半年が過ぎ、午前四時……自宅でサラが突然、キオを起こす。
「きお…キ…お…起きて…くだ……さい」
寝ぼけたままの状態でキオは、サラをやっと見る。
「サラ?」
「お腹が痛いのです…んんっ!……」
「大丈夫??産まれそう??」
「だいじょう…ぶじゃな…いかも…あっ……」
「サラ??」
「破水しました…キオ、やっぱり産まれ…ます!…」
「わかった、マギーに連絡をいれるよ。我慢できる?」
「はい…何とか…んんっ!」
「サラ…」
キオは急いでマギーに電話を掛け、チャールズとマリア、そしてミレイさんを起こし、病院へと向かう。だがこの時、サラの胎内の中に何かが潜んでいたことに、彼らは知っていなかった。
診察を受けると、初産の割に、出産が順調に進んでいると言われ、入院することになった。 看護師とマギーが訪れ、サラの状態を確認すると、 マギーに促されるようにキオは病室の外に出る。
そして、オスカー達が慌ててやって来て、医務室の前で待っているキオ達の元に行く。
「キオ!」
「皆んな!」
「姫さんは?」
オリバーがキオに問い掛け、キオは医務室の方に指を刺す。
それを見たアリアンナは納得する。
「そっか!もうすぐ生まれるんだね!」
「楽しみね~!」
「うん!」
ココとミランダはワクワクしながら待っていると、看護師がキオを呼ぶ。
「キオさん、マギー先生がお呼びです。」
「?」
診察室に呼ばれたキオはマギーの話を聞く。
「キオ…よく聞き。あの姫さん……“双子”を妊っていたんだ。」
「……………………え!?ホントですか!」
キオはあまりの嬉しさに興奮するが、マギーは深刻な表情をしながらX線写真を見せる。その写真にキオは驚く、
「っ!!?」
それは、胎内にいる双子の胎児と胎盤をつなぐ臍帯に黒い物体が寄生していた。
「何だこれ…」
「分からない。今までの定期診察でこんな黒い物体が胎内にいるのは事実だ。しかも、この黒い物体……臍帯から双子と胎盤の酸素や栄養分を根こそぎ摂取している。このままだと、双子と母親の命が尽きるのも時間の問題なのだ。特に双子の場合は…………」
「!!」
キオは自分の愛する妻と双子が危険な状態だいう事に動揺する。診察室から出てきたキオは暗い表情をする。
「…………」
キオは薄く表情のままサラのいる病室に入る。陣痛で苦しんで額から汗をかいているサラはキオを見る。
「キオ…」
「………」
「何かあったのですか?」
「……ちょっとね。」
「……心配いりません。私が死んでも……この子達が無事に産まれれば、安心です。」
「!!」
サラの無垢な表情、死を覚悟しての決意にキオは涙を流す。サラは涙を流すキオの本当の真相を知らないまま、キオの頭を撫でる。
病室から出たキオは拳を握りしめ、ある方法が頭に浮かび上がる。そしてその方法とは……。
「サラの胎内に入る!!???」
「そう…師匠から教わった『ミクロイド・モード』て言うのがある。それを使えば自身の体がナノサイズまで縮小し、微生物へとなる。だがこれには欠点がある……自分の寿命を半分削る事になる。」
《っ!!?》
「ダメよ、キオ!アンタまさかとは思うけど……それを使って双子とサラちゃんを助けるつもりなのでしょうね!?」
「…………俺はもう決意した。だからやる……」
「お前……」
チャールズやマリアが止めようとするが、キオは呪紋を唱え始める。
「…イファラス ザラス イエザラス…イファリス ザリス イエザリク…」
するとキオの身体が光り出し、縮小していく。そして彼の体から機械的な体へとなり、背中に四枚の羽が展開される。そして羽音を立てて飛ぶ。
「本当に……やるのか?」
『…あぁ。三つの命を……死なせるわけにはいかない!!』
キオはそう言い、手術室へと侵入する。キオは気付かれない様に身体をさらに縮小し、量子体へとなり、サラの胎内へと移動する。胎内に辿り着いたキオは、そこで思わぬ光景を眼にする。胎盤と胎児の周りに黒い筋が侵食しており、臍帯が黒く変色していた。
『ここまで侵食されてたとは……っ!!』
その時、キオの横から黒い何かが突撃し、キオを吹き飛ばす。キオは胎児と子宮に危害を加えない様に泡を噴射し、体制を立て直す。黒い物体の正体は龍の様な蟷螂の様な微生物であり、頭上に天使の輪が浮いていた。
『コイツか!!』
キオは前腕部からナノマシンで形成した『ナノソード』を展開し、正体不明へに攻撃する。正体不明も自身の鎌を展開し、キオに斬りかかるが、キオは華麗に回避し、正体不明を一刀両断した。
「弱すぎだろ……」
正体不明の頭上の天使の輪が消えるが、胎児と胎盤に侵食している黒い筋がまだ消えていなかった。キオは『どうしてだ?』と思い、回り込む。そこでキオはとんでもない光景を目にする。それは双子の胎児の臍帯に寄生しており、身体は透けて体内が見えている小さな胎児がいた。そしてその胎児は側頭部や背中に小さな羽を広げていた。キオはその胎児の姿に見覚えがあり、ナノソードを構える。
「何て事!!まさか二年前のリベルタス。アルフォンスの奴、もう一体の“オラクル”を寄生させ、一気にサラと双子達を殺すつもりか!!」
キオはオラクルを斬り殺そうと向かったその直後、胎児が目を開く。
「っ!?」
《……………………………………ホアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!》
オラクルは断末魔の叫びを上げ、メタモルフォーゼする。
「何!?」
胎児の体から複数の腕が伸び、キオに襲いかかる。
一方、手術室ではサラのバイタルが危険になっているとの事でマギーや医師達が必死になる。サラは必死に子供を産もうと悲鳴を上げる。するとサラのお腹から光の球体が現れ、そのまま手術道具へとぶつかる。煙が晴れ、ミクロイドの姿のままのキオが掌にオラクルを握っていた。
病室から出てきたキオを皆んなが心配する。そしてキオがサラと胎児から取り出したオラクルを見せる。
「姫さんや双子を苦しめていたのはコイツか……」
「まさかオラクルがもう一体いたなんて……」
チャールズ達がオラクルを見ていると、フェイトがやってきた。
「コイツは『サトリ』だ。」
「サトリ?」
「6体の中で最もズル賢い考えを持つ奴なんだ。小さい体をしていると噂があったが……まさか本当に存在していたとは。」
「ビックリだよ。」
キオはそう言い、オラクルごと握り潰す。そして拳から青い血が滲み出る。すると……
……うぎゃぁぁぁ〜!
《!!!?》
病室から赤ちゃんの泣き声が響き、キオ達は急いでガラスの向こうにいるサラを見る。綺麗な顔や黒色の長髪も、グッショリと汗で洗われているその様は、いつもの生気あふれる様子は欠片も見あたらない。しかし、彼女の横には丸っこい顔、赤い肌身をした赤ちゃんが泣いていた。ガラスの外から見ていたキオとチャールズ、マリア、ミレイ、フェイトとミリーナ、ココが元気な赤ちゃんを見て興奮する。特にキオの場合、自身の過去を振り返り、そして今ここにこうやっており、子供から大人へと成長し、父へとなり、彼の目から大粒の涙が溢れていた。
サラは一番目の赤ちゃんを助産師に預け、さらに息を踏ん張り、もう一人の赤ちゃんを産もうとする。キオ達は静かに見守り続ける。そして数分後にサラから二人目の赤ちゃんが産まれるが、肝心な産声が出ていなかった。
「どうなってるんだ!?」
ガラス内ではどうなっているのか分からないが、マギーや医師達が慌てる。すると助産師が二番目の赤ちゃんを連れて行こうとした時、サラが二番目の「せめて、お顔だけでも…………」と言い、二番目の赤ちゃんを抱き渡された。
「……ごめんね。元気に産んであげられなくて……ごめんね…」
サラは悲しそうに二番目の赤ちゃんに言うと、リンが慌ててキオ達の元へやってきた。
「皆さん!!」
《しーーーっ!!!》
「それどころじゃないんです!そそ…そそそ!外!!」
《…………外?》
キオ達は外へと向かう中、助産師に抱かれている一番目の子が泣き出す。
うぎゃぁぁぁ〜!おぎゃぁ〜!おぎゃぁ〜!おぎゃぁ〜!
病院の外へと出たキオは都上空に突然と現れた特異点に驚く。するとワームホールから黒く巨大な影が降りてくる。特異点が消え、黒き雲が晴れ、満月の月光が影を照らす。それはこの世には存在しない筈、その風貌龍神の如く、身の丈、大陸の如し、何枚もある紅き光の翼を持ち、長き首を伸ばす頭部、その背には黄金に輝く都市と天守閣があった。
「あれは……」
キオが不思議に思っていると、フェイトが呟く。
「黄金国…“イーラ”。」
「イーラ……」
「……アデル・オルド。父上の故郷だ。」
《っ!!?》
満月の月光が白き輝く《巨神獣(アルス)》“イーラ”を照らす。キオ達が驚いていると、イーラが咆哮を上げる。天まで鳴り響くその泣き声、世界中にまで届く。すると……
…………………………うぎゃぁぁぁ〜!!!
「っ!!?」
キオは一番目の子が泣き出したのか、すぐに病室へと向かう。ガラスの向こうに見えた光景……その泣き声は一番目の赤ちゃんではなく、産声を上げなかった二番目の赤ちゃんであった。一番目と一緒に泣き出し、外にいるイーラは特異点中へと入り、姿を消す。二人目の赤ちゃんが元気に生まれてきた事に、キオとサラは嬉し泣きする。
キオは緊張しながら覚悟を決め、扉を開ける。足早にベッドに駆け寄るキオに、サラは少しだけ枕から頭をもたげ、こちらに微笑みかける。横に元気な双子の赤ちゃんが寝ていた。
「サラ!」
「キオ…無事に生まれてきました」
「……」
キオはサラの横に座り、双子を抱く。
「二人とも、男の子の様です♪」
「え?本当に!?」
「はい♪」
「そうか……良かった!」
キオは双子の乳児を見て嬉し泣きする。そして病室からオスカー達やアンジュ達が見舞いに来る。マリアとミレイは初孫を抱きながら、あやしていた。
「も〜、何て可愛い寝顔をしているのかしら。絶対世界一可愛いランキング10位以内に入るわ。」
「そうですね、何せキオ君とサラマンディーネの子であり、私達の孫ですから♪」
ミレイは一番目の赤ちゃんの頰をぷにぷにっと指を触れさせる。
「そう言えば、この子達の名前は?」
「……一番目の子の名前は “アスベル” 。そして二番目の子は…………フフ」
“アデル”
二番目の赤ちゃんの名前が、キオとフェイト、ココの実の父親の名前。フェイトはまさか、キオが実の父親の名前をつけるとは思っていなかった。
「アデル……いい名だ。」
フェイトはキオとサラの赤ちゃんを見る。キオとサラ、二人の夫婦は生まれてきてくれた新たな二つの命に感動し、いつも以上の幸せを実感するのであった。