朱音宛の置き手紙を書いた翌朝。
俺はオカ研の部室に来ていた。
「ようやっと来なはったな〜」
出来損ないの京都民みたいな口調で独り言をしながらアンケート用紙を斜め読みする。
まだ心霊現象が起きてないけど……以前にあったし、あながち間違いじゃないもんね〜。
以前までの世界の俺を含めた非日常に当て嵌まる事柄を埋めていく。
最後に行き着いたのは――
「『変えられるとしたら世界と自分どちらを変えますか』――か。やっぱしあるのか」
どれを変えても何かを失ってきた事実を思い出す。
それなら、さ――
「これだろ」
俺はそんな理不尽をしたくない。させたくないと、そう願いを込めて。
「今の俺の回答だ」
少年漫画の主人公みたいなノリだな。
誰も居ない教室で言っても寂しさが増すだけだ。
さっさと行こう。
その日の夜に連絡は来た。
『深夜神聖なる部屋で待つ』
「前もこんなメールだったっけ?」
如何せんそういう事はあまり覚えていない。
ただ、言えるのは朱音とのコンタクトには成功の兆しがあるという事か。
そんな訳で深夜、俺は指定された場所へ向かう。
「途中描写書くのめんどくさい」と変な電波を受信し、気付けばオカ研の前に立っていた。
「さて、入るか」
この前と違ってドアは開かれていた。
室内は暗く、目が慣れなければ見る事が叶わないとさえ思えた。
けど、その心配はない。
舞台の役者にスポットライトが当てられるのと同じく、突然俺の目の前に現れた人物が青白く光る水晶をテーブルの上に置いて不敵に笑っていた。
不敵に笑っていたとは言うが、相手は黒いフードをしていて顔の下までは伺えない。
黒いフードをした人物は口元を吊り上げ、口を開いた。
「ようこそ迷える子羊よ、デプシーの館へ――」
「あ、暗いんで電気点けますね」
朱音のセリフを遮って入り口付近のスイッチを入れて電気を点ける。
「………………」
スッゴく睨まれてます。
いや、まあそうですよね?
「すいません。やっぱまずかったですか?」
「……もういいわ、さっさと本題に行きましょう」
毒を抜かれたようにうなだれる朱音。
「さて、お前のアンケートは読ませてもらったわ」
「どうでした?」
「このアンケートでハッキリしたわ。分かるのは――お前がバカという事よ」
まあ、そうだろうな〜。
最後の質問には馬鹿じゃね? と思える事を書いちまったし。
「『世界と自分を変えられるなら、両方を変える』ですものね。何? 夢見がちな中学生でもあるまいし」
「まあ、そう思うだろうけどさ」
俺は真剣に答える必要がある。
朱音が道を踏み外さない為にも――。
「俺はどっちか片方を選んで失うのは嫌なんだ。子供の我が儘なのも分かる。だけどさ。なきゃいけないんだ。少なくとも、それが実現可能な位の力はあると自負してる」
「なるほど、ね」
朱音は今の俺の言葉を吟味しているようだった。
「実力があるかは知らないけど、別に構わないわ」
「何が構わないんです?」
「このサークルに入る事よ」
おぉっ!? 何か知らないけど入れたぞ。
「名乗らなければね。私は『千里朱音
何で俺の名前を――とか思ったけど、そういえば手紙に名前を書いてたな〜。
「改めて天王寺瑚太朗です。よろしくお願いします会長」
ここに居る以上は懐かしい呼び名が相応しい。
「それじゃ、明日詳しい話を聞いてあげるから帰りなさい」
「もう帰らせるんですかい!!」
「私は忙しいのよ」
とか言いつつもパソコンが起動しているのは――突っ込まないでおきますか。
これから世話になる訳だしな。
「じゃあ……また明日来ます」
仕方ないと割り切って部室を出た。
サークルには入る事ができたが、学園から出る途中に警備員に見付かって壮絶な鬼ごっこをする羽目になるとはこの時の俺は知らなかった。