Rewrite if   作:ゼガちゃん

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すみません。事情があって、次回の投稿は遅れます。

今週の金曜日までには投稿の予定です。



続きです。


千里朱音②

「うん。痛みは感じない」

 

瑚太朗は腕をグルグルと回しながら全身に痛覚が巡らない事を喜んでいた。

 

「念を押しておくけれど、治った訳じゃないわ。あくまで“感覚が麻痺しているだけ。”身体を騙しているだけなのだから」

 

「ああ、分かってる」

 

先程から朱音らしからぬ発言を苦笑しながら聞いていた。

でも、心の底から心配をしてくれている事を瑚太朗は嬉しく思っていた。

 

「じゃあ、さっさと戻りましょうか」

 

「良いのか? せっかく戻ってきたのに」

 

ガイアの本拠地こと「環境保護団体マーテル日本支部」は言わば朱音のホームだ。着替えなどの諸々の物もこの場所に置いてあろうに。

 

「良いのよ。ここを動かしているのは私ではないもの」

 

言われて瑚太朗は思い出していた。

環境保護団体マーテル――否、ガイアの親玉とも言える存在「加島桜(かしまさくら)」の事を。

聖女と呼ばれている。それ故に万物の理に通じており、魔物使いとしての力量は他の追随を許さなかった。反面、聖女を受け継いだが故に生命への嫌悪と憎悪に取り憑かれていた。

「月の世界」にいた篝を見付け出すだけではなく、魔物を送り込むだなんて芸当までやってのける。そして「月の世界」で瑚太朗達オカ研のメンバーと激闘を繰り広げた。しかし、干渉の代償として精神が壊れてしまい、聖女の感染能力に支障が出ていた。

そのおかげとも言うべきなのか、次代の聖女である朱音は加島桜ほど人類への憎しみは今までの瑚太朗の知るどの世界でも見せはしなかった。

っと、ここまで思い出していた瑚太朗は上の空となっていたようで、朱音に頬をつねられてようやくに意識を取り戻した。

 

「いっ、ててててっ!? や、止めてくれよ!!」

 

「さっきから話し掛けているのに応えないお前が悪いんじゃない」

 

朱音はそっぽを向きながら瑚太朗へのお仕置きを忘れない。

 

 

 

 

 

「随分と仲睦まじいじゃないか」

 

 

 

 

 

瞬間、朱音は瑚太朗の頬から手を放した。

同様に瑚太朗も話し掛けてきた男に目線をやった。

 

(こいつは……っ!!)

 

瑚太朗は「遂に会ってしまった」という気持ちと共に彼を見た。

このだだっ広い空間に土足で入り込んできた男――洲崎周一郎(すざきしゅういちろう)だったか。

マーテルの重鎮。元陸上自衛隊一等佐だ。魔物使いとしての能力は弱いものの、現代的思考による組織改革に着手して大きな成果を得ている。

だが、そんな彼は加島桜の守人であり恋人でもあったが、離別した筈だと記憶している。

 

(これまでの世界だと聖女会の権力を奪ったりして敵対関係にあったけど……)

 

今回はどうなのだろうか? 全部が全部ともにこれまでと同じだとは微塵も思ってはいない。

天王寺瑚太朗がアドバンテージとして持ち得ている情報が全て通用する時間は刻一刻と過ぎている。黒篝の登場などでいつ未知なる場所へ誘われるかは分かったものではない。

 

「ふむ、見掛けない顔だな?」

 

洲崎は朱音など一瞥せずに瑚太朗へと視線を巡らせた。

答えるべきか否か、朱音の方を横目で見てみると頷かれた。下手に誤魔化した所で朱音と一緒に居たのだから怪しまれるのは必然か。

 

「初めまして。天王寺瑚太朗と申します」

 

「これはご丁寧に。私は洲崎周一郎と言う。以後お見知り置きを」

 

瑚太朗の落ち着き払った態度に関心を示したらしいが、返した言葉の中身は瑚太朗を嘲笑するかのような意味合いが含まれていた。

それは瑚太朗もすぐに分かった事柄だが、気にしていても始まらないので全面的にスルーした。

 

「それにしても次期聖女候補たる者がこのような場所で男と逢瀬に励むとは……将来が心配でならないな」

 

「想像するだけなら誰にでも出来るわね。でもお生憎様、私はこいつに魔物使いとしての手解きをしてあげてたのよ」

 

朱音の口から出る嘘八百に瑚太朗は「は?」と言いそうになるのを堪えた。

洲崎なんかは「ほう? 聖女候補自ら?」などと言い出している。

 

「こいつは私の学校の後輩なのよ。魔物の事とか知っていてね。私の事も何処で調べたのか嗅ぎ付けて魔物使いとしての手解きをするように懇願してきたの」

 

朱音がしたい事がようやくに分かってきた。いや、よくよく考えれば分かる事だ。

これまでの通りに洲崎は聖女会側とは敵対しているのだ。なのに聖女候補の朱音が男と居るのを目撃し、根も葉もない噂を流されるのは困る。

しかし、天王寺瑚太朗というジョーカーがマーテル側に知られるのも恐い。下手をすると、知られたくない事を奴等に握られてしまう恐れがあった。かつて天王寺瑚太朗が在籍していた事、それが年齢と合致しない程に古い事なのだと。

幸いにも朱音はそれを知っていたので「魔物の事を知る学校の後輩」という立場をでっち上げた。瑚太朗が朱音に懇願して「魔物使いを目指している」と言えば、少なくとも朱音と関わり合いを持った“ただの魔物使い”だと認識してくれる。まだ、“手解きを受けているだけでどちらにも染まっていない魔物使いとして。”

 

「なるほど、でしたら次期聖女候補様の教授が出来ているのか……確かめさせて貰いたいですな」

 

洲崎の提案は瑚太朗達の心臓を鷲掴みにした。

先程のは完全なる方便。想定していた洲崎の返答ではあったが、朱音はどのように答えるのか?

 

「彼は才能としては皆無よ。動かせる魔物なんてたかが知れているわ」

 

「ですが、少し位なら操れるのでは?」

 

朱音の無難な回答にも洲崎は即座に切り返す。

これからやるべき事もある。瑚太朗は大きな溜め息を吐いた。

 

「分かりました。やりましょう」

 

言いながら瑚太朗はいつ使うのかと用意してあった手のひらより一回り大きい人形を取り出した。

 

「さっさと終わらせよう」

 

「でも瑚太朗……お前に出来るの?」

 

近付いて朱音は瑚太朗に耳打ちする。そんな彼女に瑚太朗は頷いた。

 

「まあ、小さいのなら動かせるから」

 

瑚太朗は以前にやった事を思い出す。命を使う感覚。自分の命でこの人形を動かすのだ。

最後に行ったのはいつだったのか――瑚太朗は頭の中で思い出しながら続けた。

 

「あっ」

 

「おや?」

 

朱音と洲崎が変化に反応した。起こった“変化”が何かというのは行動を起こしている瑚太朗が一番に理解している。

 

「う、動いた」

 

身体からの脱力感が半端ない。只でさえ自分は怪我人で、治りかけだと言うのに無茶をしてしまった。魔物を動かすのはそれだけの精神力……そして命を扱う。

しかもブランクまで重なっていて――彼が思っている以上に身体への負担は大きい。

 

「こ……これで、どうですか?」

 

息を切らしながら洲崎に確認してみる。彼は「ふむ」と言いながら瑚太朗を見やる。

 

「彼は今日始めたばかりなのかね?」

 

「ええ、そうよ。素人同然だったのをここまで持っていったのよ」

 

洲崎の質問に朱音は平然と嘘で塗り固められた肯定で返した。

 

「ふむ、だとしたら小さいとは言え人形を動かせるのは凄いな」

 

一朝一夕で出来る事ではないのを洲崎は知っている。

朱音の話では素人も同然らしい瑚太朗がここまで出来るようになったのは驚嘆に値する。少なくとも魔物使いとしての素質を天王寺瑚太朗が有している事を洲崎は知った。

 

「面白いものを見せてもらった。ありがとう。では近いうちに会おう」

 

洲崎はそう言い残すと退室した。

 

「ふう……何とか切り抜けた」

 

「切り抜けたじゃないわよ!!」

 

朱音の拳骨が瑚太朗の頭部を直撃する。

突然の出来事に頭を擦りながら恨みがましく朱音に顔を向けた。

 

「何するんだよ!?」

 

「お前は自分が怪我人だって事を分かってるの!? 私に任せてくれれば洲崎位は追い返したわ!!」

 

うっ……と、瑚太朗は言葉を詰まらせる。

つい先程に朱音に釘を刺されたばかりなのに、その釘をあっさりと抜いてしまった。

 

「ご、ごめん。あのままだと洲崎が朱音にあることないこと言うと思ったら黙ってられなくて……」

 

「えっ!?」

 

本日2度目の頬を赤くした。

 

「な、何よ……私の為だったの?」

 

「放っておけなくてさ」

 

「そう」

 

朱音は顔が「嬉しい」という感情に支配されている事が窺えた。

 

「朱音? どうかしたのか?」

 

「な、何でもないわ。さっさと行くわよ」

 

瑚太朗の手を掴み、朱音はこの部屋を後にするのだった。

 

 




いかがでしたでしょうか?

ぶっちゃけ聖女とかの存在をすっかり忘れていましたwww

さて、次回は来週の火曜日の予定です。
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