魏伝 ~曹洪の章~   作:碓氷

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第九話 夏焔の失策、一路洛陽へ

拍子抜けした、と言う言葉が一番に口を突いて出てくる。道を塞ぐ黄巾を討ちつつ徐々に進んでいた四軍に届いたのは天公将軍張角を討ったという報だった、討ったのは董卓軍の猛将呂布。

 

「二、三手出遅れたか」

 

要因はわかりきっている、曹操軍の兵数だ。劉備軍は義勇兵のみだが3000いた、孫策軍も少数精鋭で3000、袁術軍が5000弱だった。それに対し曹操軍は2000程、しかも新兵と義勇がほとんどであり正規兵は僅かに300、連携不足と兵力不足。

そして連携はともあれ、兵力を補うために黄巾賊の中でも骨がありそうで尚且つ改心しそうな者たちを厳選しつつ加えていた、それが速さを失わせた。

 

「申し訳無かった」

 

四軍の首脳陣を前に両膝を付き頭を地面へと擦りつけ、土下座の体勢で謝罪する夏焔。当初は共に増兵策を提唱し中心となって動いていた桂花や郭嘉―稟も共に謝罪をと言ったのだが夏焔が一人、上官であるが故にと謝罪を敢行していたのだ。

 

「とは言うてものぉ・・・・夏焔は妾の命の恩人じゃ、あまり責める気にはなれんのじゃ」

「そうよねぇ、こっちとしても助けて貰った借りがあるわけだし」

「あ、頭を上げて下さいよ夏焔さぁん!」

 

しかしそれでも頑として頭を上げない、まさかの敵本隊との戦へ間に合わなかったと言う事に対し感じている責任は相当だった。

 

「まぁ顔を上げなって曹将軍」

 

不意に、声を上げたのは劉備軍の客将である法正だ。

 

「俺らだってアンタの案に乗ったんだ、その結果がこれなら仕方ねぇだろ?それに激戦区に突っ込まなかったおかげで兵たちも死なずに故郷(くに)に帰れるってもんだ・・・・なぁ皆さん方、遅参の要因を作った事を罪にするんなら兵士たちを生かした事を功にしてやるのはどうです?」

 

法正の提案は夏焔を責める気が無い一同にとっては渡りに船な提案であり・・・・

 

『異議なし!』

 

満場一致で採択されたのだ。

 

―夜―

当日の昼のうちに各諸侯、軍勢へとこの乱による功績に対する恩賞などが知らせられた。

美羽率いる袁術軍はさしたる功績は上げなかったものの現状維持で寿春を治める許可を得る事が出来た。

桃香率いる劉備軍は賊将三名を討った功績で平原の相に任命された。

雪蓮率いる孫策軍は賊将四名を討った功績で現状の秣陵に加え呉、会稽の二郡を与えられた。

そして曹操郡は賊将二名を討った功績で現状の陳留に加え任城の地を与えられた。

 

「・・・・隗の働きかけが上手く行ったようだな」

 

元来、主戦場への遅参となれば功績帳消しなどされてもおかしくなかった。だが他の三軍まで巻き込んだ場合を想定し隗に手回しを頼んでいたのだ。必死の嘆願(うらがね)を重ね、権力者に働きかけて最低限現状維持を要求したのだが隗はもう少し踏み込んだ交渉をしていたらしく劉備、孫策、曹操の三軍に関してはしっかりと領地を獲得するところまで持ち込んだのだ。

 

「そうね、流石は名門荀家・・・・繋がりは深く広いわね」

「先ずは一つ繋いだ、次の動きまでは時があるだろうから・・・・力を蓄えるところだな」

 

一刀、凪、沙和、真桜、水華、趙雲―星ら新人武官たちと桂花、稟、程立―風ら新人軍師の育成、春蘭、秋蘭、冬莉、煉次、円楽ら先任武官たちの強化、軍全体の兵士の練度向上などやらねばならない事はたくさんある。

 

「若い子たちはどうかしら?貴方から見て」

「武官たちは良いな、一刀、凪、星らは負けん気が強いから直ぐに実力を上げるだろうし沙和、真桜、水華も根性はある。桂花、稟、風は単純に実戦不足だから武官連中と一緒に暫しの間は賊の討伐に動かそうと思う」

「成程」

 

顎に手を当てて何かを考え込む華琳。

 

「夏焔、本拠に戻り次第貴方に任城の地を任せたいの」

「・・・・兵数、人員は」

「副将として煉次、軍師として桂花、武官は一刀、凪、星、水華、文官は風・・・・兵数は貴方の直属兵500、でどうかしら?」

「・・・・十分だ」

 

新しい領地を、古参は煉次のみで他は新人で治めろという事は育成と更に新人発掘、他もろもろしなければならないという事で・・・・

 

「暇には事欠かないで済む、か」

 

華琳の配下としてこれまで陳留を栄えさせる一端を担って来た、しかし今回は自分が長となり皆をまとめ上げながら栄えさせなければならない、職務的な事も増えるだろうが責任も増す事になる。

 

「となると先ずは洛陽か」

 

論功表彰と辞令を正式に受け取るために洛陽に赴かなくてはならないわけだが・・・・

 

「ああ、そのことなのだけれども・・・・」

「?」

「私は病気という事にして貴方に任せるわ、もう二、三人連れて行っても構わないわ」

 

頭を抱えつつため息を一つ。

 

「相変わらず洛陽は嫌いか」

「ええ」

 

華琳は洛陽に行く事を基本的に拒む、祖父である曹騰様が亡くなってからずっとだ。色々と思い出したくも無い事が多いのだろうが・・・・

 

「分った、俺が引き受ける・・・・煉次と星、一刀を連れて行く」

「じゃあ洛陽からは直接任城へ?」

「ああ・・・・桂花、凪、水華、風に任城の初動を任せてみようと思ってな、俺が洛陽から戻るまで・・・・約三週間でどこまで整えられるかが課題だな」

 

因みに現在の陳留に華琳が赴任した時は華琳と夏焔、秋蘭の三人だけで僅か一週間にして行政の基礎を整えた、その後三日で夏焔が治安維持の土台を作っていた。

 

「じゃあ宜しくね」

「非常に欝だな、特に袁家関連が」

「まぁそう言わないで頂戴な、アレは貴方には懐いているでしょう?」

 

アレ、とは美羽の族姉である袁紹の事だ。典型的な家柄重視のお嬢様なのだが何故か夏焔の事を気に入っているようで毎度会う度に自分のところへ来ないかと誘いをかけてくるのだ。

 

「・・・・まぁいい、という訳だから星。煉次と一刀を呼んどいてくれ」

「おや、お気づきでしたか」

 

スっ、と暗闇から現れた星。

 

「最初から気づいていた、分かったら早く行け。俺の兵に伝えるのも忘れるな」

「御意」

 

そして同じように暗闇へと消えていく。

 

「優秀ね、星は」

「今はやらんぞ、少なくとも暫し俺の副官として育てる。補佐を出来る将が少ないからな」

「じゃあ何れはくれるのね?」

「本人次第だ、そろそろ固定した副官も欲しいところだしな」

 

軍師の席は何れ戻ってくるであろう隼がいる、もう一人これから先に欲しいのは自分の脇をしっかりと固めてくれる副官だ。煉次、とも思っていたのだが既に一軍を率いるだけの力量と器量を持ち合わせている、アレを自分の下で扱うには勿体無い。

 

「一刀はどうかしら?」

「あれは優秀だな、本人の力量はやや不安だが周囲の人間がそれを懸命に支えようと尽力してくれるだろう」

 

一刀は不思議な魅力を持っている、沙和、真桜などはすでに一刀を認めて全幅の信頼に近いものを抱いているようだ。風も妙に懐いている節がある。

 

「夏焔殿、準備完了ですぞ」

 

いつの間にやら現れた星に、驚く事も無く振り返る。

 

「よし、では行くとするか」

 

面倒な事がなかったらいいな、なんてため息を吐きながら夏焔は一路、洛陽へと向かうのだ。

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