続きです。
ブレンダ・マクファーデンは既に風祭市に訪問をしていた。
彼女がこの街に訪れる可能性を考慮し、ガーディアンの精鋭が見張っている。
だけども、彼女の息が掛かった隊員も居る訳だ。
潜入は容易であった。
「アサヒハルカは本当にこの街に居るのね?」
「はい。間違いありません」
女性が部下であろう人員に問い掛ける。
部下からの報告に女性は年甲斐もなく小躍りしたくなった。
女性の名前はブレンダ・マクファーデン。
彼女は部下である研究員と共に手配していた研究所に身を潜めていた。
身を潜めるとは言っても、彼女自身がここ街に足を踏み入れたのはつい最近だ。
そうなった切っ掛けは此花ルチア――否、アサヒハルカの足取りを掴んだから。
その方法は至極単純。ガーディアンにフランスでの自身の居場所を突き止めさせる。その上でアサヒハルカをベースに造り上げたクローンをガーディアンに回収させた。
アサヒハルカのクローンの情報を得ようと、本人に訪ねに行く筈だ。そして、クローンそのものをアサヒハルカに会わせようとする。
あとはガーディアンの動向を逐一伺い、気を見て自分達も風祭に侵入をする。
「アサヒハルカのクローンを追っていけば本人にも会えるとは思ってはいたけれど……」
予想よりも早く会合の機会が訪れるようだ。
しかし、この街にはガーディアン以外にガイアの本拠地もある。
更に言うなら今回の『鍵』が住まう街でもある。
「では、アサヒハルカとそのクローンを手に入れるわよ」
その為の策をブレンダは打ち出す。
アサヒハルカとそのクローン――此花ルチアと此花アカリ、彼女らを研究対象としてしか見ていない。
「来たぞー!! ヅャスコ!!」
「何故こんな選択肢を取ったんだ……」
大型チェーン店「ヅャスコ」に着いた瑚太朗は両腕を大きく広げて叫ぶ。
そんな彼を奇異の目で見る通行人……視線が痛い。
彼に付き合っているのはルチアとアカリだ。
何やら瑚太朗が仕出かせばルチアが咎めるところだが別の事で悩まされているらしい。
ガーディアンでの一件からの帰りだった。
あの瑚太朗の提案は当然ながら蹴飛ばされた。
その後、西九条が瑚太朗に話があるとかで小一時間話しただけで終了、解散となった。
帰り道、瑚太朗が「寄りたいところはないか?」と聞いてきた。
ならばここは瑚太朗のセンスに任せたのが発端である。
彼は何故かホームセンターを選択したのだ。
「だってそこにヅャスコがあったから」
「小鳥みたいになってるぞ瑚太朗」
ヅャスコに並々ならぬ熱を入れるのは小鳥だけで十分だ。
「と、まあ冗談はさておき」
冗談なのか実は怪しいと睨んでいる。
そんなルチアの視線を受ける瑚太朗は受け流す。
「一応は用事があって来た訳だ」
「何か入り用?」
ホームセンターに来るのだから、アカリの質問は当たり前だった。
しかし、意外や意外に瑚太朗は指を振って口で「チッチッチッ」と否定してきた。
実際にやられると何となく苛つく。
「そうなんだ。足りてないものがあってさ」
何か無いものがあるのか疑問を抱くところだが、瑚太朗はそんなルチアとアカリを無視してヅャスコに突撃する。
彼に釣られる形で2人も後に続く。
「目当ては、あれだ!!」
店内に入って籠を持つと、すぐに園芸コーナーへと向かう。
そちらに何の目的があるのかはアカリ、ルチアの両名には不明だった。
瑚太朗は専用の裁ち鋏などを籠に入れる。
「小鳥に頼まれてさ。向こうでガーデニングしたいんだけど道具が無いんだと」
今回、こちらに戻ってきたのもガーデニングの用品を家から持ってくるのが主な目的らしい。
小鳥の事はまだ黒篝には知られていないので出歩いても大丈夫だろう。
瑚太朗の方も、篝の見解ではアウロラさえ使わなければ見付けるのは困難だと言う。
こうして何日も襲撃を受けないところを見る限りは篝の推測は的中しているのだと物語っていた。
「ミドウの様子も見に行きたいし、このあとに行ってみるか?」
「すまないが遠慮しておこう」
ルチアは首を横に振る。
そして、隣に立つアカリへと視線を移していた。
「アカリに聞きたい事があるんだな?」
「ああ」
どうして記憶の共有の件を黙っていたのか――きっと、ルチアの求める問い掛けはそれだ。
「なら、俺も付き合おう」
別に2人が喧嘩をするだなんて微塵も思わない。
だけども、2人の事情を理解している瑚太朗も居た方が良い。
「その話、こちらも参加させて貰えない?」
ホームセンター内で嫌に響く声があった。
それははっきりと瑚太朗達――より正確に言うならば、アカリとルチアへ向けられたものだ。
瑚太朗は最初から見向きもされていない……声を発した女性は、そのような態度を取っているように見えた。
―――こいつは……
遂に来たか、と瑚太朗は思った。
「マクファーデン司祭」
ルチアはブレンダ・マクファーデンを“あえて”そう呼んだ。
しかしながら、言葉の中と目付きには忌々しさを隠さない。
「久し振りね。アサヒハルカ――今は此花ルチアだったかしら?」
彼女が捨てた名をあえて口にする辺りは相変わらずだ。
かつての名前が出てきたところでルチアは動じなくなっていた。
アカリという存在がルチアの精神を逞しくさせたのだと瑚太朗は思った。
「……っ!?」
一方のアカリはブレンダの登場に酷く動揺した。
無理もない。此花ルチアにとっては忌むべき存在なのは頭では理解しているが……当時の非人道的行為に足がすくむのは道理。
彼女の感情は決して非難されない、あるべきものなのだ。
―――それにしても。
ホームセンターで仕掛けてきたのは何かしらの勝算を入れての事か?
瑚太朗は思わず身構える。
無意識に瑚太朗はブレンダを睨み付けながら辺りを警戒する。
彼女1人で来るような愚かな事をするだなんて思えない。
「あなた達に来て欲しい場所があるのよ」
「申し訳無いがマクファーデン司祭、私達はあなたには付いていかない」
断固として言い切る。
誰が好き好んで自分を実験材料に使った人物の元に戻るものか。
ルチアとの記憶を共有している以上、アカリの気持ちも一緒だ。
「そう。なら、仕方無いわ……実力行使よ」
ブレンダはスマフォを取り出す。
何かをするつもりなのは目に見えていた。
ルチアは人目も気にせずにブレンダに掴み掛かろうとした――
「残念、既に合図を出しているわ」
スマフォを取り出す事そのものが“合図だったのだ。”
棚の陰から銃武装した黒の覆面に防弾チョッキを装着した10人と、格好はそのままで武器を持たない5人が現れる。
武器を持たないのは……恐らく超人だ。
自分の能力を使うから武器は不要というスタンスのつもりなのだ。
「な、何だ!?」
その時、客がこちらの異様さに気付いたようだ。
『これより映画の撮影を行います。大変申し訳ありませんが、お客様はしばらく店外に出るようにお願いします』
その客がパニックに陥るのかと思われるよりも前に店内に放送が入る。
こんな根回しも行っていたのか。
他人を巻き込む事には何の躊躇いもないのだろうけれど、邪魔が入る展開だけは避けたいらしい。
「さて、店の人も出たようね」
ホームセンターに来ていた人も少なかったようだ。
開戦だとばかりにブレンダは告げてくる。
瑚太朗とルチア、そしてアカリも身構える。
ブレンダ一行との真っ向勝負――できるとは瑚太朗は微塵も思えずにいる。
如何でしたでしょうか?
色々とあって時間が取れませんでしたもので。
次回更新は再来週の月曜の予定です。