続きです。
「上手くいったのかしら?」
加島桜は部下の淹れてくれた紅茶を飲みながら、その部下の女性に訊ねた。
「はい。手筈通りに“別の脱出経路から逃げ出させました”」
これまでの経緯は全て加島桜の手のひらの上だと言う事に他ならない。
出入り口になる所は、どんなに細かくとも潰しておくのは定石だ。
なのに、それを“あえて”せずに行ったという事は……
「あの、何故逃がしたのでしょうか?」
「一網打尽にする為に、ね」
泳がせ、他の仲間を呼び出させる――少なくとも根城を把握する為の策だ。
「一応、上空から見張ってもいるから逃げられる心配はないはず」
確実に敵を仕留めるべく、当主が自ら力を振るわれる。
加島桜はカラスの姿をした魔物を使役し、その目を通して瑚太朗達の行動を監視していた。
「申し訳ありません。私達がもっと力を引き出せれば……」
「あなた達はよくやっている。適材適所の使い処があるの」
加島桜はさして気にした様子は見られなかった。
瑚太朗と朱音との対話の中で得られた情報は実に大きすぎた。
(天王寺瑚太朗は別の世界、もしくはもっと別の“何かを用いて”この世界に来た……その事実を“誰にも話していない筈”)
この事実をつついた時、瑚太朗は隠そうとしたが明らかに空気が変わっていた。そして朱音は分からない様相だった。
これらの事から、天王寺瑚太朗は仲間にはこの件を伏せているに違いなかった。
(でも、何故?)
朱音からの信頼は得ているのは分かる。
だが、ならばこそ話しても良いのではないかと加島桜は思う。
(目的があったとして、協力を仰ぐのが一番)
難しければ難しい程、誰かしらに頼る。
考えられるとしたら……
(伝えられない事か、“伝えてはならない事か”)
前者では後ろめたい事があっての意味を含み、後者では仲間内にさえ話しづらい事が絡んでいると見れる。
(泳がせているだけでは真実は見えてこない)
何れにしても、こちらからのアクションを起こす必要がある。
「失礼します」
加島桜が思案に耽り始めた頃を見計らったかのように新たな来客者の姿。
「どうかしましたか?」
「申し訳ありません」
開口一番に謝罪の言葉から始まった事に加島桜は少なからず驚いていた。
「謝られても詳細が分からないのですが?」
「し、失礼しました」
深々と頭を下げて、伝達すべき事項を送る。
「見張っていた天王寺瑚太朗という少年と、聖女候補の千里朱音ですが……行方が掴めなくなりました」
「何ですって?」
まさかの内容に加島桜は訝しい声を出した。
彼女が今も変わらずに天王寺瑚太朗達の消息は掴んでいる。
自分が飛ばしたカラスも健在で、魔物を通じて瑚太朗達の動きは監視していた。
「私も魔物を使役していますが、彼の姿は見えていますよ?」
「はい。“それが偽者なのです”」
ますます意味が分からない。
天王寺瑚太朗が出てきたところから一度として、目を離した覚えがない。
「まさか……」
嬉々として行ったろう唯一に作っていた脱出経路……“その中の事を加島桜は知らない。”
窓から出てくる直前、天王寺瑚太朗は“本当に外に出たのか?”
「くっ!!」
素早くカラスを操作し、天王寺瑚太朗に突進させた。
だが、当たった感触は全くない。
「しまった!?」
念のために朱音の方にもカラスを飛ばしてみるが、瑚太朗と同じく触れもしない――まさしく幻影だ。
「天王寺達は何処に?」
「そこまでは……」
一杯食わされたとはこの事か。
天王寺瑚太朗もしくは朱音のどちらの発案であろうと関係ない。“逃がしてしまった事実に変わりないから
。”
「恐らく出ずに魔物を使役して脱出を行った筈」
「という事は……まだマーテル内に?」
「そこまでは断言できないけど……でも、居ないと思います」
敵地でいつまでも友人の家みたく屯をする理由も見付かるまい。
こちらが偽者を掴んでいる間に脱出をしたと言われてもおかしくはないのだ。
「仕方ありません。別の策を練りましょう」
ここは切り替え時だ。
いつまでも固執していたって、失われた時間は戻らないのだから。
いや~、本当にすいません。
色々とあって書き上げる事が出来ませんで。
次は再来週の日曜日を予定しています。