クロスアンジュ 因果律の戦士達   作:オービタル

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すいません間違えて予約よりも先に投稿してしまいました!!


第17話:サラとの再会

アンジュとタスクがドラゴンを従えた女性たちと出会って少し後、何処かへ向かって空を飛行するドラゴンの集団があった。そのうちの一体がヴィルキスとアレスを足で掴み、もう一体が身体からコンテナをぶら下げている。そのコンテナの中には

 

 

「何処に連れて行く気だろう…?」

 

タスクが呟いた。そう、アンジュたちご一行が収容されていたのだ。と、何かあったのかコンテナが揺れる。その衝撃に、軽い悲鳴と鳴き声を上げるアンジュとモモカとヴィヴィアン。タスクは慌ててアンジュの元に駆け寄った。

 

「ゴメン、ヴィヴィアン、モモカ」

 

「女の子が乗っているんだ、もっと丁寧に飛んでくれ!」

 

思わずヴィヴィアンとモモカにぶつかってしまったアンジュが謝り、タスクは外に向かって怒鳴る。が、聞こえることはないだろう。

 

「大丈夫だ、アンジュ」

 

一応釘を刺した後、タスクがアンジュに振り返る。

 

「えぇ?」

 

「例えここがどんな世界でも、俺が君を護るから」

 

そのやり取りが恥ずかしくて見ていられないのか、それとも、あたしはどうでもいいの? という不満からだろうか、ヴィヴィアンとモモカが両目を隠しながら軽く吼えた。

 

「そうね」

 

自分を落ち着かせるためだろうか肩に置かれたタスクの手を払い除けると、アンジュが口を開く。

 

「あいつら、私たちの言葉を喋ってたわ。話しさえ出来れば、この世界のことも何かわかるかもしれない…」

 

「あぁ…そ、そうだね…」

 

タスクは頷いたものの、何処か肩透かしを食ったように苦笑している。当然のように、アンジュはそれに気付いた。

 

「何よ?」

 

「あ、いや、いつものアンジュだなって…」

 

「はぁ? エッチ出来なくて欲求不満なの?」

 

何とも辛辣である。

 

「えっ?」

 

「いいところで邪魔をされたもんね」

 

次には蔑んだような表情になった。何処までも辛辣である。

 

「えっ!?ええええーっ!?いやっ」

 

「今はそんな場合じゃないってのに、ホントに男って…」

 

「姫様、その言い方は。」

 

「何よ?」

 

呆れたように吐き捨てたアンジュに、同意するかのようにヴィヴィアンが頷いた。と、またもコンテナ内に振動が走る。

 

「ちょ、ちょっと、何処触ってんのよ!」

 

「ふ、不可抗力だって!」

 

「何時まで発情してる気!?」

 

「そんな! してない、してないよ!」

 

「終了!閉店!お座り!」

 

「落ち着いて下さい!アンジュリーゼ様〜!」

 

アンジュに同意するかのようにヴィヴィアンがいななく。四人の仲を宥めようとするモモカ。そんなくんずほぐれつのドタバタ劇がコンテナ内で起こっているとは知る由もなく、ドラゴンの一団は目的地へ向かって飛んでいるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「着いたわ。出なさい」

 

くんずほぐれつのドタバタ劇の余韻も覚めやらぬ中でコンテナが開くと、先程の女性がそう言って一行を促した。その手に得物を持っているのがどうにも恐ろしいが。

言われるがままにアンジュたちが外に出ると、そこには今まで見たこともない光景がアンジュたちの目の前に広がっていた。長い階段の上に巨大な、何処からどう見ても和風建築の建物があったのである。もっともアンジュたちは、この建物が和風建築という工法・技法のものだとは知らないだろうが。

 

「大巫女様がお会いになる。こちらへ」

 

その機体を見て衝撃を受けるアンジュ。対照的に、素直にこちらの言うことにアンジュたちが従ったことで少し警戒を解いたのか、二人は得物を外した。そしてそれとほぼ時を同じくして、ヴィヴィアンが突然悲鳴のような鳴き声を上げると意識を失ったのだった。

 

「ヴィヴィアン!」

 

異変に気づいたアンジュがすぐに振り返る。何故こんなことになったかというと、アンジュからは見えない位置に、麻酔と思われる注射器が刺さっていたからだ。

そして脇から、数人の新たな顔ぶれがヴィヴィアンの元に走ってきた。

 

「ヴィヴィアンに何をしたの!」

 

アンジュが強く詰る。が、二人は外していた得物を構え直して威嚇した。それを見て、アンジュは悔しそうに唇を噛んで口を噤んだのだった。

 

 

 

 

 

『連れて参りました』

 

建物内に入り、彼女たちの言う“大巫女様”の御前までアンジュとタスクを言葉通り連れてきた二人が報告した。

 

「ご苦労」

 

アンジュたちの正面にいる、一番高い場所に鎮座している人物が労をねぎらった。御簾に隠れて姿こそ見えないものの、声質からそう年齢がいっていないことが推測される。しかしその座っている場所と、真っ先に口を開いたことから、彼女が二人の言う大巫女様であるのだろうということは容易に推察されるものだった。

 

「異界の女」

 

アンジュは不満そうに少し顔を上げ、

 

「それに、男か…」

 

タスクは緊張した面持ちで唾を飲んだ。

 

「名は何と申す」

 

尋問としてはある意味当然の質問をする。が、こういう真似をされて大人しくしていられるような性格のアンジュではない。

 

「人の名前を聞くときは、まず自分から名乗りなさいよ!」

 

この状況下で臆せずにそう言えるあたり、流石に肝が据わっている。あるいは長い皇族生活の影響かもしれない。が、いくら納得できなくてもこの場合の初手としてはあまり賢い選択ではないかもしれない。

案の定、御簾に姿を隠したその他の連中がザワザワとざわめきだしたからだ。

 

「大巫女様に何たる無礼!」

 

後ろの二人のうち、一人が激高して自分の得物に手を掛けた。

 

「アンジュ!」

 

タスクが窘める。まあ当然だろう。話し合いでいきなり喧嘩腰では纏まるものも纏まらない。だが、アンジュは不満そうな表情を崩さない。

 

「…特異点は開いておらぬはず。どうやってここに来た」

 

だが大巫女様は意に介する要素もなく、違う質問を投げかけた。自分の言葉を無視されたのが気に入らないのか、アンジュは不満そうな表情を隠そうとはしない。

 

「大巫女様の御前ぞ、答えよ!」

 

そして更にアンジュをイラつかせることに、他の連中も口々に質問を向け始めたのだった。

 

「あの機体、あれはお前が乗ってきたのか?」

 

「あのシルウィスの娘、どうしてそなたたちと一緒に「うるっさい!」」

 

元々高くないアンジュの沸点がすぐに噴火する。

 

「聞くなら一つずつにして! こっちだってわかんないことだらけなの! 大体ここは何処!? 今は何時!? 貴方たち何者!?」

 

「ちょ、ちょっとアンジュ!」

 

慌ててタスクが宥めようとする。そんなアンジュの態度に、御簾の向こうの人影が一つ楽しそうに口元に笑みを浮かべた。

 

「威勢のいいことで」

 

そしてそのまま立ち上がると、その影はゆっくりと御簾の先から姿を現した。

 

「!…貴方!」

 

引き続き不快な表情に染まりながらもアンジュが驚いたのは無理はない。何故なら、その姿には見覚えがあったからだ。そう、先程の人間たちによる侵攻の前に戦った人型兵器のパイロットだったからだ。

 

「神祖アウラの末裔にしてフレイアの一族が姫。近衛中将、サラマンディーネ」

 

名乗りを上げる彼女…サラマンディーネに、アンジュは敵意を隠さずにぎりりと歯軋りをすると睨みつける。まあ、ついこの間殺し合いをした相手が目の前に居るのだから当然ではあるが。

 

「ようこそ、真なる地球へ。偽りの星の者たちよ」

 

「知っておるのか?」

 

大巫女がサラマンディーネに尋ねると、彼女はクスッと笑って、

 

「この者ですわ。先の戦闘で、我が機体と互角に戦ったヴィルキスの乗り手は」

 

そう、答えたのだった。

 

「ヴィルキスの乗り手…」

 

その事実に、大巫女は思わず息を呑む。

 

「この者は危険です! 生かしておいてはなりません!」

 

「処分しなさい、今すぐに!」

 

御簾の先にいる他の面々が次々と好き勝手なことを言う。言葉通り、アンジュが危険要素だと判断したからだろうか。

 

「やれば? 死刑には慣れてるわ」

 

対してアンジュはぶっきらぼうにそう言い放つ。が、

 

「…但し、タダで済むとは思わないことね」

 

ドスを聞かせて釘を刺すのも忘れない。その迫力に飲まれたのか、御簾の先にいる連中は思わず息を呑んだり、二の句が告げなくなった。

 

「お待ち下さい、皆様」

 

そこにサラマンディーネが割って入る。そして、アンジュたちの元へと歩を進めて降りてきた。

 

「この者は、ヴィルキスを動かせる特別な存在。あの機体の秘密を聞き出すまで、生かしておくほうが得策かと…」

 

その言葉に、御簾の向こうの面々がザワつく。

 

「この者たちの生命…私にお預けくださいませんか?」

 

そして間髪入れずに提案する。その結果、大広間は静まり返ったのであった。しかし納得出来ない人物が一人。

 

「ちょっと、勝手に決めないでよ!」

 

言うまでもなくアンジュである。

 

「悪い話ではないと思いますが」

 

サラマンディーネは首だけ後ろに向けて静かに答えた。

 

「だから納得しろって? 悪いけど、こっちの意思を無視されるのはもうこりごりなのよ」

 

「ではどうします? 実力行使によって訴えますか?」

 

「…そうね。それもいいかもね」

 

アンジュとサラマンディーネの間に火花が散る。二人の間にあるただならぬ雰囲気を悟った御簾の向こうの面々がざわめき始めた、そんな中だった。

 

「二人とも待て……」

 

扉の方から別の声がした。その場にいる全員の視線が扉の方に向ける。そして足音が響き渡り、それは現れた。

 

「「キオ!」」

 

キオが現れたことに、全員の視線がキオの方を向く。

 

「間に合って良かった。未来視で二人が喧嘩している姿が見えたからなぁ。」

 

「そなたは?」

 

「お初にお目にかかります大巫女様。自分はエーテリオン所属特務兵士『キオ・ロマノフ』天の聖杯のドライバーです。」

 

キオは大巫女や他の者達に深くお辞儀する。

 

「主がサラマンディーネが申していたキオ・ロマノフか……」

 

「いかにも。」

 

「……良い面構えをしておる。」

 

「恐れ入ります。それから……久しぶりだな、“サラ”♪後。アイロスも…」

 

するとサラから龍の射手であるアイロスが現れると同時に、タスクのヴァサラ、キオのアルヴィース、ヒカリ、メツ、コスモスが出てきた。

 

「それがお前のブレイドか……」

 

「…正確に言えば、“天の聖杯”って言ってもらったら良いんですが♪」

 

「なら、これからはそう呼ぼう。」

 

大巫女は納得するとサラがキオを見つめる。

 

「?」

 

「\\\\」

 

サラは頰を赤らめ、優しい眼差しで見つめていたのだった。

 

 

 

 

 

サラに連れられ、部屋に入った一行は床の間に座布団を敷き、それぞれその上に座っていた。引き戸に板張りの床に座布団に湯飲みと、和風テイストのオンパレードである。

 

日本茶を入れた湯飲みを自分の前に置いてくれたサラに、座布団の上でしっかりと正座しているキオは礼を言う。

 

そしてキオの目の前に居る二人…アンジュとタスク、モモカもそれを確認してからおずおずと湯飲みに手を伸ばした。

 

(毒なんて入ってはいないんだけどな…)

 

警戒しての二人の行動だろうが、まあ仕方ないかとも思う。何せ二人にとってはここはまだ右も左もわからない世界なのだ。警戒してしすぎることはないだろう。

 

(当然の行動か)

 

納得すると、キオはこれからする話を纏めるために頭を回転させ始める。

 

「さて…」

 

アンジュとタスクが湯飲みから口を離してホッと一息ついたタイミングを見計らって、キオが口を開いた。当然ながら、周囲の視線がキオに集まる。

 

「何処から話せばいいものかな…」

 

「決まってるじゃない。全部よ」

 

アンジュが真剣な面持ちで口を開く。

 

「う、…それはわかっている。だが、どういった取っ掛かりで話せばいいかと思ってな。まあ、それはそれとして…」

 

そこでキオは自分の左隣に目をやった。そこには、キオやアンジュたちと同じように座布団の上に腰を下ろしてニコニコしているサラマンディーネとお付きの二人の姿があった。

 

「サラ、お前たちは別に席を外しても構わないぞ」

 

「あら?お邪魔ですか?」

 

「いや、そういう「邪魔よ」…」

 

そういうわけではないがと言おうとしたキオを遮って、アンジュが短く切って捨てた。だが、そこは敵もさるもの。アンジュの言葉を黙殺したサラマンディーネ…サラがキオに視線を合わせ、

 

「お邪魔ですか?」

 

と、もう一度聞いたのだった。

 

「別に邪魔ではないがな…」

 

その返答にアンジュはムスッとし、サラはニコニコと笑った。

 

「アンジュとタスクは当事者だし、それに一度話したことだ。別に目新しい話なんてないぞ。あまり賢い時間の使い方とは思えないが…」

 

だが、サラも大人しく退きはしない。

 

「それを決めるのは私たちですから」

 

そこで、サラは後ろを振り返った。

 

「ナーガ、カナメ、貴方たちはどうします?」

 

そして後ろの二人…ナーガとカナメに声をかける。

 

「勿論、姫様のお供をします」

 

「改めて言うまでもありません」

 

「…だ、そうです」

 

身体を元に戻すと、サラが自分たち三人の意思をキオに伝えた。

 

「…まあ、お前たちがそれでいいなら構わないがな」

 

「では、決まりですね」

 

「あ、そうそう。今日、同僚も一緒に来ちゃったけど、自己紹介させて良いかな?」

 

「えぇ、構いませんよ♪」

 

「…だ、そうだ。hey come on!」

 

戸が開き、中からエルマ達が現れる。

 

「中々良い会話だったわ♪」

 

「ありがとうございます。エルマさん。」

 

「自己紹介するわ、私は“エルマ”」

 

「リンリー・クーですリンと呼んでください♪」

 

「タツですも!」

 

「イリーナだ、よろしく」

 

「自分はグインと申します」

 

「俺はダグだ」

 

「ラオだ」

 

「オリバーだ」

 

「アリアンナと申します♪」

 

「ノアだ♪」

 

「オスカーだ!」

 

「アンだ♪宜しく!」

 

エルマ達は自己紹介を終えると、キオが説明する。

 

「みんな俺たちの仲間だ。宜しく頼む♪」

 

「……さっさと全部話したら?」

 

「……分かった。あれは何日か前だ」

 

キオの話は数日前に遡る。この世界が何なのか、サラ達が何者か、サラにアイロスを同調させたこと……。アンジュはそれを聞いて納得する。

 

「つまり、はこういうことでしょう――」

 

今まで無言で聞き入っていたアンジュが徐に茶を啜り、サラマンディーネを見やる。

 

「あなたがここに居て、地球が二つあるって事は!」

 

そう言うや否や、次の瞬間持っていた茶碗を壁に向けて投げつけた。投げつけられた茶碗は壁に衝突して呆気なく砕け散り、中身が振りまき、破片が飛び散る。その行動に一同が戸惑い、一瞬硬直する。

 

その隙にアンジュは砕けて鋭くなった破片を拾い上げ、素早くサラマンディーネの背後に回り込み、背後から首筋に破片を突き付けた。

 

「帰る方法があるって事よね!?」

 

「アンジュ!」

 

「アンジュリーゼ様!!」

 

再起動した面々は、アンジュの突然の蛮行に驚き、眼を見開く。

 

そこへ騒ぎを聞きつけ、部屋の外で待機していたナーガとカナメが電光石火の如く扉を乱暴に開けて、部屋へ飛び込んできた。

 

「姫様!?」

 

「サラマンディーネ様!?」

 

二人もまたその光景に眼を見開き、状況が不利になったことにアンジュはギリっと奥歯を噛みながら破片をちらつかせ威嚇する。

 

「動かないで!近寄れば命は無いわ!」

 

「野蛮人め!やはり早々に処刑するべきだったわね!」

 

ナーガがアンジュに睨み付けると、カナメがタスクの首元に薙刀を近づけて抵抗する。

 

「姫様を離せ!さもなけばこの男を!」

 

「えぇっ!!?」

 

「殺れる者ならやってみなさい!」

 

「え?」

 

「タスクは、私の騎士。だから死んでも「それ以上言うな、アンジュ…」何!?」

 

その時、アンジュの頰を取りすぎるかのように青い矢が壁に突き刺さる。それはアイロスの弓矢であった。アイロスは三本の矢を構え、アンジュに向ける。

 

「この女がどうやっても良いの!?」

 

「私の能力は主君以外の者にしか矢を通さない。だからそのような抵抗など無意味だ。」

 

アイロスが説明し、弓弦を引く。

 

「くっ!」

 

すると、サラマンディーネは顔色を変えずに背中のアンジュに向かって話し掛けた。

 

「帰って、どうすると言うのです?」

 

その指摘にアンジュは動揺し、言葉に窮するも、畳みかけるようにサラマンディーネは続ける。

 

「待っているのは機械の人形に乗って我が同胞を殺す日々。それがそんなに恋しいのですか?」

 

「っ、黙って!」

 

己の迷いを指摘され、動揺を必死に押し殺しながら言葉を荒げる。だが、その手が震えていることに、サラマンディーネは小さくため息を零した。

 

「偽りの地球、偽りの人間、そして偽りの戦い――あなた達は何も知らなさすぎます」

 

するとサラが立ち上がり、アンジュの手を握り、何処かへ連れて行こうとする。

 

「参りましょう。真実を見せて差し上げます」

 

「ちょっ、ちょっと!」

 

「俺も付いて行った方が良いか?」

 

「えぇ♪」

 

「ナーガ、カナメ。留守を頼みましたよ」

 

そう言い残してサラマンディーネは部屋から出て行き、残されたナーガとカナメ、そしてタスクは呆気に取られたままだった。

 

 

 

サラマンディーネが呼んだガレオン級の頭に乗ってある場所へと向かった。

 

「着きましたわ」

 

サラマンディーネが示す場所の先を見るキオ達、そこはアケノミハシラと同じ塔だった。

 

「アケノミハシラが…ここにも?」

 

「『アウラの塔』とわたくし達は呼んでいます。嘗てのドラグニウムの制御施設ですわ」

 

「ドラグニウム…?」

 

キオは聞き覚えのない物を問い、サラマンディーネは制御施設内を進みながら説明していた。

 

「ドラグニウム、22世紀末に発見された強大なエネルギーを持つ超対称性粒子の一種」

 

そしてあるエレベーターの場所に着き、サラマンディーネがそれを操作して下へと向かって行く。

 

「世界を照らす筈だったその力は、すぐに戦争へと投入されました。そして環境汚染、民族対立、貧困、格差、どれ一つも解決しないまま人類社会は滅んだのです」

 

「…よくある話だ」

 

キオの問いにサラマンディーネは頷く。人は強大なエネルギーをすぐに兵器にする事を優先とする本質がある、しかし間違いだと知るのはいつも後になり後悔するばかりであった。

 

「そんな地球に見切りをつけた一部の人間たちは、新天地を求めて旅立ちました」

 

「似たような話、聞いた事あるわ」

 

っとアンジュはその事をサラマンディーネに言い、ジルに聞かされていたから当然の事でもあった。

そして目的地へと到着したエレベーターは止まり、サラマンディーネはエレベーターを降りながら言う。

 

「残された人類は汚された地球で生きて行く為に一つの決断を下します」

 

「決断?」

 

アンジュの言葉にサラマンディーネは頷いて言い続ける。

 

「自らの身体を作り変え、環境に適応する事」

 

「作り変える?」

 

アンジュはサラマンディーネが言った言葉を聞き、それにサラマンディーネは頷く。

 

「そう、遺伝子操作による生態系ごと…」

 

そしてキオ達の前に巨大な空洞が広がり、それにアンジュは問う。

 

「ここは?」

 

「ここに『アウラ』が居たのです」

 

「アウラ…?」

 

アンジュはその事を問うと、サラマンディーネはキオの方を向いて、それにキオは頷き装置である物を映し出す。するとアンジュの目の前に見た事もないドラゴンが現れる。

 

「これは…」

 

「アウラ、汚染された世界に適応する為、自らの肉体を改造した偉大なる子祖。あなた達の言葉で言うなら、『最初のドラゴン』ですね」

 

サラマンディーネの説明にアンジュはまたしても驚きの表情を隠せない。

これ程の真実を聞かされて、戸惑いを表さない者はいない。

 

「私達は罪深い人類の歴史を受け入れ、食材と浄化の為に生きる事を決めたのです、アウラと共に。男達は巨大なドラゴンへと姿を変え、その身を世界の浄化の為にささげた」

 

「浄化…?」

 

アンジュがその事を問い、それをサラマンディーネが説明する。

 

「ドラグニウムを取り込み、体内で安定化した結晶体にしているのです。女たちは時に姿を変えて、男達と共に働き、時が来れば子を宿し産み育てる、アウラと共に私達は浄化と再生へと道を歩み始めたのです」

 

キオは元の景色に戻すとサラマンディーネが少しばかり重い表情をする。

 

「ですが…、アウラはもういません」

 

「どうして?」

 

「奴に連れて行かれたんだ」

 

アンジュがそれを問うとサラマンディーネの代わりにキオが言う。

 

「エンブリヲ…ドラグニウムを発見し、ラグナメイルを作り、世界を壊し捨てた。この世界の破滅の元凶として“神に堕落した屑人間”だ」

 

困惑しながら問い掛ける。何故『アウラ』を連れ去る必要があるのか――まさか、一度滅んだ世界が再び再生しようとするのが気に喰わなかったなどというわけでもあるまい。

 

「――あなた達の世界は、どんな力で動いているか知っていますか?」

 

唐突に問いで返され、眼を剥く。

 

「え?……マナの光よ」

 

困惑しながらアンジュが答えるとサラマンディーネはやや表情を硬くし、更に問い掛ける。

 

「なら、そのエネルギーの根源は?」

 

「何言ってるのよ、マナの光は無限に生み出される……って、まさか!?」

 

「そう……そのまさかだ。」

 

無限のエネルギーなんて、ありはしない――どんなものにでも必ずそれを生み出す要因がある

 

『マナ』というものを不思議に思っていた。

 

無限に生み出される万能の光――『人間』であれば、如何なる者だろうと使用できる夢の物質―――だが、それが『まやかし』であるとしたら? 『無』から『有』は生み出せない―――エンブリヲという男が、あの世界を創った。ジルが言った争いを好まない人類のためには与えてやる必要があるのだ。

 

だが、そのために必要となったのだ。『餌』を生み出す『贄』が――『マナ』という餌を―――キオの態度にアンジュも察したのか、眼を瞬かせる。

 

「マナの光、理想郷、魔法の世界。それを支えているのはアウラが放つ、ドラグニウムのエネルギーなのです」

 

「!?」

 

「そしてアンジュ…聞いてくれ、ここからが重要なんだ。アウラは自らドラグニウムは生成できない…だけど、『マナ』は生み出しておく必要がある。そのためにはアンジュ……大型ドラゴンを凍結させ捕獲する必要があるんだ。」

 

あくまでアウラは、マナを生み出すための触媒に過ぎない。だが、あの世界を維持するためには『マナ』が必要だ。それを維持するためには―――キオとサラマンディーネの言葉にサラマンディーネは重く頷く。

 

「そうです――エネルギーはいずれ尽き、補充する必要がある。ドラゴンを殺し、結晶化したドラグニウムを取り出し、アウラに与える必要があるのです。それがあなた達の戦い――あなた達が命を懸けていた戦いの真実です」

 

ノーマがドラゴンと戦わされていたのは、『ドラグニウム』を体よく手にれるため――『マナ』を維持し続けるために……人間の世界を『守る』ために―――――告げられた事実にアンジュは衝撃を隠せなかった。

 

「そして、エンブリヲはデウス・コフィンの首領である総裁“X”と手を組み、俺たちエーテリオンに牙を向けている。人間達を何人か拉致し、改造兵士へと変えた。アンジュ…お前達はずっとそいつらに良いように飼われていたんだよ……」

 

 

「あなた達の世界のエネルギーを維持するため、私達の仲間は殺され、心臓を抉られ、結晶化したドラグニウムを取り出された」

 

「大型のドラゴンを回収していたのはそういう理由か」

 

ドラグニウムを結晶化するために、大型ドラゴンの体内には膨大な量が備蓄される。ドラゴンにとって浄化であると同時に魔法陣や強大な力を発露させるためのエネルギー源でもある。故に、大型ドラゴンの死骸は、無くてはならないものだ。

 

思い当たる節がある――アンジュがMIAになった時、あの島で見た凍結したドラゴンの死骸を輸送する船団を――気になっていたが、これでようやく謎が解けた。

 

どうして10年前に起きた反乱でノーマが粛清されなかったのか―――どうしてドラゴンを狩る必要があったのか―――どうしてそれが『ノーマ』でなければダメだったのか―――改めて胸糞が悪くなる。

 

「分かっていただけましたか? 偽りの地球、偽りの人間、そして―――偽りの戦いと言ったその意味を。それでも、偽りの世界に帰りますか?」

 

その問いにアンジュは一瞬逡巡するも、険しい顔をして答えた。

 

「当然でしょう、仮にあなたの話が全部本当だとしても、私達の世界はあっちよ!」

 

それは己の迷いを振り切るためのものだったかもしれない。だが、その答えにキオが顔を顰め、サラマンディーネはやや失望したように嘆息する。

 

「では、あなた達を拘束させてもらいます。これ以上、私達の仲間を殺させるわけにはまいりませんから」

 

凛と告げるサラマンディーネに気圧されるも、アンジュは反射的に身構える。

 

「やれるもんならやってみなさい! 私がおとなしく拘束されると―――!」

 

握っていた破片を振り上げようとした瞬間、尻尾を振り上げ、破片を叩き落とす。そして、サラマンディーネを守るように羽を広げる。

 

「本性表したわね、トカゲ女!」

 

殴りかかるアンジュの拳をかわし、もう片方の手で左腕を捻って拘束する。

 

耳元で囁く冷淡な声に歯軋りするも、サラマンディーネが静かに答える。

 

「殺しはしません――私達は残虐で暴力的なあなた達とは違います」

 

「アルゼナルをぶっ壊しておいて、何を――!」

 

痛みを耐えながら強引に拘束を解き、アンジュは睨みつける。対峙しながらも、こちらは悠然としている。

 

「アレは龍神器の起動実験です。あなた達はアウラ奪還の妨げになる恐れがありましたから」

 

ドラゴンとの戦いが戦争であった以上、彼女の言葉は正論だ。脅威を排除するために最小の犠牲で最大の結果を齎す――だが、それがアンジュの怒りを煽る。

 

「それで何人死んだと思ってるのよ!」

 

「赦しは請いません。私達の世界を守るためです――あなたが私と同じ立場ならば同じ選択をしたのではないですか、皇女アンジュリーゼ?」

 

「え……?」

 

突然、己の真名を言われ、アンジュは戸惑う。何故、会ったこともないドラゴンがそれを知っているのか――困惑するアンジュに、サラマンディーネはどこか不敵に告げた。

 

「あなたの事はよく聞いていました、リザーディアから―――近衛長官リィザ・ランドック、と言えば分かりますか?」

 

思いがけない名を出され、アンジュは驚愕する。

 

ミスルギ皇室の近衛長官であり、ジュリオの側近―――ジュリオに従い、自分を『アルゼナル』へと送り込んだ―――

 

「リィザが――あいつが、あなた達の仲間……?」

 

上擦った声で呟くと、肯定するようにサラマンディーネは笑った。それが酷く不愉快なものに見え、アンジュは悔しげに歯噛みする。

 

「バカにしてぇ―――!」

 

怒りに顔を真っ赤にし、アンジュは激情のままサラマンディーネに殴りかかろうと再度駆け出すも、寸前で割り込んだキオがアンジュの腹部に向けて拳を叩き入れる。

意識が薄れてく中、アンジュはキオの行動に問う。

 

「な、何で…?」

 

「いい加減にしろアンジュ、これ以上好き放題暴れるのはよせ」

 

そうキオは言い残して、アンジュはそのまま気を失う。

 

「あっ、う……」

 

するとキオはサラマンディーネの方を向く。

 

「俺も君の仲間を殺してしまった、その事にはどんなに頭を下げても許せないのは分かってる。それでも…」

 

キオは両膝を着き、頭を下げる。

 

「アンジュや彼らに変わって謝罪する。本当にすまなかった。」

 

そしてサラマンディーネは微笑みながら床に降り立ち、羽を仕舞いながらキオに近づく。

 

「顔を上げてください。キオ…」

 

キオはゆっくりと顔を上げると、サラがキオの頬を撫でる。

 

「最初に会った時もあなたはやはり優しかった。でも何故でしょう?私は……あの時や今、再会したばかりなのに…前に何処かで会った様な気がします。」

 

「その通りだ……」

 

するとキオの後ろから別の声がした。現れたのはエリュシュオンに保護してもらっている筈のチャールズとマリアであった。

 

「父さん!母さん!?」

 

「あの二人が、キオのご両親」

 

するとマリアがサラの方を見て優しい一言を言う。

 

「久しぶりねぇ、サラちゃん…12年ぶりだけど♪」

 

「サラちゃん?」

 

「私をご存知なのですか?」

 

「えぇ♪あなたのお母さん…ミレイとは旧友であり、同じ研究者なのよ♪」

 

「お母様と!?」

 

「ミレイ…ミレイ……っ!」

 

キオはミレイの言葉で過去視の事を思い出す。

 

「父さん、母さん……聞きたいことがあるんだ。ミレイと言う名前で思い出したんだが…ミレイとはどういう関係なんだ?」

 

「……過去視か、見たのだな?“魔神 ゼニス”の事も」

 

「“魔神 ゼニス”?」

 

「見たのだろ?人が住めるほどの大地の骸を持つ巨人を…」

 

「……あれか!」

 

「今こそ話そう……君の母の事と、サラマンディーネ様とキオが“あの世界”であった幼馴染だという事…」

 

語られる本当の真実に幼馴染である二人は自身の出会いについて深く告げるのであった。




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