前話の最後の部分には付け足しましたが「めんどくせえよ」って人の為に書いておきます。
ガーディアンにいる際に着ていた少し露出の高い黒い戦闘服です。
さて、では続きです。
静流と咲夜の登場に瑚太朗は元より全員が目を丸くしていた。
特にまだ全事情を把握できていない吉野の驚きは輪に掛けて凄かった。
「確か……風紀委員の奴だったか?」
「お前は……」
静流と吉野は会話した事がほとんどないが、瑚太朗を介して何度か顔合わせはした事がある。
ここは「俺がフォローしないと」と瑚太朗は声を振り絞る。
「彼は吉野晴彦……一級の中二病の戦士だ」
「そう……なのか?」
「違うわい!! この状況で平然と冗談が出てくるな!!」
瑚太朗の然程デタラメとも言えない紹介に静流はドン引きしている。
吉野は否定しているが……あながち間違いではないと小鳥も思っていたりする。
「それで瑚太朗君。彼女が敵ですか?」
お喋りに興じていた瑚太朗達をたしなめる意味で咲夜は強い口調で言い放った。
言っては悪いが咲夜と静流“だけでは”どうにもならないと踏んでいる。
「敵って言えるかは難しいかもな」
「命を狙われている発言されてんだぞ!! 敵だろ!!」
瑚太朗の煮えない言い方に吉野は怒鳴る。
そんな事は分かっている。
だが、黒篝は瑚太朗の命を奪いたいから行っているのか?
(それに……)
瑚太朗はとある出来事を思い出していた。
真の敵――それを“篝は知ってる筈だ。”
部活動で廃墟に侵入した時に見付けた篝からの手紙だ。
そこには『仇なす者』なる存在を教わった。
篝は黒篝を見て驚きを露にしていた。
敵の存在を知るなら“驚く理由は何処にある?”
(他に敵がいるんじゃねえか……)
そう、黒篝を除いた“誰か。”
別に存在する敵を瑚太朗は連想した。
「ともかく、彼女が君の命を狙う事に間違いはありません」
咲夜の指摘の通りだ。
黒篝は瑚太朗を狙っている。
当の本人は疲労と怪我で思うように動けない。
篝に無茶をさせられない。
やるとしたら――咲夜か静流になる。
「あいつから逃げるのも一苦労だぞ」
「それでもコタローがやるよりはマシ」
静流が一歩前に出る。
確かにコンディション最悪の瑚太朗がやるよりも来たばかりで体力の余りある静流と咲夜が適任だ。
黒篝から逃げる為には――。
「無駄話が過ぎましたね。来ますよ」
黒篝の動向を窺っていた咲夜が警告した。
いつまでものんびりとしている暇はない。
黒篝は右腕を伸ばす。
シュッ!! リボンが妨害を行った咲夜めがけて飛んでくる。
「喰らいませんよ」
咲夜は紙一重で横っ飛びで回避する。
その動きに一切の無駄はなく、即座に黒篝へとダッシュする。
一方の静流は瑚太朗に肩を貸している小鳥と吉野、ついでに身動きのほとんど取れないミドウ達の護衛だ。
「咲夜1人には荷が重いぞ」
「大丈夫」
瑚太朗が単独先行した咲夜の心配を言葉に出すが、静流はそれを無意味だと告げる。
そうだ。静流は身体能力の高さだけを武器にしていない。
彼女には体内で毒を生成する能力が備わっていた。
毒工場――その呼び名が相応しいと言える程だ。
ただ、黒篝に通用するかは話が180°変化する。
彼女に毒の類いが通用しないのは容易に想像できた。
「どうするつもりなんだ?」
「これだ」
言って取り出したのは短剣。
腰を落とし、静流は短剣を構える。
普段静流はナイフと体術を組み合わせた戦闘を主体としている。
マシンガンなどの重火器の扱いにも慣れてはいるだろうが、今回は機動力重視で軽装での参戦だ。
静流の選択に間違いがあるかと問われれば答えは自ずとNOになる。
今回、未知との敵の戦闘を行う。
重火器を用いて「身動きが取れません」ではお話にならない。
敵の攻撃の内容が分からないならひたすらに避けるしかないのだから。
「これを使って援護する」
身体能力が高く、超人と言っても静流の耐久力は普通の人間と然程変わらない(はず)。
少なくとも、黒篝の一撃が並大抵のものではないのは左肩を貫かれた瑚太朗が身をもって体験済みだ。
迂闊に近接戦闘を挑んで細切れにされてはジ・エンドである。
ここは魔物であり、静流に匹敵する力を有する咲夜の出番だ。
「はあ!!」
気合いと共に咲夜は自分に向かってくるリボンを避け、どうしても回避が不能なものは振り払う。
その際に力を込めるために無意識に言葉を発する。
実際、黒篝のリボンを避けるのは一苦労である上に咲夜が振り払うだけで腕が痺れるおまけ付き。
強敵――あの万能執事・ガイア最強の魔物などと言われる咲夜が心の底から黒篝を評した。
瞬時に自分だけで勝ちをもぎ取る事が難しい。
それどころか当初の目的の逃走さえ困難を極める。
確実に成功をさせるなら誰かが囮役を買うしかない。
(そうしたいのは山々なんですが……)
咲夜は苦虫を噛み――直後、瑚太朗の顔を思い浮かべて笑った。
きっと、“兄弟は咲夜の犠牲を許さない。”
悲しむのはちはやだけではない事をこの中で篝に次いで年上の大人が気付かない訳にはいかない。
(と、しますと……)
咲夜にできる事は一気に限られてくる。
「下がって」
静かな――だけども、確かな声が咲夜に届いた。
咲夜は進めていた足を止めて瞬時に後ろに下がる。
入れ替わり様に咲夜の背後から短剣が飛び出した。
狙いは黒篝。
静流が黒篝に狙いを定めて撃ち抜きに掛かったのだ。
「無駄です」
しかしながら、黒篝が操るリボンが短剣の到達を拒否した。
「今です!! 全力で走って!!」
短剣を弾く動作を行った隙を突いて咲夜が叫んだ。
小鳥と吉野は頷いて瑚太朗に肩を貸した状態で二人三脚の要領で走った。
静流は殿を務める。
「行かせません」
後ろに下がってくる咲夜の脇を通りすぎてリボンは瑚太朗を狙う。
しかし、そこには鉄壁のまさしく組織の名前に反しない
「させないのはこちらの台詞だ」
割って入った静流が今度はナイフを取り出してリボンを切り裂いた。
無論、黒篝のリボンを切り裂くのだから特注も特注。
体内で生成した『溶ける』の特性を持つ毒が塗ってある。
おかげでリボンは斬った部分から溶けていく。
欠点としてはナイフを振るうのと同時にしか扱えず、乱発をすればナイフの刃が先に悲鳴をあげる。
諸刃の刃ならぬ毒刃の刃か。
「さすが、良い動きをしますね」
「しかし、これだけでは足りない」
下がってきた咲夜は静流の横に立って称賛を贈る。
だが、静流は渋い顔で焦るように早口に告げた。
そう、黒篝には逆立ちしただけでは勝てない。
そもそものもくてきは逃走だ。
下手に刺激をし過ぎて目的を見誤ると今度は先に逃げた瑚太朗達に危害が飛ぶ。
「私は天王寺瑚太朗を追います。邪魔をしないでください」
「そういう訳には参りませんので」
「その通り」
咲夜は姿勢を低くし、静流は両手にナイフを逆手持ちして構えた。
「無力化させてもらいます」
段々と言葉巧みになっていく黒篝が大きく一歩を踏んだ。
実に軽快な音が辺りに響き、一瞬の内に咲夜と静流の間まで跳んできた。
「なっ!?」
「くっ!?」
咲夜は拳を、静流はナイフを同時に振るった。
黒篝はリボンを伸ばしてまずは静流のナイフに巻き付かせた。
そのまま力任せにナイフのみを真上に放る。
無防備となった静流に攻め入る事で咲夜の拳もついでのように回避し、静流の土手っ腹に蹴りを入れた。
静流よりも頭一つは低いはずの小柄な彼女が繰り出す一撃は見た目に反して重すぎた。
直撃を諸に喰らった静流の身体が『く』の字を描いて倒れた。
「おのれ!!」
身体の大きい咲夜は必然、上から下へ攻撃を繰り出す事が多くなる。
あったとして下から上である。
真横からの攻めが咲夜の身長さから封じられている。
その事を咲夜は自覚し……敵もまた見抜いている。
「はっ!!」
咲夜の拳は速さも重さもタイミングもずば抜けて良い。
しかしながら、黒篝はそれを嘲笑うように“手で受け止めた。”
「何っ!?」
「終わりですか?」
問い掛けながら黒篝は次なるアクションを起こす。
彼女が扱うアウロラを受け止めた手から放出した。
細く、尖端は鋭利である。
それが咲夜の右肩を貫いた――。
「ぐっ、まだです!!」
痛みに耐えながら咲夜は貫いたリボンを力任せに引っ張る。
綱引きのような引き合いはならず、黒篝の身体がこちらに飛んでくる。
今、ぶつかる訳にはいかないので咲夜は飛んでくる黒篝を避ける。
勢いを殺し切れずに瑚太朗達とは真逆の方向へ投げられた。
「今のうちに」
咲夜は静流に言うと頷きあい、未だに遠くへ逃げ切れていない一行の元にすぐに追い付けた。
「コタローは私が担ぐ」
「ではフードの彼は私が」
静流が瑚太朗を、咲夜がミドウを担いで逃げる事になった。
ミドウは渋々といった顔をしているが、状況が状況だけに咲夜の提案に従った。
瑚太朗との契約も理由の1つ。
吉野には悪いと思ったが、体力のある男なのだ。
自力で逃げる事位はして欲しい。
「では私が先導します。ついてきなさい」
篝が前に出る。
他の全員には視認できないのは相変わらずだ。
しかし、小鳥と咲夜には見えている。
「分かりました。お願いします」
咲夜は小声で篝に伝えると、彼女に付いていく形で走り出した。
「私の後に続いてください」
咲夜が全員へ大声で指示した。
咲夜達のおかげで逃走を行えるようにはなったが、予断を許さない状況は続く。
瑚太朗は背負ってくれている小さな背中に声を掛ける。
「静流、大丈夫か?」
「問題ない」
静流の言は強がりでも何でもなく、ただ純然たる事実のみを述べていた。
瑚太朗1人を担いで走っただけで息を上げる鍛え方は施されていない。
その事を安堵しながら瑚太朗は続ける。
「なあ、この後はどうするんだ?」
「一先ずは隠れてやり過ごす。その後に決める」
確かに静流の言う通りだ。
目下の目的は逃げ延び、生きる事である。
「と言うか、お前らはどうやって来たんだ? 周りは火の海だったし……第一にこの事は知らない筈だろ?」
「前者は後にて。後者に関しては連絡を貰いました」
ミドウを担ぎながらこちらも息を切らさずに走り続ける咲夜も答える。
彼は携帯を取り出してメールを見せた。
これから森に乗り込むから来て――簡素に書かれた文章だ。
そのメールの主は小鳥だ。
「はは、心配だったから……瑚太朗君はすぐに無茶をするしね」
小鳥は体力もキツいだろうに、しっかりと発言した。
彼女を叱りたいと思ったが、今こうして生きているのは間違いなく小鳥のおかげだ。
それを無下にしたくない。
「ありがとう小鳥」
「う、うん」
さて、感謝の念を告げるのはこの辺りで終わりだ。
眼下に迫る「黒篝からの逃走」の成功率は果てしなく低い。
「では、先程の前者の問いの答えを教えましょう」
瑚太朗の思い浮かべた疑念を晴らす為に咲夜は口を紡いだ。
咲夜達がどうやってここまで来たのかを示す回答だ。
「答えは……」
咲夜は篝の前方に出た。
そして、“姿が消えたのだ。”
「圧縮空間か!!」
瑚太朗が答えに辿り着いた。
なるほど、人目を阻める上に近付くのも難しくない。
全員が圧縮空間への入り口に飛び込む。
飛び込んだ先はさっきの森とは違って“生きた形跡は皆無だった。”
まさしくリバーシブル。
本当と偽物を引っくり返した世界が広がっていた。
「出入り口は念のために封鎖しておきましょう」
咲夜が目には見えない場所で何やら行っている。
ちなみに担いでいたミドウは地面に放置である。
少し可哀想になってきた。
「静流、降ろしてくれ」
「分かった」
瑚太朗も一安心とばかりに静流から降りる。
「つっ……」
左肩を貫かれ、出血は無意識の内に書換能力で抑えておいた。
だが、痛覚だけは消えていない。
「コタロー、大丈夫か?」
「大丈夫なの? 瑚太朗君」
静流と小鳥が同時に心配げな表情で瑚太朗に寄ってきた。
「大丈夫――」
「いえ、大丈夫ではないでしょう」
瑚太朗が安心をさせようと嘘を吐くよりも先に咲夜が言葉を遮った。
「先に手当てをしましょう。彼女がここにいつ来るとも知れないですから」
咲夜は瑚太朗の肩を掴んで何処に連れていこうかとしていた。
それが手当ての為なのは一目瞭然だが……男に運ばれるのは釈然としない瑚太朗だった。
さてさて、無事に逃げおおせる事はできましたがここでまた1つ疑問が出てきてしまいました。
果たして「仇なす者」の正体は誰なのでしょうか?
そんな謎を残しながらも次回はゆったりとした空気になるかも。
ラブコメの波動をビンビンに感じるやもしれません。
次回は来週の木曜から日曜の間です。
今回は曖昧ですいません。
お楽しみはこれからだ!!(言いたかっただけ)