魏伝 ~曹洪の章~   作:碓氷

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第十五話 張繍捕縛、張繍の覚悟

―シ水関前―

未明に開戦したこの戦いは、限り無く混沌を極めていた。予定通り華雄の挑発に雪蓮が成功し、引きずり出したまでは良かった。張遼、張繍、徐栄、李儒らを引き付ける事にも問題なく成功した・・・・ただ、たった一つの誤算がここに在った。

 

「りょ、りょ、りょ・・・・呂布だぁああああああああ!!!」

 

飛将軍呂布の参戦、その一手により敵主力を釘付けにし、その隙にシ水関を陥落させるという策は一気に瓦解する。呂布の武勇は想像の数段上を行くものでありそれを抑え込むために秋蘭、季衣、流琉、凪、星、鈴々、思春、黄蓋、程普などの武官勢のほとんどが逆に釘付けにされる羽目になりシ水関も軍師陳宮が篭った事により攻めにくくなっている。

 

「・・・・」

 

相当な乱戦で本来、戦前に決めていた担当どおりに組み合う事も出来ずにいた・・・・のだが。

 

「っ・・・・くそ・・・・」

 

夏焔の脇に抱えられているのは張繍だ、そしてその周囲には馬を失い機動力を削がれ、夏焔の直属兵に捉えられた張繍兵がいた。

 

「騎馬の力を過信したな・・・・とは言え、本来虎牢関での呂布対策だったのだが・・・・な」

 

夏焔兵の合間に設置されていたのは尖った鉄杭を組み込んだ大量の丸太、それを綱で起こし兵の間に埋伏させる事が可能な拒馬槍を制作していたのだ。とは言え今言った通り、本来呂布対策でありここで張繍に使う事は想定外だったのだ。

 

―張繍side―

 

「へっ・・・・ざまぁねぇな・・・・」

「張繍ーーー!!!」

 

自分自身の迂闊さを後悔する張繍の耳に聞こえてきたのは聞き間違えようもない仲間の声、思わず視線を上げれば、遠くから連合の兵士を割って蹴散らしながら突撃してくる呂布と張遼の姿、更に遠くには城門を固める徐栄と華雄、城壁の上で陳宮と共に援護射撃をする李儒の姿。

 

「わざわざ俺を助けに・・・・かよ」

 

ギリッと唇を噛み締める、ここで助けてもらえたとしてどうする?きっと彼女らとて自分一人を助け出すことで精一杯だ、部下たちを置き去りにする事になるだろうし・・・・また足でまといになるのは嫌だ。

 

「恋!!霞!!来るなぁあああああああああっ!!!」

『!!?』

 

その叫びに助けに来た呂布と張遼はともかく、夏焔までも驚きの表情を浮かべた。

 

「俺に構うな!!」

「せやけど紫炎!!」

「俺には俺の責任がある!!俺だけしか助けられねぇなら直ぐに戻れ!!!」

 

張繍の言葉にこちらも唇を噛み締めた。

 

「・・・・霞」

「分かっとる・・・・全軍撤退や!!」

 

踵を返し全速力で撤退して行く呂布と張遼。

 

「な・・・・っ!仲間を見捨てたのか!?」

 

思わず声を上げたのは一刀だ。

 

「見捨てたくて見捨てたわけじゃ無い」

 

夏焔の声に、え?と声を漏らす一刀。

 

「張繍が武将の責任を引き合いに出した以上、あそこで無理矢理助けていたら張繍の将としての誇りを汚すと思ったんだろうな・・・・俺が彼女らの立場だったとしてもそうするだろう」

 

将としての誇りなど、と軽んじる者も多い。だが武に生きる者にとってはその誇りこそが生きてきた証なのだ。

 

「追撃は不要だ!他の連中にも伝令を出せ、今日はここまでだと!」

 

夏焔のその一言で初日の戦いが終了した。

 

―連合軍―曹操軍幕舎

連合軍先鋒軍総兵数五万八千人、初日の被害。兵士死者数千三百二十二人、負傷者数一万弱、将官死傷者十数名、とかなりの被害を被った。そしてその損害をあたえた董卓軍の将の一人が、曹操軍幕舎にて座していた、それを囲むのは夏焔、隼、煉次、一刀、桂花、凪、星、水華ら曹洪組のメンツだ。

 

「・・・・どういうつもりだ」

 

幕舎に連れてこられるまで手を縛っていた縄を解かれると、張繍は周囲を睨みつけながら問いかけてきた。

 

「必要が無いからだ」

 

夏焔が、答えると俯く張繍。

 

「だよなァ、仲間ぁ助けるって気張って周囲との連携を忘れて、それで突っ込んで挙句の果てに捕まるような奴を縛り付ける意味なんざ・・・・」

「一つ、はき違えているぞ張繍」

「?」

「俺はお前の事を高く評価している」

「はぁ!?」

 

当の張繍は何を言っている、という表情でいる。

 

「お前を捕まえた俺の部隊の前に配置されていたのは夏侯惇、夏侯淵率いる曹操軍の最精鋭だ。お前はそこを速度一つ落とさず配下と共に俺のところまで突き抜けてきた・・・・それは並大抵の将に出来る事では無い。将が兵を信じ兵が将を信じなければ成し得ぬ事だ」

「・・・・」

「己を卑下するな、お前の才能は敵として戦った俺が良く知っている。もしそれでもお前をバカにする者がいたならば俺がそいつを討つ」

 

一つの敬意だった、事実、春蘭、秋蘭の軍勢を断ち割った張繍の騎馬隊には舌を巻くと同時に思わず見蕩れてしまった。自軍にあれほどの騎馬の指揮をする者はいない、自分が一番で次点が意外と思うかも知れないが一刀だ。

 

「・・・・ありがとうな・・・・って待て、だったらなおさらだ。何で俺の縄を解いた」

「お前に力を貸して欲しい、董卓を助けるために」

「何だと?」

 

それから張繍に全てを話した、華琳と董卓が幼馴染であるということ、此度のことには華琳も激怒しておりそれ故に、敢えて参戦し袁紹の眼を欺きつつ董卓を助けるという選択肢を選んだということを。

 

「・・・・事情は理解した、だが・・・・少しだけ、アンタらを見極めさせて欲しい」

「見極めるとは?」

「今一時董卓を助けるために手を組む隣人なのか、或はこの戦より先も手を取り合い歩む仲間なのかを」

「ふふっ、私たちを推し量ろうと言うのね?」

「華琳」

 

陣幕を押し上げて華琳が春蘭、秋蘭、稟を率いて現れた。

 

「・・・・曹操」

 

思わず、張繍はその名を呟いた。

 

「良いわ、選ばれるだけでは無く自らの眼でも選ぼうという気概は嫌いでは無いわ、むしろ好ましいとすら思える・・・・張繍、思う存分に見極めなさい。曹操を、曹洪を、夏侯惇を、夏侯淵を、天の御使いを」

「・・・・」

「その結果で貴方がこちらに来る事を選ばなくとも私たちは何も言わないわ、それは私たちの実力、魅力が不足していたという事だもの」

「ああ・・・・見極めてやるさ」

 

その眼には、先ほどまでには無かった強い光が宿っていた。

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