魏伝 ~曹洪の章~   作:碓氷

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第一話 物語の始まり、御使いとの出会い

今でも鮮明に覚えている光景--血に塗れた床、動かぬ骸となった父と母、弟妹たち・・・・ただただ、呆然とし膝をつく自分・・・・ふと見れば周囲と同じく血に塗れた己の掌、徐々に目に映る全てが血の色に染まり―――

 

「っ!!?」

 

そこで眼が覚める。

 

「ああ・・・・また・・・・か」

 

汗でベットリとしている、額の汗を拭いながらゆっくりと視線を部屋の外へと向ける。まだ外は暗く、今が夜だという事だけは分かる。

 

「・・・・何時まで引きずっていても仕方無いというのに・・・・」

 

理屈では分かっていてもそうもいかないという事もわかりきっているのだ。

 

-陳留城-

曹洪-夏焔(かえん)の朝は陳留城に用意されている自分の屋敷で部下たちの点呼を取るところから始まる。

 

「・・・・煉次はどうした?」

 

いつもなら自分が起床するまでには集合しているはずの副官、軍師、部隊長のうち副官一人がまだ来ていない事に気づく。

 

「煉次殿ならば先刻、曹操様へと言い寄っていたところを夏侯将軍に殴りとばされたのを目撃いたしました」

 

そういうのは夏焔の専属軍師である司馬懿-(じゅん)である。

 

「失礼します、曹将軍」

 

一礼した兵士二名が一人の男を担いで現れた。

 

「先刻夏侯将軍から『捨てて来い』と言われたのですが・・・・」

「流石にそれは忍びないとお届けに参りました」

 

取り敢えず、ため息を一つつけば「ご苦労」とだけ言って兵士二人に元の職務に戻るよう促す。

 

「うーん・・・・」

「起きたか煉次」

 

信頼(?)すべき副官の一人、満寵-煉次(れんじ)、実力は確かなのに女好きなのが唯一にして最大の弱点でもある。

 

「俺は・・・・そうだ、曹操様を口説こうとして・・・・」

「テメェまだ諦めてねぇのか?あぁ!?何連敗中よ!」

 

明らかに不良を体現したような髪型と顔、言葉遣いをするのがもう一人の副官、徐晃-円楽(エンラ)である。

この二人、意外と組み合わせが良いらしく二人で組ませると想定以上の結果を生み出す事があるのだ。

 

「挑まなけりゃ結果は生まれない!!」

「その意欲を仕事に発揮してくれ・・・・まぁ良い、今日の仕事の話だ」

 

それからいつも通りに仕事前の打ち合わせをする。部隊長ごとの仕事、人員の配備、本日の予定など。

 

「っつーわけだ、隼、煉次、円楽は夕方からの全体会議に参加してもらう」

 

ここ数年で勢力を伸ばしてきている賊がいるらしい、本日の議題は陳留領内に置けるその対応、そしてもう一つの案件-

 

「そういやぁ、あの話本当なんですかね?」

「分からん、今は憶測でしかない」

 

主君である曹操が東の原野にて保護した人物、かの者が易者管路により噂の広まっている『天の御使い』なる存在であるという話だ。

 

「全ては今日の会議で明かされる筈だ、それまでは憶測を控えろ」

「うーっす」

 

渋々現場へと出る煉次を見送ると椅子へと腰掛ける。

 

「・・・・荒れるか」

 

何となく、ではあるが数年前から感じていた予感、大陸は今動きつつある。それは主君曹操も感じているだろうし大陸各地にいる実力者たちも感じ取っているだろう。

 

-夕刻-陳留城・太守府

陳留の中枢である太守府、その一室に集うは陳留の主要人物と件の人物。

 

「さて、皆に集まってもらったのは他でも無いわ」

 

上座に座す金髪の少女、彼女こそが陳留の主曹操-華琳。

 

「近頃数を増してきた賊への対応策、及び・・・・先日東の原野にて保護したこの男の扱いについて」

 

華琳のとなりへと座る青年、華琳の話を聞けば彼の名は北郷一刀(ほんごうかずと)と良いこの中華より東の倭国、しかも遥か未来より現れたと言う。眉唾だと思いたくもあったのだが纏う衣や使う言葉などはこの時代の物では無く彼の主張が正しいものだと感じるにも十分なものである。

 

「それで、華琳様は彼をどのように扱いたいのでしょうか?」

 

スっ、と挙手し疑問を投げかけたのが荀攸-(カイ)。現在軍師職と内政担当を兼任する数少ない頭脳労働担当、元々は中央官吏だったらしいのだが権力云々でもめる中央の状況が気に食わないらしく辞職し旅をしていたところを華琳が勧誘したらしい。

 

「そうね、さしずめは夏焔・・・・貴方の隊で死なない程度に鍛えて頂戴」

「華琳様!それならば私が!!」

「駄目だ、姉者は鍛える振りをして始末してしまいそうだ」

 

華琳の言葉に食いついたデコっぱちが「誰がデコだ!!」夏侯惇「無視するな!!」-春蘭(しゅんらん)、猪「説明が適当すぎるだろうが!!」・・・・一応筆頭武官である。

それをたしなめたのがその妹、夏侯淵-秋蘭(しゅうらん)。数少ない常識人であり弓の名手、こちらは貴重な知将系の武将だ。

 

「ぼ、僕は華琳姉様がそうおっしゃるのでしたら・・・・」

 

女の子のようにも見えるが彼は曹休-(けい)、立派な男の娘である「え?漢字、おかしいですよね?」。

 

「・・・・分った、代わりといっちゃなんだが例の件、承認してくれ」

「抜け目無いわね、良いわ・・・・この場で任命してあげる」

 

華琳と夏焔のやり取りにほとんどが首を傾げる。

 

「満寵、徐晃、曹休、前へ出なさい」

 

首をかしげつつ一歩前へと進み出る三人。

 

「以上の三名を昇格、以後は一人の将として扱うものとする」

『!!?』

 

周囲の皆も驚いているが何より驚いているのは当の三名だ。

 

「ど、どどどどどどどどどういう事っすか夏焔さん!!?」

「俺らの事嫌いになったんすか!?」

「やめい!特に円楽!その言い方が気色悪いわ!!」

 

動揺しつつすがりついてくる二人を押さえつけながら叫ぶ夏焔。

 

「ぼぼぼぼぼぼぼぼくがしょ、しょ、将軍だなんて!!?」

 

そしてこちらも動揺する景。

 

「・・・・お前ら三人とも良く聞け」

 

すがりつく煉次と円楽を引き剥がしながら夏焔は語りだす。

 

「お前ら三人とも言える事だがな、とっくの昔に一軍の将としてやっていけるだけの力はあるんだ・・・・経験が足りないぐらいでな」

 

ゆっくりと歩きながら言葉を続ける。

 

「それでもお前らが副官待遇だったのはひとえに俺や秋蘭といった上官の影に隠れて目立った活躍をしなかったが故だ」

 

煉次と円楽は夏焔の、景は秋蘭の副官であり常に両者の補佐に徹していたはずだ。

 

「そこで先行投資とまでは言わないが俺と秋蘭でお前ら三人の将来性に賭けてみたいと考え華琳に昇格を働きかけてきた・・・・期待に答えろ、とは言わない・・・・自分なりに精一杯やってみせろ」

 

黙り込む三人から一度視線を切り今度は北郷の方へと体を向ける。

 

「さて、北郷一刀・・・・と言ったな」

「え、あ・・・・はい」

「緊張しているか?心配は要らない・・・・あそこのデコっぱちよりは優しく鍛え上げてやる」

「誰がデコっぱちだ!!」

「まぁアレは放置しておいてだ・・・・俺のことは夏焔と呼んでくれ」

『!!?』

「それ・・・・真名、だろ?いいのか?」

 

どうやら既に誰かに真名についての説明は受けた様子。

 

「だからこそ、だ・・・・」

「?」

「お前は今、不安で一杯だろう?知らぬ世界、風習にさらされ自らの明日をあんじている・・・・違うか?」

「・・・・」

「その沈黙は肯定と取ろう・・・・故にだ・・・・誰かが親身になり傍らにいることが肝要だ、何の縁か俺はお前の事を任された・・・・ならばその縁を大事にし尚且つ、この世界におけるお前の支えとなりたい」

 

突然知らない場所に放り込まれる恐怖と不安を自分は知っている、だからこその決断。

 

「全部あってる、だからこそ・・・・うん、宜しくな・・・・『夏焔』」

「ああ・・・・宜しく、一刀」

 

握手を交わす二人、それを見守る人々、ここより物語が始まった・・・・

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