魏伝 ~曹洪の章~   作:碓氷

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第二十話 『献帝』劉協、新たなる国『晋』

献帝の保護、兗州に突然現れた大きすぎる存在に対しその場にいた大陸屈指の頭脳たちは頭を悩ませた。或はその真意を測りかね、或はその存在を測りかね、或はここから先を測りかね・・・・しかし「会って何故訪れてきたのか」を尋ねねば始まらないだろうと言う夏焔の言葉を受け各勢力の朝廷での官職所持者である華琳、隗、夏焔、桃香、雪蓮、美羽らのメンツで謁見をする事になった。

 

「面を上げて欲しい」

 

元洛陽官吏であった隗が場を誂え、本来取次役としている者の役目を担う形での謁見である。

 

「では皆様、面をお上げ下さい」

 

それまで床を見ていた視線をようやく上げたならば、そこには一人の少女。儚げで、しかしえも言われぬ威風を漂わせる。

 

「先ずは突然の来訪、皆を驚かせた事と思う・・・・それに関して詫びよう」

 

頭を下げる献帝の姿に、一同が一瞬唖然とし華琳ですら動揺する。皇族とは本来何者よりも尊く貴いものでありそれが誰かに対し頭を下げ謝罪するなど有り得ないことなのだ。ことさら霊帝と幼帝という暗愚な皇帝二人を見てきた華琳からすればその思いは強い。

 

「早速ではあるが本題に入ろう」

 

こちらが何か言おうとする前に、それを手で制して本題へと入った。

 

「ここへと参ったのは他でも無い、兗州牧曹操・・・・貴女の力を借りに来たのです」

 

献帝は語った、今の大陸の現状は自分たち劉氏一族が抑えるだけの力があったのに何進や十常侍をはじめとした者たちに好き勝手にさせた事やその力を瞬く間に衰退させてしまった事が原因であると考えた事。

既に洛陽は燃え尽き、寄る辺も何も無くなったのだが自分は未だこの国を助けたいと思っている事。

そして・・・・そのために、力を借りに来たのだ・・・・と。

 

「僭越ながら、お一つ・・・・お聞きしても宜しいでしょうか」

 

ひとしきり話の終わったところで声を上げたのは夏焔だ。

 

「構わない、申してみよ」

「では・・・・陛下の覚悟はそれだけか」

「!?」

「他者の力に縋るだけ縋って治めた天下に何か見いだせるとお思いか?ならばそれは大いなる勘違いであらせられると心得て頂きたい、陛下が考えるよりも天下とは重いのです。他者の力を借りようとするならば陛下自信もそれ相応の覚悟が必要です」

「・・・・朕は・・・・いえ、私は・・・・」

 

「例え傀儡でも構いませぬ、全てにおいて貴方がたに従い、どのような辱めを受けようとも、例えこの命失おうとも、最後のその刻まで貴方がたと運命を共に致します・・・・これが私の覚悟、それでは・・・・いけませんか?」

 

『献帝』としての言葉では無い、ただ漢の現状を憂い何かしたいと切に願う『劉協』としての言葉。

 

「十分かと」

 

珍しく、笑みを浮かべながら拱手すれば振り返る。

 

「皆は如何か、今の陛下の御言葉に・・・・思う事は無いか?」

 

そして静かに問いかける、一人の武人として、一人の軍師として、一人の主君として、よりも・・・・『漢の臣』としての自分に思うところは無いのか?と。

 

「・・・・陛下、この曹孟徳・・・・」

「待ってほしい、曹操」

 

華琳の言葉を、劉協が遮る。

 

「『献帝』としての私では無く、ただ一人の『劉協』として・・・・力を貸して欲しい」

 

その言葉と、その眼を見て夏焔は悟る。一個人の持つ魅力で、この少女に人物は恐らくこの国にはいないだろう、そして華琳も・・・・それを悟っただろうと。

 

「分かりました」

 

心なしか、口調が僅かに砕けたものとなる。

 

「この曹操、劉協殿のお力となりましょう」

「ええ、宜しくお願いするわ」

 

劉協の言葉遣いも砕けたものとなる。

 

「えっと!その!」

 

緊張した面持ちで桃香が前へと進み出る。

 

「私も同じ劉姓としてお力添えします!」

「ふむ、劉備は私よりも年上なのだな」

「えっと・・・・はい。多分そうだと思いますけど・・・・」

「ならば義姉上と呼ばせて貰おう」

「ふぇええええええええ!!?」

 

微笑む姿はその年代の少女そのものだ。

 

「この袁公路、漢の名門として力を貸すのは当然なのじゃ!思う存分、頼るが良い!」

「うむ、袁術にも期待しておるぞ」

 

そして美羽の事は妹でも見るかのように微笑ましげに見ている。

 

「・・・・」

 

そして雪蓮は、葛藤しているのだろう。気づかなかったわけでは無い、野望とも言えぬ物ではあるが野心はあったはずだ・・・・恐らくは揚州を孫家の天下にしようという。

 

「この孫伯符も力を貸すわ・・・・野心、無かったとは言わないけれどね・・・・それより確実な道が見つかったならそれに縋るのも良いわね」

 

雪蓮の野心の原動力はあくまで民の幸せを慮っての事、それよりも良く、多くを救える手法があるのならばそちらのほうがいいのだ。

 

「ならば、新たな旗を立てねばならないだろう・・・・」

「?『漢』じゃダメなんですか?」

 

夏焔の言葉に首を傾げた桃香。

 

「言っては悪いが既にこの国の民にとって『漢』は力を失い形骸化した存在だ、新たに国を建て直すならば国の名も改める必要がある」

「ああ、その言もまた然りだ・・・・ならば曹洪よ、新たなる国の名を何とする」

「・・・・ならば・・・・『晋』ではどうでしょう」

「『晋』・・・・ふむ、不思議だな・・・・良い響きだ」

 

静かに眼を閉じる劉協。

 

「では改めて、私劉協と共に新たに晋の国を作り上げるために!力を貸してくれ!」

『御意!!』

 

新たなる国、平和な国を夢見た者達が今、願いを一つに立ち上がった―――




歴史崩しもいいところですがここからだと思うんですよね、この作品は。
「えー!?こんなんアリ!?」と思われた読者の方もいるかも知れませんがこれが碓氷流恋姫です(断言)。
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