魏伝 ~曹洪の章~   作:碓氷

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第十二話 任城の日常、夏焔の過去

任城に赴任してから既に三ヶ月が経過した、賊の数も割合少ない方であり市中も騒動は少なく、至って平和な日々が続く。陳留にいた頃は不真面目だった煉次も最近では後輩が増えたせいかすっかり真面目になってしまい任城の城壁補修と練兵に奔走する日々である。

 

「徴税も徐々に進んでいるみたいだな」

「はい、一刀の出した案が上手く回った結果ですね。それに伴って収穫量や各種商店の売上も向上、民の懐事情も良好なようです」

「こちらの領地に来る流民も多いようですねぇー、良い評判も広まっているようですしー」

「治安も良し、だな・・・・特に近頃洛陽から来た文欽が中心になっていー感じにゴロツキ連中を束ねててくれてますから大助かりです」

 

一刀の出した案と言うのは元来一律である税を収入などに応じて個別に変えるというもの。実際、コレは成功している。金持ちからは多く、貧乏な者からは少ない税をとる事で均衡を計り以前と同じ、いやそれ以上の税を集める事に成功している。

そして文欽が数人の商売仲間を引き連れ洛陽から転居してきた、実のところ文欽の影響力は洛陽だけに留まらず中原一帯のゴロツキたちに名が売れているらしく若干手荒な真似もしたが任城だけで無く陳留のゴロツキたちまでもが文欽に従い、これにより間諜への対策も兼用する事となった。

 

「で?文欽への勧誘はどうなってんです?」

「応諾は貰った、後は華琳からの返答待ちだな」

 

そもそも、文欽はゴロツキたちをまとめあげるだけの統率力と数年前とは言え夏焔に比肩していた武力があるわけでそれが仕官してくれるならば武将の補強とゴロツキを軍に取り込む事も可能となってくるのだ。

 

「えと、えと・・・・失礼、します」

 

トントン、と控えめに会議室の扉が叩かれると僅かに開いた隙間から涼夏が顔を覗かせる。

 

「む?涼夏・・・・どうした?」

 

がたん、と席を立ち涼夏へと歩み寄る夏焔。に涼夏もトコトコと歩み寄ってくる。

 

「これ、星おねーちゃんが皆にーって」

 

そう言って(すもも)を五つ、取り出して差し出す。

 

「そうか、では星に後から礼を言わないとな」

 

しゃがみこんで涼夏の頭を撫でながら微笑む。

 

―任城―城壁上

 

「ここにいたか星」

 

星を訪ね練兵場から行きつけの食堂から尋ねつつようやくその姿を見つける事が出来た。

 

「おや夏焔殿」

「・・・・李、ありがとうな」

「いえいえ、偶然取れ・・・・」

「涼夏のために、だろう?」

 

ピクッ、と動きを止めた星。

 

「涼夏は今日は一人だったはずだからな、寂しそうにしていたのを見てわざわざ取って来たんだろう?俺に会いに来る口実を与えるために、この辺だと李はかなり離れた山にしか生えていないからなぁ・・・・市場でも今日は入荷していないはずだしな」

 

少しばかり、恥ずかしげに頬をかく星。

 

「いやはや、反論の余地も無く・・・・まさしくその通りですよ」

「・・・・嬉しい事だな」

「?」

「皆が涼夏を気にかけてくれている」

「涼夏は・・・・頑張り屋でしてな」

 

星の話に耳を傾ける。

 

「常日頃から父さんの役にたつのだ、と学び、鍛錬にも励んでおります」

「・・・・」

「夏焔殿の娘だから、と言う事もありましょうが涼夏を見ていると皆応援したくなるのですよ」

「・・・・嬉しい事だ」

 

涼夏が娘になってからというものの最も不安だったのは環境に馴染めるかという事だった、しかしそれも杞憂でこうやって皆が皆涼夏に良くしてくれている。

だからこそ怖い、と思う事もある。『あの時』だって優しい父母と、自分を慕ってくれる弟妹たちと、何時までも仲良く、楽しくやっていけたら・・・・と。

 

「夏焔殿?」

「ああ、いや・・・・なんでも無い・・・・んだ」

 

ヒラヒラと手を振りながら城壁を降りる夏焔の背に、星は僅かながら違和感を感じていた。

 

―夜―満寵自宅

この場に集まっているのは煉次を含めた任城の主要人物たち、一刀、桂花や凪、水華、星、風が集まっている。

 

「で?何が聞きたいってんだ」

 

盃に手酌で酒を注ぎつつ、煉次は問いかけた。

 

「夏焔殿の過去について」

 

口元まで運ばれていた盃がピタリと動きを止める。

 

「聞いてどうすんだい?」

「いえ、ただ・・・・時折夏焔殿に違和感を感じるのですよ」

 

今日あった事を煉次に話す星。

 

「成程、それで違和感の正体を知りたい・・・・ってぇ訳か」

「はい」

「ここにいる連中は少なからずその違和感を感じ取っていた、って思って良いのか?」

 

全員が黙ったままに頷く。

 

「・・・・他言無用で頼むぜ、これ知ってんの軍中でも俺と華琳様ぐらいなんだからよ」

 

煉次の口から語られた夏焔の過去は重く、暗く、そして皆の違和感を解消するには十分過ぎた。

 

「でもさ、あの人ぁあの人なりに前に進もうとしてるわけよ、涼夏ちゃんを引き取ってからは昔より格段に良くなってる」

 

少し前までは酷い、なんていうものでは無かった。毎夜のように魘され、表情も心なしか暗く、それを払拭するかのように苛烈な訓練を兵に課すために鬼教官などと呼ばれていたのだ。

 

「涼夏ちゃんのおかげもあるけどよ、ここにいる連中のおかげだとも思っている」

 

直弟子である一刀、凪や好意を持って接する桂花と星、自分を通じてではあるが教えを乞う水華、いつも自由な風、ここ最近で増えた人材たちが良い影響を与えているのだと思う。

 

「俺から礼を言わせてくれ、ありがとよ」

 

深々と頭を下げる煉次。

 

「煉次さん、勘違いしないでくれよ?」

 

そう声を上げたのは一刀だ。

 

「俺たちはそこまで考えたわけじゃ無い、それぞれが様々な形で夏焔と関わりたいと思ったから一緒にいるんだ。そこに損得とか関係無い、一緒にいたいからいるの」

 

一刀の言葉に、周囲を見る煉次。あえて頷くなどはしていないが皆の眼を見れば分かる、その通りだと。

 

「だな・・・・良い同僚たちを持ったもんだ」

 

ケラケラと笑いながら戸棚を開き、人数分の盃を取り出す。

 

「皆、盃を取れ」

 

少し真面目な声を出す煉次の呼びかけに、全員が無言で頷いて盃を取る。

 

「少なくとも当面は俺らぁ曹洪麾下だしならばそうであり続けたい、と皆も思ってくれていると思う」

 

盃一つ一つに丁寧に酒を注いでいく。

 

「固めの盃、なんて堅苦しい事を言うつもりは無いがまーなんだ?これからも宜しくってー事で」

 

グイッ、と煉次が酒を飲み干せば先ずは迷い無く一刀、桂花、凪、星が飲み干し風、水華が続けて飲み干す。

 

「ふむ、上手い酒ですな・・・・もう少し、欲しいのですが?」

 

ニヤリと笑いながら問いかける星、にこちらもニヤリと笑う煉次。

 

「まだ瓶で五つある、今日は飲むとしようじゃないか」

 

結局、桂花、風、凪が真っ先に酔いつぶれ、意外に一刀と水華が保ち、煉次と星は明け方まで飲み続け、全員がもれなく二日酔いとなったのだそうだ。

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