続きです。
朱音の手を引っ張りながら瑚太朗はマーテル内を歩いていた。
津久野を退けた扉の向こうは“表側のマーテルの建物だった。”
魔物とは無縁の、宗教としてマーテルを崇拝する人達が集まった場所だ。
「此処なら連中もむやみやたらに手を出せないだろ」
言いながら瑚太朗は素早く携帯を操作してメールを打っていた。
念のために援軍を呼んでおこうと、ちはやとルチアに一報を送ったのだ。
先程までは電波が1本も立たず、助けを期待できない事態に陥っていたが過去の話だ。
「そうね。表立っては魔物の使役は出来ない……けれど」
朱音が口ごもり、彼女の言わんとする事が伝わってくる。
当面の問題となるのは加島桜だ。彼女の鶴の一声で、瑚太朗達が校内放送よろしく呼び出しを受ければ赴かざるを得ない。
最悪は警告を無視して脱走してしまう事だ。
「だから、こうして急いでる」
タイムリミットはほぼ皆無と言って良い。
焦りから早歩きになりながら出口へ向けて一歩一歩を進めていく。
「給食当番の癖に……えげつない」
「はい? 給食当番?」
瑚太朗の呟きは間近にいた朱音に届いた。
つい、いつだったかの世界でちはやが例えた「給食当番」の言葉が思い出された。
「いや、何でもない」
瑚太朗は「やらかしたな」と思いつつ、流すように返した。
朱音の方も然程気にした様子もない。
(あとは……)
思い付く限りの一番の懸念事項はあった。
果たして、どうなるのかという疑問の元に歩みは止めずにいる。瑚太朗の懸念は最悪の形で表れた。
表の出口の付近が騒がしかった。
「まさか……」
瑚太朗は冷や汗を流しながら近寄っていく。
少し遠巻きの位置から検問らしき事が行われていた。
警備員らしき人物が紙を片手に何度も出ようとする人の顔をチェックしていたのだ。
「これは……手が回っていると考えて良さそうね」
「ですね」
朱音の呟きに瑚太朗は大きく頷いた。
加島桜の手引きだと分かる。彼女は瑚太朗と朱音の顔を警備員に渡し、連れてくるよう頼まれているようだ。
「くそ……足止めを喰らってる場合じゃないのに……」
まごまごしていたら、いつ追っ手が如何なる手段でやって来るのか分かったものではない。
「まずは落ち着きましょう」
焦る瑚太朗を朱音がたしなめる。
こういう時、年上の瑚太朗が落ち着くべきなのだが。
「そう、だな」
焦燥感に駆られるだけで状況が好転するならいくらでもする。そんな事をしたって無意味なのだと思い出し、落ち着き払う。
「さて、どうするかだよな」
ちはやとルチアに助けを求めたが、外で待機するよう伝えてある。
騒動が起きればアウトとも言える。
「一番は変装をしてしまう事かしら」
「あとは……どうせバレるのを覚悟で強行突破ってのもある」
やろうと思えば警備員を殴り飛ばせる。
過激な内容だが、今の瑚太朗達に選択肢は殆どない。
「いえ、そこまでする必要はないわ」
しかし、朱音は首を横に振った。
「でも、どうするんだ?」
「頭が固いわよ。誰にでも分かる事じゃない」
朱音は呆れた声を出しながら今度は瑚太朗を引っ張る。
「行くわよ。どうせバレるのが早いか遅いかの違いだもの」
「お、おい……」
朱音に先導されて向かった先は――
「こ、ここは……」
瑚太朗は戦慄していた。
朱音に連れられたのは……トイレだった。しかも女子トイレという。
「窓から出れば一発じゃない」
「いや、正論なんだけども……」
女子トイレに連れて来なくとも良かったのではないかと思った。瑚太朗は男子トイレで良いでないか。
そう進言すると、
「駄目よ。それで各個撃破なんてされたら目も当てられないじゃない」
などと切り返された。
そんな風に言われては、瑚太朗も強く返せない。
「それじゃ、行くわよ」
中も確かめずに問答無用でトイレへ突撃する。
朱音に手を引っ張られる形で瑚太朗も続いたのだ。
トイレに突撃するなり、手を洗っている女性とバッタリ出会した。
「はっ……えっ!?」
あまりの出来事に頭が付いていかない女性。
「瑚太朗!!」
「ったく……分かったよ」
瑚太朗はバッと走り出して女性の背後に回り込む。
内心で「すまん」と謝りながら彼女の首を締めて気絶させる。
確実に気絶させるにはこの手段を用いた方が良い。
「ふう……」
何とか気絶させる事に成功したので、瑚太朗は安堵を覚える。
「あのさ……せめて中を確認してくれよ」
「嫌よ。声を出す暇すら与えられずに連れてかれるに決まってるわ」
朱音の言う事には一々正論があるものなので瑚太朗も強くは言えない。
「とにかく、急ぎましょう」
「そうだな」
男子として女子トイレに長居もしたくないのでそそくさとトイレの窓からマーテルを脱出したのだ。
如何でしたでしょうか?
適当な感じになってしまってすいません。
長居とのやり取りに関しては次回に持ち越しで。
次回は再来週の月曜日にと考えています。