魏伝 ~曹洪の章~   作:碓氷

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第二十四話 劉埼到来、満寵起つ

―荊州・宛城―

太守府の一室、迎えるは煉次、そして背後に水華と文聘、対面には一人の少女と背後に偉丈夫が一人控えている。

 

「お初にお目にかかります、劉荊州が娘の劉埼です」

「晋の荊州方面軍所属、満寵だ」

 

劉表からの使者として現れたのは劉表の娘である劉埼とその護衛である黄祖の二人だった。

 

「さて、状況は存じ上げているだろうから・・・・要件を、単刀直入に述べて欲しい」

 

煉次が早速要件を切り出す事を促す。

 

「はい、お力添えを頂きたく参りました」

「?力添え・・・・だと?」

 

訝しげな表情になる煉次、一体何に力を貸せと言うのだ。

 

「父、劉表が現在危篤状態にあります」

「劉表が・・・・」

 

劉表が危篤、ならば自ずと答えは出る。

 

「内乱か」

「はい」

「姫、ここからは私が」

 

顔を青くして頷いた劉埼の心情を察してか、黄祖が前へと進み出る。

 

「劉表様が病床に伏されましたのは三日ほど前、貴殿らがこちらに駐屯した頃でした。お倒れになる前の劉表様の晋へと対する対応は『関与せず』でした」

 

恐らくは情勢を見て、可能な限りの条件を引き出した交渉を考えていたのだろう。

 

「ですが昨日、病状が悪化・・・・劉表様はもしもの時を考え後継に姫を、劉埼様をご指名なされました」

 

自らの快癒には賭けずに死した後の事を考えすぐに後継の指名、自分が死ぬ前提での判断など並大抵の凡人には出来ない。矢張り劉表は傑物のようだ。

 

「が、その事に反発した一団がおりました。異母弟の劉綜様とその叔父である蔡瑁を始めとした荊南の豪族連合です、彼らは我ら劉埼様の周囲の人物が病床の劉表様を脅し劉埼様を後継に付けたのだと、劉埼様は正当な後継では無い、従う理由は無いと」

 

恐らくその図面を描いたのは蔡瑁だ、以前から狡賢く財貨に目のない男だと聞いている。自分の甥である劉綜が荊州を収めれば好き放題できると踏んだのだろう。

 

「結果として現在、劉埼様に従う私をはじめとした三万ばかりが襄陽に籠城している状況です」

 

荊州軍全軍で十五万と聞いている。

 

「そこまで悪化していたか、間諜は放っていたが命からがら逃げ戻ってくる始末でな」

「伊籍と陳宮が張り切っておったのだろうな」

 

そうか、と頷きかけて一つの違和感に気づく。

 

「・・・・待ってくれ、何で陳宮がいるんだ?」

 

虎牢関以来行方知れずになっていたはずの董卓軍の一人である陳宮が、という事は・・・・

 

「陳宮だけでは無い、呂布、高順、李儒、徐栄と今こちらに力を貸してくれている」

 

驚いたものだ、呂布軍がいた事もだがそれをかくしおおせるだけの情報統制を敷ける事に驚いた。

 

「水華、許昌に伝令を出して詠と・・・・可能なら月ちゃんもこっちに来るように伝えてくれ」

「はっ」

「文聘、武関にいる陳武と潘璋に伝令出してどっちか一人をここの防備につかせろ」

「御意」

「凌統!どうせそこにいるだろ!?直ぐに軍備を整えて兵一万で出るぞ!」

「御意です!」

「えっと・・・・」

 

突如、指示を出し始めた煉次に戸惑う劉埼。

 

「手ぇ貸してやるよ」

「え?」

「ったく、荊州の英雄が死ぬかもしれねぇ時にお家騒動なんざ引き起こしやがって・・・・しかも姉弟喧嘩なんて一番病人に良くねぇだろうが」

 

せめて劉表が身罷るまでぐらい仲良く出来ないのだろうか、父親が快癒する事を信じ、争いを控えようと考えはしなかったのだろうか。

 

「ま、それに可愛い女の子の求めを断るのぁ俺の信条に反するってね」

「ふぇ!?」

「若いのぉ・・・・」

 

煉次の言葉に顔を真っ赤にする劉埼、とそれを見て呑気に笑う黄祖。

 

「ああ、矢張り煉次様は煉次様ですね」

「え?どういうこったい?」

「いえ、最近あまり真面目に働かれますので・・・・てっきり頭がおかしくなったのかと」

「・・・・酷くね?」

「いえ、全く」

 

水華の言葉に煉次が膝をついて項垂れている。

 

「ああ、そう言えば・・・・」

「?」

「冥琳様にはどう報告を?」

「あー、大丈夫だ・・・・」

 

項垂れたまま手をヒラヒラと振る煉次。

 

「あの(アマ)がただ暇してるタマかって、どうせ宛城内にも大量に間諜がいるだろうさ」

「それは・・・・味方を疑っていると?」

「違ぇーよ、俺の失策でここが陥落した時の事を考えてあらかじめ放ってたんだろうよ」

 

相当現実主義だ、例え味方と言えどその力を手放しで信用したりはしないわけだ。

 

「んでもってそろそろ・・・・」

「将軍!?」

 

扉を開けて凌統が駆け込んでくる。

 

「ほ、北門に味方の軍が!!」

「旗は?」

「『北』『李』『徐』です」

「んじゃあ一刀と真桜、遊里だな。直ぐ行く」

 

―宛城北門―

 

「よう、援軍ご苦労」

「ああーまぁ、冥琳から要請があってさ・・・・」

「『煉次一人では大変そうだ』ってか?」

 

苦笑しながら肩をすくめる煉次。

 

「そんなところかな」

「なら丁度良い、襄陽の救援に向かうから連れて来た軍勢置いていけ。指揮は凌統にやらせる」

「は?何でまた」

 

一刀の疑問を受け、劉埼に引き合わせつつ事情説明をする煉次。

 

「成程ね、分った・・・・で宛城軍ってどれぐらいいるんだ?」

「一万」

「・・・・一万で三万の救援・・・・相手は?」

「概算十二万、もうちょい多いかもな」

 

唖然とした表情の一刀、と真桜、遊里。

 

「ほれほれ、とっとと行くぞ!襄陽軍も呂布軍も長くはもたんぞ!!文聘、準備は良いか!?」

「はっ、既に完了しています。既に陳武様、潘璋様への伝令も出しましたので一両日中に到着するでしょう」

「良し、凌統!陳武か潘璋が到着したら賈駆の到着を待って追いかけて来い!兵は賈駆が連れて来たのをそのままだ!」

「了解です!」

 

文聘、凌統の言葉を聞き、先ずは一息付く。

 

「なら行くぞ、出陣だ!!!」

『応っ!!!』

 

 

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