再び遠征により妹と引き離された隗の「なぜだぁあああああああああ!!?」という叫びを背で聞きながら一路、反董卓連合の集合地点である酸棗へと曹操軍は赴いていた。
連合軍参加諸侯らの軍議には、華琳の名代として夏焔、一刀、煉次、桂花の四名が参加していた。
「あら曹洪さん、相変わらず曹操さんの下にいましたの?」
幕舎の最奥、連合軍盟主が座る席には今回の連合を諸侯に呼びかけた袁紹の姿が。
「はっ、主君でありますが故」
「まぁその話はここまでにしましょう」
さすがの袁紹も場をわきまえているようで本題に入り・・・・
―半日後―
「うぅ・・・・申し訳ありませぇん・・・・」
曹操、劉備、孫策、袁術陣営の首脳陣を前に頭を垂れて落ち込んでいる桃香。結局、あの後袁紹が自らの立ち位置を周囲に明確に示すために誰が盟主に相応しいか?という話を持ち出したのだ、狙いは分かっていた、袁紹が盟主と言い出した者が推薦責任とかなんとか難癖つけられて先鋒を押し付けられるだけだ。
が・・・・それに乗ってしまった者が一人・・・・桃香だ、他の諸侯は少なからず利権を求めて参加を決めたのだが桃香は少数派な打算も無くただ義で立ち上がった、故に盟主を決めるだけではつまずいていられないと考えてしまったのだろう。
「気にする事は無い、どちらにせよ先鋒の方が都合が良かった」
果たして予想通り、先鋒を押し付けられた桃香を庇うべく口出しした夏焔と雪蓮、美羽だったが心配ならばとついでのように先鋒の補助を押し付けられたのだ。
「ま、初っ端から暴れられるならそれはそれで良し、よねー♪」
「うむ、麗羽姉様の鼻をあかしてやるのじゃ!!」
雪蓮は単純に戦いたいだけ、美羽は単純に袁紹の態度に怒っているだけ。
「まぁ良いわ」
そこでようやく華琳が口を開く。
「ところで夏焔、アレの準備は?」
「既に完了している、奴が運び込んでいるところだろう」
『?』
「知りたくば着いてくると良い」
―曹操軍幕舎―
そこに用意されていたのは大量の丸太と先端を鋭利に加工した鉄杭。
「ご無沙汰しておりました、華琳様、夏焔様」
恭しく一礼をしたのは変わらぬ姿の司馬懿―隼だ。
「ええ、本当に久し振りね・・・・?少し、憑き物が取れたかしら?」
「確かに、少し明るくなったか・・・・?」
「・・・・まぁ、その・・・・」
以前は決して無かった言い淀む姿に華琳と夏焔だけではなく、春蘭、秋蘭、煉次、一刀も首を傾げる。
「その、妻を・・・・娶りまして」
『゚Д゚)?』
「・・・・」
『・・・・ハァアアアアアアアアアアアッ!!?』
六人が、同口同音に叫んだ。
「待っ!!隼テメッ!?嫁だとぉおおおおおおお!!?」
先ずは煉次が半ばキレながら半ば驚き叫ぶ。
「え?アレ?お前が?アレ?」
続いて春蘭が混乱している。
「えっと、こういう時ってアレか?ご祝儀とか贈った方が良いのか!?でも・・・・」
軽い混乱と共に色々と呟く一刀。
「いつの間に・・・・ともあれおめでとう」
驚きつつも祝辞を述べる秋蘭。
「ふむ、もっと早くに知らせてくれれば良かっただろう」
少し、寂しげに言いつつも祝福するのは夏焔だ。
「それで?どこの誰を娶ったのかしら?」
興味津々に問いかける華琳。
「粟邑県令、張汪殿の娘で張春華と言いまして・・・・」
そこまで言った途端、煉次が胸ぐらを掴んだ。
「煉次・・・・殿?」
「きぃさぁあああまぁあああああああああ!!!張春華っつったら河内でも有名な超美少女じゃねぇかよ!!」
「あら、そうなの?」
「そうなんっすよ!!しかも頭脳明晰で告白して振られた男も数知れず・・・・・ちくしょぉおおおおおおおお!!!何でお前ばっかりぃいいいいいいいい!!!」
「・・・・凪、星、すまないが・・・・」
「了解いたしました、ほら煉次さん、行きますよ」
「これ以上は周囲から白い眼でみられますぞ」
「ふぅんぬぅうううううううううう!!!」
最後には訳のわからない叫びを残した煉次が連れて行かれる。
「何はともあれ、それがお前に良い影響をあたえたようで何よりだ」
「はっ」
「それで、今後はどうするつもりだ?」
以前、自分の下を去った時には、何時かまた必ず、自分の下に戻ってくるとは言っていたが嫁を娶り家庭を持ったのであれば事情も違ってくるだろう。
「無論、約定に従い夏焔殿と共に」
「実家はどうする」
「状況は落ち着きました故に弟、司馬孚に後は任せて参りました」
「妻女は何と」
「私の行くところ、どこまでも着いて行く、と」
決意は固いようだ、それさえ確認できたならば問題は無い。
「分った・・・・ならば」
スっ、と右手を差し出す夏焔。
「お帰り隼、また頼むぞ」
「はっ、不在の分の仕事はしかとこなして見せましょう」
ニヤリ、と笑い合う二人。
「と言う訳で改めて紹介する、俺の軍師・・・・司馬懿だ」
「司馬懿、と申します。以後お見知りおきを」
―四半刻後―
なんとか沈静化された煉次を連れ戻し早速作戦会議に入る。
「眼前のシ水関は正しく要害。関の横に繋がる隘路もあるが日数がかかる上に伏兵なども予想される、正面からの攻めが無難なのだろうが・・・・」
「あちらの兵力は五万、こちらも足して五万弱、同数で城攻めは幾らなんでも・・・・」
「無茶で無謀で無策、だな」
夏焔の言葉に朱里と冥琳が補足を付け足す。
「あちらの将はどうなっているのかしら?」
華琳の問いかけに対し淀みなく答えるのは隼だ。
「華雄と張遼を主将とし徐栄、張繍、李儒」
「あら、なら引きずり出せば良いじゃない・・・・華雄を」
でしょ?と笑いながら言う雪蓮。
「出来るのか」
「任せて頂戴よ」
「分った、主将の片割れを引きずり出せれば指揮の低下を防ぐために他の将も出ざるを得ないだろう」
「他の将の対応はいかがしましょう?」
「・・・・愚考、宜しいか」
ここで口をはさんだ法正。
「董卓軍の将ならば軒並み実力は分かるし顔見知りだ、対応は一任して貰えまいか」
この提案に、春蘭、思春ら武官が殺気立つ。
「何故、知っている?」
「・・・・俺は一時期董卓軍で軍師をしていた・・・・二年ほど前に離れはしたがな」
「どうして董卓軍を離れた」
「・・・・眩しかったんだ、ただ・・・・それだけだ」
静かに眼を閉じ、少しばかり深呼吸をして眼を見開く。
「俺は軍師だ、己の知に従い知に殉じる・・・・今はただ俺を信じて欲しい」
静まり返るその場、で最初に動いたのは軍師陣営だ。
「私は・・・・法正さんを信じます」
「わ、私もれす!」
「そうね、信じるわ」
「はい、それに値します」
「確かに、その言葉で十分だな」
それぞれが立ち上がり、法正を囲うように歩み寄る。
「・・・・然り、軍師とは知に生き知に殉じる者」
隼が、ゆったりとした足取りで幕舎内を週回する。
「武将が己の武に戦場での生死を賭けるように軍師は己の知に生死を賭ける、その軍師が知を引き出して信じろと言うのであれば・・・・」
「信じよう」
「ええ、その通りよ」
夏焔と華琳の言葉に、全員が頷いた。
「では改めて、だが・・・・華雄は勇猛果敢、苛烈な攻めを得意とする・・・・反面精神面が弱く挑発などにのり易い傾向がある。二年、という歳月でそこをどれだけ改善したかは不明であるが根本にはそれがある事を自覚して動いて欲しい」
「では、華雄は私が討って見せましょう」
華雄に相対する事を宣言する愛紗。
「次に張遼、騎馬の用兵に関しては間違い無く大陸で五指に入る実力者だ、個の武もかなりのもの。沸点は低いが華雄程挑発にのり易いわけでは無いが一騎打ちを好むので真っ向から打ち倒すが上策だ」
「ならばここは私が!!」
張遼の相手を春蘭が買って出る。
「徐栄の武力は華雄と同等、そして最も冷静沈着に任務を遂行するが故に一番厄介な相手だ。また配下の兵もその気質が蔓延しており最も相手をするのが難しい」
「では俺が相手をしておこう、俺の兵ならば均衡に持ち込める」
徐栄の相手は夏焔が請け負う。
「李儒は冷静だが時に情にかられやすい、しかしその用兵は能動的で軍師というよりは知将に近い」
「んじゃーその眼ぐらいは惹きつけておきますわ」
李儒に対する陽動を煉次が。
「最後に張繍、武の力量は張遼よりも下、だが騎馬の指揮に関しては張遼より上。これを捉えた上で騎馬の脚を殺す用兵が求められる」
「じゃあ私が貰うわね♪出番も欲しいし」
張繍を抑える役目を雪蓮が楽しげに笑みつつ引き受けた。
「そうねぇ、じゃあここは夏焔が音頭をとってちょうだい、出陣前の音頭を」
「・・・・承った」
息を一つ吸い込み、一同の顔を見回す。
「この戦は、恐らくだが良くも悪くも今の漢の状況を一変させる一戦だ・・・・各々、この戦への思惑があるとは思う」
「ただ今を勝ち、生き抜かねばその思惑も無いと思って欲しい。こちらは董卓の身柄さえ確保出来たならば後は良い、それぞれの思惑に力を貸そう」
「結局言いたい事はただ一つ・・・・生き抜け!!・・・・だ」
夏焔の号令、ここに三国志最大級の戦が幕を開ける―――