クロスアンジュ 因果律の戦士達   作:オービタル

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第30話:弟子入り

クアンタ帝国直属医療センター。キオはメディカルカプセルの中にいた。元皇帝である勇人と惑星サーベラスの守護神『グレイス』も来ていた。

 

「この子が噂の異界から来た子ですか?」

 

「そうだ。」

 

「何故、宇宙空間に放り出されていたのでしょう?」

 

「分からない……ただ、言える事は一つ。彼が今まで見てきた物の記憶が全くないのだ。」

 

「全くない?」

 

グレイスがその事に興味を持つと、勇人は深く頷く。

 

「どうやら、この若者の世界は、大変な事になっているかもしれない。それと、この若者の懐の中に、この様なメモリーが入っていた。」

 

「……それで僕を呼んでのですね?」

 

「その通りだ。お前の力とサーベラスの古代技術なら、解読出来るはずだろ?」

 

「……仕方ありませんね、分かりました。」

 

グレイスは右腕のコンピューターガントレットを開き、メモリーを装着させ、解読を始める。メモリー内に入っているその世界の技術、文明、組織、記録を見る。

 

「フム……これは相当な事が記録されているなぁ。」

 

「ゾハル……ザ・コアとザ・シード、勇人さんのザ・ライフと同じ特質なエネルギーを持つ万能の力。古代神も想像してしまう程ですね。」

 

「……それと、このアイオーン・デバイスとクロノス・デバイス、ノルン・デバイスやオーベロンとティタニア……この五体の神話に出てくる物であり設計図、未完成じゃないか?」

 

「……ひょっとしたら。」

 

グレイスは5枚の設計図を並び替え、一枚に重ねていく。そして出来たのは想像絶する程の完璧な機体の設計図へとなった。

 

「5枚の設計図が一つに……何だこれ!?」

 

「龍神器やこのドールとデバイス、そしてパラメイルとラグナメイルを掛け合わせていますね。まるで僕のゼロメイルの様に。」

 

「…良し、この設計図を元に、新しい機体の開発と改良しよう。」

 

「え!?勇人さん、それコストが高くなりませんか?」

 

「……構わん。パラメイルやラグナメイル、オメガメイル、パンドラメイル、インフィニットメイル、ゼロメイルのデータを全て、この設計図を元に作り上げた機体に注ぎ込む!!……面白いじゃないか!!」

 

「……それ完全に“神様”超えちゃってますよ。後でカオス様に知られても無視しますから。」

 

「ハハハ……心配ご無用!」

 

勇人は張り切り、胸に拳をぶつける。グレイスは呆れ、デバイスの元となる物を探しに、フリューゲルスでキオのいた世界へと次元跳躍する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…様……リーゼ様!アンジュリーゼ様!」

 

「っ!!」

 

呼ばれた事に驚いたアンジュは思わず飛び起きる。

周りを見るとかつて自分が過ごしていた豪華な部屋であった。

アンジュは呼ばれた方を見るとモモカが居た。

 

「モモカ…?」

 

「良かった!アンジュリーゼ様!無事でなりよりです!」

 

「どうして……?それにここは……」

 

「はい!ここは【ミスルギ皇国】です!」

 

モモカが言った言葉にアンジュはベットから下りて窓を見る。

目の前にアケノミハシラがあり、モモカの言う通りアンジュとモモカが居るのはミスルギ皇国であった。

 

「お、おおおおおー…本物のシルク! スベスベー!」

 

「一人で履けるってば」

 

全裸になったアンジュがそう訴えた。このやり取りが示すように、アンジュは今着替えの途中なのである。

 

「いけません! 皇宮の中では、私のお世話を受けていただきます!」

 

「じゃあ早くして。スースーする」

 

「はい!」

 

無駄に気合の入った返事とともに、モモカがアンジュに服を着せていく。そうしながら、

 

「また、帰ってきたんだ…」

 

何とも表現しがたい気持ちでアンジュが呟いた。何と言っても、妹のシルヴィアに騙されて処刑されかけて以来の帰還なのだ。正直、全てが終わりでもしない限りはもう二度と足を踏み入れることはないと思っていた場所なのだから当然かもしれないが。

 

「でも、どうしてサリアが私たちをここに?」

 

「わかりません。私も、目が覚めるとこちらにいましたので」

 

別に答えは求めていなかったのだろうか、アンジュはそのまま視線を落とす。と、不意に先ほど銃弾を受けた胸元が目に入った。

 

(何がさよならよ。ただの麻酔銃じゃない)

 

内心で悪態をつくアンジュ。と、あることを思い出した。

 

「タスクとヴィヴィアンは無事かしら」

 

ようやくそれに思い至り、アンジュは心配そうに二人を慮った。意識を取り戻してから、何処にもその姿が見えないのだ。

 

「きっと無事です。あのお二人は、お強いですから」

 

「そうね…」

 

気休めではなく、心からそう信じているモモカの口調にアンジュもクスッと笑った。時を同じくして、アンジュの着替えが完了する。

 

「はい、宜しいですよ」

 

「よし」

 

姿見の前で自分の姿を確認したアンジュは不敵な笑みを浮かべると、先ほどのクローゼットへと駆け寄り、引き出しを開けた。そして、そこにある万年筆やペーパーナイフを手に取る。

 

「本当は、ライフルかグレネードが欲しいところだけど、ないよりはましね」

 

そう言いながら、それらを身体の各所に仕込む。

 

「アンジュリーゼ様、何を…」

 

主人の行動に、モモカの瞳が不安げに揺れた。

 

「襲撃よ、この手紙の送り主のところに」

 

当然のようにそう言うアンジュの背後から、

 

「それは許可できないわね」

 

そう言って室内に入ってきたのは、誰あろうサリアその人だった。左右にはターニャとイルマの姿もある。

 

「貴方はエンブリヲ様の捕虜よ。勝手な行動は許さないわ」

 

「エンブリヲ様…ねぇ」

 

少し呆れた口調でアンジュが呟く。

 

「何があったの、一体? あんなに司令が大好きだった貴方が」

 

「別に。目が覚めただけよ」

 

人間たちがアルゼナルを襲ったあの日、アンジュに負けて海に墜とされたサリアは薄れゆく意識の中で絶望から諦観に達していた。

 

(墜とされちゃった…。お似合いよ、ジルに捨てられ、アンジュに負けた私なんか…)

 

涙も出ないほど打ちひしがれ、コックピットは海水で満たされていく。脱出しなければ溺死するだけだが、それすらももうどうでもよくなっていた。そんな時だった。

 

『それは違うよ、サリア』

 

誰かの声が脳内に響く。それに導かれるように目を覚ましたサリアはミスルギの皇城にいた。そして目を覚ました彼女の目の前にいたのが、エンブリヲだったのだ。

 

『君は、自分の価値をわかっていない』

 

目を覚ましたサリアに、そう優しい言葉をかけたのだった。

 

「あの方は、私を救ってくれた」

 

「私を生まれ変わらせてくれた」

 

サリアの脳裏に、ここに来てからの数々の丁重な扱いが蘇る。

 

「アレクトラは、最初から私を必要なんてしていなかった」

 

「いくら頑張っても、決して報われることはなかった」

 

「でもあの方は…」

 

いつかの夜。皇城のテラスでのことを思い出す。

 

『君の美しさ、君の強さ、君の価値は、私が誰よりもわかっている』

 

『この世界を変えるために、力を貸してくれるかい? サリア』

 

その言葉と共にエンブリヲから指輪を送られ、サリアはこうして寝返ったのだった。

 

 

 

「私は見つけたの。本当に護るべき人を」

 

指輪をはめた手を目の前にかざすと、うっとりとした表情になる。

 

「エンブリヲ様の親衛隊。名付けてダイヤモンドローズ騎士団。私は騎士団長のサリアよ」

 

「ダイヤ…モンド…」

 

「長っ」

 

はぁ…と言った感じでモモカが呟き、アンジュは呆れた表情で一言で切って捨てた。

 

「要するに、路頭に迷っていたところを、新しい飼い主に拾われたってことね」

 

「…っ!」

 

身も蓋もない言い方だが図星を突かれた自覚はあるからだろうか、サリアが言葉に詰まる。

 

「でも、貴方に司令を捨てる勇気があったなんてね」

 

薄ら笑いを浮かべてそう言ったアンジュにサリアが歩み寄ると、その頬に平手を見舞った。

 

「アンジュリーゼ様!」

 

当然、モモカが声を上げる。

 

「今度侮辱したら許さないわ!」

 

力強くそう宣言すると、サリアは先ほどと同じようにその手を目の前にかざした。ただ、先ほどとは違って指輪をアンジュに見せつけるように手の甲を外側に向けて。

 

「私はエンブリヲ様に愛されているの。誰にも愛されていない貴方と違ってね」

 

「それは良かったわね!!」

 

アンジュは瞬時にサリアとの距離を詰めると、万年筆で彼女の左胸の下の辺りを突いた。それに怯んだのを逃さず、腰のホルスターに収まっていた銃を奪う。

 

「「騎士団長!」」

 

イルマとターニャが慌てて銃を抜くが、アンジュは即座に発砲するとイルマの銃を弾き、そのままターニャとの距離を詰めると彼女の腹に蹴りを見舞った。

 

「アンジュ!」

 

サリアもアンジュに襲い掛かるが、アンジュは向かってきたサリアの勢いを利用してそのままベッドに投げ飛ばした。

 

「きゃあっ!」

 

ベッドの上に叩きつけられて思わず悲鳴を上げるサリア。アンジュはそんな彼女を睥睨しながら口を開く。

 

「弱っ。サラ子に比べたら弱過ぎよ」

 

「っ!」

 

「ネーミングセンスも壊滅的だし、大体何?その格好。…プリティサリアンの方がよっぽど似合っていたわよ。」

 

そこでアンジュはモモカに振り返る。

 

「行きましょ、モモカ」

 

「はい!」

 

アンジュはそのままモモカを連れ立って部屋を出て行く。

 

サリア達はアンジュを追うが、その時にはもうアンジュたちの姿はどこにも見当たらなかった。

 

「どこに消えたの!アンジュ!」

 

サリアが周囲を見渡す中、アンジュとモモカは廊下に設えられていた抜け道へとその身を潜らせていた。

 

「残念。ここ、私の家なのよね♪」

 

不敵にほほ笑むアンジュと苦笑いするモモカのコンビが実に対照的だった。

 

 

 

 

 

「ママー、かくれんぼ!」

 

「ダメ!お絵描きが良い!」

 

皇城からの脱出に成功したアンジュが物陰から様子を窺っている。が、そこにいるのは見たことのある顔ぶれだったが、それも当然のことだろう。何故ならそこにいたのはアルゼナルの幼年部の子供たちだからだ。

 

「こらこら、喧嘩しないの」

 

そんな中に、落ち着いた雰囲気の声色が一つ。子供たちの中に混じっているその声の主は当然、エルシャだった。と、

 

「あ、アンジュお姉さまだ!」

 

子供のうちの一人がアンジュに気付いた。それを皮切りに、他の子どもたちもアンジュを取り囲むように集まってくる。

 

「えー?あ、ホントだ!」

 

「アンジュお姉さま、いつ来たの?」

 

「お姉さまも騎士団なの?」

 

無邪気な子供たちに、アンジュも思わず顔が綻ぶ。が、

 

「あらあら、アンジュちゃんを追い詰めるなんて、みんなやるわね」

 

聞こえてきたその言葉に、アンジュは綻んだ表情を再び引き締めなおした。

 

「エルシャ…」

 

そこには、何一つ変わらないエルシャがいた。ただ一つ、立場が違うということを除けば何も変わらないエルシャが。

 

 

 

「エンブリヲ幼稚園?」

 

思い思いに子供たちが遊んでいるのを眺めながら、アンジュ、モモカ、エルシャの三人は円卓を囲んでお茶をしていた。

 

「そ。私、園長さんなの」

 

変わらぬ優しい笑顔で微笑むエルシャ。

 

「本当は、アルゼナルの子どもたちみんな連れてきたかったんだけどね…」

 

そこまで言ってエルシャの表情が曇った。その脳裏には、人間が侵攻してきたとき犠牲になり、救えなかった子供たちのことが浮かんでいるのだろう。その表情のまま、エルシャは子供たちへと顔を向ける。

 

「ねえ、信じられる? あの子たちね、一度死んだの」

 

『えっ!?』

 

流石にこれには驚きを隠せず、アンジュとモモカが同時に驚愕の声を上げた。

 

「それを、エンブリヲさんが生き返らせてくれたのよ」

 

「生き返…らせた?」

 

「そんなの、マナの光でも不可能です」

 

特にモモカはマナが使えるからだろうか、余計に信じられないといったような表情を浮かべていた。が、そんなことはエルシャにとってどうでもいいのだろう。彼女にとって大切なのは子供たちが生きているということなのだから。

 

「エンブリヲさんがね、あの子たちが安心して暮らせる世界を創るんだって。私は、それに協力するって決めたの」

 

「あの子たちを護るためだったら何だってやるわ。人間どもの抹殺だって、アンジュちゃんを殺すことだってね」

 

「っ!!エルシャ…」

 

エルシャの目が少しだけスッと細くなった。その表情から、アンジュはエルシャが本気でそう言っていることを悟る。と、ボールを追いかけていた子供の一人が転んでしまった。

 

「あらあら、大変!」

 

エルシャは急いで立ち上がるとその子に駆け寄って抱き上げ、優しく抱きしめる。

 

「…行きましょう、モモカ。エンブリヲを探さなきゃ」

 

その姿に、色々と思うことはあっても足を止めるわけにはいかない。複雑な思いを胸に秘めながらも、アンジュは円卓から腰を浮かせた。と、

 

「一緒に来る?」

 

不意に、何処からか声が聞こえた。アンジュとモモカが振り返ると、そこには木の陰から出てきたクリスの姿があった。

 

「クリス…!」

 

こうなることはある程度は予想していたものの、やはり戸惑いは隠せなかった。

 

 

 

 

 

皇城のとある廊下。そこを、クリスに先導されながらアンジュとモモカが歩いている。

 

「ねえ、クリス」

 

聞きたいことがあるのだろうか、アンジュが話しかけた。が、

 

「無理に話しかけないでいいよ」

 

にべもなく、クリスはそう答えたのであった。

 

「え?」

 

「どうせあんた、私に興味ないでしょ?」

 

戸惑いの表情を浮かべるアンジュ。そう言われたのもそうだが、以前までのクリスとは明らかに違った雰囲気を感じたのも、戸惑いを感じた大きな原因だった。

 

「怒ってたわよ、ヒルダたち」

 

そう話し掛ける。が、

 

「怒ってるのはこっち」

 

クリスは苦虫を噛み潰したような表情になって、言葉通り怒りの感情をあらわにした。

 

 

「私のこと助けに来るなんて言って、見捨てたんだよあいつら」

「……」

 

そう返され、アンジュは何も答えられなくなってしまう。実情はどうか知らないが、結果的にそういう結果になってしまったのだろう。

 

「でも、エンブリヲ君は違う」

 

そのことは、クリスが続けたこの言葉でも明らかだった。

 

「命懸けで私を助けてくれた。私と仲良くなりたいって言ってくれた」

 

先ほどの怒りの表情から一転、クリスは嬉しそうに微笑みを浮かべていた。

 

「本物の、友達…」

 

「……」

 

その言葉、その雰囲気に、アンジュはますますクリスに何も言えなくなってしまった。

 

「あの、アンジュリーゼ様。そのエンブリヲ様と言うのは、どちら様なのですか?」

 

おずおずとモモカが、今更な質問をしてきた。

 

「あれ? 聞いてないの?」

 

「慈善事業家か、カウンセラーの方でしょうか?」

 

「神様…らしいわ」

 

「はぁ…」

 

返ってきたアンジュの返答にどう反応していいかわからず、モモカはそう答えることしかできなかった。

 

 

図書室。…いや、皇城内だから蔵書庫とでも言うべきだろうか。クリスに案内されてきたそこに足を踏み入れたアンジュとモモカ。と、室内に入った瞬間、場にそぐわない音が二人の耳朶を打った。

 

「この役立たず!」

 

その罵声と共に聞こえてきたその音は、鞭で人を鞭打つ音だった。その直後、くぐもったような悲鳴が二人の耳に入ってきたことからもそれは明白だった。

 

「これは四巻ではありませんか!私が持ってこいと言ったのは、三巻です!」

 

そこにいたのは、全裸にされて猿轡を噛まされて手錠を嵌められたリィザと、そのリィザを鞭打つシルヴィアだった。

 

「この私に毒を盛るなんて、おじ様が助けてくれなければ、一生目が覚めないところだったのですよ!」

 

「うっ!ううーっ!」

 

猿轡を噛まされているために当然言葉は話せないのだが、リィザの目は光を失ってはいなかった。鞭打たれるたびに鋭くシルヴィアを睨み付ける。

 

「口答えをしない!」

 

それが余計に腹立たしいのだろう。シルヴィアは更にリィザを鞭打つ。

 

「おじ様のお情けで生かしてもらっていることを忘れたのですか!? このトカゲ女!」

 

シルヴィアからの苛烈な折檻に、引き続き声にならない悲鳴を上げるリィザ。

 

「り、リィザ!?」

 

思いもかけない二人の姿に、アンジュが戸惑いながら呼び掛けた。

 

「うぅっ!?」

 

アンジュの姿を見たリィザは声にならないながらも驚きに目を剥き、そして、

 

「きゃあああああああーっ!」

 

恐怖の表情に顔を歪ませたシルヴィアは一瞬でアンジュから距離を取ったのだった。

 

「シルヴィア…」

 

今までの経緯からこういう態度を取られるのはわかっていたことだが、それでもアンジュは悲しそうな表情になる。

 

「殺しに来たのですね、私を! お父様を、お母様を、お兄様を殺め、最後に私を殺しに来た! そうなのでしょう!? 来ないで、この殺人鬼!」

 

経緯が経緯とはいえ、まあ実の姉に浴びせるような言葉ではない文言のオンパレードである。あの兄貴はともかく、草葉の陰で両親が泣き崩れていてもおかしくはない。(本当は皆んな生きているのに…。)

 

「ちょっと、話を!」

 

「助けてください、おじ様! おじ様ーっ!」

 

「おじ様…?」

 

誰のことを指しているのかわからず、怪訝な表情になるアンジュ。と、

 

「見つけたわ、アンジュ!」

 

サリアたち三人がアンジュを拘束するためにここに入ってきた。アンジュが厳しい表情になって彼女たちに銃口を向ける。そんな緊迫した空気を、

 

「姦しいねえ」

 

誰かが破った。聞き覚えのあるその声の主にアンジュは視線を移す。

 

「読書中は、少し静かにしてくれるとありがたいのだが」

 

「エンブリヲ…」

 

睨み付けながらその人物…中二階にいたエンブリヲの名前をアンジュは呟いたのだった。

 

「やはり本は良い。この中には、宇宙の全てが詰まっている」

 

エンブリヲがゆっくりと階段を下りてくる。

 

「それに比べて、世界のなんとつまらないことか…」

 

睨み付けたまま、アンジュはエンブリヲが自分と同じところまで下りてくるのを待っていた。

 

「久しぶりだよ。本よりも楽しいものに出会えたのはね」

 

「エンブリヲ…っ」

 

「この方が…」

 

初めて見るエンブリヲの姿に、モモカが思わず呟いていた。

 

「手荒な真似をして済まなかった。君と話がしたくてね。サリアたちに頼んで連れてきてもらったんだ」

 

「来たまえ。君も、聞きたいことがあるのだろう?」

 

そう言うと、エンブリヲは歩き出した。後ろを振り向きもしないのは誘いを断らないという自信の表れだろう。

 

「アンジュリーゼ様…」

 

不安げな表情で呼びかけるモモカを一瞥すると、アンジュはエンブリヲの後を追った。

 

「すまないが、少しだけ二人にしてくれ」

 

サリアたちの横を通り過ぎようとしたところで足を止めると、エンブリヲはサリアたちにそう告げた。

 

「いけません! この女は危険です!」

 

即座にサリアが反対する。それは言葉通りの意味なのか、それとも別の感情に突き動かされてのものかはわからないが。だがエンブリヲは気にする様子も見せず、

 

「サリア」

 

窘めるようにサリアの名前を呼んだのだった。その一言で、サリアはこれ以上何も言えなくなってしまう。その横を、アンジュが無言で通り過ぎた。

 

「くっ…」

 

悔しそうにサリアが歯噛みをする。そんな彼女を気にもせず、エンブリヲとアンジュはそのまま出ていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、別次元の彼方、再生し終えたキオは医療センターのベッドの上で寝ていたが、ゆっくりと目を覚ます。

 

「ここは……?」

 

キオはその後、メディカルチェックを受ける。耳と喉の修復と治療はできたが、目の前の光景が全く見えない様になっており、包帯で目を覆い隠し、精神的ケアが必要だと判明。

勇人達は彼のドックタグに名前を見て、キオと呼ぶ。そして……。

 

「キオ、私の弟子にならないか?」

 

「弟子?」

 

「私の元で指導され、さらに強くなる事だ。」

 

「……自分、行く手がありません。分かりました……。」

 

「良し、準備しておけ。」

 

勇人はキオを連れ、時と空間、次元が止まった世界……“次元の狭間”に連れてこられ、約3000年の修練と鍛錬、精神力、知恵を高めた。そして……。格納庫、髪が背まで伸び、各国の機体が勢揃いし、キオを敬礼する。

 

「色々と、お世話になりました。」

 

「……因果律の勇士 “キオ・ロマノフ”よ。お前に返しておく物がある……」

 

すると持ってきたのは、青く光り輝くクリスタルであった。

 

「これ、何処かで……っ!!!?」

 

クリスタルに触れた直後、キオの頭の中の記憶が蘇る。自分の名前、自分の使命、愛する者、約束。落ち着きを取り戻したキオは立ち上がる。

 

「……思い出した。コスモス、今まで俺の記憶を守り続けていたんだね。ありがとう……。」

 

そしてキオはコスモスのコアクリスタルを胸の中にしまう。

 

「さて……式典の続きをしよう!!」

 

キオは式典の続きと勲章を授与し、付けられた名は『神撃のキオ』と名付けられた。キオには三つの贈り物が届く。それは黒いコートで派手な袖、背中には『唯我独尊』と言う字が描かれていた。二つ目は和風と洋風を融合させた黒と黄金のプロテクトアーマーとインナースーツ。そしてキオにしか扱えないデバイスが与えられた。この時空の全宇宙の星々の科学力、クアンタとサーベラス、フォアランナー、サマールの四つの最高テクノロジーでキオのいた世界では完全に解析不可能な究極のドール・デバイスが贈られた。

 

「これは!!?」

 

 

キオは驚く。その機体は前のセイレーンと違い、超巨大な全長を持つロボットになっていた。純白と漆黒の装甲に別れた機体、流動経路には翡翠と深紅に輝く光、龍のような四本の脚を有する下半身に、人型の上半身を取り付けた人馬のような形体、両肩には翡翠と深紅、純白と漆黒に別れたドラゴン型サブユニット『オーベロン』『ティタニア』を搭載、蛇のように動くテイルブレード、そしてコックピットに大破したセイレーンのコアクリスタルが装着されていた。

 

「君が持っていたメモリーを解析し、大破したセイレーン・デバイスの原型を元に、未完成であった五枚を重ね、一つにした史上最強の機体だ。」

 

「名前は?」

 

「乗ったら分かる。あぁ、それと……」

 

すると勇人がある物を渡す。

 

「これは?」

 

「……この時空に次元跳躍できるカードキーだ。差し込めばいつでもこの世界に来れる。たまには我らの所に遊びに来い。」

 

「師匠……」

 

キオは嬉し泣きし、感謝を込めて深く礼をする。

 

「3000年間!お世話になりました!!!」

 

「フフフ……期待しているぞ。因果律の戦士よ……」

 

勇人は微笑み、キオは早速乗り込む。渡されたカードキーと起動キーを差し込む。モニター画面に『Pureroma Direct Aggressive Impact Superlative Extruder Interlocked Technology Exclusive Nexus・Eating God』と表示される。

 

「『プレローマ大聖天神喰式』……良い名前だ」

 

キオはトレース式のコックピットを動かし、黒いコートを羽織る。

 

『では、行って参ります!!』

 

キオは勇人達に敬礼し、勇人達も敬礼する。プレローマ大聖天神喰式の四本足に搭載されている補助用ホイール『ランディングスピナー』と各スラスターウィングから翡翠と深紅に輝く光の翼『アレンティア・フリューゲル』を展開する。

 

『セイレーンの魂が宿った俺の新たな機体……行くぞ、『プレローマ』!!』

 

各部のジェットブースターと内部の永久機関『グノーシスドライブ』からラムダニウム、フォドラニウム、ドラゴニウム、ミラニウム、クアンタニウムから作られた新たなハイブリッド重粒子『Xenonium』を放出する。ランディングスピナーのローラーが回転し、フルスロットルで基地から超加速、アレンティア・フリューゲルを広げ、空を舞い、キオはクアンタ星から次元跳躍を発動、行き先である幻想大地“ウル”へと向かうのであった。

キオが飛び去り、クアンタ星から見送っていた勇人があることを言う。

 

「そう言えば、プレローマ大聖天神喰式のシステム……あらゆる機体のシステムも搭載していなかったか?」

 

「え?」

 

「我々の使う機体のデータを全てそれに注ぎ込んだんだ。師匠達とお前達の戦闘データやシステムだから、その世界の焔龍號とハウレス・デバイス、バンシー・デバイスと…後、“彼の母親が使っていたデバイス『ソフィア』と彼女が使っていた『真なる天の聖杯』”と合体と組み合わせれば20%の出力でもヤバイのでは?」

 

「……あ…………ああああああああぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」

 

グレイスは頭を抑えながら、自分も法律を破ったことに罪悪感を持つのであった。

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