗の周囲で起きている事は毎回が非現実の嵐だ。
最近では現実と非現実の境が曖昧となっている。
しかし、今回ばかりは瑚太朗も非現実を目の当たりにしていると言えた。
眼前に立つもう1人の篝。
肌が黒く、格闘ゲームの2Pカラーみたいだなと思った。
だがしかし、そんな外見に惑わされない。
“それ”――否、彼女から発せられるプレッシャーは『鍵』としても申し分無い。
「お前は何者なんだ? どうして俺を狙う?」
瑚太朗は率先して篝と瓜二つの彼女に向き合う。
狙いが瑚太朗だと明言してる以上、最悪の場合は瑚太朗1人で何とかする。
「? 私は彼女。彼女は私」
彼女が指差した先には小鳥の隣に佇む篝。
「私は篝。別の名前が必要なら他の名前でも構わない」
名前に頓着はないようだ。
2人の篝が居るとなると、こちらとしても面倒な事になるのでありがたい。
「じゃあ、黒篝と呼ぼうか」
「お好きに」
黒篝だなんて言うと、腹黒い篝の略称に聞こえるようにも見えるが肌が黒いの意味だ。
決して皮肉を込めた訳ではない……決して。
「黒篝、お前は何処から来たんだ?」
「あそこ」
黒篝が指差したのは空だ。
何を言っているのかと突っ込もうとしたところで気付いた。
「まさか……“月か!?”」
瑚太朗が驚愕を孕んだ声音を出すと、黒篝は小さく頷いた。
それだけでハッキリした。
黒篝……彼女は月からやって来た篝だ。
天王寺瑚太朗は覚えている。
篝は“月にも存在していた。”
だが、今は小さな芽となっていて、実質的には地球にいる篝が主な行動を取っているのだと認識していたのを真っ向から否定される。
「私は今まで月で芽となり、動けなかった。ですが、芽となった私は“あそこ”からこの世界を見下ろしていた。
そして……あなたを見付けた」
黒篝は確かに瑚太朗を見て告げる。
“あそこ”――つまりは月の方から地球を見下ろしていたのだろう。
そして、瑚太朗の動向を今まで見てきた。
「そもそも、何で俺なんだ?」
億を超える人数の中から天王寺瑚太朗に絞り、観察対象としていたそもそもの理由はなんだ?
「あなたが……幾多の世界を歩んできたから」
黒篝の言葉に瑚太朗は身体を膠着させた。
これは瑚太朗、篝……そして事実を伝えた小鳥しか知らない事実だ。
黒篝は瑚太朗の事をきちんと理解し、幾多の未来を歩んできたのを知るから天王寺瑚太朗を指名したのだ。
(俺の事はきっと全部筒抜けだ)
瑚太朗は今度こそ黒篝の恐ろしさに身体を強張らせる。
天王寺瑚太朗が体験してきたあらゆる事柄を、黒篝は一緒に見てきたのだと言っているに等しい。
最も怖いのは――様々な世界を“見れるだけの力を持った黒篝本人だ。”
先程、天王寺瑚太朗を遠回しに「殺す」と断言した。
当たり前だが冗談でもないだろう。
そしてまた……“できると断言するだけの力を有している。”
瑚太朗はフラフラになった身体に鞭を打つ。
頭を回転させて周囲の状況の把握に取り組む。
まずミドウは瑚太朗に殴られた衝撃にプラスしてフォゴを戦闘不能にした事からしばらくは戦線には復帰できまい。
次いでテンマ、テンジンも動けはするが戦闘には向かない。
吉野、小鳥、ぎるとぱにも同じだ。
戦闘力だけなら篝の助力もあれば難関は突破できよう。
しかしながら……彼女をぶつけたところで何が起こるのか予想が全く出来ない。
となると……瑚太朗の双肩に掛かっている。
ミドウとの戦闘で集中力も体力も底を尽き欠けている。
更に言えば、辺り一面が火の海で囲まれている。
ピンチもピンチ――大ピンチだ。
(最悪のシチュエーション……でも)
考えようによってはこの「最悪」を「最善」に変換できるやも知れない。
(落ち着け……冷静に見極めるんだ)
瑚太朗は自分に言い聞かせる。
この場には自分だけではない、他の仲間の命もあるのだ。
それに瑚太朗1人の犠牲で済むような事でもないのは分かる。
突破口を発見しなければ黒篝から逃げ切るのは不可能。
「そういえば、この周りの炎が邪魔」
黒篝が呟くと同時にリボンが高速で動いた。
直後、周囲にあった“炎だけが消え失せた。”
嫌な汗が流れる。
黒篝は的確に“炎だけを見抜いて消し去ったのだ。”
「さあ、そろそろあなたを見せて」
黒篝は瑚太朗へ向けてリボンを伸ばす。
それはドリルの形状を取り――瑚太朗の左肩を貫いた。
「がっ、あああああ!!」
反応出来なかった。
万全ではなかった……いや、それは言い訳だ。
例え万全だったとして、避ける事は叶うまい。
それだけの鮮やかさ、速さがその一撃にはあった。
肩が焼けるように痛い……血で左肩口の服が赤く染まる。
「瑚太朗君!!」
小鳥が顔色を変えながら駆け寄ってくる。
「く、来るな!!」
苦痛を無理矢理に抑え込み、瑚太朗は大声をあげる。
彼女が来たところでこの盤は簡単には引っくり返らない。
小鳥は瑚太朗の大声に足を止めてしまう。
それで良い――瑚太朗は小鳥が死地へ来なかった事に安堵する。
「こ、の……」
痛覚を根性で捩じ込み、肩に未だに突き刺さるリボンを右手で掴む。
今自分が出せる全力でリボンを引き抜きに掛かる。
(やっ、べ……力が入らない……)
それに黒篝の力も強すぎる。
今の瑚太朗にはリボンをどうこうできる力は残されていない。
(いや、1つだけある)
黒篝を超えるだけの力を天王寺瑚太朗が得れば良い。
(そんな事をしたら間違いなく……)
天王寺瑚太朗は天王寺瑚太朗ではなくなる。
(それは……まだ駄目だ)
ここが踏ん張りどころ。
瑚太朗は奥歯を噛み締める。
「天王寺瑚太朗に危害を加えさせません」
凜然とした篝の声が轟いた。
直後、瑚太朗を貫いていたリボンを篝のミラクルリボンが切り裂いた。
「篝……?」
左肩を貫いていたリボンは消滅し、瑚太朗は風穴の空いた左肩を押さえ付ける。
それでも出血が止まるところはない。
「バカ、野郎……お前が出てきたら……」
「馬鹿はあなたです天王寺瑚太朗。あなたが倒れたらそれこそ終わりです」
篝が真っ直ぐに瑚太朗を睨む。
それを受けた瑚太朗は息を呑んだ。
「でも、お前だってあいつと戦ったらどうなるか……分からない、だろ」
息を整えながら瑚太朗も篝に何とか反論をした。
しかし、本当に取り返しのつかない事態が発生するかは瑚太朗の完全な推論でしかない。
「このままでは全滅なのは分からないのですか?」
「だが……」
瑚太朗はそれ以上は何も言えなかった。
全滅になる可能性がある――否、全滅を引き起こすのは必然と思えた。
(けど!! だからって、篝を放っておけないだろ!!)
心の中で勢い付けて言いたいが、彼が受けた傷は深い。
息をするのも、喋るのもキツい。
いや、厳しいと言うべきなのか。
「邪魔です……退きなさい」
黒篝は怒気を露にしていた。
瑚太朗との接触を邪魔された事に由来しよう。
「そうはいきません。天王寺瑚太朗には〝良い記憶〟を見せてもらう必要がありますから」
一方、篝も刺すような視線を止めない。
同じ存在同士――生まれた場所が違う『鍵』が睨みを利かせる。
「少なくとも良い事なんて1つもないだろ!!」
痛みも忘れて叫ぶ瑚太朗に篝は見向きもしない。
このままでは瑚太朗達を庇う篝の方が不利だ。
「いきます」
先手を打ったのは篝だった。
リボンを2つ、真っ直ぐに伸ばしていく。
単調な動きだが、出だしも早くてかなり速い。
瑚太朗の目からは「当たる」という確信も持てた。
しかしながら……それは叶わぬ夢となる。
「――――」
音もなく、黒篝もリボンを振るっていた。
篝のリボンに合わせて、下から掬い上げる。
アッパーの要領で篝側のリボンを真上に弾いた。
「なっ!?」
篝ではなく傍観していた瑚太朗の方が驚いた。
出だしも、タイミングも、速さも完璧だった――というのに、黒篝はそれを凌駕した。
「何をしているのです? 早く逃げなさい」
篝が苦悶の表情を作って、瑚太朗に言った。
戦いに魅入っていたのは確かだ。
しかし、瑚太朗はまだ満足に動けない。
「ぐっ」
立ち上がる度に左肩から走る痛みを奥歯を噛み締める事で押さえ付ける。
何とか立てはしたものの棒立ちの状態だ。
篝はそれに気付くと「失敗です」と自身の失策に舌打ちする。
「ほら天王寺、肩を貸せ」
「瑚太朗君」
いつの間なにか横まで着ていた吉野と小鳥が揃って瑚太朗の腕を自身の肩にまで回す。
篝が瑚太朗と黒篝の間に割って入った辺りから瑚太朗を助ける機会があると踏んでいた。
ようやく、近寄って助ける機会が生まれた。
「お、お前ら……危険だぞ」
「バカか!! こんなボロボロのお前を放ってなんておけるかよ!!」
吉野の怒号が飛んだ。
小鳥も同じ気持ちだったのか、力強く頷いた。
「そうだよ瑚太朗君。私達もかがりんと一緒だよ。瑚太朗君を助けたいの」
小鳥も確固たる意志を持って瑚太朗に告げた。
「天王寺瑚太朗。私達はまだお前を認めた訳ではないが……この局面をどう切り抜ける?」
後ろからミドウに肩を貸しているテンマとテンジンの姿があり、同時に瑚太朗に訊ねた。
この場を篝だけに任せる事には拒否をしたい。
だけど……結局は篝以外の適任者が居ないのも事実だ。
「行ってください天王寺瑚太朗!!」
篝は叫ぶと同時にリボンを力強く振るった。
対して黒篝も篝のリボンを相殺する動きで弾いた。
最早、篝を相手にしていないのが窺える。
「いい加減に飽きました」
途端、黒篝は篝に突き付けた。
それを聞いた時に瑚太朗は足首に違和感を感じた。
足首に視線を落とすと、リボンが巻き付いていた。
それが篝と黒篝――何れの物かを考える余地などない。
直後、瑚太朗の視界は逆さまになりながら宙へ投げられた。
「ど、わぁっ!?」
黒篝のリボンにより、宙吊りの状態にされる。
吉野と小鳥も必死に瑚太朗にしがみついたが、不意討ちに等しい事をされて身動きはほとんど取れなかった。
「瑚太朗!!」
篝が救助に向かおうとするが黒篝のリボンが篝の前を横切って行く手を阻む。
その間に瑚太朗を自分の真上へと移動させた。
無論、宙吊りのままで。
「では、彼を解剖させてもらいます」
「そんな訳に行くかよ!!」
瑚太朗はオーロラブレードを展開しようとして――
(作れない!?)
オーロラが弾けて消えた。
そうだ。もう瑚太朗は限界近くもアウロラを使っていた。
今、ついに限界が訪れたのだ。
「ここでは邪魔が入りますね。別の場所に行きましょう」
黒篝はそう宣言すると、瑚太朗を連れて身を翻し――
「残念ですが、そういう訳には行きません」
黒篝の頭上から声がすると……瑚太朗を吊るしていたリボンを断ち斬った。
落ちた瑚太朗を拾う断ち斬ったのとは違う陰。
瑚太朗を助けた者と、拾った者は黒篝との距離をすぐに取った。
「何をするのですか?」
不機嫌な色を見せる黒篝。
向けたのは瑚太朗を助けた2人だ。
「すいません。彼を連れていくのは私としては構わないのですがちはやさんが悲しむので手を出させていただきました」
黒い装束に身を包んだ青年――ちはやの使い魔、ガイア最強の魔物・咲夜が黒篝に言い放つ。
「コタローを連れていくのは許さない」
片や、怒気を孕んだ声音で敵を睨み付ける後輩の風紀委員。
下半身と肩付近の露出が高い黒のスーツに身を包んでいつもの眼帯を外してオッドアイを曝け出している。
ガーディアン最強の戦士・中津静流が一歩を踏み出す。
「2人とも……どうして?」
「ちはやさんに頼まれましたから」
「コタローを放ってなんておけないから、ずっと監視していた」
二者共に異なった返答。
しかし、瑚太朗のピンチに来てくれた事を嬉しく思わない筈はない――。
「さあ、ここからは……」
「私達が相手をする」
しかし、これは紛れもない現実だ。
ガイアとガーディアン――対立し合う組織の最強同士が肩を並べて立っていた。
どうも、少しやってしまったと感じている作者です。
最近は気落ちやら心配事やらが多くて筆が進まないかと思っていましたが案外そんな事はなかった。
むしろテンションを上げる事のできる展開だからこそ筆が進む。
きっと、この展開が終わったらペースが落ちそう。
というわけで、弱音の入ったコメントも交えてすいません。
さて、本編はいかがでしたでしょうか?
オリジナル作品、それとこことは別に毎日更新してる作品もあってクオリティが下がってないか心配です。
今回、やってしましましたよ。
もう1人の篝を「黒篝」と名付けています。
月に居た篝なので「月篝」にでもしようかと思ったんですが、なんとなくで却下しましたwww
さて、原作でも「月」と「地球」の2箇所に篝たんがいたようなそうでないようなアイマイミーマインな記憶力でやってしまいました。
ムーンとテラであったくらいだから大丈夫なはず。
それと周囲の炎は彼女の凄まじさを見せる為の伏線だったのだよ。
別に描写の邪魔になってめんどくさいとかじゃないぞ(震え声)
そしてそして、今回やってしましましたよパート2!!
静流と咲夜の最強同士がタッグを組んで登場です!!
ここんとこ咲夜さんには出番をあげてなかったですから。
ちはやと一緒に出す予定だったんですが、作者の脳内の黒篝さんがあまりにも強くなりすぎていたんで「ここはとびっきりの最強同士で出しちまおう!!」との理由と原作でも最強同士が絡む場面もなかったんで、せっかくと思ってこの2名をタッグで組ませてみました。
わりと異色だったかなと思ったんですが、やってみるとこれで筆が進む進む。
ぶっちゃけ、この展開は投稿前日にヴァイスシュヴァルツってカードゲームでRewrite構築してる時に2人のカード見て思い付いただけだったり(笑)
まあ、でも作者的には満足です。
もし「ああん? ちはやと咲夜がセットじゃないとか邪道だろ」とか「ルチアに踏まれたいのにいないのかよ!!」とか「朱音様のおっぱいを拝みたい」とか「しまこペロペロ」とか文句のある人がいたらすいません。
きちんとヒロインズの活躍の場は作ります……多分、めんどくさくならなければ
長々となりましたが、肝心の次回の予定更新日は来週の木曜日です。
ではまた。