魏伝 ~曹洪の章~   作:碓氷

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第十六話 一騎打ち、のちのちのこと

翌日、連合軍は信じられない光景を目の当たりにした。

 

「・・・・思い切ったものだな」

 

シ水関放棄、張繍曰く李儒の策らしい。突如護りの要の一つを放棄する事により拍子抜けさせあわよくば慢心を誘うための決断らしく、少なくとも曹操、劉備、孫策、袁術、公孫賛、馬超、鮑信の軍勢を抜いてかなり気を抜いている。

 

「シ水関という要を放棄するわけが無いと言う並の考えが全てを鈍らせるか」

「ああ、あれが李儒のやり口だ・・・・普段は熱血ぶっても一番冷静に相手が『そんな手を打つわけが無い』って手を打ってきやがるもんだ」

 

取り敢えず、張繍は現在曹操軍客将という立ち位置で様々な助言を与えてくれている。

 

「次は遠慮なしにほぼ全戦力を突っ込んで来るだろうな」

「董卓軍の総戦力はどれほどかしら?」

「総兵数は十万近くだが実際ここまででばってくるのは七万程だ」

「虎牢関を抜かれたら防備は無し、なのに全兵力を注ぎ込まないのは・・・・十常侍派の残党か」

 

夏焔の推量に無言で頷く張繍、十常侍は討ったとは言えその影響力は根深く残っており、董卓さえ討てば自分たちが取って代われると・・・・連合に囲まれている現状を考えもせずに考える連中が多いわけで。

 

「将も恐らくは呂布、張遼、華雄、陳宮、李儒、徐栄、高順ぐらいしか出てこれないはずだ、董卓は元より腹心の賈駆、朱儁、皇甫嵩、盧植の三将も出てはこれないだろうな」

「差し当たっては呂布対策かしら?他はなんとか出来そうだしね」

「うむ・・・・俺が呂布に当たる」

『!!?』

 

その場にいた全員が絶句する。

 

「お、お待ちください師匠!せめて数名で・・・・!」

「そうです夏焔様!!一人でなんて・・・・」

 

それを諌めようとした凪と桂花・・・・を制したのは一刀と星だ。

 

「駄目だ凪、桂花・・・・きっと・・・・止めちゃダメなんだと思う」

「うむ、あの夏焔殿がただ無謀な戦いを挑むわけが無い。何か理由があるのだろう」

 

無言のままに、彗龍を手に取る夏焔。

 

「いーや、すまないが・・・・俺の我儘だ」

『え!!?』

「・・・・無茶も無謀もこれで最後だ、一度だけ・・・・挑みたいんだ・・・・天下無双という奴に」

 

張繍の存在以上に自分を惹きつけたのが呂布の武だ、天下無双と呼ばれるに相応しいであろうあの力。個の武で戦況をひっくり返すような存在、純粋な武の結晶、棄てたはずの夏焔の武人としての魂に火を点けるには十分すぎるものであり、ただただ・・・・限界と断じた己の武がどこまで刃を届けられるのかを確かめたくなったのだ。

 

「ふぅ、結局は夏焔殿も一人の武人であり一人の男であるという事ですか」

 

星が、諦めたようにため息をついて呟く。

 

「ま、男なら最強と聞いたら黙ってられないのは分かる」

 

一刀が同意を示す。

 

「大将なら勝てはしなくとも遅れは取らんでしょうし・・・・ガンバって事で」

 

煉次が応援の言葉を送る。

 

「武人として、と言われては仕方ありません・・・・師匠、ご武運を」

 

凪が納得するしか無い、と言わんばかりの表情になり。

 

「元より、夏焔様がお決めになられましたら従うまで」

 

隼が拱手しながら一礼する。

 

「もう!皆が賛成したら反対出来ないじゃないの!」

「ですね、ただご無事を祈るまでです」

 

最後に、観念したように桂花と水華が賛成の意を示した。

 

「曹洪組が総員で賛成ならこちらが口出しする事は無いわ、ただ・・・・夏焔」

「む?」

「無様でも構わないわ、生きて戻ってきなさい・・・・貴方はこれからの時代に必要な人材で、何より・・・・」

 

華琳が、曹洪組の面々を見渡しながら。

 

「それが貴方を送り出す決意をしてくれた仲間たちに対する礼儀で義務よ」

「ああ・・・・分かっている」

 

―翌日―虎牢関前―

異様な光景であった、春蘭と張遼、煉次と華雄、凪と徐栄が組合い、秋蘭が高順を牽制、とことん将の相手は曹操軍だけであとの兵と軍師は他の三軍に加えて鮑信と馬超が抑え込む形になっている。

 

「・・・・尋常に、お相手願おうか」

 

そしてそのど真ん中、夏焔と呂布の一騎打ち。

 

「・・・・ん(コクン)」

 

何となく涼夏に似ている気がしないでもないな、と感じつつ彗龍を構える夏焔。

 

「いざ!!!」

 

出会い頭、先ずは右脇に抱えていた彗龍を小さく隙が少なくなるように振り払う。

 

「ん」

 

それを難なく回避しつつ方天戟を大きく振り払う・・・・相当な速度で。

 

「っ・・・・ぁあっ!!」

 

ギリギリの回避動作で方天戟の刃を避け、彗龍を真っ直ぐに、不安定な体勢からでも淀みなく最速で突き出す。

 

「!」

 

呂布の顔をかすめる矛先、僅かにだが、その無表情に揺らぎが生まれた。その事実に自然と夏焔は笑みを浮かべている。

 

――――――

 

最強の武人と至高の武人の一騎打ちは、結果として後方から功を焦り乱入した袁紹と形勢危うしと見た李儒、両軍の兵によって決着を付けぬままに終わる事になった。

結果、乱戦の最中で徐栄、華雄が愛紗と鈴々に討たれ事態の収拾を計って乱戦に身を投じた李儒が雪蓮に捕縛され呂布、張遼、陳宮、高順だけが洛陽まで撤退する事になった。

 

―夜―虎牢関外曹操軍夜営地

曹操軍首脳陣の前で、一人の文官風の男が両膝をつき頭を地に擦りつけていた。

 

「此度の事、誠に申し訳無い」

 

袁紹軍軍師審配、この男は袁紹の乱入を諌めたらしかった。軍師でありながら将でもある審配は夏焔と呂布の一騎打ちに水を差すのは無粋でありまた連合の結束に亀裂を生む、と提言したらしかったのだが・・・・

 

『だからこそ!この袁本初が戦に華を添えて差し上げるのでしょ?オーッホッホッホッホ!!!』

 

との事らしかった、恐ろしい事にそんな光景が鮮明に浮かんでくる。顔良、文醜、張郃らの将や田豊、沮授、許攸らの軍師も袁紹に基本的に逆らえないためあの攻撃が決行されたらしい。

 

「顔を上げてくれ、審配殿」

 

ポン、とその肩に手を置く夏焔。

 

「確かに、一騎打ちを妨害されたと言う憤りはある」

「っ・・・・」

「だが・・・・あのまま戦っていたとて勝てていたかは分からない、むしろあのままでは戦場に骸を晒していたかも知れない」

 

一撃一撃が必殺級の威力を持つあの豪撃を何時までも捌けていた自信は無く、こちらの攻撃も少しづつ、見切られていた。

 

「・・・・」

「お前がその事を恥じているならば尽くすべきは言葉では無い」

 

その言葉に眼を見開き、審配は顔を上げる。

 

「・・・・私、は・・・・」

「成すべきが分ったならば成せ」

「・・・・はっ!!」

 

一礼をし、幕舎を出る審配。

 

「あの顔、貴方に心酔したわね・・・・審配」

「・・・・そうするつもりは、無かったんだがな」

「そうね、でも・・・・あの審配は人材として欲しいわ」

「そうだな、一刀と組ませると良いかも知れないな」

 

既に経験だけなら曹操軍で五指に入る一刀と、愚直だが全体を見れる審配、それに武官をもう一人組ませたならばそれは強力な遊軍として仕上がる。

 

「色々と考え中のようね」

「ああ、これから先の事も考えねばならないからな」

「軍事方面で、かしら?」

「ああ・・・・先ずは今の事だがな」

 

洛陽近辺の地図に視線をやる。

 

「董卓救出だが・・・・張繍を道案内に星と一刀に行かせよう」

「一刀に?」

「あれは気配に敏感だ」

 

ここ数カ月で一刀の中にあった幾つかの才を発見した、一つは人を引き付ける才、一つは観察し戦場を広く見渡す才、そして・・・・気配を感じる才、どれも得難く貴重な才だ。

 

「分かったわ」

「その間・・・・こっちは前面を荒らしつつ・・・・張遼を捕縛するぞ」

「・・・・分かってるじゃない」

 

ニヤリと笑みを浮かべた華琳と夏焔だった。

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