続きです。
ブレンダ・マクファーデンは今取調室に軟禁状態にある。
監視カメラの類いは部屋の至るところに設置されているが、特に拘束される様子もない。
椅子に座らされ、机を挟んで向かい側に座る人物を待つ。
既に着ていた服は西九条の手で脱がされ、今はジャージしかないことでそれを着させられている。
普段から白衣を着なれた彼女とは駆け離れた印象を受ける。
「よう」
そんな部屋へ1人の少年が姿を見せた。
天王寺瑚太朗――計算外の事柄を次々に呼び起こした張本人だ。
「何の用?」
「話がしたくてさ」
世間話の一件だとばかりに瑚太朗はブレンダの真向かいの椅子に腰掛ける。
「私を殺さなくて良いの?」
「正直に言えば腸煮えくり返ってる。でもよ、ここでお前を殺したって意味がないのは理解してる」
「人を殺したら自分も同じだからとか言わないわよね?」
「それもあるけど、そうしたら恩人に何も言えないだろ」
「恩人ですって?」
この少年は何を言い出す?
頭でも打ったのか? そう思える程に不可解な発言をする。
自分で言うのもあれだが、非人道的な実験を幾重も繰り返してきた。
そんな彼女への復讐者は居るとして、まさか恩人等と
「まあ、こんな事を言われるとは思ってもいなかっただろ? でも俺にとってはある意味事実だ」
訝しい視線をその身に受けながら、瑚太朗は堂々と告げた。
「お前が居たから俺は此花ルチアと此花アカリに会う事ができたんだから」
あまりにも予想外。
天王寺瑚太朗のような考えはブレンダを呆然とさせた。
そんなブレンダの戸惑いなど露も知らず、瑚太朗は言い切った。
「まあ、だからといってお前のやって来た研究を肯定するつもりがないのは俺も一緒だ」
「何が言いたいの?」
天王寺瑚太朗の話題がコロコロと変わる。
礼を述べたり、突如としてブレンダの行動を否定したり。
「慌てるな。話はここからだ」
瑚太朗は一拍程を置いて、言葉を続ける。
「お前に手を貸して貰いたい」
「は?」
ブレンダの研究を否定しておいて、どの口が「手を貸せ」と言う?
まるで意味が分からない。
「どうして手を貸す必要が? そもそも、あなたは私の研究を否定したじゃない」
「尤もな反論だな」
そんなものは言葉にしなくとも分かっていただろう。
考えなくとも至れる返答。
「お前の研究をこのまま捨てるのは勿体無いと思ったからだ」
「何? 内容でも変えて私に研究をしろと?」
「そうだ」
ブレンダ・マクファーデン程の頭脳を此処で捨て置くのは勿体無い。
これまで自分がしてきた事とは真逆――「利用する側」から「利用される側」への移行だ。
いつか付けが回ってくるだなんて思っていなかった。
このような形で、遠回しながらも申し出られるとは考えもしまい。
「どうする? このまま命をゴミ箱に投げ捨てるか?」
瑚太朗の続けざまの質問にブレンダは言葉を詰まらせる。
何故、真正面から「利用する」などと言う?
ただの馬鹿正直なのか? それとも……
「どんな、目的があるの?」
「話が早くて助かるな」
瑚太朗は満足そうに何度も頷く。
後、条件を突き付ける。
「魔物の研究をして欲しい」
「魔物って……魔物使いの?」
「そうそれ」
瑚太朗は ビシッ!! と指差して肯定した。
魔物を研究させる? そこに何の意図が?
「実は俺の元に魔物使いと超人が集まってる。しかもそれだけじゃなくて……」
最後までは告げず、妙な所で区切りを付ける。
「どうしたの? 続きは言わないの?」
ブレンダは訝しい目付きで瑚太朗を睨む。
そんな視線を受け流し、瑚太朗は濁した部分についてこう続けた。
「知りたきゃ俺に協力しろ」
「裏切るわよ?」
「いや、お前は“それで良い”」
珍妙な回答だった。
目玉が飛び出す――マンガに使われそうな表現を使いたくなる。
裏切ると告げて、それをあっさりと肯定してきた。
「むしろ裏切る腹積もりで……と言うか、こっちの視点で立たないからこそ頼みたいんだ」
味方ではない。
敵でもない。
第三者の視点からの依頼だ。
ブレンダ・マクファーデンが天王寺瑚太朗達に敵意を抱いてはいない。
純粋に研究対象として見ているのだ。
言ってしまえば狂っている。
だけど、それこそがブレンダ・マクファーデンの本質だ。
ある意味で賞賛したくなる。
ブレンダ・マクファーデンは誰にも味方せず、あろうことか敵対意思だって見せない。
こういった点では、本当に第三者としての意見を述べてくれやすい。
「協力しろ。裏切り前提でも構わない」
「初めて聞いたわよ。裏切っても良いから協力しろだなんて」
形振りかまっていられない――きっと、天王寺瑚太朗はそうなのだと確信が持てた。
「でもね。こっちだって知りたくもない情報だった場合の事を考えて断る選択肢もあるわ」
瑚太朗が話をはぐらかしたのは教えるべき事柄が無いからとも考えられる。
確かに――と、瑚太朗は内心で納得していた。
彼女の弁は尤もだ。
ならば、教える他にあるまい。
「なら、1つ」
人差し指を立てて、彼は情報を少しだけ開示する。
「俺は『鍵』の協力者でもある。彼女について、そこいらの奴よりは詳しい」
開示された部分はブレンダにとって驚きの塊だ。
誰も詳細についてほとんど知らない『鍵』――それを彼は知り得ている。
「嘘かどうか……どうせこのままだと捨てる命になるんだ。乗って確かめてみるのも一興じゃないか?」
「本当に……つくづく私に計算外を見せてくれる」
いや、これは計算外ではなくて埒外の範囲だ。
こんな少年が世界の裏側……しかも根幹となろう部分を知っている。
彼にはどんな秘密がある?
そもそも、彼は何者なのだ?
「面白いわ……乗ってあげる」
「そう来なくっちゃな」
今此処に、奇妙な関係が生まれた。
瑚太朗達が裏切られる事を前提とした奇妙な協力関係が……。
如何でしたでしょうか?
ミドウとの一件で察していた人も居たでしょうが、ブレンダと協力関係を結びます。
ただ、ブレンダ・マクファーデンは根っからのマッドサイエンティスト――瑚太朗側の人とは決して相容れないとは思っています。
だから協力関係と言っても「利害の一致」から裏切り、裏切られを“前提としている”のがミソです。
しかしながらブレンダ・マクファーデンは“敵対するつもりがない、”あくまで研究の為に邪魔があれば排除するといったスタンスにも見えます。
だから味方でも敵でもない、第三者としての意見を述べてくれやすいメリットもある。
普段では気付けない部分をブレンダ・マクファーデンはきっと提供してくれる……筈。
さて、様々な不安を抱えながら何処へ向かうのか?
次回の更新は再来週の予定です。