クロスアンジュ 因果律の戦士達   作:オービタル

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第2話:皇女とイレギュラーとの出会い

 

静かな夜、何処かの上空に特異点が現れ、中からセイレーンが飛び出す。

 

「アルゼナルが近くにある海域は……この辺りだったかな?」

 

夜の海域を飛ぶキオは辺りを見渡す。

 

「アルヴィース、何処かに生体反応はない?」

 

「ん〜、分からないねぇ……それに僕の因果律予測はたまに起こることだから、あまり便利とは言えないよ」

 

「ごめん……」

 

「気にしなくても良いんだ♪それに、君はこの世界ではない王子様だから、あまり目立たないようにね♪」

 

「そうだな……ん?」

 

するとキオの頭の中である物が浮かび上がる。複数のパラメイルがドラゴンに襲われており、三人がドラゴンの攻撃で倒される姿、そしてその中にアンジュリーゼが泣きながら逃げ回っていた。キオは目の前の出来事をアルヴィースに話す。

 

「因果律予測が教えてくれたようだね、そうなるとしたら、急いだ方が良いんじゃない?」

 

「だな、じゃ…行きますか!」

 

キオはそう言い、セイレーンを加速する。

 

 

その頃、ある上空では、実兄であるジュリオに暴露されたアンジュリーゼ、後のアンジュは故郷へ戻ろうと、グレイブを動かしていた。しかし、隊列から出たことに、第一中隊副隊長のサリアがホルスターから拳銃を抜き、アンジュに向ける。

 

「アンジュ戻って!もうすぐ戦闘区域なのよ!?」

 

「私の名前はアンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギです。私は私のいるべき世界、ミスルギ皇国へと帰るのです!」

 

「持場に早く戻りなさい!でないと貴方を命令違反により今此処で処罰するわよ!」

 

サリアは銃を取り出し、アンジュを脅しにかけたその時。

 

「アンジュリーゼ様! 私も、私もミスルギ皇国へと連れて行って下さい!」

 

なんとココがアンジュに近寄り、自分も連れて行ってほしいと頼みに来たのだ。

 

「え!?な!何を言ってるの!? ココ!?」

 

「私も魔法の国に!」

 

「ちょっとココちゃん!何を言ってっ!?」

 

その時、特異点が開き、中から青い閃光がココのグレイブを貫こうとしたその時、セイレーンが流星の如く速さでココの掴み上げ、その場から離れる。

 

「良し!」

 

キオは急いで、気を失ったココをコックピットにいれ、ステルスモードに入る。

 

ココのグレイブはそのまま海面へ墜落し、大爆発を起こす。

 

「ココ!ココォォォ〜〜〜ッ!!!!」

 

ココが乗っていない事にまだ気づいていないミランダはただ叫ぶだけであった。そして特異点からこの世界に囚われているアウラを取り戻そうとしている存在【ドラゴン】が姿を現した。ステルスモードで見ているキオはドラゴンを見て驚く。

 

「あれが…本来の地球人か……」

 

『それよりキオ、この子どうする?』

 

アルヴィースの問いにキオはそこらで気を失っているココを見る。

 

「とにかく、ド派手な演出で姿を現わす。良い?」

 

「分かった、君の好きなようにしてくれ♪」

 

キオはアルヴィースを上空へ向かう。第一中隊とドラゴンの戦闘が始まる中、アンジュのグレイブが逃げ回っていたそれを見ていたキオは呆れる。

 

「あ〜あ……あれはちょっとヤバいんじゃないか、アルヴィース……」

 

『確かに、逃げてばかりだと、ドラゴン達に目立ってしまうんだけど……』

 

「そうだろう、ん?」

 

するとまたキオの因果律予測が発生する。今度は深緑の髪の子がドラゴンに襲われ、空中に投げ飛ばされ、最後に数体のドラゴン達に食い殺されていた。

 

「うわぁ…こればかりは見てられないなぁ」

 

キオはそう呟き、ミランダのグレイブへ向かう。

 

 

一方、第一中隊の方ではドラゴンの数、さらにガレオン級の大型ドラゴンがもう一体増えるのであった。サリア達は必死に交戦するが、アンジュの方では故郷に帰りたく、ただ逃げてばかりであった。

 

「ま、待って!」

 

ミランダは逃げ回るアンジュを追う。

 

「私どうすればいいの?・・{ココのバカ・・何が魔法の国だよ・・何夢見てんだよ・・私達はノーマなんだぞ・・}」

 

ミランダは散っていってしまった親友を思い悲しみに暮れる。

その隙を逃さまいとスクーナー級ドラゴンが彼女の遥か上空から迫り、ミランダのグレイブに激突、そしてミランダは空中に放り出された。

 

「!!?」

 

「た!助けてえええぇぇぇ〜〜〜!!!」

 

放り出されたミランダが叫ぶ中、一匹のスクーナー級がミランダに喰らい付こうとしたその時、天空の彼方から光の槍がスクーナー級を貫き、ミランダを掴み上げ、掌に乗せる。そしてそれは姿を現わす。それは正に……"天使"と言ってもいい機体であった。

 

「何……あれ?」

 

「おいサリア!ありゃ一体何なんだ!?」

 

「パラメイルにしては大きすぎるわねぇ」

 

「綺麗……」

 

「かっちょいい〜〜!!!」

 

第一中隊のメンバーがセイレーンの姿に見惚れている中、ミランダが気がつく。

 

ミランダ「……あ、あれ…?」

 

強い光に思わず瞳を閉じてから、どのぐらいの時間が経っただろうか?

恐る恐る瞳を開けば、視界に入るは自分の掌。

 

「どこも…痛く、ない?」

 

思わず全身をまさぐるが、齧られた所は一つもなく血も流れて居なかった。

 

「な、なんで…?それに私…」

 

しかもだ、自分は海面に向かって落下している最中であったにも関わらず、全く体が濡れていない。

そもそもとして、幾ら水面であったとしてもあれ程の高所から落下して平気である筈が…。

いやそれよりも。

今、自分が横たわっているこの固くてひんやりした地面のようなモノは一体……?

 

「……???」

 

そこで初めて。

彼女は自分の頭上に目を向けた。

 

そこに居た…否、"あった"のは。

 

自分を見下ろすようにして、鈍く光るは紅色の瞳。

現れた時に浴びたであろう水滴に反射するは、白く透き通ったかのような純白、頭頂部の五本の金角…まるで自分たちが乗る「パラメイル」のアンテナのような"角"は昔、資料室で見かけた王の兜を彷彿とさせ…。

 

何よりも驚くべきはその大きさ。

"頭部"だけで自分の身長の何倍もの…。

 

「ひぃっ!!」

 

さらに驚くのは、今自分が座っているところが天使の掌であった。

 

『おい!』

 

「ひゃ、ひゃいっっ!!」

 

ノイズ混じりに響いた大声に、思わず彼女は直立の姿勢を取る。

…嗚呼、こんな時でも発揮してしまうしまう悲しき奴隷根性…。

 

などと、現実逃避気味に考えている暇も無く。

 

『今からハッチを開く、滑り込め!』

 

立て続けに降り注ぐ声はミランダを急かし立てるように響く。

 

ミランダ「………?」

 

何をそんなに、と彼女が振り向けば…。

光による硬直が解けたドラゴンの群れが…否、仲間のパラメイルへと攻撃を加えていた個体達も一斉にこちらに向かって来ているではないか。

ぞわりと先程までの恐怖が一気に蘇ったミランダは1も2も無く…。

 

"バシュン!"と開いた天使の胸部へと飛び込んだ。

 

ミランダ「ぜえっ!ぜえっ!ぜえっぜえっ!!」

 

息も絶え絶えに入ったソコでは。

見た事もないようなモニターが並ぶ空間と。

その真ん中に立っている……

 

「無事か?」

 

こちらを気遣う声。

 

「は、はひ……」

 

半ば鸚鵡返しのように返答したが、この人(?)は一体何者なのだろう?

外の天使と同じような白く、見た事もないような分厚い服と、これまた見た事が無い、頭部を包み込む灰色の兜(自分達が付けている"バイザー"に似ているような…)のようなアクセサリのせいで顔すら解らない大男がいた。

 

「全く……どんだけ怖がりなんだよ…」

 

白い人は何もない空間でミランダに問う。

 

ミランダ「……へっ?」

 

自分の背後に、足を放り投げるようにして寝そべる一人の人間の…少女の姿。

 

「…そ…んな、でも……」

 

ソレを否定する単語の羅列が幾重にも浮かび上がる。 不意にこちらに向けられた少女の顔が目に入り、ミランダは……。

 

「…………あ…」

 

くしゃりと、自分の表情が歪むのを感じる。

恐怖によってではないソレは、歓喜によるモノだ。

鼻の奥からツンとしたモノが湧き上がるのを止めようともせず、彼女は衝動のままに。

 

「ココォッ!!!」

 

瞳を閉じた少女…同期のココ・リーブの小さな身体を抱きしめた。

 

「…ひぐっ、うぐっ…ゴゴ…良かっだ…生ぎでる…!!」

 

瞳こそ開かず、身体はびしょ濡れで、顔の所々が煤ぼけているが紛れもなくその小さな胸の上下を感じた。

 

「知り合い?」

 

「…は、い…ぞうです…!目の前で、爆発して…でも、どうして…」

 

「あのドラゴンの攻撃直前に回収させて貰った。ある程度の処置は済んであるが、早く医者に見せた方がいいと思う♪」

 

「は、い…はい…!ありがとう…ありがとうございます…!!うっうう…!」

 

「……礼を言うのはまだ早いぞ」

 

「………へっ?」

 

涙をぬぐい、白い人の方を向けば。 何とドラゴンの群れが一斉に第一中隊のメンバーを無視し、セイレーンの方へ向かってきたのであった。

 

「ひぃっ!!」

 

「あちゃ〜〜、ちょっと目立ち過ぎちゃったなぁ、どうする…アルヴィース?」

 

『まぁ、取り敢えず……彼らに恨みがないんだ。』

 

「だろうな…」

 

「?」

 

ミランダは、突然白い人が何やら独り言を話している事に、首を傾げると、白い人は首から翠色のクリスタルを取り出す。

 

「行くよ、アルヴィース…」

 

するとクリスタルが強く光だし、青白く光る大剣へと変わると、セイレーンの手から大剣に似た光の剣を出す。

 

「悪いなドラゴン……恨みはないんだが、これも任務なんだ……」

 

キオはそう呟き、体を動かしながら、セイレーンを動かす。迫り来るスクーナー級のドラゴン達を光の剣で薙ぎ払ったり、両断して行く。後方からスクーナー級が三体迫るが、両股間のフレシキブルアームが動き、先端部からビームサーベル放出し、切り裂いていく。すると大型ドラゴンが魔法陣を展開し、雷撃を放つ。

 

「甘い!」

 

キオは大剣のプレートに【疾】が表示される。するとセイレーンから青いオーラが放出し、ドラゴンの雷を素早く回避する。回避すると同時に、キオは遊び心で海面をスケートの様に滑りながら、ドラゴンの攻撃を回避し、後ろに回り込んだ。そして……。

 

「貰った♪」

 

大剣のプレートに【斬】と表示され、セイレーンの光の剣がドラゴンの強靭な鱗と体をメスの様に切り裂いた。ドラゴンは悲鳴を上げ、キオは十字を書きながら落ちていくドラゴンに言う。

 

「アーメン………これも彼女達が未来を切り開く為だ。恨みはないが、お前達の分も全て、エンブリヲと総裁Xにぶつけてやるからな……」

 

キオはそう言い、海中へ落ちるドラゴンに慈悲も言う。

 

 

その後、もう一体の大型ドラゴンは逃げられたが、アンジュの独断行為により、第一中隊の隊長であるゾーラが死に、パラメイル三機が大破してしまった。そしてアルゼナル甲板では……。

 

「ここでク~イズ! あのデカくてゴツくて真っ白なヤツは敵でしょうか?それとも味方でしょうか~?」

 

「…何よ、"ヴィヴィアン"。まーたやくたもないクイズ?」

 

海風を浴びながら無邪気に問題を問いかける、棒キャンディを咥えた少女は―――"ヴィヴィアン"。

捲くれ上がる赤い髪を手で押さえつけながら、鬱陶しげに返答するは―――"ヒルダ"。

 

「そんなん…ドラゴンを攻撃してたんだし、味方……に、決まってるじゃん……だよな?」

 

「………でも、あんなの見た事無いよ。新型のパラメイル?」

 

自信無さげに己の意見を述べるオレンジ髪の少女は―――"ロザリー"。

その後ろで、隠れがちになりながらぼそぼそと喋るそばかすの少女―――"クリス"。

 

「パラメイルにしてはちょっと大き過ぎるわよねぇ……あら、"サリア"ちゃん。隊長は?」

 

「……今は捜索中……」

 

顎に指を当てつつ背後の人影に気づく豊満な女性は―――"エルシャ"。

一拍遅れて集団に合流したサリアは暗い表情で話す。

 

「…………ま、怪我で死ぬような女じゃなけりゃ、良いんだが、」

 

「隊長…」

 

「…に、してもさあ……」

 

ロザリーが周辺へと目を配らせると…。

 

「―――ワイワイ」

 

「―――ガヤガヤ」

 

「―――キョロキョロ」

 

「―――ウロウロウロ」

 

「「「「「―――ザワザワ…ザワザワザワ……!」」」」」

 

「………多すぎじゃね?」

 

この基地の甲板が広いとは言え、そこかしこにぞろぞろとパイロットや整備員や挙句の果てに内勤の連中までが列挙している…。

まさか、アルゼナルの人員全てがここに集まってきているとでもいうのだろうか。

 

…有り得なくもないのが、また恐ろしい。

 

「幾ら娯楽に飢えてるからって暇人ばっかね…」

 

「…まあ、私達も似たようなモノでしょうけど」

 

何しろ戦闘が終了してからこっち、帰還して一目散に甲板へと駆け出したのだ。

 

…報告その他は副長のサリアに丸投げして。

 

―――副長:サリア。

―――ヒルダ。

―――ヴィヴィアン。

―――エルシャ。

―――ロザリー。

―――クリス。

 

彼女達こそ、このアルゼナル基地が"所有"する戦乙女であり、先程から口々にしている「パラメイル」という名の機動兵器群のパイロットでもある。 そして、今はこの場に居ない"隊長"と、"もう一人"………。

 

「あり?そーいえば……"アンジュ"は?」

 

ヴィヴィアンが何気なく発した一言で。

 

―――ピシリ。

 

と、周囲の空気が冷たく固まった。

 

「…悪いけど。今はあの"痛姫"の名前なんて聞きたくもないね」

 

「…そーそー。あの白いのが乱入してきてくれたおかげで、こっちから意識が逸れてくれたから良かったけどさあ…ヘタすると隊長まで撃墜されてたんだぜ?」

 

クリス「そうなってたら、アイツ…絶対許さない…」

 

三者三様に、"アンジュ"なる人物を口々に酷評する。

しかも、言葉の端々に殺気すら感じられる程に。

 

「……それで、サリアちゃん。アンジュちゃんは……?」

 

「……ゾーラと共に捜索中……」

 

「……お?な~んか見えて来た、見えて来た!!」

 

重苦しい雰囲気を破ったのはこれまたヴィヴィアンの言葉だった。

それに倣い目を凝らすと、確かに水しぶきを上げる点がこちらに迫って来ていた。

 

点は丸になり丸は秒を刻む毎に徐々に大きさを増し、そして甲板に吹き荒れる一際強い風。 が、それも一瞬の事であった。

中空に浮かぶボディを直ぐ様安定させた天使が、甲板の先端に…脚を下ろした。

数刻経たずに、眼と思しき部分から輝きが消える。

動力を切ったのだろうか?とすれば、いよいよか。

 

サリア達はこうして目の前にすると改めて思う。

基地の甲板は確かに広いが、この天使の歩幅の前ではそれも霞んでしまう。

単純に見ただけでも自分たちの乗るパラメイルの大凡2倍くらいはありそうだ。

 

中型ドラゴンもかくやと言わんばかりのその威圧感に、思わずロザリーの喉が鳴った。 変わらず天使の両腕は空へと挙げられているが、よくよく考えると本当にコイツは信用出来るのだろうか? 敵でないと思われる根拠は仲間を救った事とドラゴンに敵対していた事だけで(普通ならそれで十分だろうが)本当はどこかの国からアタシら(ノーマ)を抹殺するる為に送り込まれた殲滅兵器で、救助とかその他が全てだったとしたら…?

若しくは急に気が変わったと、騙して悪いが~なんて襲いかかられたとしたら…?

未知への恐怖か、彼女の生来の気の弱さ故か。

思考がどんどん悪い方へと傾いてゆく。

 

「―――、」

 

目線を仲間の方に向ければ。

 

《…………》

 

他の連中の内幾人かは懐の銃器に手を沿え。

そして自分たちの背後では。

 

《…………》

 

待機状態のパラメイルが、砲身を構えていつでも甲板上の巨人を狙撃出来るようにしていた。

 

「(だ、大丈夫なのかよぉ……)」

 

何しろ相手はドラゴンの集団を、たった一機で鬼神の如く屠ったヤツであって……。

あれ?そう考えたらなんでアタシは呑気にこんな所に立ってんだろう?

 

天下のパラメイル第一中隊とはいえ、自分は大した実力なんて無いっちゅーに。

…自分で言ってて泣けてくる。正直言うのならとっととここから逃げたい。

けど逃げたら後でヒルダあたりからの追求が怖いだろうし、報酬減らされそうだし…。

 

などと、ぐるぐる思考をループさせていたら。

 

その時は、訪れた。

 

天使の全身が光り輝き、小さくなっていく。そして翠色のコアクリスタルへと戻っていき、そこにいたのは……。

 

少女二人を小脇に抱えた、全身を真っ白な服で包んだ見るからに怪しい巨人であった。

しかも、しかもだ。

青張りのガラス?みたいなのを嵌め込んだ兜みたいなのでご丁寧に顔面も覆っている為、彼女達は目の前の人物(?)が同じ人間であるのかどうかを錯覚してしまった。

 

「(……なぁ、撃っていいんじゃね?アレ?)」

 

「(えー、何で~?カッコい~いじゃんアレ!)」

 

「(…マジか?マジ言ってんのかソレ?)」

 

「…真っ白で、青い…」

 

「(…どう思う?)」

 

「(い、今の所怪しい動きは見せていないし…)」

 

「…あ。こっちに向かってくるよ?」

 

器用に少女二人を抱えたまま甲板に降り立つ…"赤い人"。

そのまま新兵達は駆け寄った救護班の担架に乗せられて運ばれてゆく。 すると白い人がサリア達の方を向き、近く。

 

「……ゲ!お、おいこっちに来てんじゃねえか!?」

 

白い人は一歩、また一歩と間違いなくこちらに向けて歩を進めていた。 銃で狙おうとしたのがバレたのだろうか?

いやそれならば巨人に乗っている時にアクションを起こすだろう。

どうするべきかとほぼ全員が一瞬で考えを巡らせて…。

そしてヒルダ達はチラリと、全員の目線が等しく青髪の少女の方へ集まる。

 

「……は?えっ…わ、私!?」

 

確かに(このメンバーでの)階級ならそうなるかもしれないけど…。

狼狽する副長に対し。

 

「がんばれ〜、サリア〜」

 

「副長の意地、見せてやれよ〜」

 

「応援してる〜」

 

「サリアちゃんなら大丈夫よ!」

 

「あー、アタシはめんどいからパスで」

 

「~~~~~~~~~~っっ(こ、こいつら…都合の良い時だけ副長呼ばわりしてからに…。 こんな肝心な時に限って隊長はいないし、

そもそも、コレは副長の仕事なのだろうか?いいや絶対に違うだろうそもそも私の仕事は戦闘における隊の連携云々… )」

 

等と、ウダウダしているサリアに向かって。

 

「あの……」

 

「……?」

 

すると白い人はヘルメットを脱ぐ。下から黒髪の短髪で、唇に大きな傷跡がある勇ましいキオであった。

 

《………………》

 

甲板にいる一同がキオの顔を見て口を開け、呆けたように固まった。

無論、他の娘達も。

 

それ"についての事は勿論知っているし、この世に生まれ落ちた人間は必ずそのどちらかに分けられるモノである。

しかしながらこの基地に居る殆どの少女達は皆"ノーマ"であり。

であるが故に、人生の全てを"ソレ"から隔絶させられるようにして生きてきたのだ。

 

それ程までに、自分達の目の前に現れた人物は強烈なモノで。

 

「……基地司令はどちらに?」

 

「……………、」

 

「……?」

 

目の前の人物が何か言っているようだったが、正直こちらはそれ所ではなく。

漸くに硬直が解けた誰かが。

 

震える唇で。

 

「………お ……お、お………オトコ"だぁぁぁぁぁぁぁ――――――!!! 」

 

素顔を顕にした"白い人"―――否、"男性(おとこのひと)"を指差したのであった。

 


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