続きです。
瑚太朗は
今身体能力を上げたとして、他に必要な強化が来られても困るからだ。
「逃げるぞ!!」
「ちょっ……っ!?」
身体能力の高さを利用して朱音を背負って、回れ右をする。
扉を蹴飛ばし、この場を離れる。三十六計逃げるが勝ちだ。
「良い判断……だけど」
出る間際に加島桜は意味ありげな言葉を残す。それを理解したのはほぼ一瞬だった。
「っ!?」
瑚太朗の足は思わず止まる。目の前には黒犬を連れたマーテル……否、ガイアの構成員が立ちはだかる。
狭い廊下、退路は後ろ……だが、加島桜の魔物が迫ってくる。前門の虎、後門の狼だ。
「こうなりゃ……」
瑚太朗はオーロラのハンマーを展開する。
「せい!!」
壁に思いっきり叩き付けて……破壊した。人の部屋だったようだが、知った事ではない。
「お邪魔します!!」
瑚太朗は即座に飛び込むと再び壁を壊して進む。一度壊すと廊下が出てきた。
「瑚太朗、右よ!!」
「了解!!」
現状、マーテルを敵に回している。そしてここはマーテルという組織の真っ直中。助かるにはマーテルを知る朱音の指示に従って脱出する事だ。
「くっ!!」
だが、簡単にはいかない。瑚太朗達の狙いはバレているのだから先回りされるのは当然だった。
「正規の出口から出るのは難しいわ!!」
「なら、他の方法だ!!」
瑚太朗は廊下を駆けていたが足を止める。
背後から追い掛けてくる黒犬を引き連れたガイアのメンバーがいる。
「しっかり掴まっててくれ!!」
瑚太朗は朱音にそう言葉を与え、敵の群れへと突っ込む。
右手にはオーロラブレード……ただし、極限まで縮めたものである。
「はあ!!」
瑚太朗は強く地面を踏みつけて右腕を振るった。同時にオーロラは伸びていき、黒犬だけを切り裂いた。
使役する魔物だけを倒せば、術者は無力に近い。
こんな器用な真似が出来たものだと自画自賛している。
「退け!!」
使役する魔物を失った術者が呆然とする間に押し退ける。
「よし、突破できた」
「力業過ぎるわよ!!」
背負われている朱音は生きた心地はしまい。
「悪い。でも、こんな事は後でもあると思う」
瑚太朗の言う事は的を射ていた。敵は今後も先回りして行く手を阻むのだ。今のような強引な手段で突破できるならしておきたい。
「なんせ、この建物の全員が敵なんだから!!」
瑚太朗は苦虫を噛みながら言った。
キッパリと袂を別つ宣言をした瑚太朗達を誰が助けてくれる?
「四面楚歌の状況だ。早急に出たいってのに……」
次から次へと襲い来る追手の数は瑚太朗達の体力だけでなく、精神力を削っていくのだ。
「多少手荒な事になるのは仕方無い」
「まあ、捕まるよりはマシよね」
朱音の同意も得られたところでどうするのかを決めなくては。
まだ敵の攻撃の手は緩い。だけど、これがいつ激しさを増すのかは分からない。
(こうやって気を持たせるだけでも精神的に来る)
ギリッと歯軋りをしてしまう。
壁を壊したりしてショートカットしながら移動を繰り返してはいるものの……常に先回りされている。
あとはもう堂々巡り。完全に加島桜の敷いたレールの上をグルグルと回っている。
「まずは身を隠しましょう。このままだと体力切れでアウトよ」
休憩の意味合いも込めて言ってはくれているのだろう。
だけど、身を休められる場所がこの辺りにあるとは思えない。
「そこを右に曲がって!!」
「はいよ!!」
今は朱音を信じる。
足に力を込めて、周囲に気を配りながらゆっくりと歩いていく。今は人の気配もないので休みがてら歩いているのだ。
「そこに扉があるでしょ? 入って」
「あ、ああ」
言われるがままに扉を開き、部屋に入った。
走り回った結果に忘れていたが、先程に朱音に魔物を使役して貰った体育館並みの広さの部屋だ。誰も居ないのを確認し、一息ついた。
「降ろして頂戴」
彼女に指示されるままに降ろす。
朱音は降りると同時に部屋の隅へと寄っていく。壁しかない場所に手を当てて、押したのだ。
すると、押しドアよろしく壁が動いた。
「ふふ、私しか知らない秘密の部屋よ」
魔女は不適に笑いながら瑚太朗を誘った。
さすが――と思いながら、瑚太朗は彼女に続いた。
朱音の秘密の部屋と言うからパソコンなんかがあるのかと思いきや、意外や意外で何もないのだ。
こんな現代の技術を結集したものがない場所に朱音が居座るだなんて瑚太朗には考えられない。
「何もないでしょ?」
「あ、ああ……」
見透かしたように……いや、普段の朱音を知る者からすれば分かってしまう反応だ。
「ここは造って間もないというのもあるわ。本当は部室みたいにしたいのだけれど」
「秘密の部屋まで俺の部屋以上のグレードにする気ですか!?」
ブルジョア発言が瑚太朗の精神を鉋で削り取っていく。
「当面は瑚太朗。どうするの?」
「脱出……って言いたいんだけど、人の居ない出口に心当たりは?」
朱音を頼る他ない。
マーテルの細部まで知らない瑚太朗より、裏事情まで網羅している朱音にしか頼みの綱は見付からなかった。
「残念だけれど、そんな出口は造った方が早いわ」
「だよなー」
大きく落胆の色を見せたのは言うまでもなかろう。
八方塞がりだ。
「でも……何とかならなくはないわ」
部屋の壁を軽く叩く。
「実はここを真っ直ぐに破壊していけば……出口に着けるの」
破壊行動を前提とした行為――だが、瑚太朗達には元より選択肢などあってないようなものだ。
「よし!! やろう!!」
再び目に強い光が戻る。
瑚太朗達にはどのみち選択肢はないのだ。
尺の都合であと何回かに分けるかもしれません。
終盤とか言っといて、まだまだ続きそうな予感が……
次回の更新は結構空いて再来週の月曜日になります。