クロスアンジュ 因果律の戦士達   作:オービタル

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第34話:神の求魂・前編

エルダーゴアキャッスルから無事にエリュシュオンへと帰還したキオ達とフェイト達。スパルタン達は降りて来るフェイトを警戒していたが、キオ達の説得により、フェイトはモーリス行政長官の元で話し合う。その頃、キオは格納庫でフェイトのバンシー・デバイス、そして持ち帰った謎のデバイス『イデア』を使って、フェイト専用のドール・デバイスが完成されていくのを見ていた。

 

「なんか……フェイトのバンシーが変わっていくなぁ。え〜っと…名前は…『セフィロト』?」

 

キオはそう言い、セフィロトのコックピットを見る。

 

「あれ?」

 

興味深い事に、セフィロトのコックピットを見ると、空間が広く、ただ在るのはフロントパネルのみであった。

 

「フロントパネルだけ?」

 

キオがそう思っていると。

 

「それは二人乗り用だ。」

 

とそこに、チャールズが説明する。セフィロトは未来視と因果律予測が使えるフェイトとパートナーであるミリーナとのシンクロ率を高める為、あえてコックピット空間を拡張し、二人乗り用にしたと。

 

「納得……でも、それだったら俺にも付けてくれよ。」

 

「無理だ。」

 

「なぜ?」

 

キオが問うとチャールズは答える。

 

「お前のグノーシスは未知の領域だ。あっちの宇宙のテクノロジはエリュシュオンやアウラ、サマール、フォアランナーさえも軽く凌駕している。サラッと言えばお前のドールデバイスは今までの機体よりも最強すぎてコストが高過ぎるのだ。」

 

「…………それだけ?他にも永久機関の事は?」

 

「……それもだ。」

 

「…………え〜〜〜……」

 

キオは呆れながら、グノーシスとセフィロトを見上げるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃アンジュは、エンブリヲに呼ばれ廊下を歩いていた。すると。

 

「通してもらえる?」

 

アンジュが目の前に立ちはだかったサリアにそう言い、片手を上げた。その手には、一通の手紙が握られている。

 

「帰って」

 

そんなアンジュの態度が癇に触ったのか、それとも元からこうするつもりだったのかはわからないがサリアがナイフを抜くと構えた。その姿に、モモカも同じように緊張した面持ちになって構える。…もっとも、武器を持っているサリアと違って、モモカは徒手空拳だが。いざというとき、身体を張る覚悟はあるのだろう。相も変わらず実に見事な忠心振りである。

 

「帰るのよ、今すぐ!」

 

が、サリアはそんなモモカには目もくれずに同じ言葉を続けた。

 

「勝手なことをしたら、ご主人様に叱られるわよ?」

 

だが当然、それに従うほどアンジュは大人しいわけでも従順なわけでもなかった。

 

「だったら断って。エンブリヲ様に何を言われても」

 

サリアがそう修正する。元々サリア自身も、アンジュが大人しく自分の言葉に従うとは思ってなかったのだろう。

 

「ふーん…」

 

その一言で、サリアが何を言いたいのかアンジュは大体予想できた。が、サリアも怯むことなく鋭い視線でアンジュを睨んでいる。

 

「ご心配なく。間違ってもダイコン騎士団になんて入らないから」

 

それだけ言い残すと、アンジュはサリアの脇を通り抜けていった。その後を、モモカが走って追う。

 

「ダイヤモンドローズ騎士団よ…!」

 

アンジュの後ろ姿を見送りながら、サリアは不満気にそう吐き捨てたのだった。

 

 

 

先日ひと騒動あったこの書斎室で、アンジュは円卓の椅子に腰を下ろしていた。その目の前でエンブリヲがカップに紅茶を注ぐとそれをアンジュに出す。

 

「ダージリンのセカンドフラッシュね」

 

一口飲んでアンジュが銘柄を当てた。この辺りは流石に元皇族といったところだろうか。エンブリヲはゆっくりと歩くと、円卓を挟んでアンジュの正面にある椅子を引く。

 

「美味しい…とでも言うと思った?」

 

顔を上げたアンジュがエンブリヲを睨んだ。

 

「ん?」

 

「モモカが淹れてくれた紅茶の方が、何百倍も美味しいわ」

 

「♪」

 

主に引き合いに出されて褒められたモモカが嬉しそうに微笑んだ。

 

「それで? 下らない紅茶の自慢のために呼び出したわけじゃないんでしょう?」

 

続けざまにアンジュがそう毒づく。そんなアンジュとエンブリヲの様子を、庭から覗き見している人影があった。サリアである。

二人が何を話しているのか…いや正確には、エンブリヲがアンジュに何を言うのかがどうしても気になったのだろう。サリアはそうせずにはいられなかった。先ほどエンブリヲが言ったとおり、まさしく焼きもちの成せる業である。

 

「わかった」

 

エンブリヲがアンジュに答える形でそう言った。そして、

 

「では率直に言わせてもらおう。君を妻に迎えたい」

 

と、確かに率直に用件を伝えたのだった。

 

「はぁ!?」

 

「!」

 

それを聞きアンジュは、コイツは何馬鹿なこと言ってんだとでも言いたげな表情になり、対照的にサリアは驚きに息を呑んでいた。

 

「君は、私がこれより出会ってきた誰よりも強く賢く美しい。新世界の女神だ。我が妻にふさわしい存在だ」

 

「ッ!」

 

外から中の様子を伺っていたサリアが俯いて打ち震える。悔しさからか悲しさからか、それとも他の感情に突き動かされてのものかはわからないが、どちらにしろ今彼女を支配しているのは負の感情に違いなかった。

 

「私は、妻の望みを叶えてあげたいと考えている」

 

サリアが盗み聞きしているとは知らず…いや、実はとっくにお見通しかもしれないが…エンブリヲは歯の浮くようなセリフを続けた。

 

「えぇ?」

 

エンブリヲの言っている意味がよくわからず、アンジュは怪訝な表情になった。が、そんなアンジュに薄く微笑みかけると、

 

「この世界を壊そう」

 

と、何事でもないかのようにアッサリとそう言ったのだった。

 

「……」

 

これには流石のアンジュも何も反論できず息を呑む。そんなアンジュを置き去りに、エンブリヲが言葉を続ける。

 

「旧世界の人間は野蛮で好戦的でね。足りなければ奪い合い、満たされなければ怒る。まるで獣だった。彼らを滅亡から救うには、人間を作り替えるしかない。そしてこの世界を創った」

 

これは勿論、サラたちの地球とアンジュたちの地球のことである。

 

「高度情報ネットワークで結ばれた賢い人類と、光に満たされ、物にあふれた世界。…だが今度は堕落した。与えられることに慣れ、自ら考えることを放棄したんだ。君も見ただろう? 誰かに命じられれば、いとも簡単に差別し虐殺する、彼らの腐った本性を」

 

そこでエンブリヲは疲れたとばかりに一息入れた。

 

「人間は何も変わっていない。本質的には、邪悪で愚かなままだ。…だがアンジュ、君となら」

 

エンブリヲがアンジュに振り返る。

 

「私たちが生み出す人類ならば、きっと正しく善きものとなるはずだ」

 

「…どうやって?」

 

そこで、これまで聞き手に回っていたアンジュが徐に口を開いた。

 

「世界を壊すって、どうやるの?」

 

「フフッ…」

 

エンブリヲがいつものように軽く笑うと。

 

「♪〜♪〜」

 

「っ!永遠語り!?」

 

アンジュはすぐにそれが永遠語りだと気付く。

 

「統一理論……」

 

歌いだしだけで終わらせたエンブリヲが両手の平を上にかざす。そこに、突如地球を模したものと思われるホログラフがそれぞれの手の平の上に現れた。

 

「宇宙を支配する法則を、メロディに変換したものだよ。この旋律をラグナメイルで増幅し、アウラをエネルギーに使って二つの世界を融合し…」

 

手の上の二つの地球のホログラフを、同じように合体させて融合させる。そしてその後には…

 

「一つの地球に創り直す」

 

その言葉通り、エンブリヲの手の上には、合体・融合して一つになった地球のホログラフができていた。

 

「ドラゴンの星で君が見たものは、そのテストだよ」

 

エンブリヲは地球のホログラフを消すとアンジュに近寄る。そして跪くと、その手を取った。

 

「どうかなアンジュ? 協力してくれるかね?」

 

「フッ、新世界ね」

 

アンジュがエンブリヲのお株を奪うかのように軽く笑う。その様子がおかしいことに気付いたエンブリヲの手をアンジュが取ると、そのままテーブルに押し付ける。そして瞬時に太ももに忍ばせておいたナイフを抜くと、その手の平に突き刺してテーブルに釘付けにした。

 

「ぐうっ!」

 

エンブリヲの表情が歪み、テーブルクロスには赤い染みが広がっていく。

 

「これで、あの変な手品も使えないでしょう!?」

 

「あ、アンジュリーゼ様」

 

凄みを利かせるアンジュの凶行に驚きの声を上げるモモカ。自身を気遣う侍女を無視してアンジュはテーブルの上に乗り上げるとそのナイフを踏んでさらに深々と突き刺した。その度に、エンブリヲが呻き声とも悲鳴ともとれる唸り声を上げる。

 

「この世界に未練はないわ。でも、貴方の妻になるなんて死んでも御免なの、調律者さん」

 

そこで、アンジュはエンブリヲの前髪を掴むとその顔を上げさせた。右手には新しいナイフが握られている。

 

「だから、貴方が死になさい!」

 

「ま、待て!」

 

エンブリヲが止めようとするが、その直後にアンジュのナイフはエンブリヲの首元に刺さった。エンブリヲは身体を痙攣させながらそのまま頽れる。

 

「アンジュリーゼ様…」

 

主人の凶行に、モモカは呆然とすることしかできなかった。が、

 

「フフフ、血の気の多いことだ」

 

あらぬ方向から突然声が聞こえ、アンジュは驚いて振り返った。

 

「だが、それでこそ妻にし甲斐があるというもの」

 

振り返ったそこにいたのは、当然と言うべきかエンブリヲの姿だった。先ほどまでエンブリヲの死体があった方向から金属音が聞こえ、驚いてアンジュが振り返るとそこにはすでにエンブリヲの姿はなく、ナイフが床に落ちているだけだった。

 

「!」

 

憎々しげな表情になってテーブルの上のナイフを手に取るとそれをエンブリヲに向けて構えようとするアンジュ。が、みすみすエンブリヲがそんなことをさせる訳もなく、その手を背中で捻り上げる。苦悶の声を上げたアンジュがそのままナイフを滑り落とした。

と、エンブリヲはアンジュの自由を奪ったまま左手で彼女のこめかみの部分をチョンと触る。

 

「あああああああーっ!」

 

その瞬間、アンジュの全身に激痛が電気のように走った。そのまま倒れこむと、アンジュは痛みに悲鳴を上げる。

 

「あ、アンジュリーゼ様!」

 

先ほどのアンジュの凶行に呆然としていたモモカだったが、主人の異変に慌てて走り寄った。

 

「流石の君も、五十倍の痛覚には耐えられないか。では、これならどうかな?」

 

そして今度は、エンブリヲは額をチョンと触った。と、すぐさまアンジュの様子が一変した。顔が真っ赤になり、呼吸が荒くなったのだ。

 

「姫様、大丈夫ですか!?」

 

アンジュの許に駆け寄ったモモカがアンジュを抱き起す。が、

 

「さ、触らないで!」

 

モモカを振り払うようにアンジュが彼女を突き飛ばした。

 

「姫様?」

 

アンジュによって地面に倒されたモモカだったが、流石は忠誠心の塊だからかアンジュの様子がおかしいことに気付いた様子だった。そのアンジュは自分の股間と胸に手を置き、必死に何かに耐えている様子だった。

 

「う、ううっ…」

 

身体は小刻みに震え、呼吸は更に荒くなり、顔の赤みも増している。誰が見ても尋常でない様子が一目でわかるものだった。のたうち回りながら、しきりに太ももをこすり合わせている。

 

「姫様!」

 

モモカがもう一度駆け寄った。そしてその身体に触れる。と、

 

「もっと…触って…モモカ…もっと…」

 

熱にうかされているかのような表情で、息も絶え絶えにそう呟いたのだった。

 

「痛覚を全て快感に変換した。アンジュ、君を操ることなど簡単なんだよ?」

 

訳が分からないといった表情を浮かべるモモカの横で、エンブリヲが種明かしする。その表情は実に楽しそうなものだった。

 

「これ以上苦しみたくなければ、私の求魂を受けることだ」

 

そして、止めを刺すべくそう告げた。

 

「姫様を元に戻してください! 今すぐ!」

 

アンジュの突然変異の理由がわかったモモカが厳しい表情でエンブリヲに噛みつく。が、エンブリヲは一瞬チラッとモモカに顔を向けたが、すぐにアンジュに視線を戻した。

 

「できることなら君が私の求魂を受け入れるまで付き合いたいところなのだが、これからとても大事な客を迎えなくてはならなくてね。何、時間はある。ゆっくり考えたまえ」

 

それだけ言い残すと、エンブリヲはその場から消えた。

 

「え?」

 

驚いたモモカが慌てて傍らのアンジュに目を向けると、そこには先ほどまでいたアンジュの姿もなかった。

 

「え? えええーっ!?」

 

一人取り残された形になったモモカは驚きの声を上げることしかできず、役者のいなくなったことを確認したサリアもまた、その場を去ったのだった。

 

 

 

 

 

その頃、真実の地球ではフォートレスモードのグノーシスとフォートレスモードへとなったセフィロトの連結していた。

 

「グノーシスとセフィロト……連結できたんだ。」

 

「驚きだ。俺のセフィロトがさらにデカくなる。」

 

二人はバンシーと合体したグノーシスを見て驚く。人型だったグノーシスとセフィロトが合体し、二首を持つ龍へと変形していた。するとチャールズとマリアが語る。

 

「そう言えば、幻想大地ウルの研究で、これに良く似た龍の壁画を思い出す。」

 

「あ、そう言えばこの形……もう一つの首があれば巨大な三つ首のテレシアであったはずですね。」

 

「三つ首のテレシア?」

 

「あぁ……昔の壁画に、三つ首のテレシアがゼニスの身体を三つに分けた。昔、頭部と上半身と下半身に別れたゼニスの事を話しただろ?」

 

「ぁ、そう言えばそんな事を言ってたなぁ。」

 

「ひょっとしたら、ココのハウレスとフェイトのセフィロト、キオのグノーシスが合体すればとてつもない機体になると思う。だから、私はその合体した機体の事をこう名乗ろうとする……『ハイドラ』と。」

 

「『ハイドラ』……偽りの神話に出てくる怪物の事か。父さん、向こうにいるエルマ大佐達との交信は出来るかな?」

 

「彼女が心配なのか?」

 

「えぇ……引きこもっていたと、モーリス行政長官から聞きました。」

 

「……分かった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「継ながりました!」

 

《キオ!》

 

「そう、フェメル達が……」

 

「えぇ……それとエルマ大佐。Xの事なんですが。」

 

「どうかしたの?」

 

「…………X、嫌……本当の敵は、Xではなく…Xであるヴァラクの身体に憑依していた魔神 ゼニスこと、“アルフォンス・斑鳩・ミスルギ”だったのです。」

 

「何ですって!?」

 

「知っているのですか?」

 

「タスク達には話していなかったね。アルフォンス・斑鳩・ミスルギ……元ビルキスのライダーで、アンジュの先祖なの。」

 

「え!?その、アンジュの先祖がどうして?」

 

「それはまだ不明だ。だがエルダーゴアキャッスルから救出したジュライ皇帝陛下とソフィア皇妃殿下が目覚めない限り、アルフォンスの狙いが何なのか、もしかしたら斑鳩家の事を知っているソフィア皇妃殿下なら知っていると思う。……あのエルマ大佐、サラは?」

 

「……引きこもっているわ」

 

「…………会わせて頂けないでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

エルマはモニターパネルを持ってサラの部屋の前でドアをノックする。

 

「サラ……いる?」

 

「……キオ?」

 

サラは恐る恐るドアを開け、モニターパネルに映っているキオに驚く。

 

「キオ!」

 

「その……心配かけてごめん。」

 

するとサラがキオと再会できて泣き崩れ出す。

 

「生きていて……良かった!」

 

「……ごめん。」

 

キオとサラは互いの額をカメラに近づけるのであった。

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