続きです
「さて、帰りましょう」
洲崎との一騒動を終え、もう「此処には用はない」と暗に告げている
瑚太朗も朱音の意見に賛成だ。瑚太朗の事が露見するのは百害あって一利なし。
「荷物とかは大丈夫なのか?」
「後で咲夜に取りに来させるわ。今は変に勘繰られない為にもさっさと出ましょう」
このマーテルには勘の良い連中がウジャウジャと居る。朱音にそう言われると、ボロを出してしまう前に出ていくのが好ましい。
入り口に差し迫った所で……それは叶わぬ願いだと瑚太朗と朱音は目にしてしまった。
「朱音様」
スーツを着た女性が入り口の前に立っていた。
「何か用かしら?」
「加島様がお呼びです」
加島――現聖女の彼女が呼んでいるという事はつまり、加島桜は朱音が来ている事に感付いているに他ならない。
「分かったわ」
逆らえない事だと思い、朱音は溜め息混じりに承諾した。
「じゃあ、お前は先に帰ってなさい」
呼び出すとすれば朱音だけ。聖女候補である朱音に危害を加えるとは思わない。
それが分かっているから朱音は瑚太朗に先に出るように促した。
(まあ、いざとなればマーテル位は敵に回してやる)
マーテルが朱音を閉じ込める真似をすれば瑚太朗はその全てを敵に回してでもぶっ潰す――そういう思考の下で動いている。
「いえ、彼にも来て頂きたいとの事です」
スーツの女性は頭を振って、瑚太朗にも来て欲しいと続けた。それが加島桜の希望だと……付け加えて。
「俺も……?」
「はい。加島様が朱音様と一緒に居る者も連れてきて欲しいとおっしゃっておりました」
聞き間違いかと思い、スーツの女性に訊ね直す。
しかし、聞き間違いでも何でもない事を瑚太朗に伝えてきた。
「分かりました……俺も行きます」
ここで拒んだ場合、逆に怪しまれる。
いや、朱音が此処に居る事に気付き、瑚太朗が側に居る事を知った上で呼び出したのだ。
虎穴に入らずんば虎児を得ず――危険は元より承知の上だ。
「まずは先に着替えさせて頂戴。彼にも服を」
「畏まりました」
スーツの女性は恭しく一礼をすると、携帯で連絡をしていた。
「私は部屋に居るわ。準備が出来たら呼ぶから」
そう言い残し、瑚太朗を伴ってこの場を後にした。
「はあ……面倒な事になったわね」
朱音は目に見えて溜め息を吐いている。
ここは朱音の自室。黒いワンピースに着替えていた。いつもの私服だ。
「にしても……俺まで着替える必要があるか?」
瑚太朗は執事服を身に纏う。
「他に服が無かったのよ。それに着ていた服は結構くたびれていたわよ」
ミドウ達との戦いからここまでほぼぶっ通しだ。
服がボロボロなのを、鳳さん家の万能執事が応急措置で直してはくれていた。だが、あくまで応急措置なので結局は直った訳じゃない。
だからこそ、代わりの服を貸してくれるのは喜ばしい。例え、執事服だとしても。
「良いじゃない。わりと似合ってるわよ」
瑚太朗の様子を見ながら感想を述べる朱音。
執事服なんて普段から着るものでもないから複雑ではあるが……まあ、わざわざ好意的な感想を言っているのを無下にしたくはない。
「ありがとうな」
「私は率直な感想を言ったまでよ」
褒めてくれた事を瑚太朗は素直に喜ぶ。
朱音は礼を言われた事が恥ずかしくなったのか、そっぽを向いて答えた。
「でも加島桜との対談は緊張するな~」
瑚太朗は思い出すだけで身震いしてきた。
天王寺瑚太朗が怪我をせずに“正しい時間の中で生きてきた世界。”そこで瑚太朗は加島桜と対談した。
その時には加島桜の若さも手伝って、雰囲気に呑み込まれそうになった。そんな今は経験を積んだ彼女との一対一で話すとなると……逃げたくなってくる。
「やっぱ帰らね?」
「何を急に弱気になっているのよ」
「だって加島桜って怖いんだもんー」
子供みたいな我儘を突然に言い出し、瑚太朗は両腕で自分を抱き締めてクネクネとし出した。
正直に言わせてもらおう。気色悪いと。
「瑚太朗……」
「わ、悪い。悪乗りし過ぎた」
朱音の刺さんとせんばかりの視線に瑚太朗は冷や汗を流しながら謝った。
「そんなに不安なら、この局面を乗りきったら瑚太朗に良い事をさせてあげるわよ」
「っ!? 今の言葉……マジですか!?」
朱音の口から、おおよそ検討も付かない言葉が飛び出した。
そのような素敵な日本語が、よもや朱音のような美少女から言い出すだなんて……
「勿論、私に可能な事限定よ」
「OKさ。さあ、さっさと加島桜を黙らせて帰ろうか」
さっきまでとは打って変わった姿。
目に「おっぱい」の文字が浮かんで見えたのは朱音の気のせいだと思いたい。
頭を抱えたくなるが……当面の危機を脱する。
これから、加島桜と会わねばならない。
「行くわよ」
「いつでも来い!!」
その為の戦いの舞台へ――これから2人は上がる。
いかがでしたでしょうか?
遂に加島桜と対面
次回は来週の土曜日の予定です