魏伝 ~曹洪の章~   作:碓氷

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第二十三話 十面埋伏、煉次の思惑

―擁州天水―

白坡賊の駆逐に成功した隗と円楽、馬超、馬岱、馬騰は涼州軍参謀である韓遂の居城天水城へと赴いていた。擁涼二州の最大豪族連合である関中十部軍の長であり華琳に並ぶ才知を持つとまで噂される男、隗は韓遂と一対一での会見に臨んでいた。

 

「成程、要件は分った」

 

書状をゆっくりと畳み込む韓遂、齢は50近くと聞くが見た目は30前半程に見える。

 

「条件がある」

「条件、ですか・・・・」

「然り、世の中義理と人情だけで動くわけにはゆかぬ。何より私の判断が涼州軍十万と関中十部軍二十万の行く末を決めるのだ」

「承知致しました、先ずはお聞かせ願いましょう。可能な限り、身命を賭して叶えます」

 

うむ、と一度頷いてから隗の目を見る韓遂。

 

「一つ、戦後・・・・晋が大陸を制覇した場合の擁涼二州、こちらの統治者を必ず擁涼二州出身者から出して貰いたい・・・・具体的に言うならば私、馬騰、馬超、馬岱、董卓、超繍あたりとなるな」

 

矢張り油断ならない、月が生きている事を知っていて平然とその名を口にしている。

 

「一つ、擁涼二州の自由統治の認可だ。無論年間で決められた年貢は納めよう、だが基本的に二州の運営は先に挙げた人物たちに一任して欲しい・・・・この二つだな」

 

韓遂の出した条件は一見、利己的に見えて理にかなっている。擁涼二州の出身者から統治者を出せ、と言うのは元々異民族出身やその血が混じる者が多く住まう土地であり他所の土地から来た統治者が認められるには莫大な時間を要する。ならば元々の土地の者を使えばその手間が省け早くに統治活動を進められる、と言う事だ。

 

「委細承知致しました、尚書令荀攸の名に賭けて・・・・そして、一人の人間隗としてその約定、果たす事を約束致しましょう」

「・・・・君は真っ直ぐな人物だな、正直羨ましいよ」

 

隗の言葉に意外そうな顔をしてから笑う韓遂。

 

「貴殿が約定を果たすならば私・・・・凍雨(とう)の名に賭けて、全力で働く事を誓おう」

 

韓遂―凍雨が拱手する。

 

「(私の成すべきは成した、次は君らの番だぞ・・・・夏焔、冬莉)」

 

―平原南部―

袁紹軍八万を前に相対するのは曹洪隊三千のみ、将は夏焔一人。

 

「全く、風も無茶苦茶な策を提示して来るものだ」

 

少しばかり前の話だ、冀州西部を強行突破し北平へと向かう部隊にいるはずの風がこの陣を訪れた。

 

『奇襲する方法に関して献策がありまして~』

 

そんな何時もと変わり無い口調で風が述べた策は、雪蓮の欲求不満を満たしここにいる将全員を効率的に運用出来る最善の策であった。

『十面埋伏』、一部の兵と「大将首」を囮として相手を引きずり出し残る全兵を伏兵として使う。大将をのっけから危機に晒す異端の策。

 

「だが、それが最善なのだから仕方あるまい」

 

伏兵は各隊1700づつ、それぞれの部隊に紫炎、霞、星、雪蓮、思春、準、梓ら主力の将と急遽ではあるが副官階級から李通、王双、韓徳の三名を抜擢、昇級させ伏兵の指揮を行わせている。

 

「曹洪様、伏兵配置の完了、及び袁紹軍が所定の位置へ進軍を開始したと報告が入りました」

「また主軍各兵も準備完了です」

 

王忠と呂虔、この二人も随分と長くこの隊にいる。彼女らに転属や昇格を勧めたのも二度や三度では無いがその都度自分たちは曹洪隊で戦いたいのだと断られている。

 

「分った・・・・各部隊に合図を送れ・・・・作戦、開始だ」

『御意!』

 

―荊州宛城―

荊州防備の軍勢は現在、軍を二つに割っていた。一つは総大将冥琳と軍師稟、他主力の将のほぼ全てが編成された軍、こちらは現在蘆江に兵五万が駐屯、そしてここ煉次がいる宛城には兵一万が篭っている。

 

「煉次様、一つ宜しいでしょうか・・・・」

 

城壁から長江を眺める煉次、の背後に控えていた水華。

 

「ん?何だ?」

「何故、ほぼ全ての主力をあちらに?」

 

総大将と軍師に月夜、秋蘭、祭ら三将まであちらに行かせた、それが解せないのだろう。

 

「良いんだよ、俺らの仕事はここで劉表を釘付けにする事だ」

 

身を翻し、水華へと向き直る。

 

「現状対応を急がなけりゃならねぇのは北の袁紹と東南の山越だ、劉表あたりはむしろ状況を静観『せざるをえない』状況を作り出してどう動くかを示してもらわなけりゃならん」

 

何せ荊州を一代で統合して見せた実力者で有力者なのだ、下手に排斥すればそれは荊州の豪族たちを敵に回すことになるわけでそれよりも、劉表に臣従、或は協力体制を申し出させる状況を作り出し味方に引き入れたほうが何倍も良いのだ。

 

「新人連中はどうだ?」

 

宛城へと来る前に、文聘と凌統という若い士官を昇格させ部隊長としたのだ。

 

「はい、特に問題は無いですね。部隊指揮も思ったより淀みは無く戦闘時も落ち着いた戦いをしています」

「だろうな」

 

文聘は元々曹洪隊時代からの煉次の部隊にいた少女でその頃から、その才能と手腕には眼をつけていたのだ。そして凌統は今回の配置に就く前に一度蘆江で募兵をしたのだがその時に応募してきた少女、荒削りな面もあったのだが冷静に、自分のするべきことを分析して動ける。

 

「さてさて・・・・さっきの質問だが・・・・もう一つ理由があるんだ」

「?」

「劉表と言う英傑を計る餌、さ」

「餌、ですか?」

 

水華の言葉に、無言で頷く。何しろ劉表と言う人物をハッキリと評価する言葉は少ない、荊州統一の英傑・・・・それ以外の評価がほとんどと言っていい程無い。つながりがあったであろう陽華ですら語る言葉は少ないと言っていた。

 

「満寵将軍!」

 

かなり焦った様子で城壁へと上がる階段を駆け上ってきたのは凌統だ。

 

「どうした、敵が来ても粛々と落ち着いて対応しろと・・・・」

「ち、違います・・・・」

 

煉次の目の前まで来て息を整えている。

 

「荊州牧劉表より使者が参りました!!」

「来たか」

 

荊州牧劉表動く、それは吉なのか凶なのか、それはまだ定かでは無い・・・・

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